不慣れな手つきで空に円を描き、勢いのある炎を湧かす。
ペガサスがチョコに力を貸しているのだ。
チョコと一団となって、自分らの人生を変えた闇に攻撃を仕掛ける。

チョコと合成しているペガサスは、元はといえば本物のペガサスではなく、こちらも合成獣だった。
白馬とワシが合わさって、その上に奴の魔術をかけられて本物のペガサスになった。
それだけで十分だったのに、奴は人間のチョコとも合成させた。
ペガサスは二重の合成をかけられたのである。

このことをチョコも知っている。
幼いころ、『A』と対面したときにそんな話をしていたのを実際に聞いているから。
ペガサスが自分より悲しい人生を背負っていることを知っている。
だからチョコはそんなペガサスの好きにさせたいために、今はペガサスに攻撃を任せた。

ずっと奥底に潜んでいたのに忘れられた存在だったペガサス。
しかし今チョコに意識してもらえた事で、力を出すことが出来る。
ひっそり、ではなくて、どうどうと。

内から湧き上がってくる魔力に少々びびりながらチョコは声を張った。


「カレント!」


『A』が少し焦った様子で両手を振り上げようとしている。
その手に向かって電流を飛ばし、手を弾かせた。
バチッと痛々しい音が飛び散り『A』も悲鳴を上げて呻いた。


「痛っ!何するのかね!キミはボクが作った合成獣だよ?パパに向かってそんな態度をとるなんて、野蛮だね!」

「うっさい!あなたなんかパパじゃない!ただの狂ったおじさんよ!」

「く、狂ったおじさんだってぇ…!?」


まさにその通りなのだが、『A』は狂っていると言われて黙ってはいなかった。
今度は邪魔されないようにすばやく両手をあげて、新手の合成獣を繰り出す。
尾が4匹のヘビであるライオンの合成獣、なんとも言えない作品である。
しかしそんな合成獣も、チョコに牙を向けずにおとなしく身を寄り添ってきた。


「…この子たち…」


ペガサスの魔力で合成獣の勢力を弱めたのだけれど、チョコはその力が合成獣を鎮めたとは思わなかった。
ふと、こんなことを思っていた。


「私の味方についてくれるの?」


ここにいる獣たちは皆、合成獣。
皆が皆、同じ気持ちなのだ。
『A』のせいで魂が一つになった。このことがどうしても許せなかった。
二つの魂が一つになること、これは大きな差を生じている。

それぞれにはさまざまな生きる道がある。
しかし合成獣になることでその道が乱れて、壊れて、行く道が消えて、己に自信がなくなる。
人前に現れると人々に恐れられるので、最終的に行き着く場所は『A』の手元になるのだ。
合成獣たちは嫌でもその場所に行く運命に立たされていた。
"失敗作"だと思われていたチョコだけを除いて。
チョコはある合成獣によって逃げることが出来たのである。

チョコは失敗作として扱われていたけれど、それでも太陽の光を浴びることが出来たのだ。
他の合成獣たちと違って、何に関しても自由だったのだ。
束縛する者がいなかったのだから。


「私にあのおじさんを倒してほしいの?」


合成獣になった哀れな魂たちは、『A』の元から一秒でも早く離れたかった。
しかし外に出れば人々に恐れらて刃を向けられる。
そして『A』の元へ帰れば狂った研究を見ることになる。より心が傷ついてしまう。

なので自由になりたかった。
そこで合成獣たちは考えた。
我々と同じ哀れみの魂を持ったチョコの元にいれば、きっと人生を変えることが出来るだろう、と。
チョコならば合成獣たちがどんなに心を傷つけているか見抜くことが出来る、そう思えたから一緒にいたいのだ。

チョコのように人生を変えたいから、
『A』を鎮めてここから離れる。そしてチョコの隣にいて人生を徐々に変えていく。
太陽の下でのびのびと生活したい。
そう強く願ってチョコに気持ちを伝えた。

『A』の魔術に逆らって、ペガサスの魔術に従う上での条件。
どうか自分たちをあなたの元に居させて。


「うん、わかったよ」


チョコは、合成獣たちの願いを受け取って承諾した。
『A』を倒そうと棍棒をギュッと握って身を構える。


「って、私は何も出来ないのになー…」


背後から浴びる視線があまりにも熱いものだったため、成り行きで武器を構えていた。
しかし、成り行きでなくとも武器を構えていたであろう。
だって自分も思っていたから。
ここにいる合成獣たちを自由にしてやりたいと思っていたから。

