手先が器用なのがとりえであるソングと帽子屋は次々と船の形を作り上げていった。
ギリギリで人数全員が座れるぐらいの広さの小さな船は船首と船尾が尖れ、木の葉のような形を帯びる。
次々に組み立てていく二人を見て、大雑把に仮縫い段階を終わらせたトーフは感心の目を向けた。


「あんたら凡なだけにいろいろと凄いわな」


凡は余計だ!とソングにツッコミを受けて、トーフがケラケラ笑う。
そして自分の役目を果たしたトーフは笑いながらそこから離れていった。
邪魔者がいなくなって作業を捗らせる二人は互いに愚痴を零し、怒りをトンカチに込める。


「ったく、何で俺が船を作らなきゃならないんだ」

「クソ、あの車を直すのに一番力を注いでいたのは俺なのに、今も俺が頑張ってるじゃねえか。ふざけやがって…」


トンカチが釘に当たり、金属音が辺りに響く。
あと少しで完成だということで、金属音が奏でる音楽に乗って心を躍らせる。

しかし、そのときに気づいた。
他の連中は一体何をしてるのだろうか。と。

始めのうち、土台作りに手を伸ばしていたのはこの二人に足してクルーエルの二人であった。
だけれど気づけばトンカチ音は2種類のみ。いつの間にか他の音は消えていた。
それから帆作りに捗っていたサコツとチョコの騒ぎ声も消えている。
これも始めのうちは耳障りになるぐらい帆作りのメンバーがうるさかったのに。
今では帆を作っている様子も見られない。
そして、雑用のクモマの姿もない。釘箱を取りに行ったっきり、奴は姿を現していない。
『O』も始めから何もしていない。

一体奴らは何をしてるのだ?!

作業しているのが自分らだけではないかと満たない心に不安を揺らされたソングと帽子屋は、一緒になって辺りを見渡した。
するとあっという間に原因を掴むことが出来た。
ふしふしと湧き上がるこの感情。
何だこの感情は。怒りかそれとも哀しみか。
っというか、奴ら全員が一体何をしているのか分からない。


「「皆して船を黒くするな!?」」


今、船首を作成中の二人は船尾に目を向けて叫んでいた。
そこには全員が黒いペンキを片手に、船を塗っている。
黒く塗りつぶして船が黒くなっていく。

主にその作業の核になっている『O』が黒ペンキが付着した刷毛を見せびらかすように、二人に刷毛を向けて言う。


「黒い船はナウいと思う」

「今どき『ナウい』を使う奴がいたのか?!」

「ってか黒い船なんかナウくねえよ!」


時間はさかのぼり、今から数分前『O』はあと少しで完成になる船を見て満足していた。
しかし何か物足りなさを感じる。そうだ、船の色が無いのだ、と。
だからコロコロと転がっていたブチョウに向けて彼はこう言ったのだ。
「船を黒くしたい」と。
するとブチョウはこう返した。
「ナウいわね」
そういうことで、どこから取り出したのかペンキを用いて二人は船を黒くする作業に取り掛かったのだ。
そのときに、帆作りを完了させたチョコとサコツの姿を見つけて、二人を誘い、塗装の従業員を増やす。
その作業をしているところを見た者は何故か魅惑され、自分の作業を放棄する。
気づけばソングと帽子屋を除いた全員が船の塗装をしていたのであった。


「「お前らアホかー!」」


変な団結力を見せた塗装協力隊に向けてソングと帽子屋が一斉に叫んだ。
無駄な作業をするな!と吼えて今すぐにでも塗装と止めさせようとするが『O』が真剣な顔して言うのだ


