「やっと、ここまで来れたんやなぁ…」


円柱は天に伸びているかのように真っ直ぐと折れることなく高くそびえて立っている。
その縁には階段があり、先を見ていると目が眩むのほどの距離がある。終わりなど、見えない。
しかし、その境目をまだかまだかと見つめ続けている一対の金色があった。
肩で息をしながらも足を止めることなく、少しずつ上っていく小さな影。
金色の目が輝かしい、トーフだ。


「あと少しや、追い詰めてやるで」


呪いをかけられた過去を持っているトーフだけれど、もう過去を振り返らない。
前だけを見て、歩いていく。
しかし進むのにも一苦労だ。だから壁を支えにして一つずつ丁寧に段を駆け上っていく。
この壁が無ければ自分はきっとひっくり返っていただろう。
壁に手をかけて上っていき、ふと思うことは、壁はまるでラフメーカーのメンバーの存在に値しているようだ、ということである。

トーフはきっと、メンバーがいなければ永遠と呪いに苦しみ、呪いで死ぬところであっただろう。
全てはメンバーのおかげだ。そう感謝して、また一段足をつける。


そんなトーフに呪いをかけた元凶『C』がくたばり、奴の呪いに掛かっていた者が全員正常に戻った。
トーフもその一人で、数百年の苦しみからやっと逃れることが出来た。
今までは片目を封じての生活だったが、今日からは眼帯なんて不必要なものだ。
顔には二つの金色が輝いている。

呪いを解いてくれたソングに感謝しながら、トーフはここまで、来た。
ソングがシャンデリアに潰れたクルーエル一族を救うために腰を上げたその隙を狙ってここまでやってきた。
なので、トーフが階段を上っていることは誰も知らないのである。

もう、誰にも心配掛けたくないし、みんなを傷つけたくないから。
ここまで一人でやってきた。
トーフは考えたのだ。
もし全員が憎むべき相手を倒したとしても、この場はまだ完全なる光に包まれないだろう、と。
中心核を潰さない限り、闇はいつまでも繁栄していくだろう。
だから、潰すために手をつけていた壁…つまりメンバーから離れたのである。
トーフは今、自分の戦い、そして全員を幸せにするための戦いに、光を目に燈すのだった。


「みんな、無事やろか…」


自分の足音しか聞こえない場。
先ほどまでは銀色の髪を持った者たちが周りにいたけれど、その群れから離れてやってきたのだから、この場に自分しかいないことは承知の上である。
他のメンバーもきっと、戦地で大きく胸をなでおろしているであろう。
何となくだけれど安堵のため息の声が聞こえてくる気がする。
全員が憎むべき相手を鎮めたに違いない。

自分と違って、ラフメーカーのメンバーには全員、光がある。
闇なんかに負けるはずがない。
きっとそれぞれが笑顔を燈して、場を燈している。
そう信じているからこそ、安心して自分の足音を聞くことができるのだ。


明るい未来。
どんな形をしているのだろう。
今までは全員が暗い過去を持っていた。
しかし、きっと全員がその過去を解消したはずだ。
もう、残っているものは明るい未来だけなのである。
だからトーフも一緒になって考えてみる。
明るい未来ってどんなものなのだろう…。

こんな自分にだって、未来が待ち構えている。きっと。
それはどんな未来だろうか。それは笑顔を浴び続けることが出来る未来なのだろうか。

いや、今からその未来を作るのだ
自分はおろか、メンバーそして人々全てが幸せに笑みを零せるように、
今ここで、完全に闇を消し光を放とう。
そう思い、ここまでやってきたのだから。


「……先は闇やな…」


金色の目に映る景色は光を纏った闇。
今は明るいけれど、もしここで失敗したら色は闇に戻るだろう。
気をつけなければ、ここの闇はすぐに世界に手を伸ばすに違いない。


「こん隠れた闇も全て光にしてやるからな」


トーフは独り言を言って、ニヤリと表情をゆがめた。
そしてまた一歩足を踏み出し、中心核へと近づいていった。



+ + +


また一つ、闇が沈んだ。
そんな馬鹿な。ここにいる闇たちは皆、世界を侵略できるほどの実力者たちだというのに、何故闇全員がくたばっていくのだ?
あの『C』や『U』までも鎮まるなんて、計算外だ。予想もしていなかった。

高い塔、それはエキセン城の司令塔でもある。
しかし、塔の中身は最上階までに繋がる階段のみだ。
そして最上階も一室だけ。広くもなく狭くもない、空間。
その中に、闇をまとめる支配者がいた。


「信じられないでアール。まさか四天王の2人まで光によって沈んでしまうとは…誤算だったでアール」


"支配者"こと『R』が、部屋の中央にある水晶玉を眺めて驚愕している。
この水晶玉には、大まかであるが今の状況を探ることが出来るのである。
今、水晶の中に浮かぶ色は白一色だ。
闇の気配が徐々になくなっていっている。
その情景に『R』は目の辺りを顰めた。


