キモイボール、結局誰にも受け取ってもらえず、地面に転がっている。
『Q』も遠くに離れてボールから逃げていた。
ずっと姿を見ていないとそれが消えたときに妙な不安感と恐怖感に陥られる。
まるで家庭内害虫が出たときのように、必死にボールに目を向ける。
他の闇たちもそれと同じで、離れた場所に避難して眺めることで時を過ごしていた。

誰もボールを取らないために暫くの間無音の空間が続く。
それでは困るので、審判の『R』が手を打つことで魔術を発動しボールを消毒した。
これにより、全員の心から恐怖感が消えたのであった。


R「菌を排除したのでもう大丈夫でアール」


ボールを感覚的に汚した『U』に向けて何気に失礼なことを言う『R』であったが、『R』の行動は闇たちにとってみれば正義のおこないであった。
全部の闇がひそかに心の中で『R』を称えていた。

キモイ菌が消えたということでドッジボール再開。
線ぎりぎりのところで身を固めていた闇たちも全員それぞれの位置につく。
ボールは、外野の『Q』が持っている。


Q「次は外さねえぞこの野郎」


ボールを鋭く投げて、敵を撃ち落す。
全員が素早く身を引いてボールから逃げていく。
しかしその中で非常識に前に出るものがいた。


M「ぎゃーっしゃっしゃっしゃ!当てちゃってー!俺様を甚振ってー!」


マゾヒストの『M』だ。
奴の存在を思い出して、仲間の闇たちが不覚にも目を瞑った。
しまった。マゾヒストの『M』ならば確実に当たりに行ってしまう。
奴は傷つくことが大好きなのだから。このような機会を逃すはずが無い。
そのため全員が『M』のことを諦めていた。
けれども、


S「お前を甚振るのは俺様だけで十分だ!!」


『M』の相方『S』がボールを受け止めた。
空気上の闇から作ったバットでボールの動きを止めたのである。
そのため誰も被害を食らうことは無かった。
突然の『S』の登場が『M』を救うことになったが、無論『M』は腑に落ちていなかった。
口先を尖らせて『S』に不満を告げる。


M「な、何勝手なことしてんだよS!お前は俺様の邪魔をするような女だったのか!」

S「うっさい!今の状況を考えろM!お前一人の身勝手な行動で全員に迷惑がかかるんだ!」


逆に『S』も目を尖らせて、心境を語った。


S「そして、もしこのゲームに負けたとしたら…、Bに腹を殴られるのが目に見えるだろ!」


しかし『S』の主張を聞いて、『M』はおろか全ての闇がガクッと肩を落とした。
なんだ、仲間を助けるためにおこなった行為ではなかったのか。さすがサディスト。
自分のことしか考えない奴である。

そのため『M』は表情を濁した。


M「え?!それが怖いからわざわざ俺様を止めたのか?!」

S「Bの鉄拳を喰らったら俺様は絶対に泣く!自信がある!」

M「あんなに気持ちいいものを浴びて何故泣きたくなるんだ?お前のことがよくわからないよ!」

S「俺様はお前のことがよくわからないよ!痛いものは痛い、だから泣けるんだよバカ!」

M「え?何?バカ?俺様のことがバカだって?嬉しいなーもっと甚振ってー」

B「あんたらうるさいわよ!黙りなさいっ!」

J「ジェっ……何故オレっちにジェイ…?」


喧しい『S』と『M』を静めるために『B』は隣にいた『J』の腹を殴って、間接的に黙らせた。
『S』はまるで自分が殴られたかのように苦い表情を作って腹を押さえている。
対して『M』は殴られた『J』を羨ましそうに眺めていた。

やがて。
ボールを受け止めていた『S』がようやく動き出した。
審判である『R』に向けて一応確認を取ってみる。


S「おいR!俺様の"これ"は魔術じゃないから反則にはならないよな?」


『S』の拳には、先ほどボールを受け止めるために咄嗟に取り寄せたバットがある。
『R』は頷いて答えた。


R「Sの場合はただ武器を取り寄せているだけであるから違反ではないでアール」


しかし頷いた理由としては、一つ言い間違えれば『S』の機嫌をそこねてしまい頭を斬られ兼ねないという部分であった。
無事に危険から逃げることができ、『R』は試合を続行するホイッスルを鳴らすことに成功した。

ホイッスルとともに鳴り響くのは爆発音。
『S』が宙に置いたボールをバットで勢いよく打って空気を泣かした。
ボールは時速を持って飛んでいく。
このままでは『G』が犠牲になるところだったが奴は体をそらすことでまたもやボールから逃げ切りやがった。
よって『G』の背後にいた『K』が悲鳴を上げることになる。


K「きゃー!こんなのありですかー?!」


あまりにも速い時の流れに『K』は対処することが出来なかった。
無念なことに『K』は逃げきることが出来ず、座り込むことに。
『L』が手を伸ばして『K』を助けようとしていたのだけれど『S』が打ったボールの方が速かったため間に合わなかったのである。
『K』は反射神経で体を傾けていたため、深くボールを喰らわなかった。不幸中の幸いである。