「絶対に黒い船はナウいと思う」

「何だその頑固な様は?!」

「ってか『ナウい』を使うな!」


ソングと帽子屋が懸命に吼えるが、結局誰も二人の声を聞き入れようとしなかった。


「「ひどいな?!」」

「いいじゃないか。黒い船ってナウいと思うし」

「てめえも使うなタヌキ!」


二人が喚いているうちに、塗装は船首にまで手を伸ばしていた。
黒い刷毛がトンカチの邪魔をしてくる。なので二人して叫ぶ。
それなのに逆に「早く打ち終われよ」と叱られてしまう。
そのため、しぶしぶ作業に集中するソングと帽子屋であった。


「そうだ。この船にロゴをつけよう」

「てめえは出てくるな!似非死神!」

「デスシップ号がいいな。うんそうしよう」

「勝手に独りで決めるなよ!おいこら!船体にロゴを書くな!って無駄にデザインチックだな!?」

「うん、いい出来だ」



+ +


青い空を映し出して青くなる海。
しかし一部が黒を映し出す。海の上に黒いものが浮かんでいるから。
黒い船、命名デスシップ号が海に乗る。


「見事に真っ黒な船ね」


塗装協力隊の一員であったチョコも感嘆するほどの見事な黒さ。全員で協力して塗ったかいがあったとここで実感する。
黒い船が波打ち際に立ち。船の尻尾を踏んでいる。
その隣に立っているのは『O』だ。


「さあ、乗ろう」


そして『O』は早速特等席の船首に腰をかけた。
まあ、名前も「デスシップ号(死神の船)」だし、『O』が船首像になってもおかしくないであろう。

早速船に乗る『O』を見て、メンバーも次々と船に足を踏み入れた。


「あ、意外にしっくりくるね」

「ちゃんと全員乗れそうねー」

「…もう少し広い方がいいな」

「この女はつくづく可愛くないな…」

「オンプも兄貴さんとそっくりで素直じゃない奴だ。だけどちょっと狭いな」

「クルーエルの智属長は一言無駄が多いよな?!」


言葉に素直じゃないオンプに呆れた声をつくソング、その光景を微笑ましく眺めていた智であったが、帽子屋が突っ込んだとおり彼は何かと一言多かった。
そんな面白い光景を白ハトが『O』の頭上から口元を歪めて眺めていた。

全員が船に乗り、いざ出発と思ったが船を出せずにいた。
それはサコツがまだ乗り込んでいないから。


「…俺はいつまでもお前のこと、忘れないぜ…」


サコツは岸に声を掛けている。
岸にいるものは黒い船を背景に立っているサコツを円らな瞳に浮かべて、見つめている。


「お願いだから、いつまでも俺の帰りを待っててくれよな」

「…」

「なるべく早く帰ってくる…だから」

「……」

「浮気はすんなよ?エリザベスぅ……!」


今まで車ウミガメ号を引いていたエリザベスと田吾作。しかし今は車は船に変わってしまった。
そういうことでここで二匹とはお別れしなければならないのだ。
サコツは、エリザベスをどうしても船に乗せたかったのだが、今から自分らが向かう場所は闇の地帯。
無関係な豚たちを巻き添えにしたくないので仕方なく手放すことになったのだ。
だけれど今まで一緒に旅してきた仲間だ。別れたくない…!

サコツは走った。エリザベスの下へ。
しかし止められた。ブチョウの口ばしドリルが頭に刺さったので。
地面に這い蹲って動かなくなったサコツをクモマが気の毒にと思いながら船まで引きずっていく。
そしてトーフの糸に絡まれサコツは自由を失った。よってもう岸に戻ることはできない。
その隙に船を出した。

中央に刺さっている帆を立てて、風を捕らえる。
櫂で地面を押して船を前進させる。クモマが櫂で押し出したため、いとも簡単に船は前に進んだ。
波に乗って船は海に体を預ける。


「エリザベスー田吾作ー!いってくるねー!」


岸にポツンと立っている豚二匹に向けてチョコが叫び、伴って全員が別れの挨拶をした。
豚二匹もそれぞれ鳴いて応答する。チョコ曰く「頑張ってきてねー」と応援してくれているとの事。
声援に答えて船は進む。波に押されて黒い船が青い海を渡る。

