やがて、唇が離れた。
しょっぱい味がしたからだ。タンポポが泣いていると気づいて唇を離した。
タンポポを見てみると、やはりだ。泣いていた。


「……ごめん…」

「………」


今更顔が熱くなった。
だけれどここでこの恥を我慢しないと、タンポポを逃してしまう。
といっても、ここでこんなことをして一体何が変わるというのだ。
彼女が自分と同じ気持ちであれば、彼女がまたこれからも来てくれると思ったのか。
…どうだろう?
さっきは本当に必死だったから、無我夢中だったから、タンポポのことを考えていなかった。

『L』はタンポポの顔色をうかがいながら謝った。


「い、嫌だよな?イキナリこんなことされたら…」

「…………」

「……っ」


タンポポがずっと黙って泣いているから、どうしようもなくなってきた。
相当嫌だったのか…。

そうだよな。好きでもない奴にこんなことされたら誰だって泣くよな………。






「「!?」」


花畑の中央で、突然二人が重なったから、本当に驚いた。
思わずくわえていたスプーンを落としてしまうほどだ。
前に一度、この木に隠れて二人の幸せな姿を見ていたけれど、今回はそんな様子ではない。
『L』の必死な姿、だけれどやはりあどけない姿。
それらが黒い瞳に映し出されて、『O』と『J』は唖然とするのみだった。

まず先に興奮したのは『J』だった。場を考えて小声だけれど、それでも興奮は伝わる。


「ジェジェ…どうしちゃったんだジェイ?イナゴの行動が可笑しいジェイ…!」

「まさか驚いた。イナゴがあんな大胆なことを」


いつも眠たそうな目をしている『O』もあの光景を見てしまってからは見開きっぱなしだった。
プリンを食べるのもやめ、下に落としたスプーンも拾わず、ずっと花畑の二人を眺めている。
そして悟った。プリンをしまって、完全に今の風景に集中する。


「ついに決心したのか」

「ジェ?何の決心だジェイ?」


『J』には『L』の行動が理解できていないようで首を傾げっぱなしだ。
なので『O』が教えてあげた。
木の幹にしがみついて、一息ついたところで口を開く。 


「愛の告白だ」

「ジェ…!」


木の後ろの二人が会話をしている頃、花畑に座っている二人に異変が見られた。






「ダンちゃん!」


突然タンポポが立ち上がって走っていくものだから、『L』も飛び上がって追いかけた。
白い彼女が自分から離れていく。光が逃げていく。それが嫌だった。
後を追っていると一粒雫が流れてきた。それはタンポポの飛び散った涙だった。
涙が飛び散るほど泣いているのかと、また胸が締め付けられた。


「ごめんダンちゃん…!」

「……っ」

「オレ……」


手を伸ばして彼女の腕を掴んだ。
そしてぐいっと引いてこちらに向かせる。彼女はやはり泣いていた。
大きな目から幾つもの筋をつける涙。頬が水分を浴びたせいで部分部分が濃い。
涙だらけの彼女を見て、『L』は必死に謝った。


「ホントごめんな!オレ、どうしてもダンちゃんに気持ちを伝えたくて…!」

「………っ!!」


瞬間、パアァン、とみずみずしい音が響く。
伴って『L』の頬の星模様が赤く染まる。
突然頬を打たれたので一瞬だけ気持ちが抜かれ、惚けてしまった。

タンポポは、打った手と顔を真っ赤にして、涙を流す。
怒ってはいなさそう。だけれどずっと泣いている。悲しい瞳で『L』を見る。


「……………」


タンポポは何も言わなかった。ずっとずっと泣いているから。泣いているのに必死のようだから。
潤んだ瞳には、打たれた頬が赤くなっている『L』の姿が映っていた。『L』の苦笑している姿が浮かび上がっている。


