昔を顧みながら、コップに口をつける。
紅茶特有の優しい香りが全身に降り注ぐ。


64.ティータイム


ここは青い海の上に浮かんでいる孤島。
ブルンマインには「箱庭」という通りがあり、様々な店が道を作っている。
その中の一角にある「帽子屋」に3つの黒い訪問者。


「人んちに勝手に上がりこんでおきながら『茶を出せ』とは何事だ!」


そう怒鳴りつつ訪問者それぞれに合ったコップを出すシルクハットの男は「帽子屋」と呼ばれる男。
その名の通り、この店の主だ。
しかし黒づくめの3人に扱き使われているようだが。


「はっはっは。ここに来たらまずはこれを飲まなきゃな!」


コップ一杯に入っているヤクルトを一気飲みして、エキセントリック一族の『L』は朗らかに笑い出した。
「もう少しゆっくり飲めよ!」と帽子屋が声を上げているその手前ではイチゴミルクを飲み干した『B』の姿があった。


「早く新しいの持ってきなさいっ」

「だから速いんだよ!」

「プリンおかわり」

「お前は引っ込んでろ!」

「「ケチだなあ」」

「そんな忌々しい目ぇして俺を見るな!悪いことしてるように見られるじゃねえか!」


レトロ風味の店の雰囲気がこれでは台無しだ。
エキセントリック一族にわんわん文句を言われて帽子屋は歯軋りを鳴らす。
そして、言われたとおり飲み物食べ物を持ってくる。

餌を与えられて食いつく馬鹿3人は、エキセントリック一族の一味とは思えないほどののどかな空気を漂わせている。
今度はきちんと注意を受け入れているようで少しずつ口をつけている。
ようやく静かになったところで、帽子屋は深く息を吐き、先ほど噴き起こした怒りを水に流した。


「お前ら、最近はどうなんだ?」


ため息雑じりの質問は、3人の動きを止めていた。いや、一人はプリンを食べ続けているが。
コップを両手で握って『L』が唇を舐めてヤクルトの味を拭き取った。


「今のところは皆それぞれ好きなことをしてる」

「世界侵略はいつごろ始めそうなんだ?」


帽子屋は常日頃このことを気にしていたようだ。すぐにこの話題を振ったので。
『L』はまたコップに口をつけて水分を補給した。
このような質問は彼にとっては悲痛そのものであるから、すぐに緊張が湧き上がり水分が抜かれてしまうのである。


「もう既に始まってるよ」

「ピンカースの大都市を侵略した時点で計画は始まってるわっ」

「面倒だなあ」


再び全員がコップに口をつけた。
一瞬の沈黙。しかし『O』がプリンを食べ終えて皿の上にスプーンを置いたので沈黙は敢え無く切れた。
食器同士の悲鳴が『O』の声に重なる。


「イナゴ、これは止められないのか?」


皿を帽子屋に渡しながら『O』は『L』に目を向けた。
帽子屋は思わず皿を受け取り、後から「しまった、これはおかわりか!」と気づき、『O』を睨みながらキッチンへ引き返す。
そんな帽子屋に空になったコップを突きつけて、『L』が質問に答えた。


「オレの力だけじゃ無理だ。向こうにはノロイじいちゃんやキモU、そしてチャーリーがいる。敵う相手じゃない」

「あんたならできるでしょぉ?頑張りなさいよっ」


続いて『B』も、桃色が縁に付着したコップを帽子屋に渡す。
受け取ってからまた後悔し、帽子屋は皿とコップ二つをしぶしぶキッチンに運んでいった。
帽子屋が引っ込んで行く姿を背景に、『L』は困ったように眉を寄せる。


