『次の競技は、「綱引き」です!全員参加ですので皆さん、こちらにお越しください』
放送の声に連れられ、メンバーも人だかりが出来ている場所へ集まった。
綱引きと言えば綱を引きあう競技である。これはチームワークと腕力が最も求められる。
そういうことで、メンバーは不敵に笑うのであった。
「こっちには腕力しか自慢がないクモマがいるのよー!余裕余裕〜!」
「ホンマやな。クモマは腕っ節しか頼りにならんからな!これで頑張ってもらわなあかんわ!」
「他ので足を引っ張らないようにこれでちゃんと稼げよ」
「たぬ〜の足の短さは尋常じゃないから仕方ないことね」
「クモマ!足が短い分、腕で補えよ!」
「…………………………………うん、分かってるよ」
全員に励まされ、クモマは首を垂らした。そのときに見える自分の足。何だか泣けてくる。
メンバーがそうしているころ、競技がスタートしたようでワイワイ賑わい始めた。
この体育祭に参加チームというのは見る限り多いのだが、一つのチームの人数は5,6人ほど。ほぼ同じ人数なので然程心配する必要はない。
只今競技をおこなっているチームらを見てみても少人数で引き合っている。
勝敗がついたようで次の対戦チームが呼ばれる。
『次の戦いは『THE☆鼻水』と『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』です。両者位置についてください』
そのとき、全員が顔をあわせた。そして首を捻る。
あれ?『THE☆鼻水』ってどこかで聞いたことあるチーム名だぞ…?
「ああ!てめえらはあのときのイカサマチームか!!」
「無駄に長ったらしいからきっとバカな連中だろうと思っていたけどやはりそうだったか」
メンバーが綱を引くために前に一歩出ると、同じく前に出る者たちがいた。
それが対戦相手チームであり、見覚えのあるメンツに全員が悲鳴を上げる。
お前らは!と指を差して全員が同音で叫んだ。
「「誰だ!」」
「「覚えてないのかよ!」」
鼻息荒くして突っ込んだこのチーム『THE☆鼻水』とは、まだ旅に出始めた頃に一度戦ったことがあるチームなのだ。
それはギャンブルが有名であった村での出来事。
"ハナ"である優勝賞品を手に入れるためメンバー全員が一致団結して戦いに挑んだ。
そのときの対戦相手がこいつらだったのである。
最後の戦いはお互いイカサマをつかったものの、トーフのほうが一枚上手であったのだ。
そういうことで、『THE☆鼻水』はメンバーに対して密かに恨みを持っていたのである。
鼻水の一人が顔つきを変える。凶悪顔というものに。
「そうかお前らが俺たちの相手か。これは運がいい」
「何やねん。あんたらはあの村の者じゃなかったんか?」
わざわざ体育祭に参加するためにやってきたのか?と疑問に思いながらトーフが訊ねると、鼻水の一人がニヤニヤ笑って見せた。
「俺たちはあの村の出身だ。今回は体育祭があるということでここまでやってきたのだ」
「こりゃまた遠いとこから来たんやな」
「何を言っている?」
鼻水が怪訝そうに眉を寄せた。
「俺たちの出身村とこの村は近くだぞ」
「「えっ!」」
「お前らどれ程までバカなんだ?」
そうか、過去を振り返ってみればメンバーの旅の方法は本当に可笑しなものであった。
最初のうちは気楽に道を歩いていたのだが、最近ではエキセントリック一族の登場によりあちらこちらへと飛ばされている。
そのため方向感覚を失っていた。言われてから気づいた。
ここはもしかすると自分らの故郷からも近い場所に値する場所かもしれない。
知らぬ間に自分らは帰郷しかけていたのか。
改めて、6人まとめてぶっ飛ばしているエキセントリック一族の存在に身震いを感じた。
メンバーが唖然としている中で鼻水は言葉を続ける。
「今回は俺たちが優勝するからな。絶対にお前らなんかに負けないぞ」
「覚悟してろ!!」
鼻水にそんなこと言われたけれど、それはこちらの台詞である。
全員が綱を持って、姿勢を低くする。これでいつでも綱を引ける。
しかし本当は綱を引く気はない。むしろ合図と同時に綱から離れる予定だ。
後方にいるクモマに全員が力を任せているから。
そんなあくどいことを考えているメンバーのことを知らずに相手の鼻水は口元にしわを彫っていた。
そして放送の声の後に響く合図。