「…そ、そうだよな……嫌…だよな…」

「………」


タンポポは涙を噴出すだけだった。
『L』は頬を押さえようとせずに、目の前のタンポポに集中する。


「オレ、自分勝手な奴だから、ダンちゃんのこと考えてなかった」

「……」

「だけど、これだけは言わせて」


そして『L』は自分の決心を貫き通した。


「オレは闇だ。闇の中でもトップに立つほどのもの。エリートとして扱われている」


タンポポの涙の筋がまた増える。
涙を拭っても涙はポロポロこぼれる。


「認めたくないけどオレは周りから見たら闇なんだ。光には到底及ばないもの。だけど」

「……」

「オレは光になりたいと思ったんだ」


これ以上何か言っても、嫌いな奴から言われる言葉だ。結局は彼女の泣き顔を見ることになる。
だけどどうしても伝えたかった。
『R』と『Z』に「彼女と別れろ」と言われた上、その本人から「もう会えない」宣言された。
どうしてもそれが許せなかった。

確かに今自分は自己中心的な行動を起こしていると思う。
だけどこの機会を逃してしまえば、一生後悔すると思ったから。

自分は闇の者。死に縁がないもの。
だからここで後悔したら一生後悔することになる。それが嫌だった。


だから、ここで、彼女を抱きとめなくちゃいけないと思ったんだ。


「………イナゴ…」


彼女がやっと声を漏らした。その声は震えていた。
しかしそれ以上に『L』の体は震えていた。

これじゃ彼女を暖めることなんて出来ない。
やはり自分は人を暖める技術を持っていないんだ。何て酷なことなのだろうか。

タンポポを胸の中に入れて、『L』は必死に自分の想いを告げた。


「オレは闇だけど光が好きなんだ」


言葉一つ一つに想いを寄せて。
その都度手が震える。よって彼女の肩を震わせてしまった。
胸の高まりも高波を荒らす。顔も真っ赤だ。

タンポポは何も抵抗せずに、泣くたびに顔を赤くしてきちんと聞き入れている。


「ダンちゃんに会ってから、光の素晴らしさを知った」

「…」

「オレは闇だよ。だけど闇になりたくなかったんだ。本当は光になりたかった…」

「…イナゴ…」

「ダンちゃんのような光になりたかった…」


驚いた。タンポポがギュッと力を入れて『L』に抱きついているから。
必死に背中に腕を回して、タンポポは胸の中で静かに泣いていた。

黒が白を支配してしまっている。
マントが彼女を覆ってしまって、彼女を消しつつあるのだ。
そのことに気づいて『L』はタンポポを放そうとした。
しかしタンポポが抱きついている。タンポポが『L』の気持ちを聞いて泣いている…。

