。 。 。
「ねえレオくん。クリスマスはどうやって過ごす予定なの?」
それは学校での出来事。
ふと、隣の席に座っているリクが訊ねてきたことにより事件の幕が上がった。
クリスマスという単語を聞いてレオは眉を寄せて逆に訊ねていた。
「クリスマス?それ何ていう魚?」
レオの質問に冗談など一切含まれていない。
レオは本気でクリスマスのことを知らないのだ。予定を聞かれてもクリスマスの正体を知らないから答えることも出来ない。
そのため首を傾げて質問を返したのだが、この年齢でクリスマスのことを知らない子供など無論居るはずも無く、リクはレオの言葉が冗談と思って笑っていた。
「ははは!レオくんおかしいー!」
「え、ど、どうして笑うの?」
「だってクリスマスが魚って…!おかしいよぉ……!」
「え、え、ええ?」
腹を抱えて必死に笑い声を堪えるリクの姿を見て、レオは戸惑うばかりだ。
レオ自身、笑わせるつもりは無かったからだ。それなのにリクは笑い続けている。
一体何がおかしかったのか理解もできない。
やがて気が落ち着いたようでリクの笑い声がようやくおさまった。
一言「笑ってごめんね」と言って、リクがレオの質問に答えた。
「レオくんって冗談が上手だね。えっとクリスマスってね」
「冗談が上手って…」
さらっと言われたリクの感想にレオが複雑な気持ちを覚える。
しかし本人は気にせずクリスマスについてレオに語り始めていた。
「クリスマスは夜中にサンタさんがプレゼントをくれる行事なんだよ」
クリスマスの本当の意味は、イエス・キリストの誕生日を祝う事であるのだが、近頃の子どもにとって見ればクリスマスはサンタクロースからプレゼントを貰う日と思っているようである。
リクも実のところ、クリスマスの本当の意味を知っていた。
しかしレオにそのことを言うと
「イエス・キリストって誰?何故に故人の誕生日を祝わないといけないの?」
と難しい質問で返されそうであったため、あえて本当の意味を知らせなかったのだ。
そしてレオも簡単な答えが返ってきたために納得していた。
「なるほど。クリスマスって何だか得する日なんだね」
「うんそうだね。好きなものを貰えちゃうんだもん」
「でも…」
レオはふと思った。
「僕何もしてないのにプレゼントもらっちゃっていいのかな?」
レオの声を聞いてリクは、レオが本気でクリスマスの事を知らないのだと感じた。
まさかここまで初歩的な質問が繰り出されるとは思ってもいなかったので。
リクはレオのためを思って今度はきちんと説明に入った。
「何もしていない人にはプレゼントは渡らないのよ。サンタさんは誰にでもプレゼントをやるような人じゃない」
「え、そしたら誰にあげてるわけ?」
「良い子」
「え?」
リクは微笑んだ。
「サンタさんは良い子のみんなにプレゼントを配っているの」
「……」
「親の言うことも聞かない、親に迷惑ばかりかけている子どもにはプレゼンが渡らないのよ」
そう言ってリクは笑った。
「まあ、両親に迷惑さえかけなければプレゼントはもらえると思うけど」
リクの言葉には「サンタは実在しておらず、両親がサンタに化けてプレゼントをくれるものだ」と自分の意見が含まれているかのようである。
つまり、良い子にしていなくても必ずしもプレゼントはもらえるものだと遠まわしに言っているようなものであった。
しかし本気で何も知らないレオはリクの言葉を真実として捉えるしか他が無かった
そういうわけでレオの目つきはここを境目に、優しい目つきへと変わった。
突然レオの目つきがやわらかくなって、リクはドキッと胸を高めた。
「え、どうしたのレオくん…?なんか突然雰囲気が変わったような…?」
「ううん気のせいだよ」
いつもの陰険な目をかき消して優しさを帯びだしたレオは、目の前のリクに微笑みながら手を差し伸べ出していた。
「何か困っているようなことがあれば難なく言ってね。僕が解決してあげるから」
「え、ど、どういうこと?」
しかし、突然変貌したレオの姿の理由を無論リクはすぐに気づくはずが無かった。
思わず恐怖を覚えてしまっている。
対してレオはニコニコに微笑みながらリクを見続けた。
変貌した理由をここで告げる。
「サンタにプレゼントをもらえるように僕、頑張って良い子になってみるよ」
レオの告白にリクは一瞬喉を詰まらせた。
「え、あ…レオくん…まさか…?」
「よし、クリスマスか。クリスマスまで頑張って良い子でいよう」
リクはこのときにレオが自分の話を信じ込んでいることを知る。
そのため「イナゴさんならレオくんにちゃんとプレゼントくれるはずだよ」と言おうとした。
けれどもレオは突っ走っていた。良い子を演じようとした。
それからリクは「クリスマスまで」と言うレオの言葉に、思わず一言また余計な言葉を入れてしまう
「ねえ、レオくん。今日はクリスマスイヴだよ。もう時間がないけど…?」
言った直後にリクは後悔した。そして後悔はもはや遅い行動になった。
今や学校の時間は終わり、今から帰宅するところ。
そのためレオはカバンを持って急いで外へ出て行ってしまっていた。
リクにはレオの行動の先が読めた。
レオは家に帰って早々、一応レオの両親格に当たるイナゴに孝行をしようとしているのだ。
良い姿を見せてサンタに認めてもらおうと思っているのだ。
「あ、レオくん待って!!」
まさかこんな子供だましに今頃中学生が騙されるはずがない。そう思って言った言葉だったのに。
レオは全てを信じてしまっていた。
だからこそリクは罪悪感に縛られる。
この罪悪感という鎖から逃げるためにはレオを追いかけて真実を言い、謝らなければならないと思いリクはレオの後を追いかけた。
しかし、元黒猫のレオの足の速さは尋常ではなく、気づけば姿が見えなくなっていた。
「…ど、どうしよう…私…」
速度を緩めて、やがてリクは立ち止まった。
レオを追いかけることに夢中になっていたため、今立ち止まっている場所がグラウンドだと言うことに気づいて、そっと肩を抱いた。寒さを凌ごうと身を縮めた。
「私…レオくんのイメージを崩しちゃった気がする……どうしよう…」
「やあやあやあリクさん。こんにちは。今からお帰りですか?それならボクの愛馬アッブラゼミ]に乗せて差し上げましょうか?リクさんのマイホームまで連れて行ってあげますよ」
「あああ…あんな爽やかな笑みを零しちゃうなんて…一瞬笑顔を見れて嬉しかったけど…だけどあれじゃあレオくんじゃないよ…」
「さあさあ、こんなところにいたら風邪を引かれますよ。リクさんはこんなにも華奢な体をしてるのだから暖かい場所に行かなければ…暖かい場所、そうそれこそ愛馬の上―」
「ごめんね甲斐くん、私今急いでるから」
「あ、リクさんー。急いでるなら是非ボクの愛馬に乗ることを勧めますよーリクさぁ〜ん」
もはや影も見えなくなったレオの背中を追いかけようと、リクは背後から迫りよってきたトオルを軽く退けて走り出した。
自分のせいでレオのイメージが崩れてしまったことに罪悪感を抱きながら。
リクはレオの陰険な面を求めて、今、走り出した。
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