メンバーは咄嗟に綱から離れ、クモマが勢いよく綱を引く。彼こそが綱を持っていないメンバーの代わりに力を穴埋める。
すると相手チームが綱を掴んだまま宙を舞った。
クモマが勢いよく引いたため引っ張り上げられたのだ。鼻水の数は6人だったというのに。
綱によって見事6人を吊り上げたクモマは、メンバーの期待に答えることが出来たのであった。
放送が驚きの声をあげ、他のチームもどよめきを起こしている中で、地面に叩きつけられた鼻水たちが一斉に叫んだ。一斉に思い出した。
「「そうだったー!馬鹿力の奴がいたんだったー!」」
過去を振り返り、遅けれどもメンバーの存在にショックを隠せない鼻水6人組であった。
「ってか俺たちのチーム名をそんなふうに略すなよ!」
「鼻水6人組ってオチャメなふうに言われても全くオチャメに聞こえないから!」
鼻水が暴言を吐いている頃、メンバーは他のチームとも戦い、見事全勝することが出来た。
『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』はこの競技で高得点を獲得だ。
「あ、僕たちのチーム名も鼻水に関係していたね」
「オチャメだぜ!」
「どこがだ!」
「凡、あんたはフローラルな愚民なんだから引っ込んでなさい」
「おいこら待てよ!フローラルな愚民とは俺のことかよ!」
今の順位を見てみると、何気に鼻水らとは僅差で負けている。
しまった。やはり玉入れのときに点を取れなかったのが響いてきてる。
どうにかして勝たなくては。
しかし今回でかなり点数を稼げた。全員でクモマを称える。
「短足でもやればできるのね」
「やったなクモマ!足の短さは綱引きには関係なかったぜ!」
「う、うん………」
『次の競技は「借り物競争」です!チームから3名出場してください』
次の競技を告げられた。
チームから3人出場しなければならないようだ。人数が制限されている。
果たして誰が出場するか。
「たぬ〜、チョンマゲ、凡。行ってきなさい」
「「マジでかよ!」」
残念なことにブチョウと目が合ってしまった男3人が見事選ばれてしまった。
しかしブチョウに言い返すとなると、後ほど自分の存在が世から消えそうで怖かったので、素直に従うことにした。
「あいつどれほどまでに権力持ってんだよ?!」
3人は出場する順番をジャンケンで決める。
ジャンケンに弱いソングが一番目、クモマが二番目、そしてサコツが最後である。
この競技はリレー形式ではないので、順番が大きく運命を呼ぶということはない。
そういうことでソングはトップバッターとしてコース上に立った。
「借り物競争と言えば、紙に書いてある物を人から借りてくればいいんだよな」
一人でルール確認を行い、そのときに競技のスタート準備が告げられる。
ピストルの音が鳴ったことによりソングは走り出した。
「あ、何気にソングって足が速いんだね」
「というかよー、毎日食い逃げしてるから足が早くなるのも無理はないぜ!」
確かにその通りである。
「そしたら僕も何気に足が速くなっているかも…」
「それはないぜ!何せクモマの足はありえないぐらい短いからな!」
まさにその通りである。
クモマが自分の足に涙を呑んでいるころソングは一位をキープしたまま難関に立ち向かっていた。
コース上にひっくり返されて置かれている紙。それを取って紙を眺める。
借りる物が書かれているのだが、ソングは固まってしまっていた。果たしてどうしてしまったのか。
「…ふざけてる…」
悪態ついてソングは辺りを見渡した。
「こんなの借りてこれるはずねえだろ…」
そして、告げた。
「…『下着』だなんて……」
ソングの呻き声がクモマとサコツの元にも届いてきた。
サコツは腹を抱えて笑い転がる。
「な〜っはっはっは!下着ならチョコから借りちまえよー!」
「ざけんな!悪ふざけにも程がある!」
しかしサコツの冗談にチョコは真に受けてしまったようだ。こちらに走ってくる。
「ソングー!使うー?」
「使わねえよ!来るな!!」
「頭に被らないと約束すれば貸すよー」
「被らねえけど借りねえよ!ってか背中に手ぇ当てながら走ってくるな!!」
ソングが一向に走らないのでクモマは密かに焦っていた。
ソングの横を通過する相手走者が次々と現れているからだ。
せっかく一位をキープしていたのに、これでは意味が無い。
どうにかしてソングを勝たせなくては。
