どうも、寝心地が悪かった。
ソング姿のチョコは、全員の寝息を聞きながら、目を開けていた。

…暑い…。

この場はとても暑かった。

全員が寝る頃は暑くもなくどちらかといえば涼しいぐらいの温度であったのだが
夜中になると空気はムンムンと熱気を篭ってしまったらしい。
暑くて、暑くて、汗がびっしょりだ。

普段なら、ほぼ服を着ていないといっていいほどの服を着ているので暑さを感じたことはあまりなかったのだが、今はソングの姿だ。
ソングの服装は真っ黒の、つな着の作業着。
全身を覆っているその服は、チョコにとっては暑いしかいいようがないものだった。


どうしよう。
つな着だと全部脱がないといけない。
しかし、そうするとさすがにヤバイであろう。
だけど、脱ぎたい。
汗がびっしょりだ。背中に服がくっつく。

とにかく、脱ぎたい。
どうするか。
どうするか。


考えた結果。


上半身の部分だけでも、脱ごう!!



チョコはそう決めると静かに身を起こして
早速実行に移した。
暑さに耐えられなかったのだ。
服の所為で高くなってしまった体温を脱がしたい。

誰も起きていないことを確認しつつ、服を徐々に脱がしていく。
肌を服から出させると、微かに掠る夜の空気が体温を低くさせる。
脱いでよかったと、実感する。

そして、上半身を裸にさせた状態で気づいた。


これって、側から見たらちょっとヤバイ光景かな?


だけど自分のためだ。仕方ない。
だいたいこんな暑苦しい服着ているのが悪いのよ。

と、この体の持ち主に叱ってみる。


びっしょりかいた汗から脱出したことが出来たので
チョコは爽やかに寝床につくことにした。

しかし、
ふと、ここで、布団の上に落ちているモノが目の端に映った。
先ほどまでなかったモノだ。
きっとソングの服から出てきたモノなのだろう。

…ソングの服から…出てきたモノ……?

気になったので、チョコはそのモノを見ることにした。


モノは白いモノであった。
丈夫な紙で出来たそれは、手に取った瞬間、何なのか分かった。

写真 だ。

特徴のある手触りですぐにわかる。
これは写真。
裏返ってその場に落ちていた写真。
ソングの服から出てきた写真。

こ、これは……


目を輝かせて



き、気になる…っ!!!


写真に興味を持ったチョコは
早速その写真をひっくり返して、表を見た。
そして、表に写っていた写真を見て、チョコは釘付けになってしまった。


黙って、写真を眺める。
写真に写っているモノは
二人の影。

一人はソング。疲れ果てた表情をしている。
その隣りにはもう一人。
ソングにベッタリとくっついているその人は、
左目下に三つの丸模様がある可愛らしい女。
その女の表情はとっても幸せそうで。


これは……。


ゴクリと唾を呑む。
目線はずっと写真。
目に焼き込む勢いでチョコはずっと写真を見る。

女と一緒に写っているソングの写真。

この女は一体、誰?


彼女??


マジで?




これを誰かに見られたらヤバイと判断したチョコはすぐさま写真を作業着の内ポケットの中に突っ込み、急いで布団の中にもぐりこんだ。


……っ。


チョコは、暑かった。
外の空気の暑さも原因でもあるが
ソングがこんな写真を肌身離さず持っているということに、興奮していた。


写真の女は、ソングの何?

写真の女は、今どうしているの?

写真の女も、この写真を持っているの?

写真の女は………


気になって気になって、仕方なかった。




+ + +



朝になった。
姿を現せた太陽は、暗かった世界に光を与え、場を明るくさせる。
その太陽から放たれた日差しに当てられ、赤髪の彼が目を覚ました。
サコツ姿のクモマだ。


「ふ…わあ……」


大きくあくびをしながら身を起こす。
そして、天に向けて伸びをしながら、辺りを確認。

トーフとブチョウとクモマとソングの姿が、横になって寝ていた。
やはりちょっと起きるのが早かったかと思いつつ、別のことも気になった。

チョコの姿がない。
チョコの姿はソングのはず。

辺りを見渡しながら、外へと続くドアノブを引く。
ドアを開けると一気に部屋の中は光に覆われた。
素晴らしいほどの太陽光。
今日も非常にいい天気だ。


「いい空だ…」


綺麗な青空にクモマは感動する。
そんなクモマに誰かが近づいてきた。


「…そのまま上の空になるなよ」


口に何かを入れているのだろうか、聞こえづらい声が聞こえてきた。
そちらの方を振り向くと、それはチョコ姿のソングだった。
彼(彼女?)は歯磨きをしているようだ。


「あ、ミャンマ〜」

「ミャンマ」

「いい天気だねー」

「そうだな」


のほほんと声をかけるクモマにソングも歯を磨きながら短く応答する。

ちなみに、ミャンマーとはこの世界での挨拶の言葉である。
使われる場は、朝の一番の挨拶。ご飯を食べるときの挨拶。人と出会ったときに交わす挨拶。電話に出るときの挨拶。寝る前の挨拶…。
と、多々の使用法がある。


