何ていうことだ…!
寝ていた子どもを起こしてしまった。
そして、見るからに純粋そうな子どもにサンタの自分らを見られてしまった。

サンタというものは正体を隠しとおさなければならない存在であるため、人に姿を見られたらいけないのである。
だから深夜に不法侵入をして訪れるのだ。

一番最初のターゲットであった召喚獣を操っていた子どもにも姿を見られてしまったが、あの子どもは見るからにいろいろと現実を知っていそうだったので特に気にしていなかった。
しかし今の目の前にいる子どもは表情を見るだけでも分かる。実に純粋そうな子である。

だから絶句してしまったのだ。
そして心から叫ぶ。「ヤバイー!」と。

サンタの3人が心底焦っている中で、子どもはもう一度目を擦ってから訊ねていた。


「おじさんたちはサンタさんなの?」


『おじさん』の単語を聞いて、イナゴはぐさっと胸を痛めた。
まだ自分はこんなにもピチピチな体をしているのに、それを『おじさん』と言うなんて…!
ひどくプライドが許さなかった。
そのため、一歩前に出て、イナゴは子どもに顔をぐっと近づけた。
屈んだときに被っているシルクハットが下がる。そのときに顔が隠れた。
ちなみに、3人はサンタをしているわけだが、イナゴはいつもの容姿…シルクハットを被り黒マントを羽織っているし、レオもサンタのコートを肩に乗せているだけだ。タンポポは言われなくても分かる。日常と同じ。
こんな格好をしている奴らをよくもサンタと見抜いたものだ。と言っても本物のサンタでもないのだが。

目の前にイナゴが現れたものだから子どもが不思議そうに首をかしげている。
イナゴは一息ついて決心をつく。ぐいっとシルクハットの広いつばを上げて、子どもに自分の顔を見せた。
面と向かってイナゴは言う。


「オレはおじさんじゃない。お兄さんだ」


すると子どもは悲鳴を上げた。


「わきゃあああ、あふ!!」


子どもは顔を真っ赤にしてイナゴを凝視している。そして絶叫だ。
何故、子どもが絶叫しているのかわからなかった。なので悲鳴を妨げるために、手で口を塞ぐ。
そのおかげで子どもの悲鳴は沈んだ。

暫くの間、その形のまま。だけれど顔は向こうの部屋へ繋がるドアを見ている。
もしかしたらこの悲鳴を聞いて親が心配して駆けつけてくるかもしれないと悟ったからだ。
しかし物音一つしない。誰も駆けつけてこないようだ。

安心したところで子どもに視線を戻す。
子どもはイナゴの顔をまじまじと見ている。そして悦な表情を浮かべる。
レオは「まさかこの子ども、イナゴに惚れた?」と思ったがすぐに頭を振ってそれを否定した。
こんなバカな男に子どもが惚れるはずがないと考えを改めたのだ。
イナゴは女の子大好きなのだが、子どもには興味がないようで困った表情を浮かべている。
そして、この後の対処法を思い描く。
この子どもをどうやって寝かせるか、考える。

ピンと閃いた。


「お嬢さん、お前に素敵なプレゼントをやるよ」


子どもの顔が無邪気な笑みになる。顔色は赤いままだが。
イナゴは、子どもの口を覆っていない空いた手を子どもの目の前に向けた。
その手の形は、今にも指を鳴らせる形。親指と人差し指を重ねた状態で置かれた。
子どももマジマジと指先の交点を見ている。

イナゴが子どもに目を合わせて言った。


「今すぐにお前を幸せにさせるおまじないさ」


そして女の心を掴めるような笑みを作って


「お前の心に人を癒やす花畑をやるよ」


パチンと指が鳴った。それはイナゴが魔術を発動させた音で、指が鳴った後は何も起こらない。
しかし異変は起こった。
子どもが目を回して倒れたのだ。
ぱふっと布団に頭を沈める。それからピクリとも動かなくなった。
子どもの異変に驚いてレオが小声で叫んだ。


