ザアザア雨の中での下校途中、我が家の一つ手前の交差点で傘に入れてくれていたリクと別れた。
どうせあと少し歩けば家に着くため、濡れながら帰宅する。
そのときだった。


「よ!元気にしてるか?」

「何のんびりと歩いているでヤンスか?風邪ひいちゃうでヤンスよ」


雨の重みで全体的に体が下を向いているレオの元に黒い者たちが現れたのだ。
そしてそれは言われなくても分かるあの人物ら。


「…………イナゴ、タンポポ…」


黒いシルクハットの下から見えるオレンジ髪が目立つ魔術師イナゴとぬいぐるみに憑いている悪魔タンポポだ。
2人の周りだけ雨が降っていないように、2人は濡れていなかった。
もしかするとイナゴの魔法で雨をはじいているのかもしれない。

何だかボーっとしているレオにイナゴが目を丸くする。


「どうしたんだよ?陰険な目がより陰険になってるぞ?」

「…失礼だな。疲れているだけだよ」


イナゴにそう言い返したレオに今度はタンポポが話を持ってくる。


「さっきの子、可愛かったでヤンスね」


タンポポの言葉にもちろんレオは眉を寄せ「は?」と短く返した。
すると愉快に笑うイナゴの姿が見られた。


「はっはっは!惚けるなって!オレらこの目でちゃんと見たんだからな。お前が女の子と"相合傘"してるところを」

「………み、見てたのか…」


 あんなの見られたら恥だ…!!


「そりゃあもうバッチリ見ちゃったでヤンス。男の子と女の子が一つの傘に入って愛を語り合う…何てロマンチックでヤンスか……憧れるでヤンス…」

「悪魔がそんなこというなよ」

「まあまあダンちゃんに冷たく言うなってレオくん?図星だからって話から逃げようとするんじゃないよ?」

「…!」


レオは目を見開いて、思わず頬を少しばかり紅潮させた。それを見たイナゴはニヤリと口元を歪める。


「やはりな。レオったら人間に恋しちゃったのか?あんなに人間が嫌い言ってたのに?憎いねーこいつーっ!ヒューヒュー!」

「今日は赤飯にするでヤンス!」

「な、何バカなこと言っているんだ!ふ…ふざけんな!ってか何で赤飯なんだ?」

「はっはっは!家にあった本に書いてあったんだ。この世界では善い行いがあれば赤飯を炊き、うふふあははと笑いあいながら赤飯を突付くって」

「うふふあはは、は入らないと思うけど」

「まあ、大体推理は出来たから今日は赤飯に決定だ」

「す、推理って…」

「レオの顔に全てが書いてあるでヤンスよ。可愛いでヤンスねもう〜」

「…!!」

「まあここにいたってレオが濡れるだけだからまずは家に入ろうか」


からかわれ違う意味で顔を赤くするレオであったが、イナゴに促され帰宅することを優先した。



。 。 。



「それで何だ?あの女の子に傘入れてもらって興奮のあまり思わず手を腰に回したって?」

「僕はお前みたいにスケベ心は丸出しにしていない」

「…!」

「イナゴ、図星でヤンスね」

「うっさいよダンちゃん!」


雨で濡れた体に向けてイナゴが指を鳴らし、雨に濡れる前の状態にまで戻してくれた。
その後すぐにキッチンのテーブルに腰をかけ、3人は会話をする。
イナゴが指を華麗に鳴らしテーブルの上に人数分のヤクルトを出し、約二名は素晴らしい勢いでそれを飲み干した。

対してちょびちょびとヤクルトに口をつけているレオがイナゴに目を向けた。


「僕は別にあの女のことは何も思っていない。だけどあの女からこっちに来るんだよ」

「「へえ」」


同音を流すイナゴとタンポポの顔にはあからさまに「女の方がアタックしているのか」とにやついた笑みが見えている。


「とにかく、僕は何も関係ないんだ。あのときだって僕が雨に濡れていたからあいつが傘に入れてくれただけなんだよ」

「そんな懸命に否定しなくてもいいんだぞ」

「そうでヤンスよ。ま、それが可愛いところでヤンスけど」

「もーうっさいよあんたら!!」


叫んだ勢いで席を立つレオにタンポポが身を乗り出す。


「どこに行くでヤンスか?」

「自分の部屋!もう寝る!」


そしてレオはキッチンから出て階段を駆け上がっていった。
そんな背中をイナゴはニヤニヤと眺めている。


「…何だか面白くなってきたなぁ」

「本当でヤンスね。まさかあのレオが…えへへへへへへへへへ」

「ダンちゃん、その笑い方怖いぞ」

「アタイは普段からこの笑い声でヤンスよ!」


微妙なところを突っ込まれてしまい少し憤慨の様子のタンポポ。
イナゴが笑って誤魔化し、話を持ち出す。


「なあ、ダンちゃん。オレのわがまま一つだけ聞いてくれない?」


それは頼みごとであった。
珍しいと、ぬいぐるみながらも上手く目を丸くするタンポポは「何でヤンスか?」と訊ねてる。


「実は…」



そのあと、喜んでイナゴのお願いに承諾した。




。 。 。



 学校の授業はつまらない。
 そして学校というもの自体もつまらない。

 人間という生物は、ひどくつまらない。



「レオくん、ゴメンだけどさっきの授業のノート、見せてくれない?」


学校の教室で隣の席に座っているリクが顔の前で手を合わせてお願いしてくるため、レオはその通りノートを渡してあげた。
するとやはり飛び込んできた、リクお得意の眩しい笑顔。


