+ + +

気づけば今は昼になっていた。
太陽は南からカンカンと世界を熱し、本日も非常に良い天気を作っている。
その中で、ようやく起きてきたのはソング姿のチョコ。
上半身は裸であるが、チョコは気にせず、外へ出、大きく伸びをする。


「ん〜!いい天気〜!」


太陽に向けて両拳は伸ばされる。
目も瞑って、太陽光を楽しむ。


「ホント、いい天気ね」

「うん、いい天気〜!!!……って、あれ?いつからそこにいたの?クモマ」


自分の背後にいつの間にやら立っていたクモマの存在に驚く。
クモマは、仁王立ちをして、チョコを叱った。


「誰がたぬ〜よ。私はモンフィールよ」

「あぁ〜そっか。クモマ姿は姐御だったね〜」


可笑しい発言で、クモマ姿はブチョウだったことを思い出すチョコ。
笑って誤魔化した。
ブチョウは偉そうに腕を組む。


「ところで、タマとたぬ〜と凡がいないのよね」

「え?本当?」


ブチョウに言われ、気づいた。
確かに寝床には自分とブチョウとサコツしかいなかった。
残りの3人は何処?


「あのワンちゃんもいないよね」

「何よ?私たちを置いてカツ丼でも食べに行ったわけ?ぷんぷん」

「何でカツ丼?」


ブチョウのボケにチョコは笑い声を上げる。


「……何ていうか」


笑っているチョコを見て、ブチョウは続けた。


「凡の笑っているところ、見たことないわね」


マジマジとソング姿のチョコを見るブチョウ。
見つめられ、ちょっとテレながらチョコも同じく思った。


「そうだね。ソングっていっつも無愛想にしてるもんね〜」

「ゴボウでも喉に詰まらせたのかしら?」

「そんな、作者じゃあるまいしっ!」


すみません……(泣き崩れ


「ってか……」


そこでチョコは思い出した。


「私…見たらいけないモノ、見ちゃった気がするんだ…」

「何よ?作者がゴボウを喉に詰まらせたところでも見てたの?」


すみません……(泣き崩れ


「ソングには内緒だよ…」


そしてチョコは、昨夜見つけてしまった"写真"をブチョウに見せた。
さすがに驚きの表情をとるブチョウ。
女と一緒にいるソングの写真。
チョコも改めて見直して、顔を少し赤く染めた。


「驚いたわね」


ブチョウが感想を述べる。


「可愛い子と一緒に写っている凡…何よこれ」

「…彼女かな?」


チョコも自分の意見を述べる。
ブチョウは軽く頷いた。


「そうとしか考えられないわね。兄妹…っていう風には見えないし」

「うん。…って、本当に彼女なのかな?」


チョコの質問にブチョウは応えなかった。
黙ってじっと写真を眺めている。

暫くして、名を呼ばれた。


「チョコ」

「何?」

「今すぐ凡を探すわよ」

「え?何で?」

「無理矢理でも訊きだすのよ。これのこと」

「だ、ダメ!!だってソングはこっそりとこの写真を持ってたんだよ!内緒にしといた方が…」

「懐に入れていた凡が悪いのよ」

「でも、私が勝手に見ちゃった方が悪いよ」

「そりゃそうね」

「……」


あっさり肯定されてしまってちょっと複雑。


「ま、とにかく」


チラリと家の中を覗いて、ブチョウは言った。


「いなくなった3人+αを探しに行かなくちゃならないわね」


ブチョウの目線は、酷く寝相の悪いトーフ姿のサコツに向けられて。


「そうだね。まずはトーフちゃん…じゃないや、サコツを起こさなくちゃ」


サコツの寝相の悪さに笑いを堪えながらチョコがそちらへ歩む。
ブチョウも腕を組んだ状態のままついてくる。


「……もう…エリザベスったら…可愛いんだから〜こいつ〜…げへへへへへへ」


寝相も悪いうえにサコツは寝言も酷かった。


「おっぺけペーって感じに酷い寝相ね」

「例えがよく分からないよ姐御!!」


偉そうに仁王立ちをして見下ろしながら言うブチョウにチョコがツッコミを入れる。
大声であったため、声は部屋に響いたが、寝ている彼には聞こえなかったらしい。
夢の楽園から引っ張り出すことが出来なかった。