「お前何したんだ!」


イナゴが軽く答える。


「言っただろ。花畑をやったんだ」

「だけど子どもは倒れたぞ!」

「女と言う生き物は花が好きなんだ。それが心一杯に満たされたんだから誰だって倒れるさ」

「…お、お前それを狙って…」

「はっはっは!オレを誰だと思ってる?」

『イナゴは大の女好きでヤンスよ!』

「女大好きだ!」

「そんなの恥だ!そんなプライドさっさと捨てろ!」


純粋そうな子どもを眠らせたところでイナゴたちは早々と退散していった。
気を失った子どもは、夢の中で花畑を幸せそうに走っていくのであった。



+ + +


「さっきの子どもの髪色、珍しかったけど」


今はまたそりの中。
トナカイに引かれて空を飛ぶそりは、月に照らされ銀色に輝く。
レオが漏らす疑問はまだ最後まで述べられていないが続きも何となく予想できる。
「髪色、珍しかったけど、あの子もまた何かの種族なのか?」それにイナゴが答えた。首を振って。


「あの子はいたって普通の人間の子だ」

『だけど桜色の髪色は珍しいでヤンスよ。アタイも始めて見たでヤンス』


珍しくタンポポも眉を寄せている。そしてイナゴまでもうーんと頭を捻った。


「髪色は確かに尋常ではないな。だけどあの子はどこかの種族ではないのは確実だ。紛れもなく人間なんだけど…」


一応断言しているイナゴだけれども表情は晴れていない。きっと何かに引っかかっているのだろう。
あのイナゴも悪戦苦闘するほどの珍しい髪色。しかし人間には変わりないらしい。
それなのに何故頭を捻る。レオにはイナゴの行動が読めなかった。

桜色の髪のこのことを考えてもキリがないということで、頭の中を切り替える。
タンポポがイナゴに声をかけた。


『次はどの子でヤンス?』


するとイナゴがあっと目を開いた。子どもリストの紙を見て驚いているようだ。


「次で最後だ」


次の子どもでサンタの仕事は終了らしい。
そのことを知りレオの顔色がやっと輝いた。
現実に戻れることが嬉しいのである。


「よかった。非現実的な世界から抜けることが出来るのか…。早く家に帰ってぬくぬくと丸くなって寝よう…!」

「あーあ。せっかくサンタになれたのに次でそれも終わりか。何だか呆気なかったな」

『でも貴重な体験が出来てよかったでヤンスよ!』


レオが喜んでいる中、イナゴは自分の夢があと少しで終止符を打つと言うことに不満を抱いていた。
だからタンポポがイナゴを慰めてあげていた。
そうしている間にトナカイが足を止めた。ターゲットの子どもが住んでいる家の屋根に着地し、そりを静かに停車させる。
続いてイナゴたちも雪が積もっている屋根の上に足をつける。ズボッと足首辺りまで沈んだ。
そしてレオが呻く。


「寒い」

「もう少し我慢してくれよ。ここの子どもにプレゼントをやれば終了なんだからさ」

「それならさっさと済ませてよ。凍え死ぬ…」

「わがままな子だなー」

『全く誰に似たでヤンスか?』

「ダンちゃんだよきっと」

『ふざけんなでヤンス』

「そんな冷静に怒らなくても?!」

「くだらないことでもめるなよ。ああ寒い…」


レオとイナゴが屋根の上に幾つもの足跡をつけ、タンポポは宙を浮く。
白い雪が降り積もり辺りは銀色の世界だ。
この大陸ではこんなにも雪が降ることがないので、タンポポは雪に目を奪われている。
そのときに、銀色の世界を走っている人影を見つけた。


