炎を吹きかけられ目を覆う『B』と『O』であったが、気づいたときには黒い炎は四方に散っていた。
『L』が二人を庇うために中腰で前に立ち指を鳴らしたのだ。
口から吐いていたものが消されて『Q』は深く眉を寄せて舌打ちをする。


「…この野郎…!」

「おいQ!いきなり何するんだ」


膝を伸ばして立つ『L』であるが目の前の『Q』は拳一つ分高い位置に目があった。
『Q』は顎をあげて見下ろした。喋る都度タバコが揺れる。


「ざけんなこの野郎。大人しく死にやがれ」


口先に乗せていた二本指で空を斬り地面から闇を湧かす。
闇は波を打ち『L』を呑みこむために背伸びをする。しかし『L』が咄嗟に指を鳴らし闇を氷づけにすることで動きを固めた。


「Q!冗談がきついぞ!」


実のところ、闇の者が沸かす闇にもランクがある。
『R』が作る闇というものは力をいれずにただ形を象るために作っているため然程危険性はない。
対して『V』などが作る闇は形がない代わりに常に力が篭っている。だから危険なのだ。
ここにいる『Q』は、どちらのタイプでない闇である。
奴が作る闇は形もなく力もない。
代わりに硬軟冷熱を操れた。

氷づけになった闇は、熱を込めることにより自由を取り戻す。


「な…!」


再び闇が動き出し、『L』は危険を悟った。


「Bちゃん死神!逃げろ!」


言われなくても『O』は『B』の腕を引いて走っていた。
逃げていく二人を背景に、『L』は指を鳴らし魔術を繰り出す。よって闇が内側から破裂した。
闇が散り、空気に欠片が馴染んでいく。
それを見て、『Q』が二本指でまた空を斬ろうとするが、『L』の指の鐘の方が速かった。
『Q』の動きを封じて、魔術を発動させないようにする。
動けないことに気づいて『Q』が目の辺りにしわを彫った。


「癇に障る野郎だ、この野郎…!」

「それはこっちの台詞だ!突然襲ってくるなんて無礼だろ!」


すると『Q』は口端を吊り上げて不敵に笑っていた。


「無礼、か。それだったらあの女に言えよこの野郎っ」

「何?」


『Q』が笑った理由が分からなかったがすぐに危険を察することが出来た。
背後から聞こえる無風の悲鳴を聞いたから。

空気が歪み、無い風が揺れる。
逃げていた『O』と『B』の前にある者が現れた。
それは小さい者であったが、湧き出てくる闇と共に現れたのは危険な者だ。


「お前らこんなところで何してたんだヨ?」


邪悪な闇魔術師『V』である。
目の前の小さな魔王の出現に『O』は目を見開き、『B』は力なく悪態をつく。
『V』は子悪魔同様の顔で睨み二人を大きく見上げる。
そのときに『O』を見て、驚いた表情を作った。


「めっちゃ久々ジャンー。お前Oジャン。生きてたのかヨ」


声を掛けられても『O』は黙っていた。
そのため『V』はまた先ほどの笑みを象った。


「ぐふふ、てっきりこの世から逃げ出してる愚か者かと思ったヨ。なーんだ、いたのかヨ」

「…」


無言の『O』に邪険な言葉を放った後に『V』は息遣いが荒い『B』に目を向ける。


「お前、何でそんなに苦しそうなんだヨ?」


しかし『B』は答えなかった。答えることも出来ないほどに力が無いのである。
そんな愚かな二人に向けて『V』が合わさった指を向けた。
銃の形を作った指先に黒い光が渦を巻く。

『V』は『B』を強く睨んで唾を吐いた。


「吸血鬼めっ!勝手にぼくちゃんたちの精気吸いやがって、ホントに許さないヨ!」


それを聞いて驚くのは『O』と『L』であった。
『L』は『Q』を無視して『B』の元まで走っていった。


「Bちゃん、それは本当か?Bちゃんが吸っていた精気って全部エキセンのものなのか?」


すると『B』は力なく頷いていた。
そのため驚きを隠せないのは二人である。


「Bちゃん、無理したね」

「人間から吸いたくないからってわざわざ闇から吸わなくてもいいのに……本当にBちゃんは勇気がある」


『B』を褒めてから『L』はまた指を鳴らした。
刹那、背後から迫っていた『Q』の闇が消える。


「この野郎っ!後ろにも目があるのかよ?!」

「ぐふふ、Lを甘く見ちゃダメだよQ」

「クスクス…そちたちよ。一体ここで何をしていたぞよ?」


舌打ちして歩み寄ってくる『Q』を睨みながら『V』が黒い光の渦を作っていると、どこからかキモイ声が流れてきた。
それは紛れも無く『U』のものであり、奴は少し離れたところに立っていた。

