ここは、エキセン城の起点となる場所、踊場。
広い踊場であり、大きなシャンデリアが置かれるほどだ。
置かれている。そう、吊るされているのではない。空気を潰して地面に落ちているのだ。
シャンデリアは踊場の中央に無残な姿になっていた。

そのシャンデリアの下には複数の影がある。
銀色の魂たちが黒いシャンデリアの隙間からうめき声を上げている。
苦しそうに息をしている声が漏れ聞こえてくる。

それらを救いたいために戦う銀たちがここにいた。


「さっさとみんなを助けてやらないとな」


クルーエル一族の智属長が大きなナイフを両手で支えて、どっしりと構えている。
そんな彼を横目で見て、幸属長もショットガンに新しい弾を装弾した。
恩属長は、呪いを受けて血を流しているトーフを壁に寄らせたついでにぬいぐるみのたぬ〜も横に置いたようで、今は手ぶらで立っている。
そしてソングは大きなハサミを構えて、辺りを睨み見渡した。

黒いシャンデリアが落ちている踊場と繋がっている廊下に立っている彼らだけれど、その他には何もない。
闇も姿がなかった。


「…ノロイが…出てもらわないと…戦えないんだけど…」

「全く。あんな奴、光で干からびればよかったのよ」

「それはいいすぎだろ幸」

「………」


クルーエル一族の善なる3属長が仲間に加わったいうことでソングは肩の荷を降ろしていた。
今、自分らが相手している闇というのが、エキセントリック一族内でもトップに立っている闇である。
あの『L』だって敵わない相手だといっていた。それが『C』。
見た目は老人だというのに、何かと動きが鋭い。
現に今、姿を消して場に異様な空気を漂わせているだけ、ある。

先ほどここまで一緒にやってきたトーフも、『C』の呪いのせいで動けない状態になっている。
そのため一人で戦う運命に立たされていた。
しかし、今ここには強い味方が揃っている。
昔から『武』の一族として恐れられていたクルーエル一族の属長らが一緒だ。
力をあわせて戦えば、きっと勝てる相手であろう。

だけれど、今まで協力して戦ったことがないソング。
果たして今回無事に戦うことが出来るか、不安なところである。


「お前ら、ちゃんと動けよ」


ソングは、自分の後ろに立っているのがクルーエルの属長らだということにもかかわらず、普段の口の聞き方をしていた。
そのためすぐに機嫌を損ねるのは、この中で雄一の紅花、幸であった。


「年上に向かって失礼なものの聞き方ね」

「……年の差、変わらないと思うけど…」

「あんたは黙ってなさい恩」


仲間に喧嘩腰を見せる幸をとめようと恩が仲裁に加わるが一発で砕けた。
きっとこれから先、幸はソングを吹き矢で命を射止めるだろう。そんな雰囲気が漂っていたが、智がここに来た目的を彼女に教えてやることで無事に鎮めた。


「俺らはノロイを倒すんだぞ?それなのにこんな些細なことでもめてちゃあ、この先心配だなぁ」

「…ま、確かに智くんの言うとおりだわ」


智の言うとおりであったため、幸は素直に聞き入れ、ポンプアクションをしてショットガンを撃つ体勢を完全に整えた。
他の者は、些細な揉め事がすぐに中断になったことで一安心する。

しかし、相手が見えなければ話にならない。
早速、消えた『C』を誘き寄せるために言動で威圧を与えることにした。
まず智が先頭に出る。


「おいノロイ!さっさと出て来い!」

「そうよ。出てきた瞬間、あんたを仏壇に飾ってやるわよ」


続いて幸も、『C』が出てきたらすぐに額に弾をぶち込めれるように高い位置に銃を備えた。
続く恩は、性格が気弱なために、おどおどしていて声が言葉として出ていない。
なのでソングが言った。


