戦ってみて、実感した。
自分らの相手は"闇"。そのためか、相手の心には本当に光が無い。
人の苦しむ姿を見て笑うような奴らだ。
血も涙も無い、だから代わりに闇が溢れるのだろう。

人には必ず、血と涙がある。これが命の源なのだ。
これらが無くなれば人は死ぬ。対して闇はそれらが元からないから死なない。死ぬ要素を持っていない。

なるほど、それで奴らは死なないのか。
闇だから闇となって消えることも出来るし、闇だから体が衰えることは無い。
奴らは始めから死なない体質をしているのだ。
そんな奴らをどうやって倒せばいいのだ?どうやって殺せばいいのだ?


いや、違う。
殺すんじゃない。懲らしめるのだ。



"死"なんて、もう味わいたくない。

メロディが死んだとき、ソングは悲しんだ。大切な人を突然失ってしまったから。
黒猫が死んだとき、実際に誰も悲しまなかった。
だけれどこの旅の中でトーフは死の恐怖を味わった。そして仲間が悲しんでいる姿を目の当たりにして"死"という言葉の儚さを知った。


闇だって同じではないだろうか。
誰だって死んだときは悲しいのではないだろうか。

どんなに邪悪な心を持った闇でも、殺してはならないと思う。
懲らしめるだけで十分だ。そして己の過ちに気づいてもらえればいい。
それが、いい。



自分らの役目を知ったことにより今、ここに立つことが出来る。
エキセンを殺すのではなく、エキセンを懲らしめるために、トーフとソングは武器を持つ。


「はっ。蹴られて何も抵抗できなかったくせに俺らを倒すと言うのか?馬鹿だなこの野郎」

「ホントホント、お前らじゃ無理無理だってー。絶対においらたちの方が強いもん。泣いて終わるだけだよ?」


目の前にいる闇の者たち。
奴らとどんなに戦ったとしても奴らを死なせることは出来ないだろう。
しかし、どんな敵でも絶対にくたばることがある。
そこまで追い詰めるしかない。

闇のタバコをスパスパ吸っている『Q』に向けて形相変えてソングが睨む。
蹴られた腹が痛むが、このぐらい堪えられる。
ここで我慢して、戦って、奴らを最上にまで懲らしめてやる。

だから、不敵に口角を吊り上げるのだ。


「泣いて終わるのはてめえらの方だ」


刹那、『Q』と『N』の顔つきが鋭くなった。
その顔からは、生意気なこと言いやがって、と憤っていることが悟れる。

続いてトーフも目を細めた。


「言っとくけどな、闇と光、どう考えても光の方が強いねん」


だから


「この戦いはワイらの勝利や」

「ざけやがって!」


不敵な笑みを見せる光の者。
それに向かって『Q』が闇の炎を放った。
二本立てた指を口先にあて、その先を炎が通る。
行き先は無論二人であったが、二人は左右に分かれて避けた。
そして先ほどのような結果を導かせないように、炎が散らばる前に攻撃を繰り出して自分のペースに持っていく。
トーフは糸を裾から引っ張り出して、玉を転がすように糸を低く投げた。


「弦月(げんげつ)」


糸は見事『N』の両足を捕らえ、勢いに乗って『N』を空に飛ばした。弦を張った月を描いて飛んでいく。
足を捕らえられた『N』は魔術を繰り出せない。
そのため『N』は空から悲鳴を上げていた。


「ああああああー」


糸に縛られたまま空を旅する『N』、そのまま壁に体をぶつけることになるのか。
しかし、結果は違う答えを導かせた。
壁にぶつかる寸前で『N』が両手をかざして、そこから闇を放ったのだ。
『N』は自分が放った闇の威圧に飛ばされて後方に飛んでいく。
だけれど下にいるトーフに向けても手をかざした。 

悲鳴を上げることになったのはトーフだった。


「何でやねーん!」


足が使えなければ闇を使えないのではないのか?
疑問に思ったけれど声に出ない。
すると、トーフの悲鳴で感づいたのか『N』が説明してくれた。


「エキセンってな、みーんな手から闇を出すもんなんだよ!だからおいらも手から闇を出せるんだい!」

「ホンマかいな!ほならはよ言っといてー!」


確かにエキセン全員、闇を放つときは手を使っている。
エキセンだけではない。世の中の魔術師は皆、手を用いるものなのだ。足を使う魔術師など世にいないだろう。
『N』は足を使っていたが、それは闇を完全にコントロールできる部分が足だったからということで本当は手からも出せるのだ。