『L』は告げた。


「ダンちゃん。オレ、闇だけど」


それでもいいんだ。
溶けてしまってもいい。好きな人の光に呑み込まれるのなら、本望だ。


「オレにずっと光をください」


オレは光が好きなんだ。
ダンちゃんが放つ光が好きだから…。


「闇のオレに光を浴びさせてください」


光を浴びて溶けてしまっても、それを抱きとめてください。

何れか闇は光になるものだから、オレも光になる。
けれども、本当になれるかは分からない。
もしなれなかったとしても、これだけはオレにさせてください。


「こんな闇だけど、あなたの光を護らせてください」


喉がかれる。
顔が焼ける。
胸が圧迫しそうだ。
この心臓音、絶対にタンポポに聞かれている。
だけど、それ以上にタンポポの涙が胸に当たる。


「魔術が使えなくても男は女を護るもの…。オレに護らせてください……」


風が吹いた。
背後から吹く風はマントを煽って彼女を包む。
しかし白も強い。必死にしがみ付いて呑み込まれないようにしている、

風の中、何かが聞こえる。
それは胸の中から。彼女が何か呻いている。嗚咽に埋もれた声が聞こえてくる。


「……ごめんなさいでヤンス…」


タンポポが震えていた。だから包んであげた。
だけれど本当は、自分も身を縮めたかった。
タンポポの震える口から流れる言葉が、胸を締め付けて、苦しませる。

やっぱり、ダメか。
そうだよな。闇の者なんかが恋しちゃいけないんだよな。

どうせ自分は嫌われ者の闇。光を浴びることを許されない…。


しかし、次に出るタンポポの言葉に呆気をとられてしまった。


「アタイはイナゴと別れるのがつらくて、ぬいぐるみをやったんでヤンスよ」

「…え?」


別れるのが、つらかった?
タンポポは『L』の胸に涙を拭い、呻き続ける。
泣き声で聞き取りづらい。綺麗な声が震えてしまってより小さな存在になってしまっている。


「それなのに、こんなの…あんまりでヤンス……」

「…ご、ごめん……」

「あんたは悪くないでヤンス。何度も謝らないでほしいでヤンス」


胸に当たる温もりが常時感じる。
タンポポは一体どれくらい泣いているのだろう。
どうしてタンポポはこんなにも泣いているのだろう。


「謝らないといけないのはアタイの方でヤンス…」


『L』が緊張のあまり頭が回らなくなっているとき、タンポポはまたそこから離れていた。
するっと抜けられて、胸の温もりが空気に触れて冷たくなる。
『L』が必死に追いかけて、タンポポが逃げる。何に逃げている?やっぱり嫌いなのか?

花畑を走って、終いにはタンポポは転んでしまった。
その反動で花びらが舞う。『L』も急いでそこへ駆け込み、タンポポを助けようとした。

しかしタンポポは涙に埋もれて、身を沈めていた。
座り込んで頭を花畑に突っ込んでいる。
普段『L』が照れから逃げるために行う動作と同じだ。

やがてタンポポは謝ってきた。


「アタイ、あんたに恋したらいけないでヤンスよ!」


ギュッと胸が痛くなった。
タンポポもわんわん泣きながら理由を吐いた。


「天使は他の種族と恋したらいけないでヤンス!」

「……え…!」


初めて知った。
天使は種族を超えた恋を許されないものだったのか。

また胸が痛んだ。
自分の過ちに気づいたからだ。

天使が他の種族と恋をしたらいけないなんて知らなかったからタンポポに近づいていた。
タンポポがそんなそぶりを見せなかったから、つい恋をしてしまった。

しかしそれは許されない行為だった。
ああ、何てことをしてしまったのだろう。


「アタイは恋したらいけないでヤンス……」

「…」

「それなのに……………」


この後のタンポポの泣き声に驚いたけれど、それよりも先にショックを隠しきれなかった。
タンポポは泣きじゃくった。
しゃっくりあげて肩を震わせる。それでも声を絞り出す。


「毎日ここに通ってしまったでヤンス…!」

「…!」

「あんたに会えるのが嬉しくて、いつも一足早く来てたでヤンス」

「ダンちゃん…」

「イナゴと会いたいから毎日地上に降りてたでヤンス」

「……っ」

「身の危険もヒシヒシと感じてたけど、それよりもアタイは……!!」


ここまで言って、タンポポが恐怖に押しつぶされた。


「天罰が下るでヤンス………………」


タンポポが呻いた直後、その場が暗くなった。
花畑の彩が全て吸い込まれる。
タンポポの白も吸い込まれそうになる。『L』が急いで手を伸ばした。
しかし届かない…!


「ダンちゃんっ!」


突然の闇の海の出現に驚きを隠せなかった。
しかしその前に、タンポポが闇に呑みこまれそうで危険だった。
必死にその場を掻き分けてタンポポに手を伸ばす。それなのに届かない。
タンポポも手を伸ばしているのに、距離は伸びる一方だ。


「イナゴー!!」


タンポポの悲鳴が聞こえる。
しかし姿が見えない。彼女の姿が見えない。
白が呑みこまれた…!
そして『L』もある人物の降臨に、冷静心を呑まれた。


「……な、何でお前が……」


天罰というのは神が下すものだ。
神と言えば白に輝く者だ。それなのに目の前の者は黒一色。

最も危険な匂いを漂わせる闇がこの場に降りた。



「うふふ。うふふふふふ……」

「お前は…」


息を呑んで、相手を睨みつける。しかし怯えていた。


「お前は、P…」


この場に闇の海を湧かし、彼女を呑みこんでいった奴。
こいつを知らない闇などいない。
自分らを製作した『P』だ。闇の始まりプロローグ。

『P』は闇のイスに座って波を操る。


「うふふ。L、あなたがこの子に罪を負わせたのね?」


トンと、闇を突付けば、その場が渦を巻く。
そこからツタのような闇に絡まって現れたのは、タンポポだった。
白い着物が台無しだ。黒く染まっている。肌も黒になりかけている。


「ダンちゃん!」

「ダンちゃん?あらあらそこまで仲がよろしくなったわけ?うふふ。あなたは彼女が天使と知っていて恋したの?」


『P』と言えば『E』の死を目に受けたのをきっかけに狂ったのだ。それで部屋に篭っていたはず。
それなのにこれは何なのだ。

『P』は、天使の上に立つ女神だったのか?