「言っておくけどオレは皆が想像してるより弱いぞ?」


黒い者たちは同じソファに腰をかけている。
真ん中を陣取っている『B』は『L』を睨みながら足を組みなおした。


「あんた、それで弱いと言いたいわけ?偉そうなこと言うんじゃないわよっ」

「いやいや、お前らだって知ってるだろ?数百年前のオレの弱さを」

「それを見てたから、君の凄さを知ってるんだよ」


プリンはまだかな、とテーブルに頬杖ついた『O』が『L』に向けて笑った。


「君は誰よりも頑張ってたじゃないか。努力して強くなった。凄いことだよ」

「…そうかな」

「そうよっ。あんたの努力は皆が認めてるんだから、胸張っていいのよっ」


二人に励まされ、『L』はシルクハットのつばで耳を覆った。
これは、今の空気から逃げたいときに行う『L』の照れ隠しの行為である。
そのまま俯いて『L』は呻いた。


「やめてくれよ。どのみちオレは闇魔術を使えない男なんだよ。そんな奴が闇魔術専門の奴に敵うと思うのか?」

「「……」」

「一般魔術で闇を抑えるのは非常に難なんだよ。一人じゃ到底敵わない」

「うむ。一人で無理なら二人ではどうだ?」

「え?」


『O』の言葉に引っ張られ、『L』は頭を上げた。
横にいる『B』を越して目線は『O』に行き届く。
『O』はプリンはまだかな、と頬杖をついたまま『L』を見ている。


「ぼくはいるだけだけど」

「…」

「一人よりは心寂しいことはないだろう?」


お前はいるだけかよ!と思ったけれど、『L』はあえてそこには首を突っ込まないでおいた。
彼が言うとおり、二人の方が心強いから。
しかし、相手は『O』だ。頼りにならない。
そう思っていたら、今度は『B』がこちらを向いてきた。


「大丈夫っ。私も手伝ってあげるわよぉ」


『B』は強い人だ。
彼女なら頼れる。だから安心できた。
二人の気持ちを聞いて『L』は自然と微笑みを浮かべた。


「心強いよ。ありがとう」

「いえいえ」

「ところで、闇を止める秘策はあるのかい?」


安堵の息が漏れた直後、『O』はすぐに厳しい質問をしてきた。
秘策、と言われて『L』は唸る。『B』も難しい表情を作った。

やがて『L』が「望みはある」と口を開いた。


「ハナを消すことが出来る"笑い"を持った6人の団体の力を借りれば、止めることが出来る」


しかし『L』の額には汗が滲み出ている。不安があるのだ。
それを見破り、『B』が眉を寄せた。


「何よぉ。何か問題でもあるわけ?」

「問題、ってわけじゃないけど」


『L』は理由を告げた。


「あの団体は全員、エキセンに心を傷つけられている。エキセンに会うたび奴らはその傷を押さえて苦しみだすんだ。だからそれが不安なんだよ」

「つまり、どういうことだい?」

「つまり、エキセンの前では奴らは本当の力を出し切れないんだ」

「「…!」」


絶句する二人に、『L』は手を向ける。
それから、親指から順に指を折っていった。


「一人はノロイじいちゃんの呪いを直に受けている。接触しただけですぐに呪いが発動してしまう」


また指を折る。


「一人はAの気まぐれで失敗作の合成獣になっている。彼女には何も力が無い」


指を折る。


「一人はVちゃんの闇魔術を胎児のときに受けて悪魔になっている。あれは精神的にキツイだろう」


まあ、それを乗り越えて悪魔の力を使えるようになればいい結果を導かせてくれるだろうけど、と言いながらまた指を折る。


「一人はクルーエル一族の生き残りだ。たぶんタトゥに血を浴びさせていないだろうから然程強くはないと思う」


いわゆる凡人だな。と少し笑ってから指を折り、自然と手は拳になった。


「一人はHの"印"を腹に彫られている。あれじゃあHの思うがままに操られてしまう。Hの前じゃ無力だ」

「ちょ、待ちなさいよ!本当に駄目じゃないのそいつらっ!」

「とことんエキセンだなあ」

「だから言っただろ?あいつらは不利なんだ」


3人分のため息が混ざった。酷な話に何もいえなくなったのだ。
そのころ、ようやく帽子屋がそれぞれの好みを持ってきた。
自分の紅茶を入れていたようで、コップが増えている。
なるほど、それで持ってくるのが遅くなったのか。