荒らされたキッチンへ繋がるドアの向居にある壁元が『U』がいる。奴は目線を下に向けて楽しそうに笑っている。
視線の先を見てみるとそこには帽子屋が倒れていた。

すっかり帽子屋のことを忘れていた『L』たちは叫ぶことで帽子屋の存在を遅けれどもアピールした。


「帽子屋ー!キモイのから逃げろー!」


悲鳴を浴びて帽子屋が呻き声を出して目を覚ました。
そして半身を打って身を起こそうとした瞬間、帽子屋は悲鳴を上げた。


「キモイなこれー?!」


『U』の顔を直視してしまったようだ。帽子屋は目を覆って再び突っ伏してしまった。
生死の瀬戸際に立っている帽子屋を早く助けなければ、と『L』が手を伸ばすがすぐに妨げられる。

『L』が身を引いた刹那にその場を抉る闇の光。
指先に溜めていた光をようやくここで『V』が放ったのだ。
思った以上に強烈な闇だったため『L』は威圧に飛ばされ転倒してしまった。


「イナゴ!」


倒れた『L』を助けようと今度は『O』が駆け寄った。しかしそれは『L』によって妨げられた。


「来るな死神!」


『L』が叫んだ。


「背後にノロイじいちゃんがいる!」

「え」


そこでようやく、背後にいる強烈な存在に気づいた。
『O』と『B』の背後には、老人の闇が立っていた。
杖の柄を『B』の細い背中に向けて、『C』がククっと笑う。


「お前が何のために精気を取っていったのか知らないが、兎にも角にも身勝手な行動じゃな」

「…!」

「Bよ、お前には少々眠っていてもらうかの」


トン。
杖が『B』の背中を突いた。
すると『B』は『O』の腕から離れて勢いよく地面に顔をつけた。
杖の柄の先に魔術が詰まっていたようだ。魔術を喰らって『B』は這い蹲り目を瞑った。

手から温もりが消え、『O』が慌てて『B』を起こそうと身を屈める。
しかし唐突に現れた『S』が邪魔しに入った。


「お前はさっさと消えちまえよ!ヒッヒッヒ!」


空気から刃物を取り出した『S』はそのまま『O』に向けて刃物を振り落とした。
あまりにも速い動作だったため『O』はすぐに対応することが出来なかった。
刃物は確実に『O』の肩を狙って、やがて落ちた。


「ぎゃーっしゃっしゃっしゃ!刺すなら俺様を刺してくれよーSー!」


しかし幸いにも『S』の相方の『M』が『O』の前に現れて刃物を喰らっていた。
よって、『M』の肩が斬れるだけだった。
『M』は不死身体質なのでそれだけでは血など出ない。むしろ奴は無血なので闇は噴出しない仕組みになっている。
目の前に現れた『M』の存在に驚くのは『O』よりも『S』であった。


「M!邪魔するんじゃないよ!俺様はただでさえ喰らうの苦手なのに、あの女が精気をとっていったから、おかげさまで力がなくなってしまったんだよ!殺させてくれよ!」

「S!だからってBを助けようとした男に刃物を振り落とさなくてもいいじゃないか!俺様をもっともっと斬ってくれよー!!」

「この馬鹿ー!」


そして馬鹿な『S』と『M』は『O』を無視して殺し合いをおこなった。
今の隙に『O』は『B』を助けようとするが、忘れていた。後ろには『C』がいた。


「クク…助けようとしても無駄じゃ。Bは呪いを喰らったから暫くは動かんぞ」

「え…」

「くそ、あの瞬間に呪いをかけたのか…さすが呪術専門の魔術師だ…!」


ピクリとも動かない『B』の姿を見て『O』は眉を寄せ、『L』は二人の代わりに『C』を睨んだ。
『C』は口元を吊り上げて、しわの線を濃くする。


「さて、Bのことはこいつに任せるとするかのう」


『C』の声に呼び起こされ、『B』の周りに闇が立った。
闇の壁が立ち上がるのを見ながら、近くにいた『O』は後退する。


「Bちゃん…!」


立ち上がる闇の壁も天井につく前には崩れ、その闇に囲まれていた『B』は呑まれてしまった。
その光景を見て、『L』はタンポポの事を思い出す。


「…もう、誰も失いたくないと思ってたのに……」


呻く『L』の元へ『O』は後退でやってきた。
震える『L』を見て、『O』が懸命に頭を振る。『L』の言葉を空気に溶かした。


「失ったら駄目だ。取り返そう」


『O』の言葉を聞いて、『L』は自分の弱音の恥ずかしさに気づき、すぐに『O』に同意しようとした。
だけれど、闇らはそれを許してくれない。
すぐに新手を出してきた。

地面が強く弾む音が鳴ると、『B』を呑んだ闇をまた新たな闇が包み込んだ。


「L兄ちゃんー。おいらとのスカートめくりの旅をキャンセルしてB姉ちゃんたちと遊んでたのかー?」


今度は足を地面に強く擦る。
まるでマッチ棒に火がついたように『N』の足に闇の炎が燃え盛った。
『N』の登場を知り、『L』が危険を感じとった。すぐに『O』に命令を下す。