岸が見えなくなったところを見計らって、ようやくトーフがサコツに自由を解かした。


「これでワイらの地上の旅は終わったわけやな」


トーフが言い出したのをきっかけに全員が今までの出来事を振り返った。


「僕たち、ピンカースでいろいろとしてきたね」

「うん、この旅を通じて私は皆と知り合うことが出来たし、満足してるよ」

「え、エリザ…エリザベス……田吾作なんかと浮気したら俺、泣くからな…」

「勝手に泣いてろ」


後ろを振り向いて、ピンカース大陸での思い出を懐かしむ。
そして誓う。
必ずまたその陸に立つ、生きて帰ってくる、と。

しかしメンバーがピンカース大陸を眺めているのを邪魔する形で智が口を開いた。


「ほんじゃ、これから作戦会議と行きますか」


胡坐をかきなおして、頬杖つく。
智の動きに促され、全員が姿勢を整えた。
陸を見るのをやめて今は次のことを考える。

まずここで声をあげたのは帽子屋であった。


「俺はブルンマインに帰るぞ」


それを聞いて全員がそのことを思い出した。


「ああ、だったね。忘れてたよ」

「忘れんなよ!俺は真剣なんだぞ!」

「な〜っはっはっは!ついでだからお前も戦えって!」

「だから無理だって!俺はお前らと違って平凡な生活送ってんだ!」

「何だかその言い方、僕らが非凡って言ってるようだね」

「非凡だろ!自覚しろ!」


帽子屋が散々叫ぶ中で、船が進む先に座っている『O』が笑いを零す。
ぶら下がった足をバタバタ動かして、他人事のように軽く話を流した。


「ハッティのことはほっといて、作戦会議をしよう」

「ほっとくなよ!ほっとかないでくれよ!」

「ハッティさん、真剣だ…」

「ハッティさんとか愛着つけんな!そもそも俺はハッティって名前じゃねえ!」


懸命に主張するハッティ…おっと帽子屋であったが、やはり話を流される運命に陥られた。
全員は今後のことを計画する。


「まずブラッカイアまで行くのにどのぐらいかかるんだい?」

「遅くて一週間、速くて20分だ」

「何だその時間の差は?!」

「今の調子だとざっと5日はかかるな」

「遅い方だ?!この速度遅い方なのか?!」


クモマの質問に冷静に答える智へ突っ込むソングは、あることを心配した。


「俺ら荷物を全て置いてきたんだぞ。5日だなんて体がもたない」


実のところ、船を作るときに荷物のスペースを計算に入れてなかったため、残念なことに船に荷物を積むことが出来なかったのである。
仕方なく荷物を豚たちとともに岸に置いてきた。
無論、この話だと食料も持ってきてないことになる。
つまりこれから5日間、全員は何も飲み食いすることなく海の上で生活しなければならないのだ。

そのことに気づき、全員が脱力した。


「生きて帰れない…!」

「ブラッカイア着く前に滅びちゃうよぉー…」

「わ、ワイ、ホンマに死んじゃうで?!」

「キュウリ持ってくればよかった…」

「キュウリなんか邪道だ。私はネギを食べたい…」

「何だぁこの兄妹?!普通に生肉食えってー!」

「普通に生肉は食わないと思うぞ?!」

「プリンが食べたい」


手元に荷物が何一つ無い。あるものと言えば武器と己の心意気と恥ずかしい気持ちだけである。


「恥ずかしい気持ちはいらん」


微かに吹く風を帆が捕らえて、進路を進む。
黒い船が青い海を渡る。しかし速度は遅い。始めのうちは風も結構吹いていたのだが今では頬に微かに感じる程度である。
風を頼りにしていたら5日どころが一週間を迎えてしまいそうだ。
そういうことで帽子屋が櫂を持って立ち上がった。