「今度はゆっくり味わえよ」

「「待ってましたー」」

「だから味わえっつってんだろ!」


元気をなくしていた3人だったが好物に食いついたところで元気を取り戻した。
何気に緊張感が無い奴らである。
そんな奴らの向居にあるソファに腰をかけて帽子屋も紅茶を飲む。


「そういえば、あんたのその説明じゃ一人足りないわよぉ」


イチゴミルクを飲むのをやめて『B』は『L』に声を掛けた。
『L』は何のことか理解できなかったようで惚けた顔を作っている。
そのため『B』が強く息を吐いた。


「あんたはさっきまで6人の団体の話をしてたでしょぉ?それなのにあんたは5人の話しかしてないわよぉ」


言われてから、『L』も気づいた。
一人一人の話をする都度、手の指を一本ずつ折っていた。五本折ったところで折るものがなくなり自然と話をやめてしまっていたのである。
6人分の話をしないといけないのにこれでは確かに5人までしか話をしていないことになる。
慌てて口を開いた。


「最後の一人な。あいつはほら、あれだよあれ」

「どれよっ!」

「キモUの人形ターゲットの子だよ」

「「ああ〜」」


帽子屋も『U』が抱いている人形のことを知っているので、つられて声を上げていた。
代わりに『O』は最近城に帰っていないため、人形のことを知らない。
スプーンをくわえたまま首を傾げる。


「どんな子なんだい?」

「そっか、お前はあの団体に会っていないんだな」


『L』はもちろんのこと『B』もラフメーカーの団体には会っている。
ここにいるエキセンの中でラフメーカーに会っていないのは『O』だけである。
だから知らないのも当然だと気づき、『L』がクモマについて説明した。


「今から10年ぐらい前にキモUと接触して心臓を取られてるんだ」

「心臓を?」


心臓を取られたということは死人と等しい。なので『O』は目の半分までおりているまぶたを完全に開いて驚きと興味を示した。


「その子は生きてるのかい?」

「生きてるからこの前助けてやったんだよ」

「へえ、不思議な子だな」

「キモUが心臓を預かっている代わり、死なない体になってるけどな」

「キモイのが心臓を預かってるのか」

「ああ、キモイのが預かってる」

「気に入った子の心臓を持ってるなんてキモイなあ」

「ああ、怖ろしくキモイな」

「ホントっキモイわねぇ」

「なあ、そういえば」


同じ一族の『U』のことをキモイ呼ばわりした黒づくめらであったが、『L』の声に全員が口を閉じる。
『L』は手に顎を置いてから、過去を振り返った。


「前に一度、死神が心臓を持ってきたこと、あったよな」

「「ああ〜」」

「そういやあったわねぇ」

「あれには本気で驚いた」

「ん?あったかな?」


周りがそのときのことを懐かしんでいるとき、また『O』だけが首を傾げていた。
本人がその事件の元凶だったのにも関わらず、すっかり忘れているようだ。
なので、全員で目を瞑って、あのときのことを思い出した。


「あれは、今からちょうど4年前、帽子屋で寛いでいるときのことだった…」


+ + +


「今日は死神、来るの遅いな」

「あいつのことだから、どっかでぶらぶらしてんのよぉ」

「あんなの来なくていい!プリンしか頭にないような奴なんか!」


帽子屋に来るときだけ来るのが早い死神が、このときだけが妙に遅かったんだ。
3人で心配してたのよぉ。プリンが喉に詰まって死んでるかと本気で思ったぐらいだったわ。
その死に方だったら本望だ。

暫く待っても姿を現さないから、ドアの前にプリンを置いてみたんだ。そしたら来た。
それで来たのかよ!?そんな道筋であいつやってきたのか?!
うむ。プリンの匂いに誘われた。
どんな鼻してんだよ!どこまでプリンにおかされてるんだ?!
脳にびっしりプリン畑だ。
さすが死神、つくづく馬鹿だなぁ。


「やあ。遅れた」


プリンに飛びついた死神だったけど、手に怪しげなものを持っていたんだ。それが心臓だったわけだ。
あれには驚いたわっ。生で見るのは初めてだったからねぇ。
そりゃそうだろ!

