クモマが心の中で葛藤を起こしているころ、メンバーは魔物と戦っていた。
武器を操って、次々と敵を減らしていく。
この村を救う手段が、魔物を減らすということしかないのだから。


「クマさんは必殺技を出した後だから、力が出ないようね…」


ハリセンに描かれている召喚魔方陣を眺めながらブチョウは召喚獣クマさんの心配をした。
必殺技『ほにゃららビーム』は体内のアミノ酸を上手い具合に浄化させ、その上でアラキドン酸に変化を加える高度な技であり、一度使うと後が持たないのだ。
つまり、母性本能をくすぐる効果が見られるんですね。


「せやからその『母性本能をくすぐる』っちゅうのは関係ないやろ!語りかけられても納得できんわ!」

「タマ、興奮してないで戦いに集中しなさい」


『ほにゃららビーム』に対してツッコミをしていたトーフの元に素早く移動したブチョウは、そのまま勢いの波に乗って目の前の魔物を斬る。
ハリセンを喰らった魔物は背後にいた仲間たちを巻き添えにしながら数メートル先へ飛ばされた。
厚紙で出来たハリセンなのに、あそこまで被害を加えるとは、さすがブチョウである。


「このままじゃ埒が明かないわね」


しかしブチョウはこの威力だけでは物足りないと言う。
トーフは彼女の腕っ節だけで魔物を倒せるのではないかと思ったのだが、既にブチョウが行動に出ていたため、口を挟むことが出来なかった。

ハリセンの上部に手を触れ、魔方陣を発動させる。


「みんな、下がってなさい。今から手下を呼ぶから」


召喚獣は彼女にとって見れば手下の一つのようだ。
血文字で描かれた魔方陣が明るい光を放ち、場を明るくさせる。
周りにいた魔物たちも一歩身を引き、メンバーも言われたとおりに下がった。
風を生んだ光はブチョウの詠唱「ま゜」により辺りを大きく歪めた。
地面が弾き、光と風が分散する。乱反射が、この場に居る全ての者の目を奪った。


「いでよ。召喚獣、ウサギさん」


ブチョウに名を呼ばれ、ウサギさんと呼ばれた召喚獣が姿を現した。
煙の中から大きなシルエットが浮かぶ。


「ウサギさん?!」

「また『クマさん』レベルの奴か?!」


クマさんの名前と似ていて全員が良きならぬ不安を思い浮かべる。
するとそれはやはり的中してしまった。

煙が晴れたときにシルエットが彩りを作った。
人間サイズだけれど大きな召喚獣。

ウサギさんはムキムキマッチョであった。


「「キモー!!」」

「「ってか、ギャランドゥー!!」」

「ウサギさんは、胸毛もチャームポイントよ」

「んなことどうでもいい!もっとマシなの出せ!!」


全員から歓声を浴び、召喚獣ウサギさんも満足そうに笑みを零す。


「「クマさん並にキモイなこいつー!」」

『お褒め頂き光栄だよハニー』

「「クマさんと同レベルかよ!!」」


口調もクマさんに似た口説きものであった。
全員が悲鳴を上げているころ、ブチョウは満悦な表情を広げる。

クマさんに引き続き、今回はウサギさんで戦いに挑む。


『さあ、可愛い魔物ちゃんたち。おいらの相手をしておくれ』

「魔物がすっげー引いてるぜ?!」


ウサギさんが一歩足を踏み出すことで、魔物も同じように身を動かした。先ほどまで積極的にメンバーに襲い掛かっていた魔物が、今では嘘の様だ。
ウサギさんは事あるごとに筋肉を張るポーズをとり、魔物に声を掛けた。


『大丈夫さハニー。痛くしないよ。さあおいらの胸に飛び込んでおいで』

「キモイからやめーい!」

「構えるな!いちいち構えなくていいからお前は引っ込んでろ!」


魔物はウサギさんの登場にひるんでしまったようだ。
根性無いなーとウサギさんが高らかと笑っているとき、彼は運命の女神を見つけた。


「これはこれは、美しい子猫ちゃんだハニー」


ウサギさんはチョコを見て、ふっと微笑みかけるとまたポーズを取った。


「おいらと一緒に喫茶店に行こうよハニー」


チョコはこのような奴らに好かれるようだ。


「嫌ー!!」


しかもブチョウはクマさん一筋なので、ウサギさんの恋模様なんか気にしてもいなかった。
そのため、今回は見逃している。


「それ困るよー!姐御助けてー!」

「ウサギさんも恋するお年頃なのね」

「感心してないで助けてよー!」


ウサギさんがチョコに夢中になってしまった。魔物たちはこの隙を狙った。
全員の視線がキモイ筋肉の塊に向いている。今のうちに仕留めようと動き出す。
魔物は、武器を持っていない上戦闘に断然拒否を告げているクモマに手を伸ばす。


