―――― ある日のお出かけ


「買い物に行こうよソング!」


俺の部屋をノックするなり、メロディが戯言を吐いてくる。
暫くは無視していたのだが、あまりにもヒドイ騒音だったから、ついドアを開けてしまった。
するとすぐに飛び込んでくるのは、メロディの笑顔だ。


「ねえ、ソング。街に買い物に行こうよ」

「はあ?1人で行けよ」

「え〜私はソングと一緒に行きたいの!」

「…めんどうくせえな…」

「どうせ部屋に篭って本に没頭してたんでしょ?ソングって暇なら必ずハサミの手入れか読書だもん」

「…………」


図星のため、言い返せなかった。


「ね、お願い!一緒に買い物行こうよ、ね?」


わざと甘えた声でお願いしてくるメロディは、手を垂直に立ててお願いを要求してくる。
ここまで言われてはさすがに断りにくい。
だけど、俺はまだ読書の途中だったのだが…。


「キュウリも買ってあげるから」

「わかった、ついていこう」

「え?いいの?!ってか最初からその手を使えばよかった!」


キュウリに誘われ…違った、メロディに誘われて俺は面倒くさかったけど、街へ買い物にいくことになった。


「それじゃ行くぞ」

「あ、ちょっと待ってよ!」

「………何してんだ?」


さっさと行ってしまおうと思いメロディを促したが、メロディは鏡に向かって自分と睨めっこをしていた。
薄桃色の口紅を塗ったりしていて、…驚いた。
そして綺麗な唇をこちらに向けてメロディはいつもの笑みを溢してた。


「えへへ。おしゃれ」


可愛く笑って言うメロディに俺はついつい突っ込んでしまう。


「しなくてもいいじゃねえか」

「だって街にお出掛けだよ?」

「でもいつもお前はおしゃれしてねえし、酷いときには草履はいて行ってるじゃねえか」

「え?!見てたの?!」

「……たまたまだ」


そう、たまたまだ。
外を眺めていたら、メロディが買い物に行くのが見えたからずっと眺めていたんだ。
…本当にたまたまだぞ。

そしてまた話を戻す。


「おしゃれしてないでさっさと行くぞ」

「だから待ってよー」

「んなもんしなくてもいいじゃねえか」


そんなのしなくても、お前は十分……なんでもない。


「いいの!私はしたいの!」


メロディは頬を紅潮させながら言いやがった。


「ソングとのお出掛けだもん!久々だから気合いれてるの!悪い?」


………んだよ。それでわざわざおしゃれなんかしてるのか?わからねえなぁ。
俺はそう思ったんだが、どんどんおしゃれしていくメロディの姿を見ていたら何も言えなくなっていた。

…おしゃれをすると、メロディがより可愛く……なんでもない…!



やがて、おしゃれのすんだメロディ。
だけど服装はいつもなじみのスポーティ。
メロディはあまり色っぽいファッションが好きではないらしい。
でも俺は色っぽいのも…ってなんでもない。


「それじゃあ行こうかソング!」

「ああ」

「…ねえ、ソングはその格好でいいの?」

「は?」

「……ジャージじゃん?」

「何だ?作業着がいいのか?」

「いや?!普通の服とか着ようよ」

「俺はそういうのは苦手なんだ」

「ずべこべ言わずに着替えてきなさいって!」

「はあ?いいじゃねえか別に」

「ソングは顔がいいんだからおしゃれすればもっとかっこよくなるって!」

「いや、んなこといわれても」

「ほらほら!着替えた着替えたー」


メロディに流され、俺も着替えるはめになってしまった。
互いの部屋には入らないようにしているため、メロディは俺を部屋に押し込むまでしかしなかったが、ちゃんと着替えないと怒られそうだったから着替えた。


「よし、行くぞ」

「……Tシャツにジーパンかぁ。なんか物足りないけど…ま、いいか!」

「そうか…」

「ねえ、アクセサリーとかないわけ?」

「んなもん持っていない」

「そう…」


ファッションには興味がないからアクセサリーは持っていない。
あるとすれば、そう、空色クリスタルのイヤリングぐらいだ。


「それじゃあ行こうー!」

「…仕方ないか…」


そして、張り切りながら街へ向かうメロディの背中を見ながら、面倒くさかったが俺もついていった。






「見てよソング!キュウリが2割引だよ」

「大量に詰め込め。遠慮はいらない」

「分かってる!これで何日かはメニューに困らないね」

「毎日がキュウリ三昧…何て素敵なんだ」

「珍しい!ソングの目が輝いちゃってる!」


街に着いて早々キュウリを手に入れることが出来、俺は思わず笑顔になっていた。


「よかった。ついてきてよかった」

「私もソングの貴重な顔が見れてちょっと得しちゃった」

「よし、次は何を買うんだ?」

「んーお肉を買おうかな」

「はあ?肉かよ」

「キュウリだけじゃお父さんたちがすねちゃうよ」

「……そっか、それは仕方ないか。だけど俺は肉いらないからな」

「うーん。お肉は美味しいと思うんだけど…。私は好きだよ?」

「肉ばかり食ってるから肉がつくんだろが」

「きゃーやめてーへんたーい!」


メロディの頬を抓んでからかうのだが、メロディは何故か嬉しそうに反応する。


「お前、本当に肉ついていないか?頬が柔らかいぞ」

「ちょ…こんな人前で言わなくたっていいじゃないの!」


ちょっと遊びすぎたようだ。メロディは口先尖らせて怒っている。


「も〜ソングのバカー。これで肉が伸びたらどうするのよ」

「面白いじゃねえか」

「面白くないよ!こんなところ伸びたって色気が出ないよー!肉がついてほしいといったらやっぱり胸」

「お前人前で言うんじゃねーよ?!」

「あはは。ソング顔が真っ赤ー!」


メロディが腹を抱えて笑ってしまい立ち止まったから通行の邪魔にならないように腕を引いて肉屋に向かう。
ひーひー笑いを堪えているようだ。俺の顔見てそんなに笑うなよ。恥ずかしくなる…。

