ぽかぽかと暖かい日差しがコンクリートの壁の隙間から漏れ、部屋の中に伸びる。
それによって、暗い部屋に一本の優しい色が引かれる。
狭い部屋には、何も置かれていない。
四方、見る限り コンクリートの壁。
端には 鉄のドア がポツリとあり、そこだけが出入りできる場所になっていた。

ここは、牢屋だ。


1-3.サコツ


旅猫…ではありません。旅虎のトーフは、目を覚ますとその牢屋の中にいた。
なぜ自分がこんなところにいるのか。
頭の中を整理させる。
何でだっけ?

昼飯を古びた感じの料亭で食べて…そや、食い逃げしたんやった。
そんで、料亭のおっさんと追いかけっこしていたら
おっさんは第2難関であっさりリタイヤ。
で、勝ったって思ってたら…あ、撃たれたんやった!!
変な物体がワイにぶつかってきたんやったわ!
そいで、気ぃ失って、目を覚ましたらこんな場所におって…。

つまり、これは…
捕まったってことか?!
くっそー!今まで捕まったことなかったのに!


悔しそうに、コンクリートの壁を殴る。
痛かった。


 何でワイが捕まらんといけないんや!


それはあなたが食い逃げしたからです。


 食い逃げぐらい見逃してくれればえぇのに!


ダメでしょ、あんた


 食い逃げバンザーイ!


コラコラコラ、そこ問題発言!
え?うるさいって?何だよ。くそ猫!
あ、すみません。ナレーターのくせしてまた暴言吐いてすみません…。
お願いだから、猫パンチは止めて。
猫パンチ痛い、痛い、痛くなーい☆はん。
すみません、猫パンチをバカにしてすみません。


と、そのとき。

微かに足音が聞こえてきた。
トーフはそちらを睨む。
足音は、徐々にこちらへ近づいてきて、
鉄のドアの前でピタリと、消えた。
きっとそこに立ち止まっているのだろう。


くそ、誰や。ワイをこんなところに閉じ込めた奴は!


