城のどこかから溢れ漏れる光。
その光はまるで天使が舞い降りたかのように神秘的な光であって。
『L』は俊敏に動かしていた体をここで緩めた。
「…Vちゃんが鎮まった…?」
暴れる邪悪な威圧が光に押しつぶされてそのまま消えた。
それの正体がエキセンの中でも邪を誇る魔術師『V』のものだと気づいて『L』は唖然としているのだ。
そのとき、高らかと笑っている声が聞こえてきた。
その者の姿は、無い。
「うふふふ、『邪悪』の彼も光には敵わなかったわけね」
「…」
「うふふ、愚か者。光に負けるなんてそれじゃあただの愚かな塊よね」
「…仕方ないだろ、闇に対抗できるものといえば光だけであって、光は闇より強いんだから」
「うるさいわよ『陽気』」
相手がどこにいるのか分からない。
闇に紛れて姿を消した相手だ。先ほどまでは体を動かしてあえて闇を誘き寄せていたが今度は動かずにじっとしてみる。
すると背後に壊れた笑みの気配があることに気づいた。
振り向くと予感的中。そこには液体状の闇が浮かんでいた。
『P』の腕である。腕を液体と化して『L』の体を巻きつこうとしているのだ。
なのですぐに指を鳴らしてそれを爆発させる。
「姿を消したまま攻撃を仕掛けてくるなんて、悲境だな」
「うふふ。悲境?何が悲境だというの?」
「実体があるというのにあえて姿を消して攻撃を仕掛けてくるなんてオレにとっては悲しい境遇に等しいな。まさか姿を消さないと勝てないと思ったのか?」
「笑止」
途端に爆発する『L』の目前。
鋭い攻撃だったために避けることができなくて『L』は屈んで回避する。しかし避け切れなかった。
爆風に押し出されて後方へ体が吹っ飛ぶ。しかし『B』が支えにきてくれた。
「あんたっ!Pを煽ってどうすんのよっ!これじゃあ容赦なしに攻撃を仕掛けてくるわよっ!」
「…だよな?」
「少しは自覚があったのかジェイ?!それなのにPにあんなこと言ったんだジェイ?」
「どうしても言っておきたくて…」
「アホかっ!あんたの言動全てがこの世界に影響を及ぼすのよっ!そして私たちにも被害がくるんだからね!」
先ほどの『L』の態度の悪さを指摘する『B』であったが、次の瞬間には口を噤んでいた。
いつの間に巻きついたのだろうか、『B』と『J』は背中を合わせて身動きできなくなっていた。
『P』の液状の腕が体の自由を奪ったのだ。
場の闇が深いためにこの腕がどこから伸びているのか分からない。背中にいる『J』がジェイジェイうるさいので『B』が舌を打つことで場を静めた。
そして
「イナゴの言うとおりで正々堂々と姿を出しなさいよこのイカレ野郎ーっ!」
暴言を吐きながら体に巻きついていた腕を引き破った。
よって自由になることができ、『J』は勢いでひっくり返ってしまった。
『L』が『J』に救いの手を差し伸べている間、『B』は引き破った『P』の腕を掴んで強く引いていた。
この液状の腕を引けば、原本を引きずり出すことができると察したのだ。
力強く引いて、永久に続きそうな闇の奥深くで身を隠している『P』を探す。
しかし、声は裏から聞こえてきた。
「うふふ。魔力が無いものが何を言ってるのよ?」
声はムチになって返ってくる。
鋭く降りかかるムチ、手をかざす事で避け、『B』は一歩後ろへ身を引いた。
そんな彼女を庇うために前に現れたのは『L』だ。
「魔力が無くてもBちゃんはお前と戦おうとしてるんだよ。お前と違ってBちゃんは『勇敢』な人だ」
「勇敢?うふふふふふふ、勇気を振り絞らないと戦えない者なんて弱いじゃないの」
「…この女…とことんむかつくわねっ」
先ほど『B』が『P』の機嫌を損ねるようなことをするなと言ったのにもかかわらず彼女がより浮上させていた。
『B』に暴言を吐かれた『P』は狂った笑いを零しながらまた闇を伸ばしてくる。
姿はやはり無い。
伸びてきた腕を捕まえたのは『L』だった。
そしてそれを氷に変える。けれども『P』に直接攻撃することはできなかった。
暫くの間、攻撃がやみ、場が静まった。