「この場はもう危険だ!死神逃げろ!」


そして『O』の胸を倒して、『L』が前に出た。
刹那に『N』が放った闇がやってきて『L』が消した。
無理矢理後ろに置かれて『O』は戸惑う。


「そんなことできない。ここには君とBちゃんとハッティがいる」


『N』の闇魔術に乗った風が『L』のシルクハットを飛ばした。
シルクハットが『Q』の足元まで転がっていき、自然に止まる前に『Q』が潰す。

大切なシルクハットが無惨な姿になったのにもかかわらず『L』は真っ直ぐに闇を見た。
『B』を呑んだ闇に一点集中したまま叫ぶ。


「お前はハッティを連れて逃げてくれ!!」


『O』は強く首を振った。


「そんなことできない」

「オレがBちゃんを取り戻すから」

「ぼくはイナゴたちを残して去るなんてこと、できない」

「お願いだから」


頑固に首を振り続ける『O』に一度も目を向けずに『L』は彼に向けて魔術を繰り出した。
『O』の懐がズシッと重みを増す。
他の奴らに気づかれないように『L』が『O』の懐にしまったのだ。


それは、精気が詰まった心臓。
希望を乗せた心臓。


心臓を託され、『O』は自分の任務を悟った。


「わかった」


『L』に承諾し、『O』は急いで帽子屋の元へ走った。
その道を闇が妨げに入ってくるが『L』が指を鳴らして全て消滅させた。

帽子屋が転がっている隣では『U』が立っているが『O』は気にせずそこへ向かった。
『U』が空を撫でて光を手に入れるがその前に『O』が帽子屋に手を伸ばしていた。
帽子屋の腕を引っ張りあげても尚、走り続ける。

クスリッと笑っている声が聞こえたけれど無視して、帽子屋を引きずっているけれど無視して、
『O』は呟いた。


「ありがとう」


そして


「ぼくに任せて」



誰かが瞬きをした瞬間、『O』はこの店から存在を消していた。帽子屋を引きずった姿で。
『U』はターゲットが消えたことに一瞬だけ驚き、しかしすぐにいつものキモイ笑い声を漏らす。


「クスクス。逃げられたぞよ」

「何してんだヨ!お前ちゃんと動けヨ!何もしないなんてざけんなヨ!お前はただのキモイ物体かヨ!」


『O』と帽子屋を取り逃がした『U』を散々叱る『V』であったが、『L』の魔術の存在に気づき、すぐに身を引いた。
『U』も身を引いたと同時に溜めていた光を放つ。


「どいつもこいつも、手加減なしだな」


この場に集まった闇魔術師の存在に『L』は悪態つきながら次々と魔術を繰り出していった。
場にある闇をとにかく消そうと走り回るが闇はなかなか減ってくれない。


「手加減しないに決まってるよー。エキセンみーんなカンカンに怒ってんだからな!」


『N』がそう言いながら足に溜まった闇を蹴った。
指を鳴らして闇を破裂させ『L』は苦く笑いを込める。


「何だよ。たまにはBちゃんに精気を吸わせたっていいだろ?」

「いいはずねえだろ!いてぇんだよこの野郎!」


口から黒い炎を吐く『Q』からの攻撃を避けつつ指を鳴らす。
しかし地面が闇でグチャグチャのため避けづらくなっている。
よって上から降ってきた彼女にいとも簡単に押しつぶされてしまった。


「L様ー!やっぱり私の追跡能力には敵いませんでしたねー!」


抱きついた拍子に『L』を押し倒したのは『K』であった。
この様子から、彼女の追跡能力によって奴らはこの場に『L』たちがいることを知ることが出来たのであろう。
『K』に押しつぶされて『L』は地面から体を離そうと手と足を突き立てる。しかし地面が闇に支配されているため下からも動きを捕らわれていた。
『L』の身動きが取れたことを確認して『K』がこの空気に向けて声をあげる。


「皆さんーL様の動きを封じましたよー!」


すると全闇が静まり返った。
闇を生み出していた闇魔術専門の者は手に溜めていた邪悪な光を掻き消す。地面に張っている闇だけを残して。

『L』は何とか顔だけを上げて、声を出した。


「一体これは何なんだよ!いくらなんでもこれはひどすぎだろ!」

「それはこっちの台詞でアール」


カツ、カツ、と地面の一部一部が弾く。
足音を聞いて『L』が歯を食い縛った。


「チャーリーまで来たのか」


足音と共に足が出現した。それから順に胴体、頭、と空気状に『R』が姿を現す。
闇の支配者『R』までも来てしまった、これは一体何の儀式だ?

『L』の元に集まってくる闇の者たち。
ここにいる者たちは皆、闇魔術が使えるものたちだ。『R』と『K』は除く。
やがてこの場に居る闇たちが『L』を囲んだところで、『R』が目的を口にした。


「ワガハイたちの目的は、精気を勝手に奪ったBを確保することと」


『R』は目を細めて『L』を睨んだ。


「お前を懲らしめるためにやってきたでアール」


「……何のことだ…」



一瞬、何のことか理解できた『L』であったが惚けようとした。
しかし奴らは見逃そうともしなかった。当然のことである。



罪を犯した二人に罰を下すために、『L』も『B』が入っている闇の中に入れられた。
そしてこの場にいたエキセントリック一族の者たちは闇と共に空気となって消えるのであった。










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『L』と『B』はどうなっちゃうのでしょうか?
そして帽子屋を連れた『O』は何処へ?

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