しかし、慣れない手で闇を放った所為か、そして光の中で不慣れないことをしたからか、『N』は荒く呼吸を乱していた。
トーフにかざしていた手からも結局は闇が出ず、バランス崩して地面に傾く運命に陥られて、撃沈することに。

腰を強く打って、『N』が呻いた。


「いてて…な、何で?何で…おいらってば、こんな…にも息を乱してるの?」

「おい!マジメにやれよこの野郎!」


手をかざしていたところからトーフに闇を放つと予測していた。それなのに『N』は何もせずに自分を傷つけていた。
だから『Q』は苛立った。ふざけるな!と怒鳴る。
しかしその注意は流れることになる。『N』が文字通りに流れていったのである。
まだ足には糸が絡まっている。


「やば…!」

「あんたは手からじゃ闇を操れんのか。なるほどな、エキセンにも弱点ってあったんやな」


闇を繰り出す部分さえ封じれば、こいつらはっきり言って何も出来ない。
魔術しか育てていないため、筋力など持っていない。だから容易に振り回せた。
それでも『N』は抵抗する。


「放せー!!」

「放さんに決まっとるやろ!」


だけれど次の瞬間、『N』は自由を取り戻していた。
『Q』が闇を呼び起こして『N』の足を縛っていた糸を溶かしたのだ。
振り回していた原因のものがプツリと切れてしまったので勢いの波に呑まれたまま『N』は吹っ飛びあがる。
それを狙っていた銀の光。


「スービトフォルテ(すぐに強く)」


自由になった『N』の身を逃がさない。すぐにハサミの柄をみぞおちに喰らわせた。
壁に穴を開けたときに積み重なった瓦礫の山、それの上からソングが地面に向けて『N』を叩く。
普段ならば闇がクッションになって衝撃を無くしてくれるだろうが今回は光の中だ。闇はこういうときに動いてくれなかった。
何も助けに来てくれず、『N』は背中から腰の辺りを強く打って、身を縮めた。


「…ひ、ひどー…」


呻く『N』だけれど、それでも逃さない。
『N』を叩き付けると同時に瓦礫の上から降りたソング。叩きつけた『N』より降りる速さが遅い。
その空間を使った。


「ラメントーソ(痛ましく)」


瓦礫の上から降りてくるソングは刃先を下に向けている。
狙いは『N』。確実に腹を狙っている。
それに感づいて『N』が寝転んだまま地面に足を擦り、闇を燈した。


「ずっとやられっぱなしでいられるかよー」


タンッと地面を蹴って、『N』の下半身だけが空の上に立った。
そのときに刃先も足に挟める。刹那、足に纏わりついていた闇がハサミを呑みこんだ。
闇の威圧によってソングも浮かんだままだ。
『N』にハサミを足で挟まれて動けない。しかも闇がハサミを呑み込み、ソングの手も巻き添えにしている。
地面に足をつけることが出来ずに浮かんでいるソングを見て『N』がようやく悪戯っ子の笑みを零した。


「このまま呑み込めー!」


『N』が唱えた直後、闇がソングを丸ごと呑み込んだ。
空の上では人は身動きを取れない。なのでソングは抵抗もせずに呑まれてしまった。
上半身を地面につけて下半身だけを浮かしている『N』の上、大きな闇の塊がある。ソングが埋まっている闇だ。
しかし、それはすぐに散った。

闇に向けてトーフが糸を投げ入れ、その中のソングを引っ張りあげたのだ。


「ソング、無事か!」


一瞬だけ闇に呑まれたソングを糸で引っ張りあげて空気に戻す。
急いでいたためソングを地面に叩きつけることになったが、それのおかげでソングが喉から闇を吐き出した。
闇に呑まれたのが唐突だったので少しばかり闇を吸ったようだ。
だけれど地面に体を打った衝撃で闇を吐いたため、ソングの喉を詰まらせるものが無くなり、無事に空気を取り入れることが出来た。

ソングが咳き込んでいる頃、捕らえた獲物を逃がしてしまった『N』はここで子どものような笑みを邪悪色に染めた。


「チッ…!なめたマネしやがって…!」

「ってか俺のこと完全に無視かこの野郎!」


確かに一人を集中的に狙いすぎだ。『N』は完全に切れて『Q』は違う意味で切れている。
このように二人は互いに苛立っている。
ここから闇の復讐が始まる。

『N』は足に闇を溜めて、『Q』が地面から闇を湧かす。


「次で片付けてやるこの野郎」


『Q』が唸ると、闇が荒波を立てた。
また闇の波か、こいつワンパターンだな。と思っていた二人だったが今回だけ何か違うことに気づく。
よく見てみると『Q』の隣り、『N』の姿がなくなっているのだ。
そして聞こえる、空からの声。


