肉のいい匂いがその場に広がる。

しつこい匂いであるが、
きっとこれは口に入れると肉汁がジワァと口いっぱいに広がり、自分の舌にとろけることだろう。
あぁ、なんて美味しそうな匂いなんだ。
肉汁。肉。肉…
肉………肉…にく…NIKU……ニク…











「肉
――――――!!!!」

「うわあ?!」


肉の匂いに誘われて、トーフは大声上げて目を覚ました。
それに反応したのは、トーフを覗き込むように座っていた一人の少年。
両目の目尻に赤い丸模様がある、見た目は平凡な少年だ。


「だ、大丈夫?キミ?」


少年が目の前のトーフに訊く。
しかし、トーフはそれに反応はしなかった。
なぜなら
その少年が
大きな骨付き肉を持っていたから。
その肉から、とてつもなく旨そうな匂いが湯気となって、トーフの鼻の中に入ってくる。
トーフはすぐに肉を指差した。


「あ!肉!」

「え?肉?」

「そや!それや」


トーフが指差す先、肉。
少年は自分の口によって半分なくなった肉を見て、そして目の前にいる着物を着た猫に目線を戻した。

その猫の目は非常に真剣だ。
眼差しを受けて、少年は気付いた。


「君、この肉食べたいの?」

「食いたい!」


トーフの答えはまさに即答だった。
半分しかない肉を見て、少年が問う。


「…半分ないけど?」

「全然構わへん」


トーフはやはり即答。
真剣な表情のトーフにこたえるように、少年は頷く。
肉を持った手をトーフに向けた。


「そっかー、それなら、はい」

「おおきに!」

「え?!も、もう肉がなくなってる?!」

「すまんな、ワイは大食いやねん」

「そ、そうなんだ…」


少年の手には、半分残っていたはずの肉がなくなっていた。


トーフは、二分の一の肉を食べて
さほど腹は膨らまなかったが、空腹のときよりはずっといい。
食べさせてもらえて嬉しかったので、少年にいい笑顔を送った。


「ホンマ、おおきに。あんたがいなければワイは餓死するところやった」

(肉って叫んでいたもんなぁ)


思わずそう思ったが、
少年は別な言葉で返した。


「もう大丈夫かい?」

「ああ、もう大丈夫やで、ホンマおおきにな」

「そっか」


ニコニコ微笑んでいるトーフを見て、少年も自然に笑顔になった。
その表情のまま口元を緩める。


「それは良かった」

「感謝するで」


感謝の気持ちを述べると、トーフは早速話題を変えた。


「そういえば、あんたの隣にある、そん大きな木は何やねん?」


そして、トーフは指差した。
根がついていない木、トーフが指差す先には丸太が置いてあった。
何かの材木だろうか?


少年が丸太を見る。
暫く無反応だったが、、何か大切なことを思い出したようだ。
少年は突然、あ!と大声を上げた。


「どないしたん?」

トーフの問いに少年は慌てて返した。


「あ、その、僕まだ仕事の途中だったんだ!」


仕事?
ぴょこっと首をかしげてトーフがさらに問う。


「その木が仕事と関係しとるん?」

「うん、そうだよ」


頷くと、少年は自慢げに


「僕の家、大工だから、手伝ってるんだよ」


と告げた。


自慢する少年だが、トーフは唖然としていた。

何故なら少年は
体も腕も細く、まさに華奢な体つきをしていたから。

家が大工をしているからといって、
少年まで大工という力仕事をしているのだろうか。



ふとトーフが疑問を抱いている最中、
少年は、一人で話を進めていた。


「仕事に戻らなくっちゃ、家に帰るね!」


仕事中の寄り道は禁物だ。
早く帰らなくちゃ、と少年は、そういうと、


「よいしょっと」


自分の隣にあった大きな材木を軽々と持ち上げた。

華奢の体に大きな材木はまさにミスマッチであった。
それにトーフが正直に驚いた。

「おぉ?!」

「それじゃ、僕はこの辺で失礼するよ」


細い腕の中に材木を収め、笑顔でトーフを見る少年。
驚きの色を隠せないトーフにもう一言付け加える。
それはトーフにとって嬉しい情報であった。


「このまま道を真っ直ぐ行けば、僕の村があるから、もし暇があれば遊びにおいでよ」


美味しいものもたくさんあるよ。もわざと補充した。



無論、トーフはすぐに反応した。
うまいもんやと?!、と。
いい情報を得たトーフは笑顔の少年にすぐに笑顔で返した。


「ええ情報、ホンマおおきに!!」


トーフのお礼の言葉を心に受け止めて、
少年は、材木を軽々と持ちながら走って自分の村へと真っ直ぐに戻っていった。


少年の後姿が見えなくなるまで
トーフはただじっとその光景を見つめていた。

考え事をしながら。





この辺に村があるのか。
それだったら行って見る価値はありそうや。
その少年の村に"笑い"があるかを調べるのと同時に
ワイは


食べ物を食べようっ!!!


よっしゃ!食おう食おう!
めっさ食おう!
腹が破裂するほど食おう!

目指すは真っ直ぐ道を歩く!
少年の村へ!!




考え事をまとめ終わると
先ほどまでふらついて餓死寸前だったのが嘘のように
トーフは元気良く、真っ直ぐと細い道を歩いていった。







肉をくれた少年の居る町

"エミの村"へ。





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