『ん?誰かいるでヤンスよ』


今から指を鳴らして家の中に潜入しようとしていたイナゴの動きも止まった。
タンポポが目を向けている場所に目線を移して、目を凝らす。
銀色の中に浮かぶ人影が見える。


「本当だな」

「こんな夜中にどうして外なんかに?」


確かにその通りである。
今は夜中で子どもは寝ている時間だ。
それなのに子どもが家から飛び出して我武者羅に走っている。
顔を覆って走っているようだけれど、果たしてどうしたものなのか。


「あとを追ってみよう」


イナゴがマントを払ってすぐにでも飛び下りようとする。それをレオが止めた。


「待って。まだ誰か出てくる」


自分らが立っている屋根の下。無論それは家であり、光が漏れている。
ここの家はまだ活動時間なのだろうか。他の家より明るい。

タンポポは先ほど顔を覆って家から飛び出した子どもを見、残りの2人は家から新たに飛び出した子どもを見ている。
お互いに呟いた。


『さっき飛び出していった子、女の子のようでヤンス』

「今、男が出てきた」

「銀髪か」


今先ほど家から姿を現した影を見てイナゴが声を漏らす。


「これもまた珍しい髪色だな」

「うん。雪と一体化してこれまた眩しい色だね」

『ああー女の子が見えなくなっちゃったでヤンス』


男二人は自分たちの下の光景を気にしているが、タンポポは女の子の方が心配だった。
そのため、女の子を捜しに一人で飛んでいく。
イナゴはそのことに気づいて手を伸ばす。


「ダンちゃん、女の子を捜しに行くのか?」

『当然でヤンス。女の子が泣いてたでヤンス。心配でヤンスよ』


そしてそのまま雪の中を飛んでいく。
イナゴも追いかけようとしたが、空を飛べないレオの存在を思い出し、身をとどめた。
レオはタンポポよりも下の光景を眺めている。


「何してるんだろう?」


下に居る男の子どもは、辺りを見渡していた。
銀髪の子どもだ。雪の世界に紛れることが出来るほどの美しい銀の輝き。
子どもはマフラーと手袋を装着して防寒している。
レオは解読する。


「さっき飛び出していった子の兄弟かな」

「いや、それにしても年齢層が近いし、何より血が違う」

「え?」


イナゴは見据えた顔して銀髪の子どもを見る。


「全身に流れる血がお互いに違う。兄弟だったら遺伝因子が同じなはずだ。しかし二人は違った。全く違う遺伝因子。だから二人は兄弟ではない」

「そしたらあの二人は?」

「クリスマスだから今晩だけは一緒に…ってことか?!」

「はぁ?!」

「まだ子どものクセに、許さねぇー!!」


兄弟ではないのに一緒の家にいた子ども二人に怒りをもったイナゴはすぐさまその場に飛び下りた。
イナゴは計算して飛び下りたのか、子どもの目の前に見事着地する。黒いマントがゆっくりとはためいた。
突然のイナゴの登場に驚いたのは、無論子どもであった。


「な…!」

「お前ら、こんな夜中に何やってんだよ」


銀髪の子どもが大きな目をギョッと見開いている隙にイナゴは子どもの胸倉を掴む勢いで近寄る。
なのでレオも急いで飛び下りて、イナゴを捕らえた。
さすがレオ、元黒猫なだけあって動きは俊敏だ。


「お前やめろって。子どもが驚いてるだろ」

「だって許せねえもん!まだ10歳弱の子どもなのに一つ屋根の下でウフフしあってるなんて」

「おいてめえ何勘違いしてんだよ!」


子どもの叫び声を聞いて、イナゴの腕を必死に引いていたレオが動きを止めた。
イナゴも目を丸くして相手を見やる。
風が吹いた。
オレンジ髪と黒髪と銀髪が靡く。

子どもは白い息を吐いて、声を抑えて言う。


「俺とあいつはそんな関係じゃない」

「へえ。そしたらどんな関係だ?」

「そんなのどうだっていいだろ。とにかく俺はてめえらを相手にしている暇はないんだ」


黒い者の存在に驚いた様子を見せないほど、銀髪の子どもは急いでいるようだった。
前へ進もうとイナゴを避け、銀の道を走っていく。
レオも急いで追いかけようとする。しかし雪の中だ。うまく走れない。