「お前と戦うことが俺の宿命だった。だから俺はお前を倒して平穏無事に過ごすんだ」

「うわ、凡人くせぇ!」

「凡人じゃねえよ!一応お前らと同じ血を持ってるんだぞ!」

「私は認めたくないわね」

「なんか言われた?!何だこの女!」


ソングが暴言を吐くと、幸の銃口が移動した。
今ここで引き金を引けば、ソングが代わりに仏壇に上がり、額に赤いほくろがある仏になるであろう。
また些細なことで喧嘩をし始めてしまったので智がこの間を宥めようと手を上げる。

しかしその刹那であった。


「「!!」」


全員が今の場を離れる形になった。
直後に、その空間が歪み、地面が闇の溶解液と化した。
地面の一部分が危険を匂わす闇になり、ドロドロと周りを支配していっている。
あれに触れたらどうなるのか、予想できるようで、出来ない。

突然の闇の登場にクルーエル4人は驚きを隠しきれない。


「クソ、ふざけてる…!」

「ノロイの襲撃って全体的に恐怖が入り混じってるよな…」

「なに気を緩めてるのよ!来るわよ足元に!」


見えない相手からの攻撃は、どこからどうやってくるか分からない。
しかし、さすが光の中。『C』が攻撃を始めた途端、『C』の気配を感じ取ることが出来るようになった。
気配を追って闇が来る場所を予測できる。
さすがの『C』も光の中ではいつもの調子を取り戻せていないようだ。

そして幸が言うとおり、ソングと智の足元から邪気が漂っていた。
二人が一斉に避けると、その後に闇の泥が湧き出て上がってくる。
思った。エキセントリック一族はこのようにねっとりとした攻撃を好むようだ。

ショットガンを構えながら幸が移動する。


「一発でしとめるわよ」


宣言してすぐに、ドンっと一発、鈍い銃声が響いた。
幸の近くにいた恩はその重圧に押しつぶされて体勢をを崩す。そしてソングも崩していた。

空気を抉って進んでいく重い銃弾は、傍から見れば何も無い場所を狙っているかのように見える。
しかしそこからビンビン気配を感じるのだ。
『武』を誇るクルーエル一族だからこそ感じ取れる、相手の気の流れ。

幸が狙った場所。そこは辺りに何も無い、空気だけの場所であったが、銃弾が当たることで無空間が闇の爆発を生んだ。
まるで水が入った風船を割ったかのような状態だ。
透明の風船の中に闇がびっしり詰まっていて、膜が割れたことで中の闇が破裂という形で花の形で散っていく。

突然の闇の小爆発に、ソングだけが目を見開いていた。
対して他の者たちは平然としている。

ここが属長たちのすごいところ。
戦いに関すればどんなことでも動じない、冷静心を持っている。
ソングはここで初めてクルーエル一族の強さを知った。

しかし、その冷静心も個性溢れている。
智は、強い音のおかげで目が覚めた、と言わんばかりに目を擦って場を見やっていた。


「ノロイがいたのは確かだけど、逃げられたか。ホントにエキセンって逃げ上手だよな」

「逃げ上手だからこそ…今までずっと…襲われることが無かったんだね…」

「どういう意味だ?」


逃げ上手との事で恩がふと声を漏らす。
ソングは彼の言っている意味が分からず無意識に問いかけた。
すると人見知りの恩はビクついて何も言わなくなってしまう。

そのため代わりに智が言った。


「考えてみろよ。こんなにも堂々と城が建っているというのに、今まで一度もこの城は襲われたことが無かったんだ。普通考えてみてもそれはおかしな話だ」


確かに、エキセントリック一族といえば数百年も前から生きている者たちだ。
それなのに今まで一度も城を襲われたことが無いというのは摩訶不思議な話である。


「ま、一度だけクルーエルの誰かが侵入したみたいだけど、奴は帰らぬ人になったし」

「みんな怖れて近づかなかったのよね」

「なんていうか…近づこうとしても近づけられないんだよね…」


先ほどの小爆発以来、この場はまた静かな場と変わる。
ソングは今のうちにエキセンのことを知っておこうと思いこっそり耳を傾けた。
そして属長らも淡々と話を進めている。
ショットガンの銃身下にあるスライドを前後に往復させることでピストンをコッキングさせて、幸が再び構えているけれど。


