「明るいのに、不気味さが漂ってる城よねー…」


トーフとソングが闇の一部を沈めた頃、残りのメンバーは階段を登り終わって今は2階を彷徨っていた。
駆け足で辺りを見渡して闇を探す。
しかし目当ての闇はなかなか姿を現してこなかった。

いま目を開いていて入ってくる風景は、城の異様な雰囲気だ。
チョコが呻くようにこの城には目に見えない不気味なオーラが漂っている。

肩を震わすチョコを見て、サコツも同じように苦い表情を作った。


「ホントだぜー…エキセンも姿を現してくれないしよー。俺ら大丈夫か?」

「うーん…殴りたい相手がいないのは困るね」

「ぐずぐずしてられないっていうのに、ふざけてるわね」


クモマとブチョウも眉を寄せて焦りを表した。
せっかくトーフとソングが先へ行かせてくれたというのに、未だに闇と遭遇していないとは無礼なことである。
いい加減、何か出てきて欲しい。

明るいため見やすい景色。それなのにこの場は一本の廊下しかなかった。
こんなところで敵が現れたら厄介であろう。
そう思っていたらそれが現実になって表れた。

目の前に連なる黒い影。
どこからか、手を打つ音が聞こえてくる。
しかし、元凶の姿は無い。姿を消しているのか、それとも遠くから闇を呼び起こしたのだろうか。
ここは闇の住処だ。不思議なことがあってもおかしくはない。

突然の影の大量出現に、全員が足の回転を緩めた。


「えー!ちょっと邪魔よー!」

「影人間ね。こんなときに現れないで欲しいわ」

「どこからか手を打つ音が聞こえたよね」

「やべーぜ!これってきっとチョビヒゲのエキセンの仕業だぜ!」


手を打つ魔術師で思い当たる闇はただ一つ。『R』だ。
メンバーは一度『R』とは遭遇していた。
それは現在、闇の地帯であるミャンマーの村での出来事。
闇から逃げていたメンバーの邪魔をする形で『R』が現れたのである。
そのときに手を打って闇を生み出していたことを覚えている。
だけれど、今回は『R』の姿は無い。

元凶を見つけられず、メンバーは歯を食い縛った。


「エキセンはいないようだわ」

「めんどくせーことになっちまったぜ!誰かこいつらを消してくれよー」

「無理よー!私何もできないもん!」

「僕も今は自称神を殴ることしか頭に無いよ」


数多の影人間を見て、全員がひるんだ。こんなのを倒している暇があれば目当ての闇を倒したい。力がもったいない。
ここで無駄に体力を消耗してしまったら闇に勝てないと思う。
だから、緩めかけた足で強く地面を蹴るのだ。
影ではなく闇を見つけるために、走る。目の前の影なんか無視だ。

そういうことで、メンバーは影を無視して走り出した。
影人間が唖然と動きを止めている姿が背景に残る。


「よっしゃ逃げるぜー!」

「影なんか無視して闇を倒そう!」

「きゃー!影人間が追いかけてきてるー!」

「理不尽ね、こうなったら屁をかますわよ」

「あ!影人間がひるんだぜ」

「あら、まだかましてないのに。先読みしたのかしら」

「いや、誰だって屁をかます人の後ろを走りたくないよ!」

「ってかさー、ソングとトーフちゃんがいないと、ツッコミがいまいちよね」

「何だいそれ?!僕に嫌味かい?」


確かに、この場を駆けているメンバーはボケ傾向が見られるメンツである。
ツッコミ専門のソングと、独特なツッコミを見せるトーフ。
彼らが抜けたメンバーというのは、ただのテンションが高い団体だ。
やはり「6」は大切な数だったのだな、と実感するメンバーだった。

後ろの方から影が両手を伸ばして追いかけてくる。
しかしメンバーの速さにはついていけてないようだ。
毎日食い逃げ万引きを繰り返している奴らに追いつく敵などそう多くは無いだろう。
そのまま捕まることなく、メンバーは分かれ道と出会う。

二本の分かれ道。一本は今走っているルートであり、もう一本は、それに突き当る細い道である。その道の奥には階段が見える。


「お、分かれ道だぜ!」

「どうする?私は皆が行きたい方向へいくよ」

「それじゃ、このネギが倒れた方向へ行くわよ」

「そんな余裕もないしネギもないし!」

「ネギならあるわよ。己の心の中に」

「ないない!あったとしてもある理由がわからないよー!」

「誰か、この場にソングを持ってきて!僕にはブチョウのボケに対抗できるツッコミができないよ!」


メンバーが戸惑っている間に影人間が迫りよってきた。
ここでいち早く決めないと影人間に襲われて後悔することになる。
さてどちらを走ればいいのか、と考えているときだった。
聞こえてきたのだ。憎憎しい笑い声が。


クスクスクス…。


「……!」


笑い声を聞いて、クモマが目を見開かせた。
対して他のメンバーは相変わらずもめあっている。
笑い声はクモマだけが聞こえたものだったのか…?

