人は皆、平等に嘘をつく。


−−.ウソツキの村


何も映らない青に染まった空が照り、地上のウミガメ号が光を反射しながら揺れる。
シートに覆われた車はあたりの変化を知らせず、自由気ままに動いていく。
そのため、車を引いている豚があげる鳴き声だけを頼りに6人は旅をするしか他が無かった。

早速ピンク色の豚エリザベスの可愛らしい鳴き声を聞いて、サコツが俊敏に立ち上がった。


「エリザベスが俺に愛を求めてるぜ!」

「違うだろ?!敵わぬ夢など見るな!」

「次の村が見えてきたみたいよ」


ただでさえ狭い敷地内なのに急にサコツが立つものだからウミガメ号が傾いてしまった。
しかし全員慣れたもので冷静に体を傾けて対処するだけで他には何も支障は無かった。

エリザベスの声を聞き取って解読するチョコの隣、クモマの目が星を降らした。


「村が見えたのかい?今度はどんな村なのか楽しみだね」

「そやな。あんま"ハナ"に侵されとらん村やとええんやけど」


今世界を支配しつつある"ハナ"はどの村にも生えているような状態だけれど、症状は様々であるために村によって差は大きく異なる。
"ハナ"が永いこと放置されてあった村では村人に異変が生じたりする。
対して全く影響の出ていない村もある。

「"ハナ"の威力が強いほどな消すのが厄介になるんやで!」
と、トーフはよく言っているのだが、メンバーはそれほどまでに"ハナ"を厄介だと思ったことはない。
なぜなら"ハナ"自体は笑いの雫一滴であっという間に封印することが出来るのだから。
それなのにトーフは頑固に"ハナ"が厄介だと言う。
彼が言う「厄介」とは何なのか。
それは、"ハナ"によって異常な症状が出来しまっている村人のことを指している。

"ハナ"に侵された村人は己を忘れ、狂ったように一転集中する。
何に一転集中するのかは、村によって様々だ。
だからこそ、その様々な集中を切ることが難しいのである。
「難しい」が「厄介」の二文字に繋がる。


今から向かう村が異常のない平穏な村であることを願いながら、メンバーはゆっくりと近づいていく。
その都度に全員の体が、地面を弾む車とともにリズムに乗って揺れた。




+ + +




やがて、車が止まったことで村の中に入ったことを知った。
全員が車から飛び降りて地面の感触を掴む。
そして空に向かって拳を向け、大きく伸びをして車内で溜まった疲れを解す。


「うーんいい天気ー!」


空はまるで波が立っていない静かな海だ。
それほどまでにゆがみの無い青。
こんなにも良い天気、久々かもしれない。
空気も澄んでいて非常に気持ちが良い。

美しい空が全員の拳を包み込む。
そんな中でトーフだけが周りの異常を確かめていた。
目の裏で、この村の"笑い"の量を計る。


「……こん村は」


ひそかに全員分の視線を浴びながら、トーフは言った。


「そこまで"笑い"が取られとらんみたいやな」


そう断言するとトーフはようやくここで伸びをして、空に拳を入れた。
トーフの言葉を聞いて全員がどっと安堵をつく。


「それじゃあこの村の"ハナ"は厄介じゃないんだね」

「なら気にしなくてもぜんぜん大丈夫じゃねーか!よっしゃー遊ぼうぜ!」

「賛成ー!お買い物とかしようよ!」

「アフロ革命も起こしてみたいわね」

「もうすでにお前の頭が革命を起こしてるだろ!他に影響を及ぼすな!環境破壊に繋がる!」


太陽がサンサンと照っているこの天気。
しかも問題の"ハナ"がそこまで危険ではないと知ったため、全員の気分が一気に晴れていた。
久々に村に着いたということも兼ねて全員が好き勝手に行動を起こそうと体を弾ませている。
ブチョウなんかアフロを脇から湧かすほどにはっちゃけている。


「それははっちゃけすぎだろ!むしろ破廉恥だろ?!」


天気が良いため自然が美しく見えるこの風景に、メンバー以外の色が入ってきた。
そのことに気づいてツッコミをあげたソングが顔を動かす。
他のメンバーも同じように顔を動かして、視線をそこに集めた。

人が、いる。
村人か?