「…何なんだ、ここの子どもたちは…」

「んー…ちょっと天候が怪しいな」


レオが焦っている後ろでは、イナゴが冷静に空を見上げていた。顔を上げているため雪が降りかかり白く積もる。
レオはイナゴのように顔を雪まみれにしたくなかったので空を見ずにイナゴに理由を尋ねた。


「天候が怪しいってどういう意味?」


顔を白くしながらイナゴが答えた。


「雪の量も増えて風が強くなってきている。やがてこれは吹雪になるかもしれない」

「え!」


吹雪といえば、立ち向かっても視界が白くて何も見えない上、前へ進めないという恐怖の天候である。
それが今から起こるということか。


「とにかく探しに行かなくちゃならないな」

「うん」


こんな夜中に飛び出していった子供二人とタンポポのことが心配でイナゴとレオは雪を蹴った。
しかしやはりうまく走れない。
レオは雪に足を取られて転びそうになる。
それに手を差し伸べたのはイナゴだ。


「これじゃおいつかないな」

「どうするんだ?」

「考えがある」


そしてイナゴはレオの腕を掴むと、高く飛び跳ねた。
膨らむマントは風に乗り、二人を運ぶ。
なんと浮遊しているのだ。


「飛んでる…」

「子どもの足跡をついていけば必ず見つけることが出来るから安心しろ」


レオもイナゴの広いマントに座り、マントのイスで飛んでいく。
風に押されて、二人は浮遊する。

銀髪の子どもも女の子の足跡を追っているようで、二種類の穴が連なっている。
その上をイナゴのマントに乗った二人が追う。


「…!」


しかしそのとき、強い風が吹いた。
白いものに押されて黒は押される。
吹雪の天候が近づいているのだ。


「しまった。早く見つけないと」

「もっと速く飛べないのか?」

「無理だ。風に乗っているだけだからな」

「何だよそれ!空を飛んでいるということじゃないのか!」

「空を飛ぶっていうのはいわゆる風に乗っているのと同じことだ。だから風に任せるしかない」

「…!」

「ダンちゃんのように翼があれば風力を使って加速することが出来るけどな」


言われてみて納得した。
確かに、空を飛んでいる者と言えば何かと物を頼っている。
翼であったりエンジンであったりと。
イナゴはマントに風を乗せているだけなのでこれは飛んでいるのではなく浮遊なのだ。
何かと難しいなと思った。

吹雪になりかけの空の下。
だんだん白くなる視界、これは子どもたちの前に自分らの命の方が危険かもしれない。
一刻も早く見つけなくては、と足跡を追う。

そのときに見つけた。
それは光だった。


「ダンちゃん!」

光の正体はタンポポの尾で燃え盛っている火であった。
タンポポも声を掛けられてから二人の存在に気づく。


『イナゴにレオでヤンス!』

「どこに行ったかと心配したんだよタンポポ」

「子どもはどうなったんだ?」


タンポポは家を飛び出していった女の子を追うために二人からはぐれた。
しかしその場にいたのはタンポポだけだった。

タンポポは残念そうに首を振る。


『それが、見失ってしまったでヤンス』

「「え?!」」

『ゴメンでヤンス。女の子が白い服を着ていたから見えづらかったでヤンスよ』


申し訳なく尻尾をたらすタンポポを見ながら、イナゴはマントに力を入れる。
よってマントは風圧に逆らい、下へ落ちる。二人は地面に足をつけた。
タンポポもイナゴの元へ行く。


