『B』が投げたボールは縦一列に並んでいる『L』『O』『H』を串刺しにする勢いで道を抉っている。
狙われている3人は逃げる前にもめてしまったために足より口が先に出ている。
このままでは確実に餌食になってしまうであろう。

逃げない3人を見て『B』が勝ち誇った表情を象った。


B「こっちの勝ちねっ」


凄まじい回転は、目にも見えるほどに空気を掻き立て道をこじあけている。
そんなボールに当たってしまえば体の一部を破損しかねない。
それほどまでに危険なボールがここに存在していた。このままでは狙われた3人の命が危ない。


K「L様逃げてくださいー!」



『L』たちのチームの一員である『K』が外野から注意を促した。
それにより、列の先頭に立っている『L』がようやくこちらに目を向ける。
しかし既に遅い。ボールは目の前だ。
ボールは『L』の頭を狙っている。

全員が「もう駄目だ」と諦めた、その瞬間だった。
全てがスローモーションに見えたのは。


L「甘い!」


『L』が腰を動かして上半身を横に持っていったのが始まりだった。
目の前まで迫り寄ってきたボールを『L』は上半身を動かすことで避けきる。
そのため後ろにいた『O』の頭がむき出しの状態になった。しかし『O』も『L』を見習って、『L』の後を追った。
『O』の上半身が横に揺れたところで『L』は少し腰を落として頭を『O』の腹の位置まで流していく。
同じく見習って背後にいた『H』も同じように動いていく。

3人が前者に並んで綺麗に円を描いて避けていく。
よってボールは空気だけを抉るだけで、そのまま外野まで飛んでいくことで幕を閉じた。

見事な避けっぷりに、そして美しい避けっぷりに全員が絶賛する。


J「ジェジェ?!円の動きで避けちゃったジェイ?!まるでダンスみたいだジェイ!」

B「何無駄な演技なんかしてんのよっ!」

L「L様素敵すぎますー!」


絶賛が降る背景では、ボールを外野の『S』が受け取っていた。
先ほどまでは全てがスローモーションに見えたが今はもう現実の速さだ。
ボールを受け取ってすぐに『S』は投げの態勢に入った。

『L』たちもそのことに気づいて、背後に顔を向ける。
しかし、そのときにはすでにボールは発射していた。
縦一列に並んでいたため、一番後ろに立っていた『H』がボールに当たる結末になった。

痛みを味わって『H』が悲鳴を上げた。


H「いやぁぁ〜ん」

L「うわ、一瞬にして鳥肌が立った!」


『H』の色気ムンムンの悲鳴は仲間である『L』を苦しめた。
その間に内野を転がっていくボールを『O』が取りに行く。


O「困ったなあ。あとはLだけか」


『H』もやられてしまったため、この陣の中には『L』と『O』しかいない。
向居の陣には強敵『B』を含めて3人いる。

2対4。これは厳しい。


L「仕方ない。オレたちだけで倒すか」

O「がんばれ」

L「お前も頑張れよ!」


いつまでたってもやる気を見せない『O』は拾ったボールを『L』に渡してそれっきりだ。
なので『L』が注意するが、結果は変わらず。
仕方なく、また『L』がボールを投げることになった。

ボールは『B』を狙わず、遠くに立っていた『 I 』を狙う。


I 「えー?ミッキーを狙うのー?ミッキーはぁ痛いの嫌いなのらぁ〜」


しかしボールは軌道を変えることなく『 I 』の元まで飛んでいる。
そのため『 I 』も身の危険を察してすぐさま手をかざした。

咄嗟に突き出した手の中には非現実少女漫画に出てきそうなステッキがあった。
『 I 』はその先に虹色の光を燈し、やがて撃った。
痛々しいほど原色チックな星の光線を浴びたボールはピンク色の小鳥になって羽ばたいていく。

そして全員が呆気に取られて、『 I 』も自分の行動の過ちに思わずイタイ表情を取った。


I 「あ、魔法使っちった☆」


そう、今回闇たちは魔術を使っては駄目だと決められた上で戦っているのである。
先ほどの『 I 』の行動は完全に魔術を使ったものであった。
しかも使用ボールを小鳥にして逃がしてしまった。
これは取り返しのつかないことである。

