気を緩めてしまえば最後。
ボールの餌食になってしまう。
鋭い回転をかけて闇の者たちを襲うボールはまるでサバンナの獣のようなものだ。
狙いを定めて、一直線に向かっていく。まさにその様。
狙われた獲物は必死に逃げるしか他が無かった。

なので今、『L』たちも逃げているのである。
獣こと『B』のボールの犠牲にならないように必死になって散らばっていく。
『B』が投げたボールから逃げる闇たちは花火のごとく、一斉に陣の端まで広がって逃げる。


B「あんたら弱いわねっ」


余裕の笑みを見せる『B』がこれまた恐ろしい。
しかも、『B』たちのチームの外野には『S』がいるためうまい具合にキャッチボールになっている。
先ほどまでは『U』しかいなかったので外野に飛んでいくことは恐怖であるうえ時間も食っていたのだが、今ではスムーズに事が進んでいっている。
『S』たちが外野に回ったことにより効率よくボールが渡っていっているのだ。
『B』の強いボールを受け取るために『M』が自ら当たりに行き、それを受け取って『S』が投げる。
いや、バットで内角低めのボールを打つ。


S「ヒッヒッヒ!よくも俺様を外野に落とし入れたな!」


『S』が狙う先は、『G』だ。
彼女を外野に落とし入れた張本人である。

『G』は吼えて、何とかボールを受け止めた。


G「貴様なんぞに負けるか!」


先ほどから似たような台詞ばかり吼えているけれど、気にしない気にしない。
ボールを取られてしまって『S』が舌打ちを鳴らす。その音を聞き、『G』が勝気になった。


G「喰らえぐおおお!」


語尾の吼えはきっと勢いあまって出たものであろう。
吼えながら投げたボールは、外見から見ると非常に強いものに見える。
しかしポスッと簡単に『B』に取られてしまった。


G「何故だぐおおお!」

L「G、吼えてないで逃げろよ!死ぬぞ!」

B「死になさいっ」


…『G』死亡。


L「死んだー?!」


あっという間の出来事で喰らった本人も理解するのに時間が掛かった。
『G』が意識を取り戻ったときには既に体が地面についていて、腹が痛々しいほどへこんでいた。
しかも悲鳴を上げることができないほど苦しいようで、『G』は暫くの間倒れていた。


L「まともに喰らうと、立ち直れなくなるのか…」


ずっと吼えていた『G』がピタリと鎮まった。
強烈なボールをみぞおち辺りに喰らったのだろう。急所だったようだ。
哀れな仲間の姿を見て『L』は微かに震えていた。

『R』が手を打つことで『G』の周りに影人間が現れる。
そして『G』を担いで安全地帯に運んでいった。
その風景を全員が無言で眺めていた。


『B』の犠牲を喰らってリタイアになった『G』を抜かして戦闘再開。
『L』たちのチームの人数が少なくなったが、それでも『L』は相手を倒す気でいる。
倒された仲間のことを思いやって、ボールに念を込めていく。


L「もう犠牲者を出さないようにしないと…」


そう誓う『L』の口先の向こうには『B』は不敵に口元をゆがめている。
あの女を倒さなければ勝ち目が無い。
なので『L』は『B』と向き合った。

『B』が鼻で笑う。


B「あらぁ?あんたも死にたいわけ?」

L「…」


嘲笑う『B』に向けて『L』は冷静に睨むのみ。そして握り締めていたボールを投げた。
『L』の視線は確実に『B』を定めている。しかしボールの行き場は違っていた。
弧を描いて飛んでいくボールは、隅にいた『N』を狙っていた。


N「え!何でこっちに来るのー?!」


ありえない軌道に乗ってやってくるボールに気づいて『N』が悲鳴を上げた。
急いで足を振り上げてボールを蹴ろうとするが、蹴る前にボールが膝に当たり、弾んだ拍子に顎にも当たることに。
二重でボールを喰らって、『N』は顎を空に向けて倒れこんだ。

目と鼻の先で『N』が哀れな姿を披露したため、『L』たちのチームの外野陣も呆気に取られている。
しかしすぐに声をかけた。


Q「おい、何バカなことしてんだこの野郎」

N「…うっさいよー……まさか顎にも喰らっちゃうなんてー…」

Q「足を振り上げるタイミングを図れなかったお前の自業自得だろ」

N「…とっさに対応できなかったんだい!あーもう!最初から外野に逃げ込んでるお前にああだこうだ言われたくないよ!」


『N』からの逆切れを受け、『Q』の眉がぐっと寄る。
そして今にも手を伸ばして『N』の胸倉を掴む勢いを漂わせている『Q』だったが、鋭い勘で危険を察した『K』が『N』に救いの言葉をかけた。