「そっか。ということはオレらも知らぬ間に銀髪の子どもを見失ってたってことか」

「あの子も銀髪だから紛れる色してたんだよな…」

『まだ足跡は続いているでヤンスけど、こうやって話している隙に雪に埋もれていってるでヤンス』


確かに、足跡が浅みを帯びて見えづらくなっている。
しまった、これでは何れは足跡が消えてしまう。
子どもを追えなくなる。


「おいイナゴ。お前こっちの世界のエリート魔術師なんだろ?何とかしてみせろよ」

「残念なことだが天候のせいで魔術が使いづらいんだ」


それからイナゴはぼそりと言った。


「本気を出せば"本当の力"を出せるんだけど、出したくないし」

「は?」

「あの"目"になった瞬間に、オレの居場所が見つかってしまうし」

「……?」

「だから出来ない。ここは自分らの力で探すしかない」


イナゴが言った言葉が気になったが、タンポポがイナゴの意見に賛成して声を上げていたため取り消された。


『頑張って子どもたちを捜すでヤンス』

「だけどどうやって?」

「心意気だな」

「そんな!無理だって!」


そのときに聞こえてきた。子どもの声だ。


「ばかー!!!!」


しかしそれは喧嘩の真っ只中だった。
争っている声が徐々に聞こえてくる。こちらに近づいてきてるのだ。


「馬鹿とは失礼だな!お前がこんなときに飛び出すのが悪いんだろ!」

「だってせっかくのクリスマスなのに、私のこと虐めるから…!」

「んだよ。俺はお前を虐めた気はないんだが」

「虐めた!もーばかー!嫌ーい!」

「…嫌いで結構。お前のようなワガママ女なんかこっちも好きにならねえよ」

「う…ひどいー」


やがて見えてきた。それは家から飛び出した子どもらであった。
この様子から二人、出会えたようだ。よかったよかった。
しかし安心してはいられない。二人の動きが怪しいのだ。
視界が白いので道に迷っているようだ。重い足取りで歩いている。

イナゴたちは急いで近くにあった木の後ろに隠れ二人を見やった。
そして小声で話し合う。


「なるほど。喧嘩をしたから女の方が家を飛び出して男がそれを追っていたのか」

「だけど何だか幸せそう」

『喧嘩するほど仲がいいというでヤンスからね』


女の子を見てみると、男の子のようにマフラーなどを防寒しておらず、凍えている。
そのことに気づき、イナゴは何とかして魔術を繰り出そうとした。
しかしその前に遮られた。
男によって。


「寒いだろ?」


なんと、男が自分のマフラーを女にあげたのだ。
木の後ろの3人は唖然とする。


「うわ、何だこのプレーは!」

「普通にラブラブじゃん」

『初々しいでヤンスねぇ…』


マフラーを巻いてもらって女の子は嬉しそうだった。
吹雪のせいで見えづらい世界だが、ここには光があった。


「ありがとう。このマフラー暖かいね…」

「んなことどうでもいい。早く家に帰るぞ」

「うん…」


前へ進もうとしている子どもたちだが、ふと気づいた。この二人、家と正反対の方向へ歩いているということに。
だからイナゴは急いで指を鳴らしてこの場では使いづらいであろう魔術を繰り出した。

パチン、となるとピタッと何かが止まった。
先ほどまでこの世の者を冷たくしていたものが動きを止めた。いや、止められた。イナゴの手によって。

イナゴは魔術を繰り出した姿勢のまま肩で息をしていた。
大きな魔術を使ったので疲労が出たようだ。


強い強い雪の風は、パチンという音に突き破られて、分散する。
風はおさまり、雪も溶ける。
空を張っていた雲の膜も薄れていく。やがてそこから違う銀色である月が現れた。


吹雪が晴れたのである。


「「……あ、晴れた」」


子どもたちも唖然としていた。
突然の天候の変化に驚いたのだ。同じくレオもタンポポも驚いていた。

イナゴが頭を抱えて、大きく息を吐く。白い息が広がった。


「…こんな大きな魔術…使ったのは久々だ…」


子どもたちは今自分らがどの場に居るのか理解できたようで、二人仲良く踵を返していた。
女の子が銀髪の男に「一緒にマフラー巻こうよ」と喚き、男が素っ気なく返して我が家へ連れて行く。

