「何でそんなこと言うんだよ!」


心は哀しみに満ち溢れていたけれど行動は怒りとして表れた。
『R』にしがみ付いて必死に理由を尋ねる。
しかし『R』は『L』から逃げるように目線を大きく外していた。
『Z』は隣で身を縮めて『L』に黄色い目を向ける。その目は怯えているのか小刻みに震えている。


『本当にごめんゾナー。だけどこれはLのためなんだゾナー』

「意味分からない!話が唐突過ぎる!」

「よく聞いてほしいでアール。これは一つの忠告であり警告でアール」


パンパンと手のひらを打ち『R』は、胸倉を掴む勢いの『L』を弾き飛ばした。
壁に腰を打つ前に『L』も指を鳴らし、壁にぶつかることなく安全に着地する。
少しの乱闘に二つの黒いマントが無い風に煽られた。
マントが静まったところで『L』が目を鋭くして悪態をつく。


「ふざけてる…突然やってきてそんなこと言うなんて、悪ふざけにも程がある」

「悪ふざけとは一体何のことでアールか?ワガハイたちはLのためを思って忠告をしているでアール」


見据えた目で睨まれ、『L』は口を噤んだ。目の辺りを顰めて歯を食い縛る。
このとき初めて『R』に向けて恨みを持った。

危険な空気が匂う部屋、『Z』は大きく震えていた。


『喧嘩はやめるゾナー。ゾナーは喧嘩は嫌いゾナー』


『Z』は『R』の影に沈んで黄色い目だけを浮かべた。
怯える『Z』を見てから、『R』が咳払いをして冷静心を取り戻す。
それから軽く会釈をして懺悔し、再び話を戻す。


「失礼したでアール。しかし、警告は守ってもらうでアール」

「その警告ってのがおかしいんだよ!」


そもそも、と『L』は勢いに乗って話を少しばかりそらした。


「どうして"彼女"のことを知っているんだ!」

「ゾナーの情報収集を侮ってはならんでアール」

「…!」

『ご、ごめんゾナー。勝手に調べちゃったゾナー』

「…………っ」


『Z』が弾くパソコンには幾多の情報源が備わっている。
それを操作することにより闇の者のことを調べることができるのである。
身を起こして『Z』は少しだけパソコンをいじって液晶画面に『L』の情報を載せる。