ボールは『K』にぶつかったことで威力を落とし、陣の中を転がっていく。
そのボールを取った『L』が彼女を宥めに歩く。


L「Kちゃん、大丈夫か?」

K「ううう…L様ぁ……」


目をうるうる潤して愛しの相手を見つめる『K』。
相手を落とし入れる為に作った表情だ。こんな場面でも『L』のことを思いやる気持ちを忘れない『K』、さすがである。
そんなことになっているとは知らずに『L』は『K』を心配し続けた。
そして、『K』の前でエビ反りになった『G』に不満をぶつける。


L「全く、後ろに女の子がいるんだから避けずに砕けろよG」

G「砕けてたまるかぐおおお!」


『G』が吼えているところを無視して『L』は『K』を抱き起こした。
目がハートになっている『K』だったけれど、『G』を見た刹那、態度がガラッと変わった。


K「死ねおっさん」

G「おっさんだとお…!ぐおおおおお!」


屈辱的な言葉を吐かれ、『G』はそこはかとなく怒りを拳に込めた。
しかし、『L』に軽く笑って流された上に『K』には何事も無かったかのように平然と外野へ行かれてしまう。
より苛立ったので『G』の怒りはボールに溜められるのであった。

『L』からボールを奪い取って『G』が勢いよく苛立ちを放った。


G「滅びろ!!」


やはり『G』も『B』に狙いを定めていた。
けれども、相手を間違えている。彼女こそ最強であった。


B「あんたが滅びなさいっ!」


拳は拳で返る。
『G』が怒りを込めて放ったボールは見事『B』の拳によって進路を変えた。
倍になって回転を強めたボールは『G』を狙って飛んでいくが、奴は何気に四天王の一人なのでうまく避けきった。体を反らして。


L「お前その避け方大好きだな?!」


『L』が微妙なところに突っ込んでいる間にボールは別の闇に狙いを定めていた。
それは、何気に『L』たちのチームにいた『H』。


H「んふ。アタシのとこにくるなんて、どの子も可愛いわね」


しかし、ボールはまた進路を変えることになった。
恐怖をぶつけられたのである。


L「さすがH!敵わないな!」


急に進路を変えたボールは陣を越して外野に向かっていっている。
『H』から逃げるために勢いを付けたボール、もう誰の手でも止められない。

しかし、ここで、大変なことを思い出した。


L「しまった!外野にはUがいたんだった?!」


全員が目を覚まして外野を見やった。
すると、そこには自分の元へ跳んでくるボールに手を伸ばしている『U』の姿があった。
その姿が非常にキモイ。


B「誰かあのキモイのを止めなさいっ!」

Q「自分のチームメイトだろ!てめえらが止めろこの野郎!」

J「む、無理だジェイ!オレっちたちだって震えて動けないジェイ!」

V「はあ?誰か止めろヨ!また消毒しなくちゃならないじゃんかヨ!」


『U』のキモさを見て気が動転している。
そして今、この場がスローモーションの膜に包まれた。
ボールがゆっくりと『U』の胸に飛び込んでいく。
これはきっと『U』が仕掛けた魔術なのだろう。
相手に不利なことをしなければ魔術を使っても違反にならないため『R』も黙っている。
いや、『U』のキモさに何もいえなくなっているのかもしれないが。

ボールがゆっくりと『U』の元まで飛んでいく。
それを止めに走ったのは、『U』の相手チームの中で一番行動力がある『L』であった。


L「取らせるか!」


ボールはゆっくりなのですぐに手を伸ばせばボールを奪うことが出来るであろう。
しかし、『U』に近づく都度勇気が無くなっていった。
キモさに押しつぶされてしまうのである。

そのため、無念なことにボールは『U』の手に乗っかった。
よってボールは、キモイボールに再び退化してしまった。可哀想なボール、いや、キモイボール。

『U』は目の前にいる『L』を仕留める為にキモイボールを投げた。


U「クスクス、ボールに食いつくとは。そちは醜いぞよ」

L「醜いのはお前の存在だろ!」


キモイボール急接近。
非常に危険な事態に陥られていたため『L』は非常に失礼な言葉を言って体を反らした。
急な攻撃だったのでこのようにしか避けられなかったのである。

先ほどまで『G』が珍プレイに使っていた形を実演して、無事に『L』はキモイボールから避けることが出来た。
キモイボールがまた向かいの外野まで飛んでいっている間に『L』は『G』に目を向けた。
その表情には安堵が込められていた。


L「お前のおかげで命拾いしたよ」


これは、本人自体は何もしていないけれど、『G』の避け方をしたために助かった命だ。
『L』は先ほど『G』を馬鹿にしたことに反省し、笑顔に安らぎを込めて礼を告げた。
対して『G』は目の辺りを顰めて鼻で笑うのみ。


G「ふん。貴様なんぞ消えればよかったのだ」


『L』の笑顔に一瞬戸惑いを見せたけれど、すぐに表情で誤魔化した。

仲が悪くても同じチームになったからには、嫌でも助け合わなければならない。
これがゲームの規則でもある。




そして、可哀想なことに
キモイボールは『R』により、再び除菌になった。






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『G』のエビ反りが大好きです。
某山吹のとこのSOAで実際に『G』がしていたためにこの場で何度もすることに(笑

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