そんな二人を3人は眺めていた。


『イナゴ、頑張ったでヤンスね』

「お前、天候も操れるのか?」


タンポポが褒め称え、レオが目を丸める。
イナゴはぜえぜえ呼吸しながら頷いた。


「自然に逆らう魔術は、高度なんだ…」

「それをしたのかお前は…」

「だからこんなに疲れてるんだよ……」


それからイナゴはまた息をついた。
広がっていく白い息の流れを見る。すると、光が目に入ってきた。
レオが感嘆を上げる。


「すごい……」


背後に、そりを引いていたトナカイたちが近づいてくる。
それに気づきながらも3人は光に目を奪われていた。

これは美しい。

月夜に輝く銀の世界。


「月に照らされて積もった雪が輝いているのか」

『綺麗でヤンス』

「お前、やっぱりすごい魔術師だよ」


素晴らしいプレゼントをやったじゃないか、とレオは微笑み、つられてタンポポも笑う。
イナゴも照れくさく笑っていた。



トナカイが引くそりに乗った3人は再び空を飛んでいた。
雪もやみ、風もやみ、何も揺れない夜の空。そこを移動するサンタクロース。
しゃんしゃんしゃんしゃん
トナカイの喉元の鈴が鳴いている。

雪はもう降らないけれど、代わりに何かが降っている。
月が銀の光を降らし、夜が静けさを降らす。
黒い者たちが幸せを降らす。

月夜を堪能しようと空を仰いでいた小さな旅人も、全ての存在を知り、微笑を降らす。


「そっか…、今日はクリスマスなんか。この月夜もサンタが持ってきてくれたんやな」


小さな小さな旅人も満足して、月に照らされるサンタのシルエットを眺めていた。







「そうそう。レオにプレゼントがあるんだ」


現実世界に帰るとすぐにイナゴはレオにあるものを渡した。
レオは部屋に帰った早々ベッドの上に転がったのだが、イナゴにあるものを渡されて、固まっている。


「何、これ?」

「まあまあ、開けてみろって」


促され、リボンのついた包みを開ける。
ガサガサいじって解いていき、あるものが姿を現す。
レオの陰険な目が本当に丸くなった。


「こ、これは…!」

「リッキーからのプレゼントだ」


レオには内緒で、イナゴはレオの好きな子であるリクからプレゼントを預かっていたのだ。
頬を赤くしたレオは、カードを眺めている。
こっそり首を伸ばしてイナゴとタンポポもカードを見た。


「『メリークリスマス。もしよければ使ってね』か。こいつー憎いねヒューヒュー」

『よかったでヤンスね。愛しの彼女からプレゼントをもらって』

「う、うるさいな!お前ら出ていけ!一人にさせてくれ!」


顔が赤いレオに怒鳴られ、イナゴたちは部屋からヒューヒュー言いながら出ていった。
二人が消えたのを確認してからレオはもらった物を抱きしめる。
そのまま布団の中に埋もれていった。


「セーターか。これ内海が作ったのかな…」


ニマニマ笑いながらレオはセーターを抱いて温かさを堪能していた。
それをこっそり眺めていたイナゴとタンポポも満足気に微笑んで、


「『メリークリスマス』」


静かに扉を閉めたのだった。



誰もが幸せになる魔術。
それは愛が膨らむほど、強度を増す。









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クリスマス企画ということで、
『ヤクルーター』と『ラフメーカーズ』の合作をしてみました。
楽しんでもらえたでしょうか?

ヤクルメンバーがサンタ役、ラフメメンバーが子ども役。
ラフメのネタバレを防ぐように頑張ってみましたが大丈夫だったでしょうか?

ちなみにラフメメンバーが出てきた順番は
前半…ブチョウ、サコツ、クモマ、チョコ
後半…チョコ(続)、ソング、トーフ、でした。


幸せお届けいたしやす。
黒い者「ヤクルーター」はあなたに幸せを配ります。


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