『 L は最近は毎日"彼女"の元に行ってるゾナー』

「!」

『その"彼女"というのが天使ゾナー』

「そ、そこまで知ってるのか…!」

「無論。データが全てを語っているでアール」


そして『R』は『Z』からパソコンを借りて手のひらにノート型のパソコンを乗せた。
画面に載っている情報を『R』が『Z』の代わりに読み上げる。


「イエロスカイ大陸のとある場所で浮き島の天使である彼女と毎日会っているようでアールな」

「…」

「天使の彼女は我々と違う"癒し"の魔力を持っているでアール」

「…」

「この通り相手は"光"の存在でアール」

「そ、それが何だと言うんだ…」


目をより据えて、『R』は一息で告げた。


「危険だから別れてもらうでアール」


そんな理由で…!
『L』は腰を曲げて姿勢を低くし、指を鳴らす準備を整えた。
合わさった指同士を強く重ね、『R』に向けて狙いを定める。


「そう簡単に彼女を手放すことができるはずないだろ…!」


『L』が指を鳴らすと察し、『Z』は再び影の中に沈んだ。完全に沈んだようで目玉も浮いていない。
対して『R』は口元をゆがめていた。


「何を言うでアール。相手は光でアール。ワガハイたちが近づけるはずがないでアール」

「どうして闇が近づいたらいけないんだ!オレは光に憧れているんだよ!」

「闇が光と共存できると思うでアールか?」


『R』の声が凛と響いた。
奏でるために重ねていた指が小刻み震える。元気も徐々にしょげ返る。
終いには体勢を崩し、手を垂らしていた。


「なるほどな」


ふっ、と短く笑って、空気を蠢かせた。それを聞き『R』が目を細める。
『L』は苦い表情で口端を吊り上げ、『R』の言葉を悟った。


「オレらにとっては光の存在である天使が天敵ってことか?」

「否。それは間違いでアール」


しかし『L』の悟りは誤っていた。そのため『L』は目を見開いて「えっ」と声を漏らした。

光に近づいたらいけないということは光を持っている天使に近づいてらいけないということである。
闇は光と共存できないほど光に弱い。光に当たれば闇は溶けてしまうから。
闇の者も溶けるわけではないが、光はあまり好ましくない。城が闇に覆われているところがいい例である。
ちなみに人工で出来ている光は当たっても無事である。
対して本物の光だと力が出にくくなる。四天王や闇魔術専門の者のように膨大なる力を持っておれば全く関係ないことではあるけれど。
しかし光が苦手分野ということには変わりないのだ。
ならば光の生き物である天使にも弱いことになる。

闇にとってみれば光は天敵であり天使も天敵の一つ。
だから、天使である彼女に近づくなと『R』たちが言っているのだと思った。
だけれど『R』は首を振り否定している。そういう意味を込めて言ったのではないのか。それならば何なのだ。

『R』は目を据えて言葉を繋げた。


「ワガハイたちは何のために生まれてきたと思ってるでアールか。光の存在を消すために生まれてきたでアールよ。それなのに光に恐れていたら意味が無いでアール」

「…」


確かにそうだ。『R』の言うとおりである。
自分らは闇の者に作られた闇だ。世界の光を奪うために自分らは生まれてきたのだ。
先ほど挙げた思考の一部はただの予想だ。光と戦ったことがないから実際のところ結論はわからないのだ。
しかし、もしかすると自分らは光を打ち砕くことができる力を持っているかもしれない。
そう思うと、恐ろしかった。

自分は光が好きなのに、打ち砕くことが出来るとすれば……。

拳を握り締めて、震えを抑えた。
そして叫ぶことにより恐怖を吹き飛ばした。


「言っておくけどオレは光に恐れてなんかいない!光が好きなんだ!天使の光が好きだから彼女の元へ行くんだよ!」

「お前は間違っているでアール。ワガハイたちが光を好きになってはならんでアール」


しかし『R』は常に『L』の考えを覆す。
それが非常に不愉快だった。


「オレの勝手だろ!いいじゃないかよオレが好きで近づいてるんだから!」

「お前は勘違いをしてるでアール」

「無闇に光に近づいてオレが光に呑み込まれたとしてもオレはそれでいいよ!オレは光になりたいんだから光に呑み込まれる事は一つの希望でもあるんだよ!」

「光に呑み込まれる、でアールか…」


頭を振って言葉を補おうとする『R』であったが『L』に先をとられた。『L』は必死に断然拒否する。


「光に呑みこまれてやる!そしてこんな闇の生活からおさらばするんだ!」

「L、最後までワガハイの話を聞いてほしいでアール」

「チャーリーなんかにオレのこと分かるはずないんだよ!オレのこの心がどんなにもろいか知らないくせにいろいろと口出しすんな!」

「…!」

「オレ、初めて恋したんだよ!ここまで本気になったことないんだよ!彼女がいないとオレ、生きていけない。そう実感させられた!」


『R』が驚いて目を見開いているとき、『Z』が影から顔を出した。
しかし静かに出てきたので目を強く瞑りだした『L』には気づかれない行為であった。

『L』はギュッとより目を瞑り、『R』の警告を無視した。


「今から彼女に会ってくる。そしてここには帰ってこない」

「な…!」

「はっきり言ってチャーリーは過保護すぎる。オレは子どもじゃないんだ。自立してるんだ。だから横から口を挟まないでくれ」

「……」

「オレは光になる。光になって彼女のような力を手に入れるんだ」

「けれどもお前は闇でアールよ」

「違う。闇魔術が使えない闇なんて闇じゃない。オレは闇魔術を使うのを怯える、臆病で弱虫の魔術師だ…」


エキセントリック一族のトップに立つほどの実力を誇る『L』がそんなことを言うものだから『R』も何もいえなくなっていた。
『Z』は小刻みに目を震わせ『L』の言葉を否定しようとするが、頑固にも『L』は何も聞き入れなかった。