だけれど、チョコ自身は何も出来なかった。
魔法もペガサスがおこなっていたもの。足の速さもペガサスのもの。
そしたら自分には一体何が残る?
本当に何も出来ない役立たずではないか。
それなのに……。

この調子ならば『A』に勝てるかも、と思っていた気持ちも、あっという間に落下する。
燃え盛っていた心も目も、急激に冷え切った。
テンションがグッと下がった。

自分は何も出来ないというのに。
そんな強い希望を持ってほしくない。
何だか申し訳ないように感じる。
ペガサスが居なければきっと自分はまた泣いていただろう。
いや、泣く前に消滅した存在だったかもしれない。

体が震えてきた。
燃えていた炎が水が掛かったことによりしぼむ。
今まさにチョコはその様だった。

自然と頭が下がる。


「ひゃっひゃっひゃ!どうしたんだね?やっと自分の弱さに気づいたのか?」

「……」

「そうさ!キミは弱い!ボクと会うまで自分が合成獣だとは知らなかった。自分のことを知らない人間というのは自分に意識する有余がないほど力がなく弱いのだ!キミはまさにそれだよ!」


そうなのだ。自分は弱い。

チョコが自分を追い詰めていると、内にいるペガサスが勇気付けるように魔力を湧き起こしてきた。
しかし、チョコは否定する。
あなたは確かに強い。無力な自分に力を貸すほど力が漲っているから。
対して自分は、他を頼るしかできない、本当に駄目な人間だ。

『A』を倒したいと思っていたのに、合成獣たちを救ってやりたいと思っていたのに
世界を救いたいと思っていたのに、気持ちが上がらない。
最悪だ。どうして自分はこんなにも弱いのだろう?
みんな戦っているというのにどうして自分だけ逃げようとしているの?
だめだよ、逃げちゃ駄目。

だけれど、自然と足はすくんでしまうのだ。


「…怖いよぉ…」


いつもならばここでみんなが庇ってくれるのに。
今では誰も助けに来てくれない。それはそうか。みんな戦ってるんだ。自分の人生を変えた闇を沈めるために戦っているんだ。
だから誰も助けに来てくれない。

ああやっぱりだ。
自分は自然とみんなに助けを呼んでしまっている。


「私は…なんて…弱いの…」


体内からペガサスが声をかけている。
あなたは弱くないよ、と。

何言ってるの?弱いじゃないの。
いつも助けを呼んでいる自分、最も惨めな姿じゃないの。

しかしペガサスは否定している。
『A』がこの場に現れたとき、あなたは仲間を通すために武器を構えて立った。
その意思は紛れもなくあなたのものだった。と。

確かにあの時は頭がいっぱいだったから。
仲間にいつも助けてもらってばかりだから、どうしてもハードルを越えたかった。
勇気を振り絞ってこの場に立ったんだけれど、結果はこの様。哀れな姿だ。
仲間に心配かけたくないと思っていたというのに今まさに心配かけてしまっている。
やっぱり弱いんだ。

ペガサスは何も言ってこなかった。
言い返すことが出来なかったのか…。


「ひゃっひゃっひゃ!さっきまであんなにボクのことを許せないとか言って攻撃をしてきたって言うのに、その意思は全てお前の中のペガサスのものだったってことか!なるほどね!キミの中のペガサスは生きていたのか!しくじったよ!」


普段のエキセントリック一族ならばチョコの中のペガサスが立ち上がったということにすぐ感づくだろう。
それなのに、さすが光の中だ。見事奴らを鈍感にしている。

ペガサスの存在に気づいた『A』はここで舌なめずりを起こす。
奴の目が危険になった。


「そうか、ペガサスは消えてなかったのか…!この魔力全てがペガサスのものだということは、キミたちの合成は成功していたってことか!ひゃっひゃっひゃ!これは面白いぞ!」


『A』は哂った。


「キミがほしいよ!ペガサスとの合成獣!素敵だね!さあこっちにおいで!ボクのコレクションになるんだ!」


ここに、第二の自称神、光臨。
チョコが成功作だと気づいた刹那のこの態度。
チョコの中のペガサスは憤った。
対してチョコは、動かない。
足はおろか体がすくんで動けないのである。

その間に『A』は怪しい手つきを見せながら近寄ってくる。


「ほしい…ほしい…!ボクのコレクション…!」

「……っ!」


鼻息を荒くして徐々に迫ってくる危険な闇。
恐怖に押されて足が自然と動く。
一歩後ずさりすると、背後に居た合成獣たちも驚いたのか、さびしい声を上げた。
その声を聞いてチョコは言葉を察する。