しかもその心臓が動いてるから、更に驚いた。


「おい!死神、それどうしたんだよ?!」

「ん?プリンか?」

「違う違う!それはいいんだよ!お前の手の中にあるグロテスクなもののことを聞いてるんだ!」

「ん?プリンか?」

「そっちの手じゃなくて逆の方!そうそっち!」

「それってまさか、心臓じゃないのぉ?」

「ん、やはりか」

「知らないで持ってきたのか?!」

「ん、拾った」

「「拾ってくるなよ?!」」

「って、どこで拾ったんだ?!」

「戻してきなさいっ!」

「うむ」

「いや!シルクハットの上に置くその道理が分からない!」

「拾った場所に戻してきなさいっ!」


そういうことで死神は再び帽子屋から出て行ったんだ。それからまた暫くは帰ってこなかった。
全くっどこで道草食ってたのよっ!
草よりプリンを食べたかったなあ。
知らねえよ!って、こら!プリンをねだってくるな!もう出さないからな!
プリンを出さない帽子屋は嫌いだ。
勝手にしろ!!

やがて、死神は戻ってきた。今度は心臓を持っていなくて安心した。死神のことだから、また拾ってきてるかと思ったよ。
妙な杞憂をするな!
うむ。期待に答えることが出来なくてごめんイナゴ。
はっはっは。いやいや謝ることないよ。だけど帰ってきて早々変な発言をしてくるから驚いたよな。


「死神、心臓戻してきたのか?」

「ん、入れてきた」

「「何に?!!」」


あれは一体なんだったのかしらねぇ。
しかもその後は何ごともなかったように過ごしてしまったから、結局は真相を掴めないまま終わってしまったんだった。
死神って摩訶不思議だな。
お、上手いねカオル。死神にピッタリの言葉じゃんか。
もうカオルって呼ぶな!それは昔の名だから呼ぶんじゃねえ!
カオルぅ。
カオル。
よっ!タオル!
こらイナゴ!どさくさに紛れてタオルって呼ぶな!!初めてタオルって呼ばれたぞ!
よかったじゃん。
よかねえよ!!


+ + +


4年前を顧みて、『O』も思い出すことが出来たようだ。
ポンッと手を打ち「思い出した」と呟く。


「そういや、どこで心臓を拾ってきたんだ?」


帽子屋から訊ねられ、『O』は暫く黙り込む。より詳しく思い出そうとしているのだ。
あのとき自分はどうして心臓を持ってきたのか。ずっとテーブルを睨んで、やがて思い出す。


「そうだ。拾ったんじゃなくて落ちてきたんだ」

「どこから?!」

「空から」

「心臓が?!」

「うん」


こいつの言っていることって本当にわからない、と3人は頭を抱えた。
元凶は目を細めて脳裏に過去を映す。空から降ってきたその意味を口にする。


「鎌に乗ってたキモイのが心臓を落としてきたんだ」

「キモイのって最近まで鎌に乗ってたのか?!」

「キモイわねっ!」

「って、ちょっと待て!!」


黒づくめの二人が『U』に対して鳥肌をたてているとき、帽子屋が濃く眉を寄せて『O』に詰め寄った。
『O』を目の前にして、恐る恐る帽子屋は訊ねた。


「キモイのが心臓を落としたのか?」


それを聞いて、『L』も目を見開いた。
席を立って『L』も『O』を見る。『B』は席は立たなかったが確実に『O』を見ている。
注目を浴びた彼も可笑しな点に気づいたようで口をモグモグするのを止めていた。

自分らの心臓音が高まり止まない。


「キモUがあのときに心臓を捨てていたのか?」

「それじゃあ今は心臓を持ってないってことになるじゃないのっ」

「どうしてキモUは心臓を捨てたりしたんだ?心臓が止まってしまえばその子は死ぬんだろ?」


帽子屋の素朴な疑問は『L』が解決する。


「いや、心臓が止まってもキモUの魔術が残ってる。あの子の胸には物理的変換術が埋められているんだ。それによって少しずつ人形化が進められているんだからその術が切れるまでその子は死なない」