「俺らはこっそりと何度もここに来ていたんだ。交流を深めようと思って」

「他の4属が反対していたけど…エキセンの『魔』には興味があったからね…」

「けど、エキセン城に行こうとしてもたどり着けないのよ」

「…何?」


まず、この3人がこっそりとそのようなことをしていたことに驚いた。
奴らが属長になったころはきっとエキセンの中心の者が死に、彼女が狂った時代であろうに。
しかも呪いを体内に留めている状態でエキセン城に近づくとは…。
交流を深めようと考えたこの3人がすごい。

そして、幸が言った情報が最も気になった。


「たどり着けないだと?」

「そうよ。あなたたちもここまで来たんだから分かるでしょ?この城の付近は闇の地帯だって事を」


エキセン城まで走ってやってきたときは夢中だったために然程辺りを見渡していなかった。
だけれどそれでも感じた闇の気配。
付近に入った途端にヒヤリと冷たい感触が走り、それは恐怖に触れた前触れだと実感させられた。
メンバーはあのとき、エキセンたちが張っていた闇に入っていたのだ。

エキセン城は他からの進入を妨げるために闇を張って、者を近づかせないようにしていた。
感じ的にこれは『R』の仕業であろう。
しかし、ここの3人が何度か試みたことをラフメーカーはいとも簡単に成功して見せた。
それはなぜか。


「お前らが光の存在っていうのと、一緒に来たときにエキセンの者が混じっていた事が無事ゴールに導くことが出来たってとこだろうな」


智の解説にソングは納得した。
光は闇を溶かすことが出来る。まるで鉄に半田ごてを通した形のように、闇という冷たいものに光という熱が走ることで溶かしていったのであろう。
そして『O』の存在があったことも理由に入る。
それと、城の中に『L』がいたこともこの結果を生んだのであろう。
彼が中から光を燈したことでメンバーも容易に入ることが出来た上、彼が場に光を落としたおかげで後から応援に駆けつけてきたクルーエルも進入に成功することが出来たのだから。


「まさか今回、ここでエキセンと戦うことが出来るんて思ってもいなかった」

「交流を…深めようと思ったんだけど…」

「何言ってるのよ。私はノロイだけは絶対に許さないわよ。あいつを沈めて呪いを解いてから、交流のことを考えなさい」


『C』のせいで慎んだ行動しか出来なくなったクルーエルだけれどそれでも交流を深めたいという銀の魂がここにある。
呪いを解きたいから戦うという彼らだけれど、それが終われば交流会だと言う。
ソングはその考えがいまいち理解できなかった。

だけれど今分かることといえば


「クソ、容易に話してられないな」


再び『C』が動き出したということだ。
姿を消したまま『C』が闇を生み出していく。
普段の『C』ならば、もしかすればこの廊下いっぱいを闇に変えることが出来るだろうけど、今は一部分一部分丁寧に闇にしていっている。
しかし、動きと威力は変わっていないようだ。