「!」


魔物の存在に気づき、クモマは反射神経で素早く避けた。
何気に戦闘時は素早くなるクモマ、しかし気を緩めたらならない。

魔物は今、ターゲットをクモマに絞っているのだ。
そのため何度も何度もクモマに手を伸ばし続けた。

メンバーもそのことに気づく。


「クモマ!」

「クソ!狙われたか!」


今、葛藤を起こしている最中のクモマは拳を出すことが出来なかった。
逃げることしか出来ない。この魔物を見ていると心が痛くなるから。

魔物たちだって、元は心があったというのに、
今では……。


クモマが狙われているのは不都合であるが、逆に取れば好都合でもある。
メンバーはがら空きになっているのでいつでも攻撃を繰り出すことが可能なのだ。
ブチョウは何を思ったのか役に立たない召喚獣ウサギさんを出したため今は動けない。
召喚獣は一つの魔方陣に1体しか出すことが出来ないのだから。

そのため、今動き出したのは、ソングだ。


「プレスト(極めて速く)」


風の如く、音の如く、光の如く。
ソングの声が響いたと思えば、ソングは瞬間移動したかのように、少し離れた場所に立って、ハサミを構えていた。そして今、地面を突き刺す。
それが合図となり、先ほど立っていた場所から今の場所までの距離に立っている魔物たちは全て破裂を起こして消えていった。

目の前で魔物が消えたことに対して、クモマは微妙な表情を作った。


「あ…」

「ったく、お前は何を考えているんだ」


村人が消えてしまった。それが悲痛。
だけれど今はそれどころではない。
何体かを一気に消されてしまったので、魔物たちが憤慨しているのだ。
ソングはまたハサミを構えた。


「クソ、ふざけやがって。まだやる気かこいつら」


魔物が叫ぶ。ガオーと。


「負け犬の遠吠え、か。さすが弱者だ。元は人間だから今までの魔物より弱いな」

「ソング…!」

「レッジェーロ(軽く)」


突き立てたハサミを使って地面を蹴り、着陸先は魔物の頭の上。
その頭に向けてハサミを刺す。

魔物が消え、支えるものが無くなったためソングは自然と地面に足をつけた。


「お前はいつまで怯えている気なんだ」


ソングはハサミをクモマに向けた。
突然武器を向けられてクモマは目を見開く。思わず身を引いた。


「怖いんだよ…」

「怖い?何が怖いんだ?」

「…"ハナ"の存在が…」

「俺らはこうなることを覚悟した上で旅をはじめた。ドラ猫が警告していたはずだ。『世界の命がかかっている』と」

「……」


俯くクモマの目の前の空気をハサミが貫く。ハサミがより近づいてきた。
メンバーはあえて動かなかった。あれはソングなりの説得だからだ。


「俺はそれを聞き入れた上で今まで旅をしていた。まあ、メロディの件が一番の目的だが」

「…」

「"ハナ"を消すということは、つまり世界を救っている一つの行為だ。俺は世界を狂わせている"ハナ"と、その製造者エキセンを倒すために絶対に世界を救ってみせる。そしてメロディを救うんだ」

「……」

「俺だって何度も挫折しそうになった、メロディがいなかったから。だけどいつも俺を勇気付けてくれる奴らがいた。最初のうちはなかなか打ち解けれなかったが、今では」


ソングは、目線を外して、言った。


「良き話し相手だ」

「……………」


襲ってきた魔物に蹴りを入れて蹴散らしてから、やがて話をまとめる。


「とにかく、ラフメーカーはそろってなければならない。だから戦え。戦わないと死ぬぞ」


ソングは遠まわしに「仲間を死なせたくない」と言った。
そのことに気づいて、クモマは自然と胸の奥底を熱く燈した。心配してもらえていると思い何だか心が和らいだのだ。

魔物が一方に引かないのでソングはクモマに言いたいだけ言って今は蹴散らしに突っ走った。
その隙に今度はブチョウが言う。


「戦いなさい。戦えば全てが分かるわよ。私は今まで魔物を何度も仕留めて来たから感覚で分かるわ」

「…」

「この魔物たちは、本当に魔物よ。元が人間という方が信じられないぐらい」

「…」

「今ここで動かないと凡が言ったようにあんたは死ぬわ確実に。私も仲間を死なせたくない」


またクモマを狙っている魔物。ブチョウがハリセンで仕留めた。
クモマの背後に回って、また魔物を消す。一歩後ろに身を引いて、クモマの背中にブチョウは背中を合わせた。
そして呟いた。