「…………」


がんばれ。

動物たちが言っていた。
無力な自分に向けて応援してくれた。

また聞こえる。声援が。
合成獣の鳴き声は声援となって耳に届く。気持ちが起き上がる。


「…私、何も出来ないけど、それでもいいの?」


チョコが背後に問うと、合成獣たちは頷いていた。
その動きと同時に言っている。

仲間たちが帰りを待っているよ、と。


「…みんなが待ってる………」


そうだ。自分には今、帰るべき場所があるのだ。
それはラフメーカーのみんなの元。
そこへ行き着くためには、目の前の闇を押さえ込まなくちゃならない。

どこからだろう、天使が舞い降りたかのような眩い光が放たれている。そんな気配をなんとなく感じた。
メンバーの誰かが落とした光だろう。なんて素晴らしいのだろうか。
遠くからでも気配を感じることが出来るなんて、すごい。
やっぱりみんなはすごい。

私も無力だけれど、がんばればできるかなぁ…?


内のペガサスが言った。
自分も手伝うよ。
自分からみてもラフメーカーのメンバーというのは仲間のようなものだから。
今までチョコを通じてだけれど、彼らに守られてきた。
今度は自分が守る番だ。

だからまずあなたを守りたいんだ。


チョコは承諾する。


「そうよね、私たちは今、一心同体。ペガサスだって今は"私"だもんね」


だから共に戦おう。


「ごめんね、一人で沈んじゃって」


チョコが自分に謝っている姿を『A』は面白おかしく笑っていた。


「ひゃっひゃっひゃ!何だ?またボクを倒す気になったのか?キミは面白いねー、さっきから感情が揺れすぎだよ!」


『A』が深く笑っている間、チョコは棍棒を空に踊らせて単純な魔方陣を作りあげた。
まずはペガサスの力を借りるとしよう。
二重に合成をかけられているのだからペガサスだって『A』のことを許せないはずだ。
ペガサスが魔方陣から炎を出している間を使ってチョコはこれから先、無力な自分が出来ることはあるか考えた。

無力な者が出来ることといえば、…何だろうか…?

魔法を繰り出すために俊敏に動いていたのが肩に響き、先ほど双頭の狼に噛まれて出来た傷に痛みが蘇ってしまう。
再び血が飛び散り、痛みのあまり動きをここで止める。

チョコが魔法を繰り出さなくなったことでようやく『A』も動きを止めた。
ほとんど逃げてばかりの『A』であるが、顔は常に勝ち誇りを輝かせている。
何か策でもあるのだろうか。

肩を抑えて傷口を塞いでいるチョコに向けて『A』はその表情のまま言った。


「さて、ここからはボクのペースにもっていこうか!」


今まではチョコのペースだったこの戦い。
しかし『A』がペースを自分のものにしようといっている。
きっとこれこそがあの表情の素になったものだろう。

裏の手があることがバレバレの『A』の動きを止めたいために棍棒を振り上げようとするが、肩が痛い。
しまった、まさかここで傷口が開くとは思ってもいなかった。

『A』は言った。


「さあ出て来い!」


唱えると、『A』の手前から何かが湧き上がってきた。
今までは一体ずつ獣が出てきていたが今回は違う。人間だ。
人間が二人、この場に現れる。


「あ…」


そのうちの一人は縄に縛られて自由を失っている。もう一人がその縄の先を握っていた。
二人の人間をチョコは見たことがあった。
チョコと同じタイプの合成獣、バニラとミントだ。