「やめろ。ダンちゃんは何も悪くないんだ…!天罰はオレが受けるから放してやってくれ」

「うふふ愚か者。そんなので私の気が落ち着くというの?私はねぇ人の幸せが嫌いなのよ」


どうして光の上に闇が立っているんだ?
エキセントリック一族は知らぬ間にそんなとこまで支配していたのか?

『P』は淡々と言い放った。
光の無い真っ黒な目で、瞬き一度もせず、本当に狂った表情をして。


「私たちが幸せになれなかったのに、人の幸せなんて許されるはずがないわ。うふふ、うふふふふ」

「天使は関係ないはずだ…」

「天使は人を幸せにするだけの生き物。奴らには幸せはいらないわ」

「……!」


こいつ、天使の幸せを奪っていたのか…!
指を重ね、狙いを『P』に定める。
しかしこれから先には移れない。指が掠ると咄嗟に感じてしまったから。
彼女の前だと魔術が使えない。
昔も今も同じだ。この時だって魔術が

やはり使えない。


魔術が発動せず、『L』は自分の弱さに歯を食い縛った。
目の前ではタンポポが闇に支配されつつあるのに、手を伸ばしてやれない。何て自分は情けないのだ。
闇の海を掻き分けて近づこうとする。しかし、自分が呑みこまれそうになって進めない。


「……ダンちゃん……」


手を伸ばしても伸ばしても、引き離される。
どうしてだ。どうしてお前は大切な人を奪うことが出来る?


「オレはダンちゃんがいないと…生きていけないよ…!」


呻いてもそれは無駄な行為。余計『P』を怒らせてしまう。
だけれど『L』はタンポポのことが好きだから。心底好きだから。
今ここで失いたくないのだ。
失いたくないから必死に手を伸ばす。前へ進んで彼女に近づく。しかし遠ざけられる。

自分は魔術しか使えない男だ。
腕っ節とか無いし、武道の能力は無い。
頭脳だけが全て。魔術だけが武器。
それなのに、ここではその魔術が発動しない。
大切な人を失いかけているのに、それを助けるための魔術が発動されない。

どうして発動しないんだ。どうして自分はこんなにも駄目な奴なんだ。
お願いだから魔術、発動して…!

指を鳴らしても、鳴らなかった。
掠った音しか鳴らない。彼女のピンチにもこの指は言うことを聞いてくれなかった。

『P』はそんな『L』を見て楽しそうに笑っていた。いや狂ったように笑っていた。


「嫌だダンちゃん…!」


タンポポに巻きついているツタのような闇が見る見るうちに膨大し、タンポポを包み込もうする。
タンポポは目を瞑ってグッタリとしている。気を失っているのか。
何も抵抗を見せないタンポポに向けて『L』は何度も手を伸ばした。


「嫌だよダンちゃん…オレは……」


本気で好きだから


「お前を失いたくないんだよ……!」


黒に包まれていくタンポポを見て、心臓が圧迫される。
恋をしてしまったばかりに生んでしまった惨事。


「お前がオレの光だった…だからいつまでも浴びたいと思ってたのに…」


タンポポが闇の中に入っていく。
その中に入ったら駄目だ。危険な気を感じる。
『P』の闇は一族内でも最も危険だ。それに呑み込まれてしまったら、どうなってしまうんだ。