「お、住民っぽいぜー!話しかけてみようぜ!」

「そうだねー!この村について聞いてみようー!」


行動力のあるサコツとチョコは、二人で話を成立すると颯爽とその影まで走っていった。
確かにこの村がどういうところか知らないため、住民に尋ねてみることも必要である。
走っていく二人に続いて他のメンバーも足を伸ばした。

影は二つだ。
男と女の影。年齢層が近いのできっとカップルであろう。
もしかしたらこの風景を元に愛らしい会話を交わしているのかもしれない。
そうだとしたら、このメンバーの行動は邪魔に等しいものになる。
けれども気にせず近寄るメンバーはある意味たくましい。


やがて会話の内容が聞こえてきた。
しかし、信じられない内容に全員が耳を疑った。

カップルが空を仰いで言い合っている。


「本当に天気の悪い日ね」

「まずい空気を吸っていると嘔吐してしまいそうだ」


一瞬にして気持ちが冷める。
カップルの言葉が耳に入ってきて、メンバーの足は自然に緩んでいた。

こんなにも良い天気の下で、何を言っているのかこのカップルは…。

カップルは腕を組んでべったりとくっついているけれど、内容はめちゃくちゃだ。


「あなた、大嫌いよ」

「おれもだよ」

「もう一生離れたい」

「くさいし離れてくれよ。ああ君はとってもブサイクだ。本当に大嫌いだよ」


全員が唖然と口を開けた。
ひどい、ひどい内容だ。
何を言い合っているのだこのカップルは。

聞いていて非常に居た堪れない。
そういうことで第三者だというのにも関わらず、クモマが口を出していた。


「どうしてそんなこと言い合っているんだい?」


クモマの突然の問いかけに、男女は驚きの拍子に抱き合った。
先ほどあんなにも「離れたい」と言っていたのに、このべったりは何だこの野郎。

クモマを見て女の方が目を見開いた。


「あなた、すっごい足長いわね!」


続いて男も言う。


「いまどき珍しい。こんな足長、はじめてみた」


カップルの目はクモマの足を凝視している。
どう見たって短い足を、彼らは長いっと言って驚いている。

いや、驚きたいのはこちらの方だ。
メンバー全員が否定の声をあげた。


「お前どこを見てんだ?クモマほど足の短い奴はいないぜ!」

「そやでークモマの足の短さはぴか一なんやで!」

「世界中探してもこんな短足はいないよーきっと!」

「短足こそたぬ〜の存在意義よ」


仲間が必死に対抗している。
全員が一致団結して、口調を合わせて反論をおこなっている。
それなのに、何故だろう。非常に悲しくなるクモマだった。

しかしカップルは首を強く振ってクモマの足について語る。


「この人のどこが短足ぅ?どう見たって長いじゃないの!」

「おれの足はこんなにも短いのにこの人は長い!驚いてしまうよ」


男が足を見比べてから、鼻で笑う。
鼻で笑う理由がよく分からない。
いや、その前に男の言っている意味がよく分からない。

クモマの足と男の足。
どこから見ても男の方が断然に足が長いのだが。

クモマが一人微妙な感情に頭がやられている間に、カップルの女はトーフを見て絶叫していた。


「きゃー!めっちゃブサイクー!」


突然掛けられた言葉に全員が失言する。
今までトーフを見てきた者は全て「可愛い」の言葉をかけるというのに。
初めて掛けられた言葉にトーフも思わず憤慨だ。


「失礼やな!ワイがブサイクやて?!可愛ええ言われるんもムカつくけどなーブサイクってはっきり言われるとホンマ腹立つわ!あんたは礼儀ちゅうもんを知らんのかい!」

「めっちゃブサイクー」

「ぎゃああ抱きついてくんなやー!」


ブサイクと言ってトーフを貶した女だが、トーフに抱きついて感情を噛み締めている。
その表情は非常に悦っていた。

このカップル、めちゃくちゃだ。
笑顔なのに笑顔と裏腹の言葉を出している。
一体これは何なのだ?

答えは、男女がソングを見たときの感想により、掴むことができた。
ソングに指を差して、カップルは言った。


「「あ、ひどく非凡」」

「「そうか!この村は言動があべこべになってるのか!」」

「何だこの居た堪れない気持ちは!」


そう、この村は考えと言葉が反対になってしまっているのだ。
なので先ほどまでカップルが言っていた言葉は全て逆の意味を持っていたのである。

つまり、クモマのことを「短足」と言い、トーフのことを「可愛い」と言って騒いでいたのだ。


この現実を知り、クモマはガックシと膝を突いた。


「そうか…僕は………足長か…」


この村の正体が、あべこべ。
言い換えれば、嘘をついている、に等しい。

ここで声を出すときは意味を逆さにして言わなければ相手に伝わらない。
そういうことでクモマは自分のことを「足長」と言って涙を呑んだ。

「大嫌い」と言い合いながら抱き合うカップルを背景に、メンバーは恐る恐る村の中央に体を向ける。


「非凡、あんたは最高にヘタレてないわね」

「お前は騒いでろクソ!」


言葉というものは、難しい。













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最後のブチョウとソングの会話は

「凡、あんたは最高にヘタレてるわね」
「お前は黙ってろクソ!」

です。逆さって難しい!だけれど笑えます(笑

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