「四天王のGは寝込んでいるし、残るはLでアールか。しかしLはもう信用できないのでアール」


エキセントリック一族の中で、最も優れた能力を持っている者が四天王に選ばれる。
四天王に選ばれたからといって特に何もしないのであるが、たまに特別な会議がおこなわれるぐらいだ。
いつもそこで『L』が『R』の考えを常に批判していた。
それがまさか今回でこのような形で結果を結び付けてしまうとは思ってもいなかった。
『L』がひそかに持っていた光がこの城を包んでしまった。
よって、『C』も『U』も光のせいで実力を発揮できないまま沈んでしまった。
ちなみに『G』も四天王の一人なのだが、奴は『B』に精気を大量に吸われてしまったようでいまだに立ち直っていない。

四天王の『C』と『U』があっという間に倒されてしまった現況。
この先、どうすればいいのか、と『R』は頭を抱え込んだ。


「…本当に困ったでアール。闇は光より強いのではないでアールか?ワガハイは勘違いしていたのでアールか…」


『R』が現況に目を覆っているとき、足元から湧きあがる声に気づいた。
『R』の影がくにゅっと伸びてやがてそれは立ち上がる。


「心配することはないゾナー。CもUも鎮まってるだけで闇自体は消えてないゾナー」


それは、エキセントリック一族の隠れた情報屋、『Z』だ。
しかし彼の慰めも『R』には通用しなかった。
『R』は皮肉を告げる。


「しかしでアール。奴らはもう戦う気力が残っていないでアール。それでも無事だと言う保障はあるのでアールか?」

「そ、それは難しい質問ゾナー…。ゾナーはRと違って相手のことを読めないゾナー。機械に出るデータを情報にしているだけゾナー…」


『R』の質問に答えることが出来なくて『Z』がへこみだした。
シュンッと体を小さくする『Z』を見て、今度は『R』が慌てて「そんなことないでアール」と言い、勇気を与えた。


「ワガハイは常にゾナーの情報を頼りに闇を操ってるでアール。今回もゾナーがいなければワガハイは何も出来なかったでアールよ」


勇気ある言葉を送るけれど『Z』はよりへこんでしまう。


「だけどゾナーの考えで全てが崩れていってるゾナー。みんながばらばらになってるゾナー。これは全てゾナーの責任ゾナー」

「ゾナーでアール…」


『Z』の情報が的を外した。
だから闇が次々と沈んでいる、と、『Z』は声を小さくする。
そして『R』も反論することが出来ずにいた。
今まで的をはずしたことがなかった『Z』が落ち込んでいる姿を見て、ひどく自分自信が情けなく見えたので。
『Z』を慰めるためにどうすればいいか考えた結果、素直に気持ちを言うことが優良だと判断し、『R』は口を開く。


「ゾナーには嫌な思いをさせてしまったでアール。ワガハイがゾナーに頼りっぱなしであったでアールな」


『Z』が足元でふさぎこんでいる。
だから『R』は体を屈して『Z』の頭をなでてあげた。


「ワガハイがきちんとしていないからゾナーに責任を感じさせてしまったでアール。悪かったでアール」

「……」


謝る『R』を見て、『Z』はくりくりと目を丸めた。
この様子から『Z』は、『R』が謝っている事自体を理解していないようである。
今までそんな風に考えていなかったから、このような表情をとることが出来るのであろう。

『Z』がじっと『R』を見上げているとき、『R』は再び頭を抱えだした。
懸命に自分で結論を出そうとしたのだが、見つけることが出来なかったようだ。
結局はまた声に出して『Z』を困らせてしまう。


「これから先、闇はどうなってしまうでアールか…」

「それは…わからないゾナー」


『Z』がキーボードをカタカタ叩いて答えを探しているけれど、この戦いの終末はどうなるのか、結果を導くことができずにいる
果たして、これから先この城で何が起こるのか。
強烈な闇を使える者たちが次々と沈んでいる中で、どうやって闇は生き残ればいいのか。

ここで、終わりの鐘が鳴ることを大人しく待っているだけなのか。
いや、違う。
今ここで、その鐘が鳴ってしまうのだ。

突如現れた、光の存在の、登場により。


「ついに見つけたで!あんたが中心核やな!」


光の存在、それは金色の目が放っている光であった。
部屋の扉が豪快に音を立てて、それからゆっくりと戻っていく。
その隙に部屋に滑り込み、小さな影は不敵に笑みを浮かべていた。

この塔の階段を登っていたトーフが今、中心核の『R』と『Z』の元にやってきたのである。
『Z』がいろんなショックに押しつぶされて震えているため、『R』が前に出て『Z』を庇った。


「何でアールか。勝手に我が城にあがりこんで、無礼でアール」

「じゃかあしいわ!あんたらこそ何も関係のない人間を傷つけていってる、まさに無礼そのものやんけ!」


大きく肩で息をするほど、ここまでの距離は長かった。
トーフは深く深呼吸し、そして『R』を再び睨んだ。
そして『R』も冷静にトーフを睨んだ。
これは睨み返したわけではない。意図的に睨んだのである。