こんなにも夥しく笑い声が響いてるというのに。

どこから笑い声が聞こえてくるのか、耳を澄ませば分かる。
怨むべく相手が笑っている方向は左だ。
この一本道に刺さる形で枝になっている細い道。そのルート上から聞こえてくる。
クモマは思った。自分が行く道はこっちだと。
だからメンバーに知らせた。


「僕は向こうに行くから皆はこのまま真っ直ぐ走って」


しかしクモマの言うことをメンバーは理解することが出来なかった。
何故クモマだけが細い道を走る運命に立ったのか、分からなかったのだ。
だけれどクモマは既にその道を走っていた。
メンバーをこの場において、クモマ一人、細い道を駆け上がっていく。
気になってあとを追いかけるのはチョコだ。
続いてサコツも出ようとする。しかしブチョウが妨げた。


「チョンマゲ、私たちは真っ直ぐ行くわよ」


しかしサコツは否定した。


「そんなことできないぜ!ここで別れる理由がわからねえよ!」


サコツの意見は尤もだが、ブチョウが翻した。


「たぬ〜の様子がおかしいわ。たぬ〜が一人で突っ走るとき、大抵が何か危険が迫りよっているときだわ。きっとそっちの細い道には何か危険があるのよ」

「…!」

「だから私たちはこっちを走る」

「嫌だぜ!俺らだけ安全な道を走るなんて可笑しいだろ!」


サコツは頑固にも承諾しない。
なのでブチョウは深く息を吐いた。
もう背後には影が迫っているけれど。


「たぬ〜が危険に立ち向かった理由はこれしかないわ。きっと、キモ神が向こうにいるのよ。たぬ〜は戦いに行ったのよ」

「ま、まじでかよ?」

「だから私たちは真っ直ぐ行って、自分らの敵と戦わなくちゃならないわ」


ブチョウに説得されて、ようやくサコツが頷いた。

クモマが自称神『U』との戦いに行ったのならば、自分らはここで役目を果たさなくてはならないだろう。
自分らの敵はまだどこにいるか分からない。
だからここでクモマの邪魔をしないように
影の足止めをする。

ブチョウはハリセンを取り出して、描かれている魔方陣に手を触れた。
血文字の魔方陣が光を帯びて、召喚魔方陣が輝く。
ブチョウを中心に威圧が波を立てる。それによって影が身を一歩引いた。
「ま゜」と唱え、いざ獣を呼び起こす。


「出てきなさい、クマさん」


やっぱり奴か。
大切な戦時だというのに、場を間違えた獣である。
いや、クマさんは最強なのだ。だからこそこの場に出したのだろう。
だけれど、姿は場違いである。

ブチョウがハリセンで地面を叩いたことにより、煙が上がる。
そこから変な獣が「呼んだかいベイビー」と色気むんむんの雄叫びを上げて現れた。

影が一気に後ずさりをした。


「すげーぜ!影がへっぴり腰になってるぜ!」


さすがクマさんである。


「さあ、クマさん。敵をみじん切りにしてやりなさい」

「クマさんにそんなことできるのか!すげーぜ!けどよークマさんに刃ってあるのか?」

「何言ってるのよ。クマさんの刃っていうのは」


ブチョウは、己の胸に拳を当てた。


「折れない心よ」

「か、かっこいいぜ…!」


クマさんが折れない心を刃として、影人間をみじん切りにしていく姿を裏に映して、ブチョウとサコツはクモマとチョコとは違う道を走り出した。

ここで影人間を消しておかないと、クモマの邪魔しに行く可能性がある。
10年ほど前からクモマは自称神に恨みを持っていた。奴の気まぐれで心臓を奪われ、人形になりかけたのだから。
彼の執念の邪魔をしてはならない。だからあの場で召喚獣を出して、影を消す仕事を任せた。
そして自分らは、まだ見つからない自分の敵を探しに走る。