「姿が見えないから容易に魔術を繰り出せないな…」
「ジェ…どうするんだジェイ?」
「うーん…防御と反撃しかできないからな…。といっても反撃もPには当たってないようだけど」
「何とかしなさいよっ!」
「戦ってる間に何か策を練ろうと思ってたんだけど、無理だったみたいだ」
「ジェーイ!そこを何とかしてほしいジェイ!」
「そうだ、死神はどうしてる?」
「あそこで傍観してるわよ…ったくあの『呑気』!何してんのかしらっ!」
『B』が鋭い目で仕留める先には『O』が立っていた。
さすがに今回はプリンを食べていないようだ。漂っている闇をじっと見ている様。
すると突然『O』が走り出した。その刹那に現れる闇の手。
闇の動きを見ていたから攻撃が来ることを悟れたようである。
『O』は肩に担いだ鎌を全く揺らさないという神技を見せ、けれども懸命に走り回った。
「まいったなあ。ぼくには攻撃してほしくないんだけど」
「死神!こっちに逃げ込め!」
「無理だよ。そこにはみんながいる。みんなに近づいたほうが危険が高まる」
「お前今の状況考えろよ!」
「何一人だけ助かろうとしてんのよっ!」
「O!急ぐジェイ!闇が迫ってるジェイ!」
「まいったなあ…」
足元の影を見てみると、自分の影がすっぽりと闇の手に覆われていることが窺える。
それほどまでに闇が背後にくっついているのだ。一刻も早く逃げないと闇の手に捕まってしまう。
振り向く有余も無く、ひたすら走る『O』の姿を見て、『L』が一歩前に足を踏み出した。
「死神!卯の方角にプリンがあるぞ」
そして『L』は東を指差した。直後に『O』が何かに飛びつく形で東へ体を倒す。
闇の手は、ターゲットが避けたことで少しだけ動きを鈍くする。
『L』が不敵に口元をゆがめた。
「プリンがあるって言ったのはウソだ」
パチンと指を鳴らして闇の手を内側から爆発させた。
『O』は体勢を低くしていたために爆風に飛ばされることは無かった。しかし不満そうであった。
「何だ。プリンは無いのか」
「状況判断しなさいよっ!どう考えてもイナゴがあんたを助けるために仕掛けたワナじゃないのっ!」
「こうしないとお前が動かないと知ってるからさ、悪いな死神」
『L』の作戦にまんまと掛かってしまい『O』はシュンッとした。
あんたイナゴを心配かけるような仕草はやめなさいっ!と『B』に頭を叩かれて『O』は身をより沈める。
だけれどまた『P』の攻撃がくるかもしれない。そういうことで『L』が言葉で『O』を起こす。
「一段落着いたらプリンやるから」
「わかった」
「素直だジェイ!?」
「ある意味扱いやすいわねっ!」
闇の4人が背中を合わせて次の攻撃に対処できるように構える。
しかし構えているのは『L』と『B』だけだ。
『J』はおどおどし、『O』はじっと闇を見つめている。
すると『O』が神妙に口を開いた。
「闇の動きが、おかしい」
自分らを囲んでいる邪気ある闇。
魔力が無い『B』と『J』には動きを見ることができなかったが、『L』はさすがに見えたようでぎょっと目を見開いている。
「…P……」
闇の中からようやく『P』が姿を現した。
両手をこねながらやって来る。
あれは彼女の魔術発動法である。
危険を察した。
「やばい…!みんな避けろ!」
『P』は『O』がいる方角からやって来ている。
彼の右隣にいた『L』が叫ぶと素直に全員が四方に散らばり、『L』だけがその場にとどまった。
逃げない『L』を見て『P』が哂う。
「逃げないでいいわけ?L」
「…オレは逃げたら駄目なんだ…」
「あらあら、お友達がみんな弱いからあなたが戦わないといけないのね。ご苦労なこと」
「オレの友人が弱い?お前が作った"作品"をそんな風に言うわけか?オレらを闇として生んだくせに…!」
「うふふ。Lはやっぱり利口な子」
『P』の口角がありえないほどつりあがる。
「エピローグとそっくりだわ」
直後、『P』は『L』の目前まで闇と一緒に流れてきた。
『L』は動かない。動けなかったのだ。