そんなメロディを俺は肉屋まで連れて行った。
場所が肉屋だと気づくとメロディは俺に軽く礼を言って、肉を買おうと店員に声を掛ける。


「すみません、お肉300グラムください」

「はいよーお嬢さん。今日も新鮮な肉ばかりだよー」

「そりゃ新鮮じゃなければ商売できねえだろ」

「あれ、お嬢さん、後ろの彼はもしかして…」


俺の姿を見るなり店員は小指を立てメロディに「これ?」と訊ねる。
それに首を同時に振る俺とメロディ。


「「んなはずない!」」

「なーんだ。ここまで来るにも彼に腕引っ張ってもらっていたからてっきりできてるのかと思っちゃったよー」

「で、できてるって何がぁ?!」


メロディなんか気が動転している。思わず大声になっているメロディを俺が止めた。


「とにかく早く肉をくれ。あとあまり騒ぎを大きくするな」

「あっはっはっは。すまんねー彼氏」

「彼氏って言うな!?」


俺も俺で気が動転している。
まだそんな仲じゃねえんだよ、メロディとは。

いつの日かちゃんとした関係になりたいとは思うのだが、体は実行してくれない。
必ず拒否するんだ。俺はメロディのことこんなにも想っているのに…。
メロディは俺のことをどう想っているのだろうか。

あんな必死に首を振っているんだ。きっと俺のことなんかどうも思っていないんだろう。


「まいどー」


これ以上恥をかきたくなかったため俺は急いでメロディの腕を引いてこの肉屋から離れていった。
メロディは買い物かごに肉を入れている最中で少しおどおどしている。
だけどそんな姿があどけなくて可愛らしい…ってなんでもない。


「もーソングったら!そんなに強く腕引かないでよ」


肉を仕舞い終わるとすぐにメロディが頬を膨らましてきた。
俺はその頬を抓んで表情を崩させる。


「怒るなメロディ。お前だって恥かきたくねえだろ?」

「…うー」

「うーって」


変な応答するから思わず笑いが込みあがってきた。メロディが俺に潰されている頬をまた膨らませる。


「何よ!笑わなくたっていいじゃないのー…………あ…」


このまま憤慨するかと思ったがメロディは途中で気の抜ける声を上げた。
気になりメロディを見てみたら、じっとあるところを一点集中していた。

それは輝きの眩しい銀の塊。


「………………」


メロディは無言でそれを見つめていた。
そこはアクセサリー屋。
あるものといえば無論ネックレスやイヤリングそして指輪。

これらといえばさすがに自分らの持参している金でも買うことが出来ない高価なものだ。
さすがに手を出すことが出来ない。


だけどメロディはずっと見ているのだ。指輪を。


「おい、メロディ」


このまま指輪に気を吸い取られそうなメロディを俺は声で引き戻す。
するとメロディはハッと我に返った。すぐに俺に顔を向けて、パチクリ瞬きをしている。


「…あ、ゴメン」

「どうした?行くぞ」

「あ、うん…」


メロディの頬を掴んだ手をくいっと引いて、メロディを顔ごと連れて行く。
乱暴にされたからメロディはまた俺に怒鳴るが、そのときも様子がおかしかった。
何度もアクセサリー屋に顔を向けるのだ。だけど俺に置いて行かれたくないらしくいそいそと後をついていってた。

そして俺もそこまで鈍感ではない。
俺はあのメロディの行動の意味をすぐに理解することが出来た。

メロディは、指輪がほしいのだ。いや、それぐらい誰だって分かると思うが。

しかしあんな高価なもの。そう簡単には手に入らないだろう。
そのときふと頭にあることが過ぎった。
そういえば……今から丁度一ヵ月後はメロディの誕生日だ。
ならばいい機会だ。メロディにあの指輪を買ってやろう。

チラッとメロディに目線を落とすとメロディの行動は変わっていなかった。
指輪を名残惜しく見ている。


高価なものだし、俺も買えるか分からないけど、メロディのためだ。そしていい機会だ。
指輪といえば……婚約指輪…。
このときに俺の想いを伝えよう。


今までずっとお前のことが、好きだった、て指輪を渡して、メロディの答えを待とう。

結果を知ることは本当に怖いことだ。
元々メロディとは許婚だし結婚しなくちゃならないが、だけどメロディはこんな俺のこと想ってくれているか……。

不安でたまらない。


だけど、ぐずぐずしていたらいつまでたってもこの関係のままだ。
いい加減、気持ちを伝えてもいいかもしれない。

たぶん今の俺の持ち金では指輪は変えないと思う。
だからあいつの誕生日まで粘って金を溜めて、その日に買いに行こう。



メロディの笑顔を見たいし、メロディの笑顔を独り占めしたいから
俺は頑張ってみようと思う。いや頑張る。




メロディに俺の気持ちが届くように、不器用な俺だけど精一杯やってみよう。




この小さな薬指が銀色に染まることを願って。












------------------------------------------------

「エミの村」ソング篇の一ヶ月前の話。
ってかラブラブしすぎ!

だけどメロディの誕生日の日は……………

------------------------------------------------

inserted by FC2 system