「闇乗りサーフィンだい!」


何と、『Q』が作った波の上に『N』が立っているのだ。
『N』は足に溜めた闇を土台にして波に立っている。

そんな光景を見て、二人が叫んだ。


「「何がしたいんだー?!」」


ご尤もだ。


「うっせえ!黙って死ねこの野郎!」

「そうだそうだー!死ねこの野郎ー!」


波乗りの意味が分からず惚けてしまう二人であったが、その間に闇に乗った『N』が近づいてきていた。
急いで闇から逃げようとするが、ここでこの組み合わせの恐怖を味わうことになる。

『Q』が唱えた。


「消えろ」


詠唱は幸福をもたらし、相手に不幸を与える。
『Q』の指示通りに闇が消えた。そして闇に乗っていた『N』も消えた。

光のせいで消えることが出来ないでいた闇たちだったが、闇を使えば消えることが出来るようだ。
『Q』は闇の変化を操る術が得意なので、これを使って『N』を消した。

見えない相手の存在に二人が身を寄り合わせる。


「あかん…!消えてしもうたわ」

「どこから来るか分からないな…」


不安に思っていると、不幸が落ちてくる。
近くにあった柱が折れて、砕ける塵になる。
するとすぐに他のものが破損する。次々と辺りに瓦礫と塵が降ってくる。

恐怖を悟った。


「予想以上に危険やわ!」

「クソ!ふざけやがって!」


ソングが叫ぶと同時に足元の地面が抉れた。そして悲鳴。
隣に立っていたトーフが倒れていく。

一瞬、目を疑った。
だけれど、これは現実だ。トーフが肩を抑えてもがいている。
消えた『N』の攻撃を喰らったようだ。
一気に恐怖が積み重なった。


「ドラ猫…!」


トーフは答えない。痛みを堪えるのに必死なのだ。
仲間が今、苦しそうに肩を抑えている。そこから溢れる血。
血…。

トーフの血に目を奪われていたのが運の尽きだった。
気づいたときにはソングも横腹から血を噴出していた。

だけれど、そんなの、気にしない。


「やはりお前ら、弱まってるな」


ソングの不敵な笑みを見て、消えている『N』が目を鋭くした。
今度は逆側の横腹に血が滲む。
しかしソングは面構えを変えずにいる。


「姿を消さないと俺らを倒せないと思ったのか?」


また血が掠る。


「俺らはここに立っているだけなのに、何故急所を狙わない?」


見えない闇の刃は確かに掠る一方だ。
その原因をソングが告げた。


「お前ら、もう限界なんだろ?」


今度は深く闇が刺さった。
けれどもこの瞬間をソングは狙っていたのだ。

空間を掴んで、引っ張りあげる。
すると消えていた『N』が、透明の世界から顔を出してきた。
姿の無い闇から引き上げられたので、『N』は姿を空気上に現したのだ。

腕を掴まれて『N』は「げっ」と目の辺りを顰めた。


「…つ、捕まった…!」

「お前ら馬鹿だろ。早々と一人を沈めてしまえば、標的は俺一人に絞られる。よって俺だけに攻撃を仕掛けてくるから、お前らの動きも見えてくる」


トーフが早々と身を倒してしまったため、標的はソングのみになる。それを使ってソングは消えた『N』の居場所を突き止めたのだ。
腹からくる痛みが厳しいが、それでもソングは『N』を追い詰めた。


「今からお前は"操り人形"だ」


ソングに言われなくとも『N』にはその言葉の意味が分かっていた。
気づけばまた両足を縛られている。
足を縛っている糸は、下から伸びているけれど、それはソングの足元に転がっているトーフの仕業であった。

身を倒していた者が糸を伸ばしている。
『N』はそのことが不思議でたまらなかった。


「お、お前やられてたんじゃ…?」

「何言うてるんや」


肩から紅い花が咲いているトーフ、それでもケロっと言って見せた。


「ウソも技の一種やろ」

「騙されたー!!」


『N』の絶叫はそのまま悲鳴に持っていかれた。
トーフが糸を用いて、『N』を使った人形劇を始めたのだ。
ソングは『N』の腕を掴むのを止めて、今はもう一人の相手の方へ向かう。