「私は友人を死なせてる。自分が愚かだったから。自分のことしか考えてなくて周りを見てなかったから不運な結果を生み出してしまった。私はもうそんなつらい目に遭いたくない」

「……!」

「たぬ〜、あんたは今自分のことしか考えてないわ。これじゃあ前の私と同じ。今のあんたじゃ後々大切な人を失いかねない」


クモマは心を締め付けられた。
いつもあまり物事を言わない二人から説得を喰らったから。
それほどまでに今自分は皆を追い詰めてしまっているのだ。

そのことに気づいて、すごく胸が痛んだ。

確かにブチョウの言うとおりだ。
今、迷惑ばかり起こしている。クモマが動かないからそれを魔物に狙われて、メンバーが必死になって守ってくれている。

この村の人々が魔物になったという現実は本当に怖ろしい。
だけれどソングが言ったとおり、これは前々から覚悟していたことのはずだ。
トーフは常に世界の危機を話していた。そしてそのことは今まさに目の前に現れている。
トーフはずっとこのことを言いたかったんだ。自分らが動かない所為で苦しんでいる人たちがいるということを。
だからいつもトーフはせかせかと行動してたんだ。
動かないと、世界を救えないと知っているから。
躊躇したら駄目なんだ。躊躇した時点で自分は負けを認めていることになる。
負けたら駄目だ…。

本当に皆は凄い。あんなにも高いハードルを楽々とクリアしてしまったのだから。


クモマが反省の色を浮かべている間にもブチョウは背中越しから声を掛けている。


「私は今はもう自分のことは考えてないわ。常に周りに目を配っている。そうしないとずっと弱い自分のままになっちゃうからね。強くなるためには周りを見て、動く。これってまさにあんたが今までしていた言動だと思うわ」

「…ブチョウ…!」

「仲間が苦しんでいたら真っ先に行動に出たのは、たぬ〜。あんたよ」


パシンと背後から音が鳴った。
ブチョウがまた魔物を仕留めたのだ。
全員が村人を消している。
胸が痛むが、ここで吹っ切れないと、前へ進めない。

この高いハードルを、今…


「…」


越えた。


皆が、自分を褒めてくれている。
そのことが何より嬉しい。

背中の温もりが消える。ブチョウから離れたから。
地面を踏む音が鳴る。今歩いているから。
みんなの声が聞こえる。みんな、嬉しかったんだ。
口を開ける。そこから自分の気持ちをはいた。


「僕には守りたい人がいる」


ソングが取り逃がした魔物が確実にクモマに向かって牙を見せた。
しかし、次の瞬間、その魔物は無い存在になった。

拳を突き出し、全てを抉る。


「僕は弱い。弱いから強くなりたい。強くなりたいから、皆に憧れていた」


魔物に向けて強く蹴りを入れる。


「皆は本当に強いよ。だから皆が哀しみ苦しんでいるところを僕は見たくなかった」


クモマを呟いた。「東雲(しののめ)」と。
強烈な拳を喰らった魔物は吹っ飛びあがり、空に溶ける。
今まで暗かったクモマの心の中が今、光を差した。光が伸び、そこは朝になる。
明け方の東雲は嬉しそうにこちらに手を振っている。
さあ、これから今日一日を楽しもう、て。

やっと心に朝がやってきたクモマは、いつもの笑みを零して、皆に目を向けた。


「僕は、皆を守りたい」

「クモマ…」


説得が効いた、とソングとブチョウが安堵のため息をついた。
他のメンバーも胸を撫で下ろしている。
それほどまでにクモマは皆に心配かけていたのだ。
申し訳なく思えて、頭が下がってしまう。