「闇だって光と共存できるさ。いや、闇が光になればいいんだ。光に呑まれてオレが光になればいい。闇でも光になれることをオレが証明してみせるよ」

「L!」

「オレのことはほっといてくれよ!」


そして『L』はマントを頭から覆って、その場の闇に溶け込んでいった。
下る少しばかりの沈黙。『L』の部屋に闇の者2人が残る。
『R』は唖然として、『Z』が悲しそうにその場の闇を眺めていた。

やがて『Z』が場の空気を動かした。


『どうするゾナー?このままじゃ彼女が危ないゾナー』


見上げて訊ねてくる『Z』に答えるため、『R』は目線を落とした。
そのときに小型のパソコンを彼に返す。


「全く、L はいつもいつもワガハイに背く奴でアール」

『反抗期ゾナー?』

「いや、あいつは常に反抗期でアールよ」


苦笑する『R』の眉は深く皮膚を彫っていた。
額から冷や汗を流し、『L』に心配の眼差しを送る。


「良きならぬことが起こりそうでアール」

『助けに行かないゾナー?』

「あいつがワガハイたちの話を聞かないのが悪いでアール」

『…だけど L は本当に彼女のことが好きなんだゾナー。だから彼女の元に行く理由も分かるゾナー』

「しかし、背いたことには変わりないでアール。今回で闇の恐ろしさを実感させるでアール」

『…………可哀想ゾナー』

「ワガハイだって、そんなことをさせたくないでアール。だからわざわざ警告しにきたでアール」

『………』

「しかし、あいつがそこまで光に憧れていたとは知らなかったでアール」

『データに追加しとくゾナー』

「……そもそも闇が光と一緒おれるはずがないでアール」


否。『R』は首を振り、闇色の瞳で部屋の一部に目線を落とす。


「光が闇と一緒におることができないでアール。2つが結ばれることは決して許されないでアール」


『Z』も頷き、データをカチカチと入力する。
黒い影の体にパソコンの画面が反射して映る。
今、『Z』が見ている画面には、天使についての情報が載っていた。







花畑に来るとタンポポが笑顔で出迎えてくれた。
今日はすでに花の治癒は終わったらしく、光を放っていない。


「今日は遅かったでヤンスね」


タンポポの笑み自体が光だ。
こんな素敵な笑みを零せる彼女を今更手放せるはずが無い。
だから『L』も笑みで返して彼女を見た。


「ダンちゃんはいつも来るのが早いよな」


タンポポを目の前にすると、やはり胸が高まる。
心が落ち着かない。ここがもし帽子屋だったら転がっているところだ。
どうしてこの子はこんなにも愛らしいんだろう。


「アタイは天界よりこっちの方が好きでヤンス」

「そうなんだ?天使の世界ってどんな感じ?」

「全体的に白いでヤンスよ。何気に観光できるから今度来てみるといいでヤンス」


悪魔とは闇同士だから縁がある。
しかし天使とは本当に無縁だ。だから何も知らない。
天使のことなんか勉強してもいない。けれども勉強しなくてもこのぐらいは分かる。
天使と一緒にいると癒される。
天使は世界の光であり、人の光だ、と。


「そっか、白いんだ。それじゃオレはちょっと場違いかな」

「え?何ででヤンス?」

「オレって黒いじゃん。せっかくの白を台無しにしてしまうかもしれない」


闇は光に弱い。しかし黒は白に強い。ここが最も難しいところだ。
考え方を少し変えるだけで差は大きく生じる。
闇は黒だ。光は白だ。
天使の世界はきっと光に満たされて白いだろうけど、闇の者が来たことにより、まず闇が溶かれ、それによって白が黒に染まる。