「漕ぐしかないか」


そしてもう一つあった櫂をソングに渡した。


「俺もやるのか?!」

「当たりめえだ。てか他の連中は当てにならん」

「言い返せないな」

「ちょっと失礼だよねその発言」


櫂を持った二人はキコキコと水を掻き始めた。
他の者たちは無論、それを眺めるだけだ。櫂は二つしか作ってなかったのだ。
ソングと帽子屋が二人で力を合わせて漕いでいく。

二人が力を出すことにより、船は先ほどの倍の速さで進みだした。


「お、結構速いやんか!この調子やで!」


しかし二人はすぐに力尽きた。


「「早っ」」

「仕方ないだろ。俺らは只でさえ労働してたんだ。漕ぐほど力を持ってない」

「俺は諦めない…!」


ソングが力尽きる中、帽子屋だけは櫂を動かし続けた。本当に島に帰りたいようだ。
それを見てソングも力を振り絞る。妹は後ろからその背中を見て嘲笑っていた。
兄妹の壁って高いな、と思うクモマであった。


のんびりと船が動く。
トーフは『O』のご使命で今では『O』の膝上に座っている。
船首像の代わりを果たしている『O』はただ船首に座って足をバタバタ動かしているだけで暇だったようだ。
今はトーフの猫耳を抓んで遊んでいる。
代わりにトーフが元気を取られていた。
 

「ぷにぷに」

「やめーい!キショイわー!」

「ご挨拶だな。キショイのはUだぞ」

「それは否定できんな」


自称神『U』のことを口にして、『O』はここで後ろを振り向かずに声を掛けた。
それはクモマに向けて。


「キモイののターゲットになってる少年に伝えたいことがある」

「何だい?」


ソングに手を貸して櫂を漕いでいるクモマの応答を聞いて『O』は言う。


「船を作る前に君はキモイのの顔を一発殴りたいって言ってたけど、キモイ菌が移る可能性があるから気をつけたほうがいい」

「嫌な情報付け加えないでよ?!」


ふふふと笑って『O』が接続詞をつけた。


「だけれどキモイのを殴りたいと言ったのは君が初めてだと思うよ。みんなキモがって近寄らなかったから」

「……」

「キモイのはああ見えてもイナゴを上回る魔術師だ。いや、自分はイナゴの方が強いと思ってるけどね」

「僕もそう思う」

「ふふふ。光ある者が弱いはずない。だから君は必ず奴を殴ることが出来ると思うよ」


『O』に励まされてクモマは言葉を失った。
何だかヒントを与えられた気がしたから。

『エキセントリック一族、いわば闇の者たちは 光が苦手』

トーフの手のひらをぷにぷにしながら、今度はブチョウに声を掛ける。


「白ハトの子のことはイナゴから聞いている。Hに騙されて声を奪われたそうだね。去年からHの声が美しくなったなあっと思ってたけど、君の声だったのか」

「当たり前じゃないの私の声は世界一よ」

「素直な子だなあ」


『O』の発言を聞いてメンバー全員が、あのオカマのアルファベットは『H』なのかと確信する。
ブチョウは、頑張って海を掻いている帽子屋のシルクハットの上に止まっている。
そんな彼女に向けて、『O』がある日の事を思い出す。


「そういえば、一度フェニックスにあったなあ」


普段、どんなことでも動じないブチョウがこの瞬間、自分を失いかけた。
帽子屋のシルクハットから『O』のシルクハットまで飛び移ってブチョウはどよめいた。


「ど、どこでポメと会ったのよ!?あいつは生きてるの?!」


ピンカースの大都市ミャンマーの村で、一瓶に詰まったフェニックスの血を見たとき、彼女はどれだけ悲しんだだろうか。
もうフェニックスは命が危ういのではないかと本気で心配していた。
だけれど『O』がそれを否定した。