「ダンちゃんを奪わないで………」


『P』が口先で笑った。
刹那、タンポポが闇になった。その場が全て黒くなった。
闇に呑みこまれてタンポポの姿が消えた。

タンポポが消えてしまった。


「うふふ。この子がはじめてよ、私の天罰を喰らったのは」

「……ダンちゃん…」

「みんな怖がって地上に降りないもの。対してこの子だけが常に降りていた。なるほどね、あなたがこの子に罪を負わせていたのね」

「……ダンちゃん………」


闇の海の中で、『L』は呆然と立ち尽くしていた。
手放さないようにと思って、告白したのにそれが裏目に出てしまったとは
ショックを隠しきれない。


「ダンちゃんは何も悪くないのに…オレが全て悪いのに……」


『L』がうなだれているとき、『P』が突然両手をこねだした。
それは魔術だ。魔術を手でこねている。これが『P』の魔術発動法。

『P』が言った。


「悲しむことは無いわ。彼女は死んでいないんだから」


そのことを知り、『L』は勢いよく『P』を見た。
『P』は狂ったように微笑んでいる。いや、実際に狂っているのだ。狂っている者の考えていることなど知れたものではない。

狂った女神の微笑みは闇魔術をこね続ける。


「うふふ。死んでいないけどね」


『P』は本当に危険な笑みを零した。


「代わりに、姿は変わるわよ」

「え?」


意味が分からなくて漏れぬけた声を出した直後、『P』が魔術を発動させた。
両手でこねていた魔術をタンポポが埋もれた闇の中に突っ込んだのだ。
するとそこから邪悪な光が放たれた。
闇が、タンポポが中にいるというのに、邪悪な色を放つ。
危険な匂いがする。察することは出来るのに『L』は動けなかった。足が竦んでいるのだ。

この場の全ての闇が邪悪な光に吸い込まれて、その元へ集まる。
闇の海が引いていく。代わりにタンポポがいる闇が膨らんでいく。
闇を呑みこむたび、大きく脈を打つ闇の塊。
中にいるタンポポはどうなっているのだ。

そう思っていると、それに答えるように、闇が大きく破裂し、場に風を生んだ。
マントが勢いよくはためく。帽子は元から被っていないので髪の毛が代わりに強く踊る。
黒い光に吹き飛ばされそうになって、手をかざす。
その隙間から闇が見えた。

闇が、闇が、闇が、
光を呑みこみ、光を消し、光を支配して、
この場に新しい闇を、作り上げる。

これが闇の製造者の恐ろしさ。

全てを闇に変える。『P』が闇の始まりであり全てであるから。



場は先ほどの色に戻っていた。
花は彩に輝き、空は青を取り戻し、雲も何事も無かったように静かに泳いでいる。
その中に浮かぶ黒い塊。

『L』は愕然とする前に唖然とした。
彼女の変わり果てた姿に何もいえなかった。

これは、何?

こいつは、誰?


この化け物は、一体何なんだ。


「ダンデ・ライオンよ」


『P』が悟り、告げた。
しかし信じることが出来なかった。
目の前に居る物体が明らかに人間ではないから、天使ではないから。

出来損ないの悪魔だったから。


臭い匂いが広がる。
どろどろの獣がコウモリの翼を突き立ててこちらを睨んでいる。
いつもの白く柔らかい翼が今では夢のよう。

この化け物の正体が愛しの彼女だと知ると『L』は苦笑した。
手を伸ばしながら彼女へ近づく。

『P』が笑いながら警告を下す。


「うかつに近づいたら駄目よ」


うふふふふ。声がこだまして響く。『P』が姿を消していく。


「その子は、あなたを殺すつもりだから」


告げた直後、『P』はその場の空気に溶け込んだ。
同時に動き出す影。邪悪な影がこちらに近づいてくる。


「ダンちゃん!」


悪魔がどろどろの体を引きずりながら手に邪悪な光を溜めてやってくる。
翼が風を送り、その場を切り裂く。『L』の腕が傷ついた。そこから漏れる霧の闇。
切り口から霧状の闇がゆっくりと噴出される。
それでも『L』は彼女に手を伸ばした。彼女を捕らえようとした。


「オレ、イナゴだよ!ダンちゃん!」


黒い光と共に場が破裂した。








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天使の上に立っていた女神は、『P』。
タンポポは、『P』の天罰を喰らって醜い悪魔になってしまった…!

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