難しい、これはどう対処すべきなのだろう。
どうすれば自分は光と一緒にいることができるのだろう。どうすれば光になれるのだろうか。

難しい表情をしていたら、タンポポが肩を叩いて笑ってきた。


「何考え込んでいるでヤンスか?せっかくだから遊ぼうでヤンス」


彼女に肩を叩かれ、ビクッと飛び跳ねて身を引く。その拍子で彼女の顔を見た。
タンポポは楽しそうに笑っている。タンポポは『L』をからかうのをいつも楽しんでいるのだ。
しかし『L』にとってはそれは命がけであった。
少しでも気を緩めると自分が転がりかねないので。


「あ、遊ぶって、何するんだ?」

「んーそうでヤンスねぇ。ドッジボールをするでヤンス!」

「待って待って。人数が明らかに足りないしボールないから」

「イナゴの魔法で取り寄せるでヤンス」

「む、無理だって、オレ魔法使えないもん」


顔を赤くして『L』が目線をそらした。本当に今まで一度もタンポポに魔術を披露したことがないので、タンポポも笑ってからかうだけだった。
笑われて、より顔を赤くして、座り込む。
『L』に続いてタンポポも目の前に座り込んで見せた。


「座るの好きでヤンスか?しょっちゅう座ってるでヤンスよ」

「…ぁぁ……そんなに近づかないで…」


好きな子がこんなにも近い場所にいるので、逃げるために花畑に頭を突っ込んで沈む。
タンポポは笑いながら『L』の頭に乗っているシルクハットを取り、むき出しになったオレンジ色の髪を眺めた。
『L』もシルクハットを取られたということで勢いで頭を上げる。
タンポポの存在がやはり近かった。


「綺麗な髪色でヤンスね」

「……え、えーあー…そう?」

「うん。暖色系で綺麗でヤンス。オレンジ色って人を和らげる力を持っているでヤンスよ」


タンポポの言葉を聞いて胸が締め付けられた。
自分は闇の者だから人を暖めることが出来ないのに、そんなこと言われると
より切なくなる。

眉を寄せて声のトーンを落とした。


「オレは人を和らげることはできない。…オレは闇だから」

「イナゴ…」

「なあ、ダンちゃん」


『L』は常日頃ヒシヒシと感じていたことを訊ねてみた。


「オレが闇の者って知ってた?」


するとタンポポは頷いていた。


「知ってたでヤンス。あんたの一族のことは天界で恐れられているでヤンスから」


そうなんだ…。
恐れられていると知って、目線を落とす『L』。しかしタンポポが覆した。


「でもアタイはあんたのことを一度たりとも怖いと思ったことはないでヤンス」

「…ダンちゃん……」

「だけど」


また覆す。
しかしまた首を振って覆し、先ほどの言葉はないものにした。
話をそらすためにタンポポは背中に手を持っていき、こんなことを言い出す。


「イナゴにプレゼントがあるでヤンスよ」

「え?プレゼント?」


思いもよらなかった言葉なだけに『L』は興味を持った。
暫くもったいぶっていたタンポポだけど『L』の眼差しに答えるために、背後からあるものを取り出した。

それは可愛らしいもの。


「じゃーん。ぬいぐるみでヤンスー」

「……ぬいぐるみ?」

「アタイが作ったでヤンスよ」


本当に予想外のものだったので目が一層丸まった。
タンポポが『L』に突き出したものはライオンのぬいぐるみで、左頬に星模様がある。
ん、左頬に星模様…?
目の前のタンポポに目を向けて、左頬の星模様を確認する。ライオンのぬいぐるみと模様が一致した。
とすると、これって……


「もしかしてダンちゃんぬいぐるみ?」

「そうでヤンス。と言っても星模様しか当てはまってないでヤンスけど」


タンポポの可愛い一面を見て『L』は心の中で悶えた。
自分に似せたぬいぐるみを作って、それをくれるなんて…なんて可愛いんだ!
『L』は有難く受け取った。


「ありがとうダンちゃん。すっごい嬉しい…!」

「そう言ってもらえるとこっちも嬉しくなるでヤンス」


『L』がニンマリして笑うのでタンポポもつられて笑っていた。
とても心が温まった。
やはり光は素晴らしい。自分だけではなくて周りまでをも暖めてくれるから。
『L』は自分もこんな光になりたいと心底から思った。