「どういう意味だ?」

「10年ぐらい前にキモUと接触した少年は心臓を取られた代わりに魔術を埋め込まれたんだ。人形になる魔術を。その魔術は10年と言う月日を経て少しずつ少年の体を人形にしていってたんだ」

「ねっとりした魔術だな?!」

「今、少年の心臓の代わりをあの魔術が補っている。いや違う!あの少年は二通りの生き道があるんだ」

「二通り?」


『L』は目線を窓に向けた。窓から見える空の中、雲を眺める。
少年の名前は確か、雲に関連のある名前だったな、と思い出しながら、自分の意見を言った。


「一つは、キモUが取った心臓が動いている限り永遠に生きると言うパターンで、もう一つが、心臓が止まってもキモUの魔術の有効期間、いわゆる10年だ。その間までは生きていけるというパターン」

「……ということは」

「ああ、4年前に心臓を捨てそこで心臓が止まったとしても、少年はキモUの魔術の有効期間までは生きていけるんだ」

「……」


『L』は核心を突いた。


「つまり、キモUは少年を確実に自分のものにするために心臓を止めようとしたんだ」

「!」

「だから4年前、心臓を空から落としたんだ」

「!!」


全員が言葉を失った。
なので、『L』が言った。


「あのとき死神が拾ってきた心臓は、少年のものだったんだ」


まさか、そんな大変なものだったとは思ってもいなかった。
最も驚いているのは、無論『O』である。


「そうか、あれはキモイののターゲットになっているかわいそうな少年のものだったのか」

「そうだ」

「ねぇ、思ったんだけど」


『O』がしんみりと食べかけのプリンを見ている隣で『B』はつい最近起こった出来事思い出した。


「わざわざ心臓を止めなくても10年経てば自然と人形になるんじゃないのかしらぁ?」

「いや」


『L』は首を振り、そこの部分も説明した。


「10年経ったとしても心臓が動いている限り人形にはならないんだ。だから止めようとしたんだ」

「!」


また新たな真相を掴み、全員が再び絶句する。
その中で『L』も絶句していた。矛盾した点を見つけたからだ。


「それなら変だぞ。どうしてあのとき少年は人形になりかけたんだ?」


『B』も目を丸めた。


「そうよねっ。4年前、確実にあの心臓は動いていたわ。だから人形になりかけることはないはずだわっ」


しかし、『O』がゆっくりと首を振った。
長いこと首を振るものだから、自然と視線はそこに集まる。
『O』は後悔の色を浮かべて、全員に目を向けた。


「その子の心臓は、もう」


目線をそらして、告げた。


「その子のものではないんだ」


何故そんなことを言うのか分からなくて全員が固まる。
『O』はそのまま俯いて、自分の過ちを口にした。


「あの心臓が誰のものか知らなかったから、ぼくは勝手な使い方をしてしまった」

「ど、どういう意味だ?」


俯く『O』の姿なんかそう簡単に見れるものではない。なので全員は動揺を隠せずにいた。
対して『O』は神妙な態度をとりつづける。


「4年前、皆に戻して来いと言われて、ぼくは踵を返してた。そのときにたまたま荒野を通りかかったんだ」

「荒野?」

「そこであるものと出会った。そしてその中に入れたんだ」


4年前の『O』が心臓を戻しにいった後にこう言っていた。
「入れてきた」と。

『O』はあるものの中に心臓を入れたのだ。


「荒野に転がっていた人形の中に心臓を入れた」

「「……!」」

「心臓と一緒に魂を入れた。そしたらその人形は人間になった」

「「……」」

「だから、その心臓はもう少年のものではない。その人形のものになってしまったんだ」


驚きを隠しきれない。
まさか『O』がそんなことをしていたなんて。

『L』はその人形のことを知っていたらしく、もっと驚いていた。


「お前が前に見せてくれたよな。人形だった子の魂を」

「うん」

「あの人形の子の魂の中に入っていた心臓ってのが、あの少年のものだったのか…!」

「そうだ」

「そうだったのか…!」


『B』と帽子屋には理解できない内容であったが、兎にも角にも『L』は人形の子とあったようだ。
だからショックを隠しきれずにいるのだ。
