ある日のこと、
闇たちの父に値する男が真剣な面影で闇の支配者を呼びだした。
E「R、頼みがあるのだ」
R「何でアール」
E「最近、わたしは退屈だ。何か面白いことはないかと思っていた」
R「然様でアールか」
E「そこでだ。わたしはいい事を思いついた」
R「…いい事、でアールか?」
E「そうだ。早速訊ねるが、次の新月の刻、闇たちをここに呼べないだろうか?」
R「全ての闇でアールか?…暫しお待ち願うでアール……」
『E』に訊ねられて『R』は手元のレポート用紙をめくり始めた。
このレポートには闇の予定が載っている。
過保護主義者の『R』は闇の動きが毎日気になっているためにこのようなレポートを作成していたようだ。
闇一人一人の予定を確認してから『R』は顔を上げ、『E』に結果を報告した。
R「今のところは何もないでアール」
その言葉を待っていたのか、『E』の表情が和らいだ。
E「本当か?それなら好都合だ」
R「何かするのでアールか?」
和らぐ表情が気になって『R』は首を傾げた。
すると、『E』の口角が不敵に歪みを帯びた。
E「実に楽しいことだよ」
『E』の表情を言い換えれば
何かを企んでいる悪戯っ子の表情にも見えた。
+ + +
今夜は、月が燈らない新月の刻。
その中で騒ぐ複数の闇たち。
これこそが『E』が望んでいた光景であった。
R「…まさか意外にも闇魔術師全員がゲームに乗り気とは思ってもいなかったでアール」
『R』がひそかな驚愕を見せている視線の先には、暴れまわる闇の姿がある。
真ん中に線のある長方形、二つに区切られた陣地それぞれに半数の闇たちが入り、黒紫色のボールを投げあっては悲鳴を上げている。
L「くらえ!『恋する男のスリリングな恋模様!』」
変な技名を繰り出しながらボールを投げるのは『L』だ。
しかしそれにしても酷い技名だ。きっと自分の心境を語ったものなのだろう。スリリングというところが気になるが。
技名とは裏腹に『L』が投げたボールは鋭い威力を持っている。
そしてボールは区切り線の先にいる相手の陣地を豪快に割っていった。
相手チームである『J』の悲鳴が激しく空気を揺らす。
J「ジェーイ!スリリングだジェーイ!」
B「あんた喧しいのよ!」
騒がしい『J』は、仲間である『B』の鉄拳により沈んだ。
その間にボールは『L』たちのチームの外野に渡っていた。
ボールが背後に回ったと言うことで、『B』たちがいるチームは一斉に後ろを振り返る。
そこには、黒い煙を吐いた『Q』が立っていた。
手にはボールを抱えている。
スリリングなボールを受け止めたようだ。
Q「スリリングなボールってどんなだよこの野郎」
思わず『Q』も変なところに突っ込みを入れてしまっている。
それほどまでに『L』の発言にはスリリングが混じっていた。これぞまさにスリリングである。
Q「だから意味わかんねえんだよこの野郎!しばくぞ!」
B「あんた、変なの相手にしてないでさっさとボールなげなさいよぉ」
変なの呼ばわりされた?!
Q「ちっ。同感だ」
同感されちゃった?!
そういうことで、『Q』は目の前の陣地に向けてボールを強くたたきつけた。
上から下へ叩きつけるほどボールは威力を増す。
それを利用して『Q』は『B』に向けて隕石を落とした。
これは強いボールだ。
それなのに『B』は平然と立ち尽くしている。
避けないと上から降ってくるボールを浴びることになるというのに。
『Q』は勝ち誇って笑みを広げた。
Q「逃げる気ゼロか?腰抜け野郎だな」
B「腰抜け?それはあんたの方じゃないのぉ?」
刹那、その場に雷が落ちた。
激しい音だ。一瞬何が壊れた音なのか分からなかった。光景さえ見なければ本当に雷鳴だ。
しかし、全員がその光景を見ていた。
激しく回転をかけて落ちてくる弾丸同様のボールが『B』の拳により跳ね返り、『Q』の背後の壁を破壊した。
よって、全員が固まった。
B「全く、こんな柔なボールに私が負けるとでも思ってるわけぇ?」
『B』があきれたと言わんばかりの声を出して『Q』を睨んだ。
しかし『Q』は、あと数センチで『B』の弾丸にぶつかる運命だったために口が塞がらずにいる。
けれども、意地を張ってぐっと歯を食いしばった。
Q「てめえ!ボールを打ち返すのは反則じゃねえかこの野郎!」
B「あらぁ?何言ってるの?私たちは"闇"よ。反則とかそういう決まりもの、ないじゃないのかしら」
Q「…」
口を噤む『Q』を見て、『B』はバラ色の唇を左右に広げた。
そして審判としてコート外に立っている『R』に向けて目線で訴える。
