心を晴らして、踊って騒ごう。


63.マツリの村


クルーエル一族『智』属の二人が仲間になり、賑やかになった一行。
只でさえ狭い車の中に銀色の二人が入り込もうとするので、仕方なく全員が歩くことになった。
空の車を引く豚二匹の元へ行き、オンプが物珍しそうな目を作る。


「兄上、この車は豚二匹で動いているのか?」


相手を指定されてしまったので、兄上ことソングが目の辺りを顰めて答えた。


「そうだ。悪いか?」

「悪くは無い。しかし何故豚を選んだんだ?」

「知らねぇよ!さっきからいちいちうるせえな!」

「ったく、兄上は冷たい。誰に似たんだ」


お前に似ていると思う。さすが双子、顔も口調も瓜二つである。

のんびりと走行する車と共に会話も動く。
クモマたちと会話を弾ませているのは智属長バス、通称「智」だ。
兄妹二人が会話に入っていないとも関わらず、彼は我らの敵であるエキセントリック一族について語っていた。


「エキセンは得意分野というのがあって、邪悪を誇る闇魔術を扱える闇はたった8人だ」

「え、そうなの?」

「エキセンは26人いるんじゃなかったのかよー?」

「そうだけど、実際には8つの闇が主になっているんだ」

「その8つというのは誰なのよ?」


空から聞こえる声に反応し、智は顔を上げる。そこには白ハトのブチョウがいた。
鳥人の存在に驚いた様子だったが、冷静心を保ち続けた。
ブチョウに承諾して、智は一気にその8名の名を挙げる。


「C、U、G、V、H、N、Q、そしてPだ」

「………」


しかしアルファベットを挙げられてもメンバーには理解することが出来なかった。
どのアルファベットが誰なのか知らないため疑問符が浮かぶのみ。
分かったことといえば、自分らが最も知っている『L』『B』『J』の名前はあがってなかったということだ。
やはり彼らは闇専門ではなかったようだ。

間抜けな顔をして首を傾げあっているメンバーに気づいて笑いを漏らす智はその表情のまま言葉を補足した。


「闇魔術専門は計13。そのうちで活動している闇魔術者が8つということだぞ」

「13、ちゅうことは残りの13は一体何なんや?」

「この前会ったLのような、闇を扱わない一般魔術師だ」

「「へー」」


さすがエキセントリック一族の隣族であるクルーエル一族だ。いろいろと細かく詳しい。
心強い仲間が出来てよかったと、再び心を温かくする。
その中でサコツがエキセンに対してケラケラ笑っていた。


「しっかし面白ぇなー!闇なのに闇を使えない魔術師が13もいるなんてよー!」


言われてみて、確かに。と残りのメンバーも目を見開いた。
26つの闇の者のうち、たった13つしか闇魔術を使えるものがいない。
これは意外にも面白い情報である。


「そういえば、Lさんも言ってたっけ。『自分は闇専門じゃない』って」

「やっぱLさんは闇じゃないよー!闇を使えない者なんて闇じゃないもん!LさんやBさんとかも人間と同じじゃんー」

「せやけどエキセンは数百年前から生きとるんやろ?ありゃ人間じゃあらへんで」


人間じゃない。という言葉を聞いて、突如全員が口を閉じた。
歩く音だけが鳴る。
智は何故全員が黙り込んだのか分からなくて眉を寄せていた。
やがてクモマが、言葉を失った理由を告げた。

それは不吉な予想。


「もしかして、エキセンって死なないんじゃないかな?」


まさに全員がその理由で口を閉じていた。
全員の目がピクリと反応を見せ、強張ったので。

智が黙っている隙に、メンバーは口々に不安をぶつけあった。


「エキセンってよーすぐに消えるよな」

「闇に紛れちゃうんだもん。怖いよー!」

「捕まえたっと思っても、それは影やったり、闇となって地面に溶け込んだりするんやで。も〜意味わからへんわぁ!」

「相手の行動も読めちゃうから、怖ろしいわね」


全員がビクついている。
改めて自分らの最大なる敵のことを思い出して震えているのだ。
智も微妙な微笑を見せるだけで、全員の震えた心を止めることはしなかった。
代わりに煽いでいた。


「あの戦争のときも完全にエキセンのペースだったからな。『武』は『魔』に勝てなかったわけだ」


より不安を募らせてどうする。


「はあ、勝てたらいいなぁ」


智はそう言って、空を仰いでいた。
何だか頼りない発言がその場に流れたので、全員が首を垂らす。


「ホントに大丈夫かよ?エキセン倒せないと世界を救えないんだぜ?」

「ここは神頼みするしかないかな」


そして全員が神頼みをするために手を組むのであった。
そのころ、車を引いている豚二匹と一緒に歩いている兄妹は仲良く言い争いをしていた。

暫く不安を言い合っているうちに太陽が遠い山の向こうに沈んでしまった。
場は暗くなる。光が消え、場は闇だ。
この風景じゃエキセンの庭だな、と思っていると智も不吉を積んでくる。