そして『O』も同じだ。


「何ていうことをしてしまったんだろう。少年の心臓を勝手にあの子のものにしてしまった」

「心臓を共用することなんかできないよな。そっか、もう少年は死んでるのと同じなのか…」

「ごめんイナゴ。ぼく、知らなかったから」

「いや、死神は悪くない。これは全てキモUの所為だ」

「全くっキモUはどこまでねっとりしてるのよっ!」


しんみりする二人の間に割り込んで、『B』は憤りを放った。
『U』の気まぐれと『O』の気まぐれにより、二つの命が今、世に存在している。
一つは『U』の魔術により生きている少年。
そしてもう一つが少年の心臓を自分のものにして生きている人形の子、いわば少年。


「おい、どうするんだ?少年の心臓のおかげで人間になった人形はいいだろうけど、心臓をとられた少年はキモUの人形にされてしまうんだろ?」

「そうなんだよ、だからショックを隠しきれないんだ…。もう心臓を取り返すことが出来ないんだから」

「イナゴ、ごめん…」

「いいや、死神は悪くないって、むしろいい事してるよ。人形を人間にするなんて普通できないことなんだから」

「…」


『L』に慰められる『O』、しかし終いには黙り込んでしまった。
対して『L』はおろおろと歩き回る。
どうすればいいのか思いつかなくて焦る一方。


「心臓が使われていると言うことは、少年にはもう心臓がない…。心臓が足りないってことか…」

「イナゴ、どうする気よぉ?」

「全くだよ…思いつかない…どうすればいいのか思いつかない……!」

「だらしないわねっ!さっさとこの事件を解決しなさいっ!」

「うわぁぁ…もぉ…どうしようぅ……」

「みんな落ち着け!一先ず、茶でも飲め!」


間抜けな声を出してその場に座り込む『L』を見たため、帽子屋は急いでこの場を宥めた。
自分も動揺を隠せずにいるので真っ先に紅茶を口に含む。
『B』もイチゴミルクに手を伸ばして、一気に飲み干した。
しかし一番の問題である『L』は動かない。
そしてもう一人は、


「…あ」


何か閃いたらしく、声を上げていた。
手をポンッと打ち、いとも簡単に事件を解決する。



「心臓を作ろう」



その場が紅茶の楽園になった。
帽子屋が勢いよく紅茶を吹き出したのだ。
それにもかかわらず、『O』は自分の考えを口にする。


「心臓がないなら作るしか方法が無い。二つの命のために心臓を作ろう」

「ちょ、待てよ死神!」

「イナゴ、どう思う?」


変な意見を出す『O』を抑えようと帽子屋が前に出る。しかし、サラリと流された。
『O』は『L』に感想を求め、塞ぎこんでいる『L』も『O』の言葉には顔を上げていた。


「…死神…」


『L』は言っちゃった。


「その提案、採用する」

「あほかあああ!!」


心臓を作るなんて出来るはずないだろう!
そう慌てる帽子屋も黒づくめの奴らには敵わない。
『B』も口元をゆがめ、バラ色の三日月を象っていた。


「いいわねぇ。面白そうじゃないのっ」

「面白いとかあほなこというな!大体どうやって心臓を作る気なんだ!」

「それを今から考えるんだ」

「あほだ!いや、あほを通り越して馬鹿だ!こいつらみんな馬鹿だ!!」


心臓をとられて人形になりかけている少年と、心臓を与えられ人間になった人形。
これは全てが気まぐれと偶然の重なり。

自分らの一族の所為で世界が危機に迫られている。
その世界を救うことが出来るのは6つの魂。
しかし、一つの魂は消えかけている。何故なら心臓がないから。

だから自分らは、その心臓を作ろうではないか。
世界を救う旅人の協力をしようではないか。


心臓を作って、キモUの魔力を取り除き、人間に戻してあげよう。
これが自分らに与えられた任務だ。


黒づくめの3人は、心臓作りに精を込めるため、立ち上がり拳を握る。
そして巻き添えを喰らった店の主はというと、頭を抱えて深くため息をつくのであった。







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クモマの心臓はもはやクモマのものじゃない…?!

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