トーフのことを『Z』の情報ですでに得ているから。
トーフこそが、ラフメーカーを集めた張本人で、世界侵略の邪魔に励んだ者だ。
闇の者にとってみればトーフが最も恨むべき相手なのである。
早速、手をパンパンと打って、トーフの足元に闇を張り動きを封じようとする。
しかし、トーフが素早く避けていた。


「残念やな。ここは光に包まれとるんやで。あんたの闇なんかトロイわ」

「…まさかワガハイまで闇が弱まってるとは、驚いたでアール」

「驚くんはまだ早いとちゃうか?」


トーフさえいなければ、闇を世界に広めるときに邪魔を受けなかっただろうに。
ここまで計画が狂った原因は全てトーフの存在があったからだ。

ラフメーカーは"笑い"が独特であり、その笑いを使って『L』が"ハナ"への対処法を雫という形で表した。
ラフメーカーの役目はただそれだけだ。
"ハナ"が苦手とする"笑い"を持っているだけで、『L』がそれを利用して武器を作っただけ。
彼ら自身には何も力はないのである。
ただ、笑いの光が強烈なので他の誰よりも笑顔が素敵なぐらいだ。

"ハナ"が世界侵略の種となる武器。
それを消すラフメーカーの存在は確かに恐ろしい。
しかし彼らは雫を作るだけであり、他には何も力がない。
"ハナ"の場所だって、本当は知らないのである。

しかしラフメーカーは次々と"ハナ"を消していった。
雫を作るだけである彼らが何故"ハナ"の居場所を突き止めることができたのか。
答えはずばり簡単だ。

トーフが"笑い"を見極めて、"ハナ"の在り処を見つけていたのだ。


「お前はただの黒猫のはずでアールが、ワガハイたちの計画を邪魔するほどの知識を持っているとは…」

「ワイは黒猫やない。Lに人間にしてもらったんや」

「全く、Lも理不尽でアール。黒猫を人間にするなんて意味が分からないでアール」


トーフこそが元凶。
奴さえいなければ闇は世界をのっとることが出来たというのに。

しかしトーフ側から見れば、『R』が闇の支配者であり、闇を動かす張本人である。
『R』が闇の者をまとめているから、世界侵略計画が進んでしまったのである。

つまり、ここでにらみ合っている者たちこそが、
この戦いの種なのだ。

トーフは目を細め、二つの金色を閉ざした。
また深呼吸して心を落ち着かせて、また目を開ける。
金色がより一層輝いた。


「ほな、今からあんたの前で綺麗なもん、見せてやろか」


そして、トーフは懐からあるものを取り出した。
それは光り輝いていた。それこそが光の塊であった。

『R』も思わず目を細め、『Z』は身を崩して影に沈んでいった。


「…その光は何でアールか…」


普段はここまで光らないものなのに、やはりこれは事の状況を判断したのか、凄まじい光の強さだ。
さすがひょうたん、これまでに様々な"ハナ"を吸っただけはある。

トーフは口元を歪めて勝ち誇った表情をかたどった。


「どや。これがラフメーカーの光やで」


ひょうたんの管理は常にトーフがおこなっていた。
ひょうたんの下部は水晶になっていて、その水晶が素敵に光を燈している。
それを懐に入れていると何だか和らぐのだ。だからトーフが進んでこの担当を引き受けていたのである。

この光こそ、世界を救う鍵となる。
ラフメーカーが作った雫によって形を丸められた"ハナ"、それが大量に封印になっているひょうたんだ。
人々を狂わせる力を持っていた"ハナ"をいとも簡単に封印してしまうほどの力を持っている雫がラフメーカーの笑いの力。

この形はまさに、闇を包んだ光、である。

トーフがまた得意気に笑った。
それは悪戯っ子の笑みにも見えた。


「この光なら、完全にここから闇をのぞくことが出来そうやないか?」

「…何を言ってるでアール」

「つまりや、このひょうたんで全てを分からせてやるんや」


ひょうたんを目元に持っていって、金色の瞳にひょうたんを燈し、ひょうたんにも金色の光を燈した。
トーフは、笑った理由を、一言でまとめる。


「光が闇より強いんや!」


今だってここは光の中だ。
『L』が落とした光。それも十分に素晴らしい力を持っていた。
しかし、やはり彼にも限度があり、光はこの城にしか落とすことが出来なかった。

だから、彼に続いて、トーフも光を降らそうと思った。
ここが闇の司令塔。中心を潰せば、闇だってすぐに光に染まる。

ものは必ず中心の芯で支えられている。
闇だって同じ。光だって同じだ。

芯さえどちらかの色に染まれば、自然とものはその色に変わってしまう。

トーフは、世界を光にしたいと思ったから、闇の芯であるこの場に、光を落とそうとした。

光をここで…。


「や、やめるゾナー!!」


『Z』が縮めていた身を伸ばして、懸命に叫ぶ。
それは光を落とすな、という意味で叫んだわけではなくて、トーフの背後に立っている者に向けて叫んだ言葉。

光は、まだ落ちない。









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