「ソングって意外に早起きなんだね」


ご機嫌のクモマが真面目に歯磨きをしているソングに微笑みかける。
ソングはダルそうに応える。


「昔からのクセだ」

「昔から早起きなんだ?何で?」

「何でって…まあいろいろとあってな」


そのいろいろが何だよ?と言わんばかりの顔色のクモマを見てソングは溜息をつくと
遠い過去を思い出すかのように遠くの景色を眺めながら、応えてあげた。


「早起きして、待つんだ」

「…何を?」


目を細め、言い切った。


「朝飯が出来るのを」


「え?」


予想外の応えに、クモマは思わず聞きなおしてしまった。
しかし、ソングはそれ以上何も言わなかった。


「…ふわあ…ええ天気やなぁ〜…」


ずっと同じ景色を眺めているソングと、上の空になりつつあるクモマの元に、ブチョウ姿のトーフがやってきた。
目を擦りながらトーフは続ける。


「サコツとチョコ…ってことは、クモマとソングか」

「やあ、トーフ。ミャンマー」

「お。ミャンマ。あんたら意外に早起きなんやなー」


目をパチパチさせて目の運動をしているトーフの問いに、クモマが応えた。
その間にソングは口を濯ぎに行ったようだ。


「太陽がまぶしくて目が覚めちゃったんだよ」

「確かに今朝は眩しかったわ。ほなソングも同じ理由なんか?」

「ソングは朝ごはんが待ち遠しいみたいだよ」

「は?」

「ったく、皆起きてないのか」


トーフのマヌケな声を掻き消す形で口を濯ぎに行ったソングがこちらへ戻りながら、舌打ちを鳴らす。
トーフが応える。


「皆気持ちよさそうに寝てたで」

「なんて奴らだ…」

「昨日あんなにウロウロ動き回ってたんだよ。みんな疲れたんだよ」


カバーするクモマ。
と、そこへ茶色いものが走ってきた。


「皆さん起きたでヤンスか〜?」


犬だ。


「やあ、ミャンマー」

「ミャンマーでヤンス」

「あと3人起きてこないんや」

「そうでヤンスか」


そして、残念そうに目線を逸らす犬。
クモマが心配そうに「どうしたの?」と問い掛ける。
犬は無理に笑みを作って応えた。


「いや…昨日あなたたちが中身が入れ替わった原因が分かった様なことを言っていたから…」


そこまで聞いて、分かった。
この犬…いや、少年は、楽しみにしていたのだ。
もしかしたら元の体に戻れるのではないかということを。
あんなにも自分らが、原因が分かった、と騒いでいたから期待は膨大したのだろう。


「すまんな。もう少し待っててくれや」


まだメンバーが起きてこないため、中身が入れ替わった原因の"ハナ"を消せない。と
声には出していないのだが、謝る。
しかし、それをクモマが覆した。


「僕たちだけで門前に行こうよ」


突然の発言に、その場は目を丸くしてクモマを見る。
クモマは爽やかな表情をして続けていた。


「早くこの子を元の体に戻してあげたいし、僕らも早く戻りたいしね。ひょうたんさえあれば"ハナ"を消すことができるんだろう?」


問い掛けられ、トーフは急いで頷く。
今度はトーフが口を開いた。


「"笑いの雫"も溜まっとるしな。ワイらだけで行こうと思えば行くことができるで」

「よかった」

「んだよ?俺らだけで行くのか?」

「いいじゃないか。ソングだって、ずっとその姿じゃ居心地悪いだろう?」


苦い表情を作るソング。
図星のようだ。


「だから僕たちだけで行こうよ。ね、いいよね?」


身を乗り出すクモマにトーフはモチロン頷いた。


「そやな。ワイらだけでさっさと消しに行くか。そんではよ元の姿に戻ろうな」


それを聞いて、犬はぴょんぴょん跳ねて


「本当でヤンスか?有難うでヤンス!!」


非常に嬉しそうに、飛び跳ねていた。

そして、サコツ姿のクモマとブチョウ姿のトーフとチョコ姿のソング、そして犬はこの村の門前へ向けて歩みだした。


そのころ、犬の家で寝ている3人は。


「…もう、エリザベス…お前―可愛いぞーこんちくしょー…むにゃむにゃ……」


夢の楽園中であった。





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あーチョコが見たらいけないモノを見ちゃいました!
あの写真に写っていた女は誰だ?!(モロバレ

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