―――― ある理容美容店の物語



「すみません。髪の毛カットしてください」

「あーはいはい。ちょっと待っててくださいねー」

「あ、特に急いでいないんで…」

「ソングー。断髪お願いー」

「ちょっと待ってろ。今、こっちの作業が…」

「すみません、お客様。ちょっと理容の方は時間が掛かるみたいです」

「あ、そうですか。それならまた今度に」

「いやいや、せっかくお越しいただいたのにそれは悪いですよ。
うちのソングが手際よく作業していないからこんなことになってるわけで…全てソングの責任です」

「てめえ喧嘩売ってるのか?!」

「突っ込んでいる暇あるならさっさとそっちの作業済ませちゃってよ!」

「…クソ…!」

「お客様、すみません。あと少しで作業が終わると思うので、
予約のところにお名前を書いてこちらのイスに腰をかけていてください」

「あ、はい」


「ソング、終わった?」

「…ちょっと待て。……こっちは今真剣勝負なんだ………!」

「あ、顔剃り中?」

「これ失敗したら店中が血まみれになってしまう…」

「店員さん、怖いこといわないでくださいよ」

「こら!喋るな客!てめえが喋ると顔が動いて切れるだろが!そしたらこの店中が汚くなるだろ!」

「店の問題ですか?!」

「喋るな!死なすぞ!」

「ソングったらー相手はお客様よ。落ち着いて…」

「落ち着けるか、クソ!」


「お客様。予約のところに名前お書きになりましたか?それでは少々お待ちください」

「はい。…それにしても賑やかですねこの店は」

「でしょ?これが売りなんですようちの店」

「いいことですね。雰囲気がいいと思いますよ」

「あ、そうですか?ありがとうございます」

「ところで、おいくつですか?何か僕と同い年ぐらいに見えるけど…」

「私は今年で15歳です」

「あ、僕と同じだ。僕も15なんです」

「そうなんですか?もうちょっと若く見えましたよ」

「それ、子どもっぽいってことですか…」

「あ!いや!そういうことでは…!」

「確かに僕は背も低いし短足だから年下に見られがちだけど…」

「す、すみませんお客様!」

「いや、いいですよ」

「ところでお客様は何のお仕事をなされているんですか?」

「僕は代々大工の家系なので、大工をしています」

「そうなんですか!カッコいいですね!うちのソングは全くの非力で役に立たないんですよ」

「うっせーよ!!」

「店員さん、ちょっと顔が切れそうになりました!」

「切れろ!」

「そんな?!」

「………僕、あの人に髪切ってもらうんですよね…」

「そうですよ」

「…ちょっと怖いですね…」

「大丈夫ですよ。ソングは確かにあんなだけど、腕は確かです。うちの自慢ですよ」

「そうなんですか?ところで彼とはどんな関係で?」

「ただの従業員関係ですよ」

「…そうですか。何だか仲がよく見えて…これからも頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


「おい、終わったぞ」

「店員さん、ドキドキ体験ありがとう。気に入ったよ。また来ます」

「何だそれ?!なに勝手に気に入ってんだ!もう二度と来るな!!面白半分できたら今度こそ顔落とすぞ!」


「ソング、次のお客様よ」

「おう、………何だ。俺は動物は扱っていないぞ」

「え?」

「タヌキは専門外だ」

「誰がタヌキ?!僕はタヌキじゃないよ!」

「ごゆっくり、どうぞ」












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ソングとメロディの店に客として訪れたクモマの話(笑
奴らが15歳の頃…ということは約1年ぐらい前の話のようです。

のほほんとしていて微笑ましい日常の一欠けらですね。

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