しかし、今ここで乗り越えなければ。

自分らは世界を救う。
そのために、一つ一つ克服しなくては。

魔物は敵。
躊躇はしてはならない。


「皆、今までゴメンね」

「いやー、大丈夫よ!それよりこのキモイウサギさんを何とかしてほしいよー!」

「よかったぜクモマ!一緒に戦おうぜ!」

「ったく、どこまで心配かけるやつなんだ…」

「笑顔を見れてよかったわ」

「皆、気ぃ緩めたらあかんでー!」

「「おー!!」」


戦力が増えたということで全員が張り切って魔物に手をあげた。
クモマも戦ってみて分かった。
確かにこいつらは魔物だ、と。元人間だなんて信じられないほどのオーラと感触。

なるほど、こいつらの中に"ハナ"がいるから、奴らは完全なる魔物と化してしまったのか。

ならば一刻も早く助けなければ。


「でもよー!こいつら全然減らないぜー!」


しかし、魔物は増える一方だった。


「ちょっとー!何でこんなに魔物がいるのー!」

「やっぱりなぁ、村の住民全員が魔物なんやから、数が多いのも当然やなぁ」

「どうにかして減らしなさいよ」

「ウサギさんを使ってよブチョウ」

「無理よ。ウサギさんはナンパしかできない子だから」

「そしたら出すな!不必要だ!」


魔物は見る見るうちに増えていく。
トーフもあちこちに糸を張って罠を仕掛けるが、それでも数は減らない。
だが、諦めない。
クモマがせっかくやる気を出したのに、ここで諦めてどうする。
絶対にこいつらを救わなければならないのだから、攻撃をやめては駄目だ。
技を図るしかない。


「絆(ほだし)」


小さな体を使って、魔物の股を潜り抜ける。そのときに足首に糸を絡ませ、何体かの魔物の自由を同時に奪う。
その隙にブチョウが加勢に出る。


「ほだし…。つまり『きずな』か。いい言葉じゃないの」


しみじみ感心しながらブチョウはまずは1体の魔物の前に立った。
魔物は怯える姿を見せることをおろか、威嚇しこちらを食べる気満々だ。
なのでブチョウは鼻で笑っていた。


「目潰し」


プチ。


「嫌な音が鳴ったわー!!」


トーフが縛り上げた分の魔物全てにプチをし、破滅させる。
ブチョウのせこい技にトーフはうなだれた。


「これじゃあいつまでたっても倒せんわぁ。どないしよ」

「ごめんね、僕も拳しか武器がないから一つ一つを片付けることしかできないよ」

「だからウサギさんやめてよ!気持ち悪いから近づいてこないでー!」

「いい加減、疲れてきた」


全員の表情に疲れが生じている。
ずっと戦っているが数は減らないし、力が減る一方だ。
おかげさまでソングはハサミを突き刺し、それを背もたれにして体を休めていた。
続いてサコツも座り込む。


「も…限界だぜ…」


サコツもここで翼をしまった。
翼を出していると常に悪魔の力が体に放流するのでその分早く疲れが出てしまうのだ。
夢の中で特訓しただけなので、実践は今日が始めてであり、翼の出し入れにも苦労している。
翼を仕舞う時の痛みに悲鳴を上げていた。

クモマはまだ動いているが、数は減らしていない。
トーフとブチョウも同じく。


「…やっぱりクマさんを出せばよかったわ」

「だけどクマさんは充電中だろう?無理に出したら可哀想だよ」

「せやけどウサギさんは出さなくてもええかんか」

「そうね。それだったらクマさんを出した方が良かったわ」

「だからクマさんを休ませてあげようよ!過労死しちゃうよ?!」

「……はあ、まだ魔物は出てくるんか…」


この会話も全て呼吸交じりの会話である。
こちらも限界なのだ。しかし動かないと自分らはここから出られない。村を救えない。村人を救えない。
だからどうしても戦いたかった。


それなのに、動けないなんて…。


「…誰か、助けてやぁ…」


トーフが呻いた。その瞬間だった。
村の端、扉が閉まった門があった場所、メンバーの車が近くに置いてある場所。
そこから大きな爆発音と煙が上がったのだ。


「な、何?」

「おいおいおいー今度は何がきたんだよー」


もう戦えないのに、また敵の登場か?
エキセントリック一族でも現れたのか?しかしそれならば様子がおかしい。
何故なら恐怖を感じないから。
エキセン登場には必ず全員が恐怖に締め付けられる。
しかし今はそれは無い。
むしろ笑顔が浮かんできた。

ここが門から近い場所でよかった。


「よ!無事か?」


強い風が吹いたと思えば、それは人間が走ったときに生じた風であり、その人間は、瞬時で魔物を消し去っていた。
巨大化されたナイフがキラリと輝く。
そして同じように髪の毛も輝く。