けれども『R』は難しい表情を作っていた。
R「…ゲームと言うのはルールに従っておこなうものでアール。反することは許されないでアール」
批判の声を上げる『R』を『B』が声で殺した。
B「そのチョビヒゲ、引きちぎるわよ」
R「魔術を使わなければどんなことをしても反則にはならないでアール」
「「Rが脅された?!」」
闇のまとめ役が簡単に脅されたところを見て『J』や『N』が正直に驚く。
しかしその間抜けた表情もつかの間にかき消された。
二人の間に鋭いボールが割り込んできたのだ。
壁を破壊したボールを魔術で取り寄せた『Q』が早速ボールを放ったのである。
『Q』はゲームの規則が緩んだことに対して、意外にも喜んでいるようであった。
Q「規則に束縛されてないなら何でもありかこの野郎。闇討ちも反則にはならねえよな」
N「うげー、Qの奴、容赦なしかー」
V「ぐふふ、よそ見していていいのかヨ、N」
ボールを避けきったということで少し気を和らげていた『N』、しかしすぐ背後から『V』の声が流れた。
外野から逃げるため、そちらに目を向けて後ろに下がっていたけれど、逆を取れば相手の陣に近い場所で背中を向けていることになる。
そういうことで『N』のすぐ背後には相手の陣地にいる『V』が立っていた。
奴の手には『Q』から受け取ったボールがある。
あの鋭いボールを小さな体で受け止めていたようだ。何気にたくましい。
『V』の存在に気づいて『N』がすぐに体を返した。
しかしそのときには遅い。『V』がボールを投げていた。
小さい者同士の小さな戦い。しかし威圧は互いに強烈だ。どちらも闇魔術師だから。
N「反則がないなら足をつかってもいいってことだよねー!」
ドッジボールで足を使う場面はほとんどないけれど、ここで『N』はお得意の足を使ってボールを跳ね返した。
『V』は小さいため、跳ね返ったボールにぶつかること無い。
しかし普通のサイズの者であればぶつかる程度の高さである。
そんなボールが『G』の元までやってきた。
G「ガキなんぞに負けてたまるか!」
咄嗟に蹴ったボールだというのに『N』の脚力には驚いてしまう。いや、もしかするとこっそりとばれないように魔術を足に溜めていたのかもしれない。
それほどまでに威圧を放っているボールが空気を抉って『G』の元まで跳んでいっている。
だけれど『G』は負けない!と吼えた。
ボールは確実に『G』の胸元に狙いを定めて飛んでいる。
けれど、
G「ぐおおおおおおお!」
ボールは『G』にぶつかることなく『G』を越していった。
『G』が見事に体をそらして避けたのである。まるで映画のワンシーンのように。
その光景を見て、『L』が拍手を送った。
L「はっはっは。さすがG、珍プレイだな」
G「これしき、すぐに片を付けてやる!」
何気にゲームに燃えている『G』の背後で、『O』がボールを受け止めた。
しかしすぐに『L』にボールを渡す。
O「はい」
L「え?」
O「しない」
L「何を?!」
動詞が無い『O』の言葉に『L』が間抜けな声を上げた。
せっかく受け止めたボールを『L』に渡す行為がよく分からない。
けれども、『L』は受け取ったボールに力を込めていった。
相手の陣地にいる『B』の存在をさっさと退かしたい。そういう気持ちがボールに篭っていっているのだ。
想いの篭ったボールはやがて『B』に向けて放たれる。
この熱い想い、彼女に届くだろうか?
L「Bちゃん好きだー!!」
しかしすぐに叩き壊された。
L「すみません!」
V「お前バッカじゃねーの?!」
『B』が鋭く拳で返したボールは見事『L』の帽子を撃ち破った。
シルクハットが地面に落ちたけれど、拾う余裕も無い。
『B』から受け取ったボールを、外野の『U』が受け取ったのだから。
全員が一気に身を引いた。
L「キモイのが来るぞ!」
刹那、『U』のキモイボールが放たれた。
よく分からないけれどねっとりとキモくボールが回転している。
「「キモー?!」」
相手チームはおろか味方チームまでもボールを受け取らずに、身をぎりぎりまで引いていった。
結局『U』のボールは、相手の外野まで飛んでいく。
Q「このボール、俺が取るのか?!取りたくねえよこの野郎!」
エキセントリック一族の、ドッジボールは命がけでもあった。
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なんてほのぼのした風景なのだろうか(笑
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