「フェニックスは思ったより小さくて驚いた。あれで王を務めてたなんて」

「だからポメは生きてるの?!」

「生きてるから会ったんだ」

「…!」


喉を詰まらせるブチョウに向けて『O』は安心を促した。


「フェニックスはエキセン城で監禁されている。よかったね、ここで声と彼を取り戻すことが出来るよ」

「……」

「もう、不安がることはないから」


そのままブチョウは無言になった。『O』のシルクハットの上に静かに乗っている。
だけれど己の心意気と眼差しは真っ直ぐに正面を向いていた。
きっとこの進路の先にあるだろう、エキセン城。それを貫く勢いで強く意思を放つ。


ある程度話が終わり、場は静まった。
ブチョウは以後無言になり、クモマとソングそして帽子屋は櫂を漕ぎ続ける。
チョコはこれからのことに対して震えるが、この震えは身震いではなく武者震い。
とうとう自分らが世界を救う日が来たのだと、何だか嬉しくて仕方ないのである。
そしてクルーエルの二人も、自分の一族を救える日が来たと心から喜んでいる。

全員が想いを心に留めているため、無言になっていた。
静かな海に静かな船の上。
そして動かない船。

ついに力尽きたのである。
ようやくクモマが声を絞り出した。


「疲れたね……」


まだ空は青い。だけれど太陽は確実に水平線を目指して落ちてきている。
この調子だと本当に5日の旅になるかもしれない。


「…なあ、誰か泳いで船を引っ張ってくれよー」


サコツが喚き始める。しかし無論全員が否定した。
誰もがそんな力を持っていないのである。
オンプも呻いた。


「父上のバタフライは半日もかけずに海を往復したというのに…」

「親父、どれだけ速いバタフライだったんだ?!」

「ちなみにさっき、速くて20分かかる、と言ったのは実際に親父さんがそのタイムで横断したからだぞ」

「親父が作った記録だったのか?!」

「やはり父は偉大だった!」


海の上で立ち往生。
進みたいのに風は吹かないし漕ぐ者がいない。そして泳ぐ者もいない。
全員力尽きて動きたくもないのだ。

このときに心から思った。
泳ぐ能力って何て素晴らしいのだろうか、と。

虚ろな目をしてトーフが水平線を眺めている。
青と青を区切る一本の線。風が無いため波打ちも起こらない。本当に美しい直線だ。
しかし直線が途切れた。線は一部が途切れてそこに波が立つ。
波が、立っている。


「あれは何や?」


トーフが指差す先には何かがいた。水平線を破った何かだ。
水しぶきを立ててこちらに近づいてきている。
全員もそれに気づいて身を起こした。


「な、何だあ?!」

「何か近づいてきてるねー」

「…誰かが泳いでるのか…?」


智が呟いた刹那だった。船の辺りが波紋をつき始めたのは。
波が立ち、伴って海から何かが湧き出てくる。

それは人であった。


「「ぷはー!やっぱ海はいいなー!」」


船の両脇を挟む形で現れたのは赤髪とオレンジ髪の者であった。
続いて、小さな者も現れる。


「久々に広い海を泳ぐのもいいですねー」

「本当だね。河もいいけど海もいいね」


小さな者と一緒に顔を出した者は、メガネをかけている者である。
そんな特徴的な者たちのことをメンバーは見たことがあった。
なので悲鳴に近い驚愕をあげるのだった。


「「人魚の奴らじゃんー!」」


その声に反応して船に顔を向けるのはメガネを掛けている人魚、フウタ。
前回同様、河の中で見せた優しい笑みを今も零している。


「やあ、驚いたよ。まさか君たちが海にいるなんて」

「いやいや、驚いたのはこっちの方だよ。君たちって河人魚じゃなかったのかい?」


クモマの質問に、小柄な身の人魚、カイが答えた。


「今日はたまたま海に来てたんですよ。河人魚もたまに海水浴をするんですよ」

「そ、そうなんだ…」

「「ってか、お前ら元気だったかー?」」


船の両サイドにいる暖色系の頭の二人がケラケラ笑って声を掛けてきた。
アキラとタカシである。
前にピエールサーカス団というところで働いていた彼らであったが、今回は有休をとったのだろうか。河人魚仲間と海水浴で楽しんでいるようだ。