気づいたときには胸に手を入れられていたから。
胸に入った『P』の手は、『L』を貫かず胸の中に留まり、何かを引っ張りあげようとしている。
先ほどこねていた闇を使って、体内を探り回る手。
「…っ!」
「イナゴっ!」
今のこの状況に気づき、急いで『B』がやってきた。
しかしそのときには遅かった。
『P』は目を細めて言ったのだ。
「あなたは出来のいい子。エピローグのように勉強に励み己を強くしていった子、自慢の"作品"だわ」
やがて、『L』の胸から『P』の手が引かれた。
「うふふ、うふふふ。さっきあなたは自分の中にあった光を使ってこの場に光を降らせた。つまりあなたの体内にはもう光はない」
「…」
「この子の中には光があった。だから闇が発動しなかったのよ。だけど今のあなたには光はない」
全員が不吉を悟った。
『O』が尋ねる。
「今、何をしていたんだい?」
『P』は哂うのみ。
「うふふふふふふ!Lの闇というのを今ここで拝見しようかしら」
ただでさえ『L』は弱まっていた。
光を体内から押し出して、光を浴びた。そして『B』に精気を取られて、ヤクルトで気力を補った。
しかし本当は心底つらかったのである。
『P』の闇を直接胸に入れられた上に、無理矢理引き上げられたアレ。
そう、体内に潜んでいた己の闇。
「…………」
気づいたときには『P』はまた闇に紛れていた。
なので『L』だけが立っている。胸に手を入れられた形のままで固まっている。
すると周りの闇に押されて一歩足を傾けた。それを支えようともう一つの足も動く。
まさに千鳥足になっている『L』、『B』が急いで支えに走る。
「あんた、大丈夫なわけぇ?」
刹那
「クックックックックック…」
今までに聞いたことの無い笑い声が聞こえてきた。
それは確実に『L』が放っている。
『L』が笑うたび肩が揺れて、オレンジ色の髪も同じように揺れた。
「い、イナゴ…っ?!」
「Bちゃん危ない」
『L』からあふれ出る危険な殺気。
状況を把握して『O』が『L』を突き放して『B』の腕を取った。
そしてそのまま走り出す。
「ちょ…何すんのよっ!」
「ジェーイ!待ってほしいジェーイ!」
「どうしよう…こうなるなんて思ってもいなかった…」
『J』も二人の後をついて走り、『L』から逃げる形になった。
突然走り出した『O』に憤慨する『B』だが『O』はそれに答えない。
代わりに焦った様子を見せるだけだ。
今までに無い焦りの表情。
『O』の様子が一変したことで『B』が眉を寄せた。
「どうしたっていうのよ?」
「何かあったのかジェイ?」
「………無理だ。戦えない、そして勝つことも出来ない」
『O』はやはり焦っていた。
「まさかイナゴが闇…」
まだ言ってる途中だったが、もう誰も気にかけなかった。気にかける暇が無いのだ。
突如、目の前に現れた闇の手に捕まって3人は身動きが取れなくなってしまっているから。
「「…っ!」」
闇の手の中に捕まって、もがくことも出来ない。
ぐいっと闇の手が元の場所へ帰り3人は先ほど自分らが立っていた場所に自動的に帰ることになった。
闇の手は『L』の手と繋がっている。
「逃げたら駄目だ」
『L』が3人に指摘する。
それはいつもの忠告ではなく、ただの命令だ。
闇の手は『L』と繋がっているため、『L』の顔を近くで見ることが出来た。
しかし影が掛かって表情を伺えれない。
「…イナゴ…っ」
「そ、そんなのおかしいジェイ…!イナゴに闇なんかあるはず無いジェイ!」
「…しかしこれが現況だ…」
闇の者エキセントリック一族は必ず全員が闇を使える。
闇から生まれたものなのだから闇を使えないというのはおかしな話なのである。
闇魔術師は生まれたときから闇をまとっているようなものなので闇を容易に操ることが出来る。
対して一般魔術師は闇が体内に沈んでしまって使えない状態になっている。だから『L』も使えずにいたのだ。
確かに一般魔術師でも闇を使おうと思えば使える。
本気モード、いわば瞳を真っ赤にすることで闇を引き出すことが出来る。