鉄のドアを睨む。
裾には逆側の手が突っ込まれている。
自分の武器"糸"を取り出す態勢をしているのだ。


ドアが開いたら
糸で縛ってやる…。


金色の目を細め、狙いを定める。


さぁ…来いや…。



ゆっくりと ドアが開かれる。
そして、隙間から人の影が見えて



「くらえー!!」


トーフが襲い掛かった。


「しゃもじアタック!」


しかし、むこうからも攻撃がきた。
そちらの方が動きが速く
巨大なしゃもじはトーフの目の前までやってきていた。

しゃもじが目に入ってくると思い、咄嗟に目を閉じる。
しかし、目には衝撃はこなかった。


不思議に思って目を開ける。

すると、目の前に映ったものは…


「ほれ、メシ」



自分の大好きな食べ物だった。


「ええ?!メシや!えぇんか?!」


巨大しゃもじの上に乗っている料理にヨダレを垂らしながらトーフが叫ぶ。
それにしゃもじを持った、左目の周りに橙色の模様がある赤髪の男が頷いた。


「食え食え。俺が作ったわけじゃねーけどな」


そして、ニカっと笑って


「だけど、ここの店主の料理はピカイチだぜ!お前も食い逃げしたから知ってるだろ」

「あぁ!おおきに!」

「って、食うの早っ!!お前すっげ〜な!」


しゃもじの上にあったはずの料理が一瞬してなくなったのに驚く。
口の周りについた料理のタレや油を裾で拭き取り、トーフが微笑んだ。


「メシ食うときがワイの幸せやねん」


とってもいい表情だ。


「お前可愛いこというなー」


トーフの表情に微笑む。


「可愛い言うな!それ言われるのが一番嫌なんや!」

「お前変わってるな…。普通喜ぶもんなんだぞ」

「嬉しゅうないわい!」


可愛いって言われるのが嫌いらしい。
それに、男が馬鹿笑いし、その中で謝った。


「いや〜ゴメンゴメン。あ、ついでにその料理、さっき俺が落としてダメにした料理な」

「おおい!それをワイに食わせるなや!」

「ははは」

「笑い事じゃあらへんわ!ったくぅ〜!」


男の無責任な行動に腹を立てるトーフ。
ま、美味しかったからえぇんやけど…。

男は笑いをやめ、そのまま話を持ち出した。


「そうそう。お前食い逃げするってことは、金持ってないのか」


問われ、普通に応答する。


「持ってへんで。10Hしか」

「少なっ!それじゃ家一軒も買えねーじゃんかよ」

「普通でも買えへんわぃ!」

「何言ってんだ。心意気で買うんだ」

「10H関係あらへんで!」

「……はっ」

「気づくの遅っ!」


男のボケっぷりに思わず力を入れて突っ込むトーフ。
こいつ…バカや。


「心意気だけじゃなくて、夢も一緒に買わなくちゃ足らねぇか」

「何の話してんや?!あんた!!もうえぇわ!!」


散々突っ込んだ後から話を切り替えた。


「ところで、あんたのそのしゃもじ…」


そこまで聞いて男がすぐに応答した。


「カッコいいだろ」

「あぁ、そうやな。やたらとでかくてな」

「ま、小さくすることも可能だけどな」


そういうと、男は持っていたしゃもじをクルっと華麗に回した。
そのしゃもじは綺麗に円を描きながら、徐々に円周を小さくしていく。

見る見るうちにしゃもじは小さくなって、
手のひらサイズへと変わっていった。
小さくなったしゃもじはそのまま男のズボンのポケットへと挿された。


「えぇ?!小さくなった?!」


目を見開いてトーフが叫ぶ。
はじめて見る光景に興奮したのだ。
大小操れるしゃもじなのか…。


「これだけじゃねーぜ?お前知らねぇのか?生活日常品はさっきみたいに大きさを操れるんだぜ。便利だよな」


普通に大小操ることが出来るらしい。
トーフはそれを知らなかったらしいが。


「へぇ〜はじめて知ったで、すごいわ〜。ほな、あんたは料亭で働いているからしゃもじを持ってるんや?」

「いや」


トーフの言葉に首を振って否定した。


「俺はここの料亭の息子でもなんでもねーし。余所者だよ。余所者」

「あ、そうなんや?」


それで思い出す。
昨日逢った桃色の髪の女・チョコもこの村の者ではないと言っていた。
意外に余所者が多い村なんか?

余所者でも"職"を就かないといけへんのや…?


「このしゃもじは前の村のモノだ」


ポケットから小さくなったしゃもじをまた取り出して、じっと男が眺める。
前の村のことでも思い出しているのだろう。


「そっか。ま、しゃもじのことはどうでもえぇんや」

「え?!そうなのか?!」

「しゃもじに興味あらへん」


予想外のトーフの言葉に大声上げる男。
プンスカ怒りながら叫びを続けた。


「俺の大好きなしゃもじをバカにするんじゃねーよ!」

「しゃもじ大好きって初めて聞いたわ!」

「俺も初めて言ったぜ!」

「…そか」


やはり、こいつはボケ男だ。


「ワイが言いたかったことは、しゃもじで撃ってきたあの変な塊は何かってことや!」


それを聞き、男がニカっと歯を見せた。


「あぁ、それは"気"だ」

「"気"?」

「おう!」


気って…

元気の気?


はいはい。トーフちゃん、あんたもボケ男ですよ。
あ、ごめんなさい。変なナレーションですみません。
今度は猫キックですか?初の試みですね。猫キック。
っと、見せかけて目潰しですか?って、痛っ!!
目に刺すと見せかけて鼻の穴に突っ込みやがった!いて!
やられたな〜てへ


バカなナレーションを無視して男は続けた。


「こうやってしゃもじに気を溜めて、撃つんだ」


そしてそのシュミレーションをしてくれた。
小さいままのしゃもじを両手で構え、力を集中させると
しゃもじの先には赤い"気"が渦を巻いていっていた。
渦は徐々に大きくなっていき、塊へと化した。


「これが、俺の"気"だ」


そこまで見せると、男は力を抜かせ、
同時にしゃもじの先に溜まった"気"の塊を消し、空気と一体化させた。
しゃもじはまたポケットの中に突っ込まれた。


「すごいわー!あんたすごい!」


熱く感嘆するトーフ。
"気"を操ることが出来る男に感動した。

拍手を貰い、わざとらしい照れ方をする男。


「あ、そういえば」


手を1回叩いて、トーフが話を持ち出した。


「あんたなんで食い逃げしたワイに料理を持ってきてくれたんや?」


ダメになった料理だったけれども…。


「あ?あぁ〜そうだった」


トーフの問いに、事を思い出す。


「俺、お前を助けようと思ったんだ」

「え?ワイを?」

「あぁ。こんなところに閉じ込めるなんて可哀想だからな」

「あんた…えぇ人や…」


小悪魔みたいに怖い顔しているのに…。
人は見た目で選んだらあかんのやな。と改めて学ぶ。


「ちょうど店主は出かけているから今のうちに脱出しろ」

「おおきに!あんさん!」

「おうよ!ちなみに俺はあんさんって名前じゃなくてサコツだ!」


そして、サコツと名乗った赤髪の男は少年のような笑みをこぼした。
名を名乗られ、トーフも黙っているわけにはいかない。
同じく微笑み、名をあげた。


「ワイはトーフやねん。またどっかで逢ったらよろしゅうに」

「よろしくな!じゃ、ここから食い逃げしたときの速さで逃げろ、分かったな?」


サコツが指差す先には、先ほどサコツが現れた鉄のドアがあった。
あそこから普通どおりに出口へ向かえばいいらしい。


「あぁ、ホンマおおきに!ほな!あんたのこと忘れへんわ」


手を軽くあげ、別れを告げる。
サコツも答えると、それを合図にトーフは素晴らしい速さで鉄のドアを括り抜けた。

このまま出口へ向かえば…

と、思ったが、その前に、何か大きなモノにぶつかってしまった。


「あ、すまん…」


ぶつかったモノに謝る。
そして、また走ろうと思った、その時、


『どこへ行く気だ?ラフメーカー』


聞き取りにくい、濁声が耳に入ってきた。
走る態勢を止め、そのまま目線を上げる。
そこには獣みたいに毛むくじゃらの巨大な物体があった。
大きな鼻と大きな口をもったその物体は、生々しく息をし、その場を震わせていた。


「ま、魔物っ!!!」


少々裏返った声でトーフが
突然の展開に叫んだ。





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