「はっきり言うがNは雑魚だぞ。そいつにずっと手間かけてるとぁお前らもまだまだだなこの野郎」


待ってましたと言わんばかりに『Q』が二本指を立てて構えている。
刹那、口から闇の炎を吹いてソングを襲った。
しかし、ソングはその炎の中を走る。


「は?!何でお前…!」

「グランディオーソ(どうどうと)」


炎を放てば必ず人は逃げる傾向を見せる。人は炎が苦手なのだ。体が燃えると自分を失ってしまうから。
けれどもその中でソングは己の体を貫き通した。
全てのものに恐れていたら前に進めないと知ってるから。

今ここで精進しなくてどうする?


ハサミを広げることにより、炎を斬って前に進む。
さすがに服が燃えかかったりしたがその前に『Q』の胸を斬っていた。


「…!」

「フェローチェ(荒々しく)」


胸から闇を漏らす『Q』に隙を与えない。
隙を与えた瞬間に、また闇に捕まりかねない。だから荒々しくとも奴をぶっ飛ばした。
始めに傷を負わせた横腹に目掛けてハサミを打つ。よって『Q』は真横にぶっ飛んでいった。

そしてそれ目掛けて飛んでくる小さな操り人形。


「燕(つばめ)」


トーフが『N』を操って飛ばしているのだ。
まるで燕が飛んでいるかのように低く素早く飛んでいく『N』は、確実に『Q』を目指して飛んでいる。


「ぶ、ぶつかるー!!」

「や、やめ…!」


光の中で只でさえ弱っているのに、光の二人に攻められて余計力が半減している。
結局どちらも避けることなく、素直にぶつかってしまった。

『N』を掴んでいた糸が解け、今度は『Q』も一緒に巻きつける。
二人を糸で縛ってトーフは同時に打撃を与えた。


「雷(いかずち)」


場に雷が落ちた。違う。二つの闇が落ちたのだ。
高く上に飛ばされたエキセンが地面に体を沈めたのである。

勢いよく地面に叩きつけられ、『N』と『Q』は深く地面に身を沈めた。


そして、大きな穴が場に残るのだった。



「…………」

「……………」


暴れるものがなくなった。
暴れる原因の者が身を沈めて起き上がらないから静かなのだ。
ただし、穴の縁側の土がパラパラと下にいる闇二人に雨を降らす音だけが響く。
その他には何も、ない。


「…勝ったのか?」


無言の中で、やがてソングが口を開いた。
なるべく、下にいるエキセンに聞こえないように、と。
しかしそれは杞憂だ。そんなことしなくとも二人は起き上がらない。
光の中で暴れることは容易ではなかったようだ。
今はもう、気を失ってグッタリしている。

穴を覗いてからトーフが頷いた。


「…勝った…んやな?」

「…だよな?」

「な、何か、実感せぇへんわ…」

「ああ、普段のエキセンなら絶対に勝てなかっただろうが」


けれども、光に満たされた場所ならば、勝てる要素は高い。
だから二人は勝つことが出来たのだ。


「これも全て、Lのおかげやなぁ…」


しみじみ、そう思う。
もし『L』が光をこの場に落とさなければ絶対にエキセンに勝てなかっただろうに。
いや、落とさなかったとしても、もしかしたらエキセンは、光であるメンバーには勝てなかったのかもしれない。

何だか今のこの時が信じられなくて幾つもの思考を挙げてみる。
だけれど現実はこの様。自分らは闇の一部に


「「勝ったー!」」


これが序盤だろうけれど、それでも嬉しい結果である。
闇二人に自分らは勝つことが出来たのだ。
大きな第一歩を踏み出すことが出来た。それが嬉しい。

今どこかを走っているメンバーに知らせたい。「闇に勝ったよ!」と。


けれども、これも本当に序盤。
本当の敵はまだ奥に身を潜んでいる。
そしてここで喜んでいる無邪気な二人を面白おかしく笑っている。


「クク、まさかQとNがやられるとは、予想以上じゃったな。けども、ここまで来れるかのう?」


ここから少し奥に行けば、不自然に浮かんでいる黒いシャンデリアが見えるだろう。
そこには『C』が腰を下ろして、待っている。
下に、善なるクルーエル一族をへばりつかせて。










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やっと『N』と『Q』を倒せました。

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