「ブチョウ、聞きたいことがあるんだぜ」


そんな中でサコツはブチョウに声を掛けた。
隣りのブチョウは、まっすぐと正面だけ見て「何?」と応答する。


「ずっと前から思ってたんだけどよー」


サコツは訊ねた。


「本当のブチョウの声ってどんなんだ?」


「…………」


彼にとっては素朴な質問。だけれど彼女にとっては酷な質問。
それでもブチョウは答えた。



「あとで、聞かせてあげるわよ」



ブチョウが真剣な面構えで答えた姿を横から見て、サコツは優しく笑みを零す。

「楽しみにしてるぜ」と。



+ + +



「ちょっとクモマー!どこに行くのよー?」


突然進路を定めて走り出したクモマ。それを追いかけるのは俊足のチョコだ。
そのためすぐにクモマの隣に並ぶことになる。
それでもクモマは答えない。目を凝らして何かを探している。耳も立てて何かを聞いている。


「ねえ、クモマー?」

「……」

「どうしたのよ?」

「………」

「何かあったの?」


するとようやくクモマが口を開いた。
その様子は何かに驚いている様子だった。先ほどの顔つきとはまるで違う。


「…クルーエル一族…!」


目の前には細い道から抜け出す階段があったのに、それを塞ぐ形で銀の者が一人立っている。
今まで見てきたクルーエルと違って、目の前の者は見るからに分かる、狂気が溢れていた。

これが、智がいう「悪なる4属」のうちの誰か…?


道が塞がれているので、自然と速めていた足も止める。
クモマとチョコ、二人並んでクルーエル一族を見た。
そしてクルーエル一族も二人を睨む。


「そこ、どいてくれます?」


クモマにしか聞こえない笑い声は上から響いている。だからその階段を登らなければならないのだ。
だからどいてもらいたい。
しかしクルーエル一族は首を捻るのだった。


「何故どかないといけない?」

「前に進みたいんです」


声からしても分かる狂気。
それに応答するクモマだったが次の瞬間、クモマは悲鳴を上げることになった。
クルーエル一族が刃物で襲い掛かってきたのだ。
そのためチョコも一緒になって逃げた。


「ちょっとこれって何なのー?!」


襲われる理由が分からない。
だけれどこうとしか考えようが無い。『呪いで操られている』。


「相手している暇ないのに!」

「きゃー!いやー!助けてー!」


びゅんびゅん刃物を振り落としてくるクルーエル。何とか避ける二人だけれど、悲鳴は止まない。
動きを止めた刹那に首が吹っ飛ぶと予測できるから。

しかし、ここで逃げてどうする?

正気に戻って行動に出たのは彼女だった。


「邪魔!」


ゴツっと鈍い音がした。
そしてその後にカランと刃物の悲鳴が鳴る。

チョコが棍棒で狂ったクルーエルの頭を打ったのだ。
よってクルーエルが刃物を落としてその場に倒れる。
暴れていた者があっという間に静まって、唖然とするのはクモマの方だった。

通り風が吹いてから、チョコが遅けれども悲鳴を上げた。


「あー怖かった!!」


棍棒を両手で抱いて身を縮めるチョコだったけれど、クモマは正直「一発でクルーエルを沈めたチョコの方が怖い」と思っていた。


クルーエルが気絶している間に先を急ぐ。
上の階へ繋がる階段を登る。そこでクモマは自分の足の短さに嘆いていたが、チョコが上から手を差し出す。


「一緒に上がろう」


足が長い上に足が速いチョコ。彼女に捕まれば嫌でも早く駆け上がることが出来る。
しかしそういう意味ではなくクモマは、チョコの柔らかい笑顔を見て迷わず手を伸ばしていた。
チョコの手を掴んで、一緒に階段を上がる。

先を急ぐクモマの姿を見て、チョコは感づいていた。
きっとこの先にクモマの真の敵がいるのだろう、と。
だからそれの手伝いがしたかった。
自分は足しか自慢が無い。そのためこのように彼を引っ張ることしか出来ない。
こんな手伝いしか出来ないけれど、これでも許してくれる?
だけれど表情をうかがってみると、彼は微笑んでいた。


「チョコは善い子だね」


クモマはチョコの気遣いに気づいて微笑む。
そしてチョコも礼を述べられて、微笑む。


「私はクモマほどじゃないよー」


小さな階段を二人で上がる。
チョコが一段上からクモマを引いている。
長い足で一段跨いでしまうチョコに対してクモマは一段一段丁寧に駆け上っていた。


クモマにしか聞こえない自称神の笑い声が、階段を駆ける都度、深くなる。









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