K「早く外野に行ったらどうですかー?」

N「うー…何かいろいろと悔しいー…」


うまい具合に『N』を外野へ誘導し、険悪な空気をさらっと流した。
よって『Q』は舌打ちをするだけで『N』に拳を放つことなく見逃す形になった。

これで残りは『A』『H』『L』『O』と『B』『C』『I』『J』の4対4。
何気に五分五分の戦いである。


L「よっし!向こうのチームで手ごわいのはBちゃんのみだ!Bちゃんさえ沈めればこっちのものだぞ!」


相手のメンツを見て『B』だけが恐怖だと感想を下す『L』。
しかしその『B』が最も危険であり沈めるのが難しいから、今手間取っているのである。
何とかして凶暴な『B』を止めなければならないけれど、そんな彼女に電源などあるのだろうか。
いっそのこと電源を引っこ抜いてしまいたい、そう思う。

けれどもそんな彼女は今、ボールを握っていた。
『N』に当たったボールが彼女の元まで転がってきたのである。

爆弾が落ちる!
『L』たちは必死に逃げた。


L「やばい!逃げろ!」


しかし、逃げる『L』の目の前に、『H』が現れた。
分厚い唇に小指を当てて、『H』がブサイクに微笑む。『L』に向けて。


H「んふ。L、アタシを守りなさいよ」

L「無茶な!?今自分のことで精一杯なんだよ!」

H「何言ってるのよ。アタシを包んで全身で守ることぐらいしなさいよ」

L「そんなこと出来るか!?ってか構えないで!誰もお前を包んだりしないから!」


何故か両手を広げて『L』を求めている『H』、非常に気色が悪い。
オカマなんか無視して『L』は自分の身を守るために走って逃げた。
実のところ、『H』は『L』のようなタイプが好みなのである。
そのため『H』は意地でも『L』の体を求めてやってくる。


L「来るなよ!オレは女の子しか愛さない主義なんだ!」

O「それは当然だと思う」

H「アタシこそ女の子じゃないのよぉ」

L「そんな醜い声して女って言い切るな!オレの憧れる女の子の声ってのは、麗しい声なんだ!」


『L』と『H』が戦っている間、『B』が投げたボールは、『A』に当たっていた。
あまりにも地味に当たったので誰も気にしていないぞ。


J「それもかわいそうだジェイ!」


仲間がやられたというのに、残りのメンツは口論に忙しいようだ。
襲ってくる『H』から必死に逃げて『L』が叫び、しかし『H』は懲りずに両手を広げる。

『L』の発言を聞いて、『H』が口先をキュッと突き出した。


H「んふ。Lは麗しい声が好きなのね。分かったわ。そしたらアタシ、これから美しい声を求めて生きていくわ。そしてあなたに愛してもらうの」

L「やめてくれ!お前なら本当にやりかねない!」


『H』が『L』に宣戦布告をしたころ、『A』は外野に行っていた。
同じチームである彼らはそれに気づくことは、なかった。


J「思った以上に可哀想だジェイ?!」


『A』に当たったボールは地面に落ち、外野に向かって転がっていっている。
活動力のある『L』が『H』の攻撃から逃げるのに夢中になっているようなので、ここでようやく『O』が手を伸ばした。
そして


O「はいBちゃん」


意味不明に相手チームである『B』にボールを渡していた。
その光景が目の端に映ったらしい、『L』が悲鳴を上げる。


L「まさか、知らぬ間にAがやられていて、だけど外野に逃げていくボールを受け止めたOには「でかしたぞ」の言葉をかけてやりたいが何故か敵チームのBちゃんにボールを渡してしまっているなんて本当に予測不可能な行動だよ驚愕しちゃってもう何も言うことが出来ない!?」


動揺してしまって思わず説明口調のツッコミである。
それなのに『O』は己の道を貫き通した。


O「あ、ごめん」

L「ごめんの一言ですむと思ってるのか?!」


『L』が興奮している隙に『B』は受け取ったボールを鉛にするほど強く握り締めて投げていた。
ボールは空気を切り裂き、そして抉り飛んでいく。
再び危険なボールになって『L』たちを襲っていくボールはまさに恐怖の塊である。
ボールが発砲した原因に当たる『O』は、呑気に『L』の背後に回り、彼を盾にした。
続いて『H』も『L』の背後に回って『O』を退かす。
『O』もめげずに『L』の後ろについた。


L「邪魔だよ!この上ないほど邪魔だよ!」


迫り寄る『B』のボール。速すぎて逆に遅いようにも見えてしまう。
このままだとボールを顔面に食らうことになってしまうのだが、果たしてどうする『L』『O』『H』。


B「これで、終わりねっ」







>>

<<


------------------------------------------------

『H』が美しい声を求めていた原因は『L』にあったのか?!
っと誰か気づいて突っ込んであげてください(笑

------------------------------------------------

inserted by FC2 system