バニラが縄に縛られているためチョコは絶叫だ。


「バニラ?!」

「ひゃっひゃっひゃ!驚いたかね?」

「な、何でバニラが捕まってるの?」


バニラが捕まっている理由が分からず問うと、サルの鳴き声が耳に入ってきた。
サルとの合成獣であるミントが答えてくれたのである。


―― バニラはお父さんの研究の邪魔をするんだ。だからこうやって大人しくさせてるんだよ

「そ、それはそうよ!私たちみたいな合成獣、誰だって望んでいないんだから!」

「望んでいない?ひゃっひゃっひゃ!キミは面白いことを言うね!ボクは合成獣を望んで作っているんだよ!誰も望んでいないはずが無い!」

「そんな考えを持ってるのはあなただけよ!」


チョコは叫ぶ。
ずっとうつむいているバニラを心配して。


「お願いだからバニラを放してあげて!バニラは私にとって見れば…!」


"自由"をくれた人だから。
自分を生かせてくれた人、バニラが居なければきっと今頃死んでいた。
バニラのおかげで今ここに立てているのだから。

そのバニラがずっとうつむいているので心配だった。
『A』が説明してくれた。


「あの縄はボクが作ったお仕置き道具だよ!獣を押さえ込むときに最適さ!」


縄には特殊な力が入っているようだ。
それを体に巻きつけられているためバニラは動くことが出来ないようである。
哀れな姿のバニラにチョコは声をかける。


「バニラ大丈夫?」

「ひゃっひゃっひゃ!むだだよ!クソキツネはこれから処分なのだ!久々の対面なんかしてる暇は無いんだよ!」

「え?」


処分?


「クソキツネのせいで何度も計画が狂った。生かしておくことなど出来ない!」


ミントが縄から手を離す。
途端にバニラの周りに何かが立ち上がった。見えない檻である。
突然、透明の檻に囚われてバニラはようやく顔を上げた。
バニラの顔色は優れていない。彼女をまきついている縄が力を奪っているのであろう。


「バニラ!」


この光景、見たことがある。違う、味わったことがある。
ラフメーカーと旅をしている中で『A』と会ったとき、チョコは透明な壁に動きを妨げられて、その中で身を爆発されそうになったのだ。
あのときの恐怖は今でも忘れられない。
あと一歩で自分の身が血と肉の塊になるところだったのだから。

そして今、バニラがそれの犠牲になりそうになっている。
だから恐怖がより募った。


「やめて!それだけはやめて!バニラを逃がしてあげてよ!」


バニラはあの中で何も抵抗していない。
縄で身動きとられているのだから当然のことである。
しかし、『A』が両手を振り上げてしまえばバニラは爆発だ。
危険だ。一刻も早くバニラを助けなければ。

どうやって?
無力な自分に人を助けることができるのか?


「バーンと爆発しちゃおう!ひゃっひゃっひゃ!愉快だねぇ!」

「…っ!」


駄目。
それなのに、『A』は両手を振り上げようとしている。
駄目。
その腕を上げてしまえば、バニラは…。

瞬きをしている間に手のひらは空と向き合うことになるだろう。
もう時間が無い。

チョコは叫んだ。


「だめー!!」


無我夢中だった。
自分の人生のレールをつないでくれた人を失いたくなかったからチョコは必死だった。
元から構えていた棍棒に力を込めてバニラに振りかかる。
バニラを覆っているのは透明な檻。それに棍棒が当たり、ガラスが割れる音が響く。
破片も透明なので音だけが場に響き、その音を頼りにチョコはバニラに体を預けた。


「バニラー!」


檻を破って囚われの身のバニラに抱きついた。
バニラは突然抱きつかれたというのと、チョコの意外な行動に目を見開かせていた。
チョコは抱きつきながらバニラの縄を解いた。


「あひゃ?!ま、まさかそんな棍棒でボクの檻を破ったというのかね?!」


まさか女の力で破られるとは思ってもいなかった、と『A』も意外な目をしてチョコを見ていた。
そしてすぐに歯を食いしばる。


「こいつ…!よくもクソキツネを逃がしたな!」


力を奪っていた縄が解き、バニラは自由になった。
奪われていた分の力が戻ってきたところでバニラが口元をゆがめた。


「残念だったっスね。チョコは何も出来ない子じゃないっスよ」


一度だけチョコをギュッと抱擁して、すぐに離れた。
それから体勢を低くして、『A』を鋭く睨む。


「チョコはただ、優しいだけっスよ。優しいから戦いも好まないし自分の力を見つけようとしないんスよ」

「…バニラ…」

「よくもウチを破裂させようとしたっスね。許せないっス」


チョコが目を赤くしている間にバニラはクルッと回って変化した。
キツネと合成されたバニラはさまざまな物に変身することが出来るのだ。
大型のトラに変身して『A』を威嚇してからツメを立てて地面を蹴る。
しかしミントが妨げてきた。そのままバニラはミントに襲い掛かる。

その隙に逃げようと『A』は忍び足を作っている。
チョコはそれを見逃さなかった。


「全てあなたの仕業だと言うのに、逃げようとしてるの?無責任な人だね」


合成獣は全てチョコの味方になり、奥の手だった「バニラを消して完全にチョコを自分のものにしよう」としていた行為も妨げられた。
そのため『A』はもう自分が出来ることは無いと察して逃げようと腰を低くしたのである。