あっとクモマが声を漏らした。


「あなたは、智さん!」


銀色の髪を自分が作った風により靡かせている者は、クルーエル一族『智』属長。バス・C・ブラッドであった。
彼がくるっと半回転すると、回転扉のように次は違うものが現れる。
智の背中に背中を合わせてこちらに目を向けている者を見て今度はソングが目を見開いた。


「お前は…!」

「生きてるか、兄上」


ソングと瓜二つの妹、オンプ・C・ブラッドも登場だ。
突然のクルーエル一族の訪問に全員が唖然と顔を崩した。

この二人、一体何の用事で来たのだろうか。
そう思っていたが、それはここで吹き荒れる風により掻き消されてしまった。

本場のクルーエル一族の動きが目の前で披露される。
銀色が華麗に動くステップ。踊るように魔物が振り回され消滅する。
この場には智とオンプの二人しかいないのだが、これだけは分かる。
魔物が確実に減っていってるのだ。

メンバー6人…いや、チョコがずっと口説かれていたから実際には5人か。
5人が戦って消していた魔物をたった二人で減らしている。
素晴らしい戦力に目を奪われる。

あっという間にこの場にいた魔物が消えた。
場に残ったのは、二人が暴れたときに生じた風と、それに煽られる人間のみだ。


「どうしてあなたたちが?」


一段落着いたところでクモマが智に向けて声を掛けた。
智は「久々に暴れて、いい汗かいた」とのん気に汗を拭っている。
ふっと笑って暴れた心を抑えてから、智が答えた。


「お前たちのお供をしようと思ってな」


その言葉に全員があんぐりと大口を開けた。
まさかクルーエル一族が加勢に来てくれるとは。
オンプも無愛想な表情を少しだけ緩める。


「今、幸さんと恩さんも自分らの属の人たちに応援を頼んでいるんだ」

「応援?」

「『エキセントリック一族を倒すためにラフメーカーの護衛につこう』と」

「!?」


何とも頼もしい言葉である。


「まあ、幸属と恩属と智属に所属している人ってのも少ないんだけどな。圧倒的に悪なる4属の方が人が多いけど」

「しかし、いないよりはマシだろ?」

「それとノロイの呪いを直に受けている大人たちはきっと動けない。だから年代もあの時に赤ん坊だった俺らかその下の奴らしか引き受けてくれないと思う」

「しかし全員が善ある奴らだから。安心してくれ」


クルーエル二人の言葉を聞いて勇気付けられた。
全員は拳を震わせて、今の気持ちを打ち明ける。


「ホンマおおきに!助かるで!」

「クルーエルがいるならこっちのもんだぜ!」

「あんなにたくさんいた魔物をあっという間に倒しちゃうんだもん!すごいよー!」

「せいぜい私たちのために動くことね」

「本当にありがとうございます!」


「いえいえ」と二人が照れ隠ししているときに、ソングだけが、疑問を吐いていた。


「お前ら、呪いは無事なのか?またノロイが来るんじゃないか?」


しかしそれも心配を赴く言葉であった。
兄の言葉が嬉しかったのか、オンプが少し弾んだ声で答えていた。


「大丈夫だ。そのときはそのときに対処する」

「ポジティブだな?!」

「心配してくれてありがとな」


そう笑ってから、智が全員に告げた。


「俺らはブラッカイア出身でありエキセントリック一族については一番詳しい。奴らのことなら何でも聞いてくれ」


接続詞をつけて、話を続ける。


「エキセントリック一族の住処も知っているから、それも兼ねてお前らと一緒に行動する。そしてそこまで責任持って連れて行く」

「ホンマか?」

「ホンマだ」


エキセントリック一族の居場所を知らなかったため、これはとても良い情報となった。
クルーエル一族二人の突然の訪問には正直驚いたが、その分いい知らせを持ってきた。

智に手のひらを向け、クモマは握手を求めた。


「これから、よろしくお願いします」


クモマのいい笑みをみて、「さすがラフメーカーだな」と納得してから、智も手を伸ばした。


「ああ、こちらこそよろしく」


ガッシリと手と手を繋ぎ、ここで契約を結んだ。


銀の者たちは、護衛と誘導を任せてください。と。
個性溢れる者たちは、共に世界を救わせてください。と。


二人が作った一つの拳が、エキセントリック一族へに向けての試合申し込みの合図となった。







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智とオンプが強制的に仲間になりました!

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