「さ〜って、どうやって起こそうかな〜」


チョコがニヤニヤと不敵な笑みを溢す。


「ここは私にま〜かせ〜なさ〜い!」


ブチョウが変な発音をし胸を張る。
サコツをブチョウが起こしてくれるみたいだ。

さあ、あんたに任せたよ!バッチリ起こしてやってくれ!


「目潰し!」


ブスっ!!

「?!!」

「エ〜リザベエエエッスゥウゥゥゥゥゥ!!!!」


その場にサコツの悲鳴が響いた。



+ + +


そのころ、サコツ姿のクモマとブチョウ姿のトーフとチョコ姿のソングと犬姿の少年は、村の門前にやって来ていた。
村自体が小さいためなのか、門の大きさも然程大きなものではない。
高くて太い木の棒が2本立っているだけの簡単なつくりの門。


「ここだね…」


クモマが呟く。
それにトーフが応答。


「そや。ほな〜ここに"ハナ"があるか探してみるか」

「うん」

「待てよ。"ハナ"の形が分からねぇから探しようがないじゃねぇか」

「勘で探せや。女の勘」

「俺は男だ」


トーフの冗談にソングはムっと表情を顰める。
そのまま無言で形のわからない"ハナ"探しを始めてしまった。
クモマも彼に見習って同じく"ハナ"探しを実行。
トーフは


「ほな、ワイはあんたの話し相手になってやるわ」

「本当でヤンスか?」


犬と会話をし始めた。
楽な仕事を取りやがったなとトーフを睨む前者の2名。
四つん這いになってせっせと"ハナ"探しに取り組む。


「ねえ、これは違うかな?」


クモマが自分と同じ態勢になっているソングに問い掛ける。
ダルそうにソングが振り向いてクモマが指差している花を見る。

花は奇抜な形をしていたが、果たして本物の"ハナ"かは分からない。


「俺に言われても困る」


素っ気無くソングは答えを返す。
言われてクモマも申し訳なく頭を掻いた。


「そうだね。分からないよね…」

「あいつにでも聞けよ」

「あ、トーフ?」


代名詞で言われ、一瞬戸惑った。
そういえば、ソングは今まで一度も自分らの名前をまともに呼んだことがない。
いつも「お前」「こいつ」「あいつ」「てめえ」とか代名詞で呼んでいる。
改めて考えてみると、仲間なのにこの扱い方は酷いなと思う。


「あぁ。あいつならまだ詳しいだろ」

「そうだね」


ソングに軽くあしらわれ、クモマは少し残念に思いながら
トーフの元へ身を起こして近づいた。

トーフは犬と仲良く話を………


「あんた9歳なんかー。…うわ…ワイの一番嫌いな年代やな」

「ほ、本当でヤンスか?!」

「9歳のガキと言うたら、反抗期のせいかなんか知らんけどなーグチグチ文句は言うわー、言うとること全てがむかつくわー…ホンマ腹立つわ」


…していないようだ。


「……」

「あ、あの…トーフ…?」


永遠と語りそうな勢いのトーフを何とかクモマが止めに入る。
愚痴を言われ犬も複雑な表情を作っている。

この様子からトーフは子どもが嫌いらしい。


クモマに止められ正気に戻ったトーフは、普通に接してきた。


「何や?」

「あ、あのさ。あの花って"ハナ"かな?」


コロっと態度の変わるトーフに少し焦燥しつつもクモマはトーフを誘導した。
クモマが見つけた"ハナ"っぽい花の方へ。
トーフも黙ってついてくる。
そのため、犬は一人になった。