そういうことで、『R』のホイッスルを浴びることになる。


R「魔術を使ったということで I は失格でアール」


うるさく鳴り響くホイッスルの鐘に『 I 』は自分の頭をコツンとした。


I 「てへ☆いっけなーい」

B「いけないって思ってるならするんじゃないわよっ」


呑気に謝罪する『 I 』に苛立ちを募らせた『B』は、仲間であるとも関係無しに拳を発砲した。
しかし『 I 』は得意の変術で猫に化けて逃げていってしまっていた。

『 I 』の退場により、残りは『B』と『C』と『J』、そして『L』と『O』だけになった。
それにしてもまだ『C』が残っているとは驚きである。


L「Bちゃんさえ何とか鎮めれば勝てるんだけど…」

O「それが世の中で一番難しいことだと思う」

B「おっほっほっ。あんたらは永遠と私の下なのよっ」

J「ジェーイ!やっぱりBちゃんは恐ろしいジェイ!」

C「…………」


ボールが羽ばたいていってしまったので、『R』が新しいボールを持ってくる。
そしてまた試合再開となった。

ボールは何故か『J』が持っている。


J「行くジェイ」


しかしボールは相手の陣まで届かず、足元に落ちるだけだった。
そのため『B』の怒りが爆発する。
爆風を込めて『B』は『J』の腹に一発鉄拳を下した。


B「どこまで役立たずなのよこのクズっ!」

J「ジェ…!」


『J』、死亡。


L「死んだー?!」

O「まさか自分のチームメイトを平然と倒してしまうとは、さすがBちゃん恐ろしい」

L「というかあんなツッコミ受けたくないな!」

O「本当に人を黙らせる力を持っているなんてすごいなあ」

L「感心してる場合か?今オレたちはそんなBちゃんの獲物なんだぞ、って来た!」


『J』が腹を押さえて倒れた光景を目の当たりにし『L』と『O』が混乱している中で、『B』はやはり容赦なくボールを人を殺せる銃弾に変えてきた。
飛んでくるボールを『L』と『O』はあたふたしながら避けていく。


L「駄目だ!あんなの喰らったら本気で死ぬぞ!」

O「Mが羨ましいなあ」


まさに危険オンリーなボールは、外野にいる『M』によって受け止められた。
当たって痛みが全身にわたったらしく『M』は快感に声を上げている。
そんな『M』が羨ましい、と『O』は感想を下した。

『M』が受け止めたボールを『S』が取ろうとするが、何故か『U』の手に回ってしまう。


U「クスクス。久々にボールが回ってきたぞよ」


こりゃ困った。また消毒しなくてはならない。

『U』がボールを投げる。
先ほどの『J』と違うゆっくり加減のボールは、キモく回転をかけて飛行する。
久々に可哀想なボールを見て全員が一気に身を引いた。


L「お前は投げるなよ!」

B「全くよね!あんたが投げたボールなんてQしか受け取らないわよっ」

Q「俺もとらねえよこの野郎!」


先ほどからボールは兵器になったり、キモくなったり、除菌されたりと忙しい。

結局『Q』もボールを受け取らなかった。
そして壁までもボールを受け取るのを拒否して逃げていってしまう。
おかげさまでこの部屋の地形がちょこっとだけ広くなった。


L「壁が逃げた?!」

O「この城は何でもありなんだなあ」


壁にまで逃げられた可哀想なボールは救世士『R』の魔術により今回も除菌となった。
そして再び試合再開になる。

今度は『L』がボールを投げる。


L「Bちゃんが駄目なら狙う先はCだ!」


『B』に向けて投げることは死に行くことと同じ。ならば必然的に狙う先は『C』になる。
しかも先ほどから『C』は読書に夢中だ。これならば落とすことが容易であろう。
そう思ったうえで『L』はボールを投げた。