だけれどそんな無責任なこと、チョコが許すはずなかった。
ペガサスも憤っている。魔力がぐんぐん這い上がってくる。
その魔力を利用して魔方陣を空に描き、魔法を繰り出した。


「オーシャン!」


桜色に輝く魔方陣を棍棒で斬ると、その隙間から大量の水が湧き起こってきた。
まるでダムが壊れた川の流れのように、水は止まることなくそこからあふれ出てくる。

大量の水は『A』をさらって行けるとこまで流れていった。
『A』も勢いある水を止めることが出来ず思いのままに流されていき、やがて『A』を含んだ水は壁を突き破って、滝となってエキセン城から押し出されていった。
水と一緒になって地面に叩きつけられた『A』であったが降りかかってくる水圧に逆らえずに撃沈になった。

『A』の闇が沈んだことで、水も勢いを和らげ、暫くして蒸発した。


「…すごいよペガサス…」


荒れ狂った水の流れ。チョコは開いた口が塞がらない状態になっていた。
しかしすぐにその間抜けな顔は泣き顔になる。


「………」


そのころバニラはミントを押さえ込むことが出来たようで、先ほど自分が捕まっていた縄を用いてミントをおとなしくさせていた。
そんなバニラの元へチョコはゆっくりと歩み寄り、そしてバニラもチョコと向き合った。


「チョコ、よく頑張ったっスね」


ぐすぐす泣いているチョコの頭をなでてバニラは微笑んだ。
チョコは足を崩して座り込んだ。


「…私………」


チョコは言った。己の弱さを。


「ホントに、みんなに頼ってばかりだ…」


しかしバニラは首を振って全てを否定した。


「何言ってるっスか。チョコはウチを救い出してくれたっスよ。ペガサスの力も借りずにあなたは棍棒で振りかかってくれたっス。ウチはそのことが一番嬉しいっス」


バニラは言った。
あのとき透明の檻を破ったのはチョコ自身だ、と。

そしてチョコも気づく。
確かにあの時は無我夢中でペガサスの力を借りなかった。
自分の足で走っていき、自分の力で突き破った。
あのときの力こそ、チョコのもの。
チョコは一人の生き物を救うために全力で救いに走ったのだ。
そして馬鹿力を放ったのである。

そのことに気づいてチョコはよりいっそう泣いた。


「私、自分の力で人を救えたんだね…」

「そうっスよ。チョコがウチを救ってくれたっス」

「ありがとう…」

「何言ってるっスか。お礼を言うのはウチの方っスよ。本当にありがとうっス」


バニラに情の篭った礼を述べられ、チョコは涙をぬぐった。
そして後ろを振り向いてチョコは合成獣たちに礼を告げた。


「私に勇気をありがとう。応援をもらって嬉しかったよ」


合成獣たちは照れた様子で声を上げている。
この場に居る全員が同じ犠牲を受けたものたち。
背後に合成獣たちがいたからチョコは勇気を出すことが出来た。
たくさんの声援を受けて、心を奮わせることが出来た。

そのままチョコは自分の足を抱く。
身を丸めて、体のどこかにいる存在に向けて感謝を込める。


「ペガサス、今までありがとう」


そして、これからもよろしくね。


折りたたんでいた足を伸ばして、腕を空に向けて、下半身を倒したまま上半身だけをぐーんと伸ばして。
一つの闇を鎮めたという喜びを今ここで全身を使って表した。


「こんな私でも勝てたー!!!」


頭を地面につけてチョコは背伸びをした態勢のまま寝転んだ。
先ほどたくさん泣いたから、今度はたくさん笑おう。
この喜びを笑顔の源にしよう。
今まで戦ったことが無かったけれど、世界のために戦えた。自分との戦いにも勝てた。
そして素敵な出会いも出来た。
たくさんの合成獣たちに囲まれてチョコは幸せを噛み締める。


「今度から私と一緒にすごそうね」


寝返り打って合成獣たちと目を合わせてチョコがそう言うと、合成獣たちは弾んでチョコに飛び掛かった。
顔をなめられてチョコはくすぐったいと笑い声を上げる。


「こんな闇の地帯で笑い声を聞けるなんて、この世界も救われそうっスね」


幸せいっぱいのチョコを見て、バニラも優しく笑みを零した。
ここに溢れる笑い声は、闇を吹き飛ばすことが出来るほどの力を持っている。そう思えたのでバニラは心を躍らせたのである。

またここに一つ、闇が光に包まれた。







 チョコ 対 『A』
        勝者…チョコ






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チョコも戦いに勝てました。

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