「これなんだけど…」


"ハナ"っぽい花を指差すクモマ。


「……」


黙って見つめるトーフ。
ブチョウ姿のため背が高くなっているトーフは、詳しく花を見るために膝を地面につけてマジマジと花を眺めている。
クモマも黙ってそんなトーフを眺めている。
ソングもいつの間にやらこちらの方へやってきて同じく眺めている。

やがて、トーフは口を開いた。


「分からん」


表情を顰めてトーフが首を振った。
それを見てガックシと肩を落とすクモマと苦い表情を作るソング。


「わからねえのかよ」

「しゃあないやんか。今はブチョウの体なんやで?"笑い"なんか一つも感じ取ることができへん…」

「そっかぁ…。残念」

「すまんな。二人とも」

「いいよいいよ」

「…って、ちょっとまてよ」


そこでソングが嘆いた。


「どれが"ハナ"なのかわからねぇのに探すのかよ?」

「こう考えると…ワイら無能やな…」

「……早く元の体に戻りたくて早々と来たのに…意味が無かったね」


はあ、と声に出して3人は大袈裟に溜息をつく。
そして、どうしようか、と口々に出している、そのときであった。



「わああああああああでヤンス!!」



犬の悲鳴が聞こえてきた。


「悲鳴にも『ヤンス』は忘れないのかよ?!」

「ど、どうしたの?」


ソングはツッコミながら犬の元へ。
クモマは心配しながら犬の元へ。
トーフは嫌な感を感じながら犬の元へそれぞれの速さで走っていった。


『ジュルルルルル…』

「た、助けてでヤンス〜!」


犬の元へつくと、そこには最も逢いたくなかったモノが立っていた。
それはヘビみたいに長く、しかし大層な大きさの。
大きな口が特徴で、人を丸呑みできそうな感じ。

そんなモノを目の前に、犬は屁っ放り腰になりながら、後ずさりをしていた。

そのモノを見て、トーフが叫ぶ。


「しまった!魔物や!!」


それを聞いてクモマもソングも苦い表情を作った。


「クソ!こんな時に魔物が出るなんて」

「逃げて!ヤンスくん〜!!」


おいおい、ヤンスくんって…。


『ジュルルルルル』


魔物はこちらの存在に気づきながらも無視して、犬に向けて威嚇している。
凄く睨まれ、犬は中腰で尻を後ろに突き出したまま固まってしまっていた。


「どないした?はよそっから逃げんか!ヤンス!」

「おい!逃げろ!襲われるぞ!」

「ヤンスくんっ?」


もう犬のことはヤンスで定着してしまったらしい。
しかし叫ばれても犬はその態勢のままになっている。

嫌な予感がする…


「…まさか、金縛りか?」


歯軋りを鳴らすトーフ。
同様クモマもソングも同じ考えであった。

犬は恐怖の顔で固まったまま。
目の前には魔物が緑色の長い舌を出すと同時に黄色いヨダレを垂らしている。

これは、ヤバイ……っ!

危険を感じた。


戦おうと腰に手を持っていく。
しかし、チョコは武器を持っていないことに気づいたソングは、その行動を途中中断した。
ブチョウ姿のトーフは、ブチョウの武器がハリセンということを知っていたのだが
どう考えてもハリセンで勝てそうになかった。なので、諦めた。
クモマも同じく腰に手を持っていき、武器を取り出す。
しかし、その武器はサコツの愛用としているしゃもじだ。
使い道がサッパリだ。

た、戦えない…!!!


しかし、全員は動くのを止めなかった。
素早く魔物の目の前に立つトーフとソングに、
クモマは固まった犬を抱き上げ非難させる。

武器は、ない。
だけれど戦うしかない。

ジュラララと唸りながら睨む魔物を
3人も同じく睨み返していた。

しかし、3人の額には冷汗がタラリと流れていた。


最悪な事態だ…。







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