けれども、それは甘い考えであった。
冷静になって考えてみろ。
『C』は生み出された闇の中で一番の実力者なのだ。

勝てるはずがない。


C「ククク。ワシをただの老いぼれと思ってほしくないがのう」


ボールが『C』の目前で止まっている。それは何故か。
理由は簡単だ。『C』が指一本で止めているのだ。
きっと指先に魔術を込めて、ボールの回転を抑えたのであろう。

投げたボールが止められて、『L』が苦く表情を濁し、『O』は危険を察して『L』の背後へ回った。


L「しまった…!」

C「Lよ、お前は目に見える現実しか見ておらんようじゃな。それではいつまでたっても弱いままじゃ」


歯を食いしばる『L』を見て、『C』は笑った。


C「クク、何じゃ不満か?ワシが嘘をついているように見えるというのか?」

L「…」

C「ワシの目を見て隠れた現実の恐ろしさを見るが良い」


促されて『L』は『C』の目を見た。
しかしそれがこの試合に終止符を打つことになる。

『C』の恐ろしさは存在自体にあるのだ。
奴は、目で相手を操ることが出来る、傀儡子なのだから…。


『C』の目を見てしまい、『L』はピタリと動かなくなった。


L「………!」


しかも声も出ない。
なので背後に隠れている『O』に今の状況を知らせることも出来ない。
しかも『O』の奴、『L』の背後で呑気に大好きなプリンのことを考えている。


L「………っ」


これはなんだ。
ワナなのか?
『C』って何気にそんな小細工を使う奴だったのか。


ここで『L』は気づいた。
『C』の前に立って勝ち誇った笑みを零している『B』の存在に。
その手の中には、ボールがある。


しまった。奴だ。『C』は『B』とぐるだったのだ。
そりゃ同じチームだからそうなるのは当然だけれど、まさかあの『C』がこっそりと魔術を使って『B』の加勢をするなんて。
…もしかすると『B』に脅されて協力しているのか。いや、そうでなくとも『C』はこうするつもりであっただろう。
この試合に参加している以上、やる気はあるはずなのだから。

魔術が強烈な『C』と怪力が強烈な『B』。
二人合わせて、まさに「最強」だ。

『L』は心の中で叫んだ。



殺されるー!!!



これから起こった出来事を、『L』は覚えていない。




『B』が投げたボールは、動かない『L』の腹を抉り、後ろの『O』を巻き添えにして、勢いよくぶっ飛んでいった。
奴らの背後に立っていた外野陣も飛んでくる『L』と『O』を避けて、そのまま壁まで誘導する。

そして『L』と『O』が壁に頭を突っ込んで沈んだ時点で、終わりのホイッスルが鳴り響いた。


R「2対0。よってBCIJMNSUチームの勝利でアール」


闇全体が開放感に包まれた。













+ + +


R「マスター。闇たちの戦いをご覧になった感想をお聞きしたいでアール」

E「ん?感想か?とてもよかったよ。思った以上に楽しんだ」

R「それはよかったでアール」

E「君たち闇もやろうと思えばできるんだな」

R「ワガハイたちに不可能という文字はないでアール」

E「素晴らしい。それこそ闇だ。わたしたちはそうでなくてはならない。闇こそが全てだ。素晴らしい素晴らしい」



これはエキセントリック一族の、日常の一欠けら。
何もすることが無い日はマスターである『E』の機嫌をとるために闇たちは動いている。
といっても奴らにとってもこれは暇つぶしになり、両者に良い都合になるのだが。


今回のドッジボールも楽しんでもらえてよかった、と『R』は深く安堵の息を吐く。
そして、そのまま『E』と共に今後の計画を練るために、今度は深呼吸をした。



そのころ、負傷した者たちはその日から暫くの間、部屋から出ることはなかった。
苦痛の声が廊下で微かに漏れるだけであった。


B「ふん、いい気味よ」


闇の廊下を歩く闇がポツリと毒を吐き、闇色がさらに深くなる…。









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エキセンドッジボール、完結です。
結局『B』が勝ちました。彼女こそ、ある意味最強です。

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