そう思っていたクモマだけれど、ふと相手走者から声を掛けられる。
「すみません!あなたを借りていいですか?」
「え?」
「わたしの借り物『短足の人』なんです」
「あ、ああいいですよ。こんな僕でよければ」
そういうことでソングは借り物を借りることが出来ず、見事ドベになった。
ブチョウやトーフがぶーぶー言っているのに怒りを見せるソング。
対してクモマは、短足の自分を借りた人が一位に輝いたことに喜びを感じていた。
次はクモマの番だ。
「緊張するなぁ…」
ピストルの音が鳴り、クモマはオドオドしながら走る。
やはり足は然程速くなかった。
メンバーの声援を背に受け前へ進み、しかし一番後ろを走っていた。
「やっぱクモマは足を使う競技は不備やなぁ」
「さすが短足王ね」
「あいつを出場させること自体間違いだったな」
「仕方ないからサコツに賭けようー!」
応援席がそう話を進めている間にクモマは借り物の紙を手に入れていた。
そんな彼の顔色は非常に優れている。先ほどのソングとは全く正反対の表情だ。
やがてクモマは観客席に突っ込んでいき、あるものを借りてきた。
「快適足長グッズはやっぱりいいなぁ」
どんな運なのやら、クモマは夢にでも見た快適足長グッズを履いて走り抜けていた。
快適足長グッズを履いたクモマは今では風だ。風の精霊となって誰よりも速く、しかししなやかに駆けて行く。
こうして風の精霊は後尾から前頭に立つことが出来たのであった。
「快適足長グッズって何気に偉大やなぁ!?」
最後はサコツだ。
サコツはやる気満々のようで、体を大きくそらしてストレッチをしている。
しかし体が固いためストレッチと呼べない形を作っているのだが。
「よっしゃー!クモマが一位になったんだから俺も一位になってやるぜ!」
「おっと、そうはさせない」
サコツが大胆に一位宣言をしていると、真横から憎たらしい声が聞こえてきた。
鼻水だ。
「だから鼻水と呼ぶなって!」
「だってよーチーム名が鼻水なんだから仕方ねえぜ?」
「お前らだって鼻水だろ!?」
汚い会話はよしなさい。
二人がにらみ合っていると、早速競技が始まった。
出だしが遅れた二人だが、サコツは滑走に走りトップを走っていた。
鼻水も驚いた表情を見せる。
「何故そんなに速いんだ?!」
食い逃げ万引きをしているからです。
鼻水の悲鳴を聞いて気分が上昇したサコツは大いに笑いながら借り物の紙を手に取った。
しかし、すっかり忘れていた。
「あ、俺って字ぃ読めねえじゃん」
「「そうだったー!!」」
サコツのお馬鹿具合をすっかり忘れてしまっていた、何たる不覚。
サコツが紙と睨めっこしている間に鼻水の選手は一位を塗り替え、トップを走る。
早々と借り物も手に入れたようで鼻水はそのままゴールしてしまった。
字を読めないサコツは無論ドベになったのであった。
+ +
「あかんわ。総合点数が一位の鼻水と差ぁついてしもうたで」
「ごめんね、力になれなくて」
「クモマは全然悪くないよー!悪いのは恥ずかしがり屋さんのソングと、お馬鹿なサコツだよ!」
「クソ!あんなの反則だ!さっきまで身に付けていた下着を剥ぎ取れるはずねえだろ!」
「な〜っはっはっは!馬鹿なのがとりえなんだから仕方ねえぜ!」
「全く、どいつもこいつも使えない奴らね。頭突付くわよ」
「「いたたたた!出るから!出たらいけないものが出るから!」」
今は少しばかりの休憩時間。暫くしたら次の競技が始まる。
その間に『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』は作戦会議をしていた。
『鼻水が滴り落ちる…』面倒くさいのでティッシュと命名します。
「いいよそんなことは!」
「ちゅうか、ティッシュの方を採用するんか!」
「鼻水」でも良かったけれどそれはすでに『THE☆鼻水』のことを差してしまっているから、「ティッシュ」の方を採用するのも目に見えた結果である。
そんなことより、とトーフは会議を進める。
「残りは2競技や。『騎馬戦』と『リレー』。これら二つ外してしまえばワイらは優勝できへん」
「騎馬戦とリレー…どっちも一位になるのに苦労しそうだなぁ」
「ちなみに騎馬戦は4人制みたいや」
「ってことはクマさん5人でちょうどいいわね」
「「全くよくない」」
「って、5人もいらねえよ!一人不必要だ!」
「何言ってるのよ。一