しかし奥底に眠っていた闇を扱うことは困難なことである。そのため『L』は闇を使うことに恐れていたのだ。
もし闇を使ってしまえば自分は自分をコントロールできなくなるのではないかと思って。
全てを見失うことに怯え、ずっとふたをしていた闇魔術。
それを『P』がこじ開けてしまった。
よって闇は放出する。
「イナゴ…っ、あんた今自分が何をしてるか分かってるの…っ?」
『B』は呻く。
友人が自分をコントロールできなくなっていることに心配して、呻いた。
「あんたは世界を守るために戦ってたんじゃないのっ?」
「………」
「私はそんなあんたを信じてここまでついてきたのよっ!それなのにこんなの許さないわよ!さっさと放しなさいっ!」
「……」
「イナゴっ!」
最終的には普段どおりに吼える『B』。
すると闇の手が硬くなった。3人を締め付け、そのまま闇に呑みこめる。
無言の悲鳴を上げる3人に向けてつぶやくのは『L』だった。
「世界を守る?世界を守ってどうする?世界などオレらにとってみればちっぽけなものだ」
「「……!」」
「しかし」
『L』は呟きを囁きに変えた。
「オレは世界が好きだ。光に覆われている世界。とても美しいものだと思う。それを闇によって壊したくない」
闇の手に呑まれた3人を救うために『L』が手を爆発させた。
よってその中から3人が落ちてくる。
爆発したものは闇だけだったので本体の手には響かなかった。
『L』は体勢崩して倒れてしまった3人に向けてその手を差し伸べた。
「大丈夫さ。オレが守り通してやるから」
「……!」
「世界とお前らをな」
「…イナゴ…っ!」
闇に支配されたと思っていた『L』が意外にも普段どおりだった。
さっきの姿は彼の演技によるものだったのか、『L』は朗らかに笑っていた。
「はっはっは!いや、本気で驚いたよ。まさか闇魔術を使えるようになるなんてな」
「いや、あんた大丈夫なわけぇ?」
「オレは大丈夫。Bちゃんたちこそ大丈夫か?オレの闇、痛かった?」
「大丈夫よっ」
「でも最初はイナゴが危険な闇になったかと思ってびびったジェイ!」
どっと安堵する3人の中で『J』が文字通りに胸をなでおろした。
しかし『J』の言葉を聴いて『L』は首を振る。
「いや、今じゃオレだって闇さ。Pのせいで闇を引き上げられた。オレは闇魔術師と同じになってしまった」
「…ジェ…?!」
「だけどオレは戦うよ。闇を使えてもオレはオレだから」
「でも君は…」
「闇より光が強いって知ってるから、オレは光を目指して戦う」
それが己の目標。
さすが『L』、彼は強い。
闇魔術師と同じなったと主張する『L』に反論しようとした3人だったが、彼の目標を知って自然と何も言わなくなっていた。
「「……」」
「でも、せっかくだからこの戦いには闇を使おうかな。そうしないと勝てないって実感させられたし」
『L』は己を維持することが出来た。
日ごろの行いがいいからか、違う、『L』自身が強いのである。
『L』が不敵に笑みを深めている姿を『P』が闇の中から見つめている。
「小癪な。どうしてこの子はエピローグのように闇を愛さないのかしら。生意気すぎる…生意気すぎるわ…!」
『P』が歯を食いしばっている間、『L』は普段どおりに指を鳴らして、指先にオレンジ色の炎を燈していた。
これは普段使う一般魔術なのであるが、今の彼が使えばなんでも闇になってしまう。
切ないことだけれど闇には威力がある。それを頼らないと『P』に勝てないから
『L』は炎を闇に変えた。
「あとで頑丈な鍵を掛けとかなくちゃな」
台詞には、闇は恐ろしいから今後はもっと厳重に闇魔術を封印しておこう、という気持ちが込められていた。
『L』、それは『光』を意味する言葉。
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『P』の壊れ具合を書くのが好きです
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