「エキセンが住んでいる城は闇に包まれているから朝に来てもずっと夜のようなものだぞ」

「うわー、いつでもエキセンフィーバーだね」


不安に押し潰されたクモマがちょっとおかしな発言をした、そのときであった。
暗闇の向こうから激しく響く音が鳴ったのである。
ドーン、と。
空気を重く震わせる音なため、心臓が鈍く揺れた。
大きな音に驚き、全員が暗い中を見渡した。


「な、何ー?何か起こったのー?」

「やべーぜ!まさかエキセンの襲来かよー?」


しかし不安は豚二匹の元にいる兄妹によって掻き消される。


「いや、違う」


ソングとオンプは、少し背伸びして、前方をより深く見ようとしている。
目を細めて視界を定めたソングが口を開く。


「太鼓だ」


やがて全員の視界に、兄妹が見ていた風景が映った。
それは輝かしい光の地帯。

村だ…。



+ +


村に入ってみると、賑わい具合に目を奪われた。
前回の村では人間に会わなかったのでこの出会いは本当に嬉しい。

大勢の人々が波を作って移動している。
今は夜だというのに村全体が明るい。音も壮快。
ドンドンと太鼓を叩く音が響く。その都度全員が心臓が揺らされた。


「ここは、何をしている村なんだろう?」


道を挟んで屋台がズラリと並んでいる。
その屋台はほぼ全てが食べ物を売っている店だ。
ジュージューと食べ物が焼ける音があちらこちらに広がり、メンバーの顔を動かした。


「何か食おうで。このままじゃ死にそうやぁ」


やはりこの音にはトーフが負けてしまっていた。
しかし全員も似たような状態に陥られていたので、彼の意見は即賛成になった。
人の波に乗って移動して、まずはイカを焼いている店についた。


「らっしゃい!」

「きゃー!いい匂いー!」

「おっさん。イカ7本くれ」

「待て!俺を抜かしてる!8本だ8本!」


まさか智にまで遊ばれるとは、とソングは切ない気持ちに陥られた。
おっさんがイカを人数分焼いている間に空を見上げる。
今夜は美しい満月だ。
切ない心は見事その満月に魅了される。


「メロディ…。あと少しだけ待ってくれ。絶対にお前を救うから」

「兄上、何を言っているんだ。キショイから呟くのはやめてほしい」

「うっせえお前!!俺の唯一の気休め時間に首を突っ込んでくるな!」

「メロディとは一体誰のことだ?」

「黙れ!!お前はもう口を開くな」

「滑稽だな」


二人が言い争っている間に屋台のおっさんがイカを焼き終えた。
おっさんは「一本300Hだから合計2400Hだよ」とメンバーに金を請求する。
しかしメンバーはいつもの華麗な走りを見せて店を後にしていた。
その場に残ったのは、食い逃げのことを知らなかったクルーエル一族の二人だけだ。


「な、何だあいつら?」

「さあ?食べ物を持って走るとは野良猫のような動きだな」

「オンプ、その例え、上手いな」

「銀髪のお客さんたち、お金を…」


イカ屋のおっさんに金を請求され、智が懐から袋を取り出した。
そこから札束を大量に出す。


「悪いな。俺らはこの大陸の出身じゃないから金の種類が違うけど」


そして智はブラッカイア大陸の金をパラパラ捲った。
さすが属長。金は豊富のようだ。
屋台のおっさんもそれには目を放せない。


「えっと、これぐらいあればいいかな?」


ピンカースの金の単位『H』の価値が分からず、智は適当に金を渡した。
するとおっさんはそれに飛びついて、笑顔で対処する。


「はい、十分です」

「ああ、よかった。じゃイカをもらってくな」

「まいどありー」


意外と大量に金をもらえたようで、おっさんはにこやかに微笑んで智とオンプを見送った。

それからイカを食べながら二人は、逃げていった色鮮やかな団体を見つけようとするのだが、上手く見つからないでいた。
しかし自分らと同じ髪色の男を見つけ、それから順に他のメンバーの色も見つけた。

メンバーは食い逃げした割には堂々と腰を落としている。
目線は水が入っている箱の中だ。


「何をしているんだ?」


智が問うと全員が顔を上げた。
そのため視野が広がり、智の視界に入ったのは箱の中を泳いでいるいくつかの小魚であった。


「『金魚すくい』ってやつや」

「「金魚すくい?」」


メンバーは必死に箱に食いついて、金魚を目で追っている。
水に浸けたらすぐに破けそうな網と漆のお椀を持って、立ち向かう。
しかし金魚を上手く掬うことは出来なかった。