『C』の闇が動いたことでまた気配を感じることが出来た。
急いで全員がかっ飛ばす。


「うーん、困ったなぁ。相手が見えないからどうしようもできないな」

「場所は確定できるけど、そこまで行くのに結構つらいわね」

「絶対に…近づかせてくれないはず……」


気配を感じるのに、近づくことが出来ない。
湧き出てくる闇が進行の邪魔をするのだ。
目的地に行けなくて歯痒い状態である。

その中でソングが動いた。


「それならば逆に遠ざかればいい」


突然なんていうことを言うんだこいつ。
しかしすでにソングはそのように動いていた。

背を向けて逃げていくソングを見て、逆に驚いたのは味方である3属長らである。


「「逃げた?!」」

「はあ?逃げるなんてどんな神経もってるのかしら?!」

「ちょ…ちょっと待ってよぉ…!」

「ってか逃げ足速いな?!」


クルーエル3属長らも急いで振り返ってソングの背中を見届けた。
さすが毎日食い逃げをしてすごしていただけあってソングも逃げ足が速い。
何故か逃げてしまったソングを見てはじめは呆気にとられていたが、目的を思い出して智が声を張った。


「お前は仲間と俺らの呪いを解くために戦うんじゃなかったのかよー?!」


しかしソングはどんどんと廊下の奥へ引っ込んでいく。
このまま行けば出口だ。この廊下は先ほどソングとトーフが闇二人を倒した場所に繋がっている。奴らを倒した場所はエキセン城の出入り口付近だ。
だから普通に考えれば、この廊下を逆戻りすることで外へ出ることが出来るのである。

しかしそれまでの距離が長い上、何よりも先に闇の手が伸びてきたために、引き止められるのだった。


「クク…、ここから逃げられると思っているのか?」


逃げていたソングがピタッと止まる。
ヒヤリと冷たい感触が首に伝わる。
木材で出来た杖だろうに、何故こんなにも冷たいのだろうか。やはり杖までも闇に侵されているのか。

立ち止まっているソングの背後には、『C』が立っていた。
背後から『C』が杖を伸ばしてソングの首に引っ掛けているのである。
だから動けない。
逃げれない。
そして、『C』を逃がさない。

ソングは不敵に笑った。


「誰がこんなところで逃げるかよ。というか、お前こそさっきから姿消して逃げ回ってるんじゃねえよ」

「…!」

「正々堂々と形で勝負だ」


刹那、ソングが後ろへ返り、持っているハサミで『C』を串刺しにした。
しかし、当たらなかった。その場に『C』がいなかったのである。
そう思えばすぐ後ろから気配を感じる。

また先ほどのように杖でソングをとめて、『C』は目を細めて理解した。


「ほう、お前もなかなか考えたな。背を向けて逃げる奴ほど捕まえたくなる、その心理を狙ったということか」

「お前なら特に俺を狙うと思った」


頷いてソングは付け加えた。


「あそこにいる3属長らは呪いを受けてお前の傀儡だ。好きなときにへばりつかせることが出来る。対して俺はお前の呪いを受けていない自由の身だ。だからお前は俺を先に始末しようと考えている。そうだろ?」

「クク」


『C』はソングの意見を笑って流す。
そして『C』は、あの場で何故クルーエルの3属長らを呪いでへばりつかせなかったのか説明した。


「あんな輩、すぐに消すことが出来るからのう。相手にしてもつまらん」

「…」

「エキセンは相手をじっくりと痛めつけるのを好むんじゃ。ワシもそのタイプじゃな」

「…」

「クク…どうせ滅びる一族じゃ。今のうちに好きにさせても罰は当たらんじゃろう」


さりげなく『C』はクルーエル一族をここで始末すると告げている。
かなり余裕を持った発言をする『C』を背中において、ソングは頬を歪めた。

お前の言葉をそのままひっくり返す。と前言し。


「俺は相手を一発で仕留めるを好む。だからすぐに相手を消したいんだ」


閉じていたハサミを高速で開き


「そして、滅びるのはてめえらの一族のほうだ!」


半身に返って『C』をハサミで斬った。
案の定、挟まったのは闇という空気だけで、本体は斬れなかった。
『C』は瞬間で霧になり、霧状の闇と化して、移動していっているようだ。

ここでソングは、『C』が自分の言葉を聞き入れてくれていることを知った。
正々堂々と姿を現して、『C』が今、クルーエル3属長の元まで霧のままやっていく。









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