元気の良い二人にサコツも元気よく応答する。


「元気だぜー!お前らも元気そうでよかったぜ!」

「おうよ!俺らはピンピンだ!」

「目タレも病気が治ってからはムカつくほどにピンピンになったしな!」


オレンジ頭のタカシが言ったことにより、メンバーは彼の存在を思い出した。


「「そういえば目タレ王は?」」


思わず全員で声をそろえて訊ねるほどだ。
河人魚と会っていない者たちは皆して「目タレ王?」と疑問符を浮かべている。

目タレ王のことを言われ、フウタが水平線を指差した。


「目タ…シュンヤはあそこだよ」


フウタが指差す先は、先ほど全員が視線を集めていた場所であった。
水平線を崩して豪快に泳いできている者。今ここに姿を現す。


「うはー!やっぱり海はいいなー!」


そういって強く水しぶきを作りながらこちらまで泳ぎきってきた者は、噂していた目タレ王ことシュンヤ。
奴の存在に真っ先に全員が叫んだ。


「「目タレだ!」」

「会って早々失礼な奴らだな?!」


見事な目の垂れっぷりに全員が驚きを隠しきれない。
そしてオンプとソングは違う意味で驚きを隠しきれない。
兄妹仲良く声をそろえてシュンヤに言った。


「「お前、ここまでバタフライで来たのか?!」」


強く水しぶきをたてながら泳いできた理由、それはずばりバタフライをしていたから。
水平線の向こうからバタフライでやってきたシュンヤは頷いて元気よく笑っていた。


「ああ!バタフライだと速く泳ぐことが出来るからな!」

「やはりバタフライは偉大だ…!」

「親父、悪い。バタフライは何気に凄かった…」

「おい、目タレ。見事なバタフライだった。久々に素晴らしいバタフライを見たぞ」


「「すごい!目タレが歓迎されている?!」」


思わぬ場所で再開をしたラフメーカーと河人魚。
最も泳ぎを得意とする生物の出現を無論メンバーは見逃すはずがなかった。

動かない船を河人魚に引いてもらい、海を横断することにした。


「いやあ、本当に助かるよ」


トーフの糸を借りて河人魚が船を引っ張る。
それを見てクモマが感謝の気持ちを述べると、河人魚も笑って対処してきた。


「いやいや、こっちも助けてもらった身だ。このぐらいのこと大したことじゃない」

「んだんだ。ってか泳ぐのが俺らのとりえだしな!」

「横断の手伝いぐらい、朝飯前だ!」

「えっと、まずはブルンマインに行けばいいんだよね?」


フウタに訊ねられて、帽子屋が頷いた。


「ああ、そうしてくれ」

「ブルンマインならもうすぐ着きますよ」

「速いな?!」

「人魚の泳ぐ速さをなめんじゃねーぞ!水の中じゃ百万馬力だ!」


こうしてデスシップ号は無事にブルンマインに上陸することが出来た。
帽子屋はここで降りて、船を見送る。
世界のために頑張れよ!生きて帰れよ!と何度も海に向かって叫ぶ帽子屋。
彼に向けてメンバーも大きく手を振って答えた。「頑張るよ!ありがとう」と。

黒い船が青い空の下青い海の上を渡っていく。
青い地帯を渡る勇者たち。
空を仰ぎ、海を味わい、今のうちに青を堪能する。
やがて青が黒に染まるので。


日は沈み、空は黒に。そして黒い大陸に近づいて空気は黒に。


しかし、この場に居る人間の心は光のままで
闇を貫き通す。


闇は光を侵略することなく、侵入を許した。
メンバーは、ブラッカイア大陸に上陸する。







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コンブの村で登場した河人魚たちが出てきました。

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