「あ…破けちゃった。意外と難しいねこれ」

「全くだぜー!俺も破けちゃったぜ」

「私はナマズをとっちゃったわ」

「どこにおったんやそれ!」

「クソ、2匹しかとれなかった」


全員が上手く金魚を掬えないでいることを知り、チョコ一人が不敵な笑みを浮かべていた。
彼女は奥の手を秘めているのだ。
それとは、


「金魚さん。私のお椀に入ってきて」


金魚に声を掛けて、自分のお椀に誘導する。だ。
見事その策はいい結果となって表れた。さすが動物と会話が出来るチョコ。こういうときにあくどい。

全ての金魚がチョコのお椀に入った。全員がギョッと目を丸める。


「それ無理矢理すぎだろ?!」

「魚がお椀一杯に盛られてる?!」

「すげーぜチョコ!」

「チョコ、あんたもなかなか目ざといわね」

「美味そうやわー!」

「何したんですかお客さん?!」


金魚を全部掬われてしまい、この店は赤字となったであろう。
しかし智がまた数枚の札を渡したので、店員は自殺をせずにすんだ。

ワイワイ賑わう村の中。
人波に乗って移動する。
店の前を通るたび、メンバーは食い逃げし、智が清算する。


射撃をする屋台では。


「ほしい物をこの銃で当ててくださいねーってあだ?!」

「私はあんたを当てるわ」

「「ブチョウがハンターの目に?!」」


カキ氷を売っている屋台では。


「キュウリ味はないのかよ!」

「「当たり前だ!」」


くじ引きで賞品を当てる屋台では


「い、一等の賞品が快適足長グッズだなんて…!絶対に一等を取ろう!」


結局5等という微妙な等を取ったり。


「こんな変な置物いらないよ!」

「あ、それほしいー!」


一体この村では何をしているのか分からなかったが、全員で楽しんだのであった。


「何故、こいつらは金を払わないんだろうな?」

「ふっ。いつまでもガキな連中なんだな」

「この女、正直にムカつくな」




ドンドン、ピーシャラ、ドンドン……
大太鼓と笛の音が村全体に広がる。
愉快な音楽が流れ、場の景気を晴らす。

人波に押されてやって来た場所は、この村の中心。
中央では祭囃子が賑わっている。太鼓と笛の素敵なハーモニーがここから生まれているのだ。
それらを囲んで人波は音楽に魅入られている。


「すっごいー」

「こんな楽しい気分になったのは久々かもしれないね」


連なった堤燈が赤に輝く。音楽が雰囲気を躍らせる。
ドンドン、ビーシャラ、ドンドンドン。
雰囲気にのって村人全員が手を上げ足を上げ、同じような動きをして回り始めた。
メンバーも一緒になって動き出す。


「何だ何だー?何が始まるんだ?」

「踊りかなー!」

「そか、これは祭りなんか」


全員がリズムに乗って踊りだしたころ、ようやくトーフはこの騒ぎの真相を見つけた。
他のメンバーは「祭り」と言われても理解できずに、ただただ波に呑まれるだけ。
ドンドンピーシャラに乗って身を躍らせる。

同じ動きをして同じ笑顔を作って
全員の身と心が満たされる。
ドンドンピーシャラドンドンドン。
祭囃子が奏でる音楽に乗って体が揺れる。
ドンドンピーシャラ。

始めのうちはどんな振り付けなのか分からなかったが、同じ動きの繰り返しだと気づき、後には全員が綺麗に踊ることが出来ていた。
楽しく乗って、笑顔になる。


これが祭り、楽しい祭り。
祭りのときに泣き顔なんか見たことない。ドンドンピーシャラドンドンドン。
みんなで輪になって音頭をとれば、自然と笑顔が浮き出てくる。
これが祭り、楽しい祭り。ドンドンドン。


闇の中で広がる踊り。
夜は闇。闇とは怖ろしいとしか捉えてなかったが、こういう使い方もあるのか。
闇夜に彫られる美しい彩。

ドンと一発上がれば、空は花畑だ。

踊っていたら突然の花火。驚いたが逆に心がすっきりした。
もやもやしていた不安が吹っ飛んだ気がしたから。


この村の"ハナ"はほとんど成長しておらず、逆に見つけるのに困難だ。
そのため暫くは踊って過ごそう。
何故ならこの踊りを止めることが出来ないのだから。
楽しいからとまらない。


「どの村も、こんな風な笑顔を持った村になればいいね」


出身村のエミの村とこの村には笑顔がある。
いや、この村も"笑い"がなくなりつつあるのだ。しかしそれを感じさせないほどの強い笑み。

クモマの声を聞いて全員の表情がまた緩む。


「そやな。笑顔ってやっぱええわ」


前回の村では"ハナ"のせいで笑顔が消えていた。
対してこの村は笑顔が充実している。
村によって"ハナ"の成長の仕方が違うため、このように違いが生じるのである。


さあ、今夜は笑おう。
月夜の下でドンドンピーシャラ踊ろう。


空を仰いで闇を見る。
闇空は本当に黒くて怖ろしい。
しかし、闇の中には月が輝いている。花火が彩りをつけている。

何だか、勇気付けられた。
人の心が篭った光があれば、もしかしたら闇を壊せるかもしれないと思えたから。
不安が吹っ飛び、心が晴れる。

笑顔はやはりいい。
笑うだけでこんなにも心が弾み気分が冴える。
どの村も笑顔でなければならない、そう実感した。

全ての村が笑顔になるまで、旅を続けよう。


笑顔の偉大さを知ったメンバーは銀勇者二人を連れて、他の村の笑顔を取り返しに、身と心を引き締める。






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