「そういえば、どうしてオレにぬいぐるみを?」


ふと気になったので訊ねてみると、タンポポは眉を寄せて俯いていた。
どうして目線をそらしたのか分からなくて、緊張したけど顔を覗きこんで尋ねてみる。


「どうした?何かあったの?」


タンポポの目が潤んでいた。
突然の異変に『L』も戸惑う。何かいけないことを言ってしまったかな、と自分の言葉を振り返る。
そのとき、タンポポの口が恐る恐ると開いた。
小さな唇が揺れ動き、不幸が訪れた。


「実はもう…ここに来れないでヤンスよ…」


彼女が言った言葉が信じられなかった。
必死だった。『L』はタンポポの肩を掴んで理由を追求した。


「何で?どうして?」


揺さぶられてタンポポの黒い髪が靡く。『L』のむき出しになったオレンジ色も靡く。
そして震えた声も靡く。


「周りの天使に心配されちゃったでヤンスよ。下への出入りが激しいって」

「うん」

「"あの人"に目をつけられるからもう下に行かない方がいいって注意されちゃったでヤンス」

「……」

「だから、これからはここへ来れないでヤンス」

「………!」

「そのぬいぐるみでアタイの事を思い出してほしいでヤンス」

「………………っ」


嫌だった。
愛しの彼女がこれからぬいぐるみになるなんて考えたくなかった。
タンポポの存在全てが好きだから、ぬいぐるみなんかで補えるはずがないのに…。

そうなのだ。補えないんだ。

これだけじゃ、足りないんだよ…。
ゴメン、ダンちゃん……。


ドクンと胸が激しく波を打った。



「………………」



緊張とか恥とか、このときは何も感じなかった。
ただただ、彼女への想いだけが胸を打っていた。
顔は赤いけれど、いつまでもウジウジしてはいられない。
この胸の高まりが、彼女への想いの強度だ。


「イナゴ?」

「……あのさ…」


すっとタンポポの頬に手を持っていった。
星模様を覆う。タンポポも突然頬を触られて驚いていた。

お互いの瞳が震えあう。
いや、瞳が震えるほど怯えていたらダメだ。
ここで怯えてしまっていたら、彼女を手に入れることが出来なくなってしまう。
だから……


「ダンちゃんには黙っていたけど…、オレ、この時間が本当に好きなんだ」


これからの時を失いたくない。


「イナゴ……」

「ダンちゃんといる時がオレの最も至福の時間…」


ねえ、ダンちゃん……



「 オレのこの胸の高まり どう抑えればいいと思う? 」


「え?」




タンポポの答えを待つ前に、体が先に動いていた。
彼女を手放したくなかったからつい体を動かしてしまっていたのだ。

タンポポという花は、何れか綿毛になってしまう。
綿毛になると風に乗ってふらふらとどこかへいってしまうんだ。この場にとどめるものなんていない。
だから綿毛になる前に抱きとめなくちゃいけないんだ。

無我夢中だった。もう必死だった。
綿になって飛んでいく前に捕らえなくちゃいけなかったから。
『L』はタンポポの頬を触れていた手を引き、タンポポを近づけた。
瞬間、この場が無音になった。

風も吹かない。
何も動かない。
そう、二人も動かない。
ただ『L』がタンポポの顔に身を乗り出しているだけだ。


「…………………………」


二つの顔が合わさった。
星と星が今ここで並んだ。
この時がとても短く、しかし長く感じる。

『L』が目を閉じているのに対し、タンポポは目を見開いていた。
突然の出来事に何も理解できなかったけれど、今理解できた。
口を動かせないと気づいたから。
暫くの間、もしかしたら長い間だったのかもしれない。二人の唇は一つになっていた。


「………っ…」


胸の鼓動がピークを達する。
緊張して…、だけれどこうしないと逃げられると思ったから。
今でないともう機会がないから、全てが必死であった。

『L』はタンポポに自分の気持ちを打ち明けることを、決心する。
ここで強くなろうと、決意した。




初めての味は、彼女の涙が混じったしょっぱい味…。









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初のキスシーンを書きました…。緊張したぁ…。

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