「ありがと」

「ノート写してなかったの?」


学級委員長を務めている彼女が、元黒猫のため勉強が不得意なレオにノートを見せろと言うなんて。
レオの問いにリクは、レオのノートに書いていることを自分のノートに写しながら答える。


「うん。ちょっとさっきの時間ポケーっとしていて」

「ふーん」


ノートを写すのに集中しているリクなため、レオは軽く応答して口を閉じた。
邪魔したらいけないと思い、目線を180度変えてみる。
右を向いていた体を左へ。
すると見たことのある顔がそこにはあった。


「…あ、稲葉くん」


それはメガネ少年ことソウタだった。
実はソウタとは隣りの席同士だったのだ。今さっき気づいたのだけども。


「あぁ……小鉄」

「そう、小鉄草太。覚えてくれてありがとう」


レオに名前を覚えてもらえていたのに少し感動しているが、声は何故か小さい。声を殺すように囁いている。
気になったので訊ねてみた。


「どうした?」

「あ、いや…」


ソウタって男は何にでも怯える奴なのか?それともレオの威圧っというのか、それが強いからなのか。
分からないけどいつも怯えた行動をとる。

戸惑いの色を顔に満遍なく出して、ソウタは小さく口を開けた。


「あれほど忠告したのに、稲葉くんは内海さんと一緒なんだなと思って」

「…ああ」


前日、ソウタに「内海に近づくと甲斐に目を付けられる」と忠告されていたレオであったが、全く忘れていた。
言われて思い出した。


「そういえばそうだった」

「あ、やっぱり忘れてた?」


ここで苦笑を見せるソウタ。一応笑えるようだ。
それから言う。


「だけどちゃんと周りの目を見たほうがいいよ。たぶんどこかで甲斐くんが見張っていると思うから」

「はあ?何だそれ」


普通の大きさの声であるレオに対してソウタは怖ろしいほどの小声。しかもレオにしか聞こえないほどの音量だ。お見事。


「甲斐くんは内海さんと一緒にいる男を片っ端から狙っているんだよ。僕もよくそれのターゲットにされたんだよ」

「本当に?」

「うん。だから稲葉くんはとくに気をつけて」

「あ、うん」


ソウタは心配性なのか、もう一度念を押す。


「周りをよく見て行動して!」


それからソウタは次の授業の準備に取り掛かった。

目線を反らされてしまいレオはまたリクの方に目を向けるためにイスの上で体を半回転させる。
今度は周りを見渡しながらだ。

大きく目を動かして教室中を眺める。
クラスの人たちが談笑しあっていたり、黒板を消したり、一つの机に複数の人間が集まったりしている。
そして見渡す限り甲斐トオルの姿は見えなかった。
もしかすると隠れてこちらを睨んでいるのかもしれない。

やがてリクのほうに体を向けた。
丁度そのときリクもノートを写し終わったらしく、ノートを閉じていた。
レオの視線に気づいてリクは飛びっきりの笑顔を向けてレオのノートを返す。


「ありがとう。おかげで助かっちゃった」

「あ、うん」

「レオくんの字って読みやすいね。綺麗だから楽に写せたよ」


リクに褒められて驚きの拍子で変な声を漏らしてしまった。


「へぁ?」

「男の子って何だか字が雑なイメージがあったんだけどレオくんは全然そんなことないね。驚いちゃった」


 いや、こっちが驚いた。
 僕は黒猫だったし字の勉強はしたことない。
 イナゴからこの年齢の平均知能を特別にもらっただけであって、家で勉強も何もしていないのに。

 あ、もしかするとこの字もイナゴの魔法によって綺麗に仕立てられたものなのかもしれない。
 本当の僕の字ではないかも。


 そう思ったら、何故か少しだけ悲しくなった。


「僕は対して字は上手くないよ」

「ううん。上手い上手い」


 どうしてこの女はこんな僕と一緒にいて楽しく笑うのだろう?
 本当によくわからない女だ。

 本当ならば人間に復讐をしなければならないのに
 最近ではこの女には全く殺意を持つことが出来なくなっている。

 何?笑顔の力?

 それとも、イナゴたちが言うように本当に……?


「僕より上手い人はたくさんいるだろ?」

「さあ?分からない………ん?」


先ほどまでずっと笑みを溢していたリクであったが突然キョトンとした表情に作り変えていた。
リクの目腺はレオを通り越し遠くへ向けられている。


「どうした?内海」


気になったので訊ねてみる。
するとリクは慌てて目線をレオに戻す。


「な、なんでもないよ」


そして笑って誤魔化し次の話題を振ってきた。

リクの見ていたものを見てみたかったが、隙を見せずに言葉を出してくるため、後ろを振り向くことが出来なかった。
しかしリクはその最中でもときどき遠くを眺めるのだ。

後ろに何があるのか、気になった。
確かに後ろには人はいる。まず近くにはソウタがいるし。だけどリクのあの表情を見たら分かる。


リクは、物珍しいものを見たと言わんばかりに目を丸く点にしていたのだから。



一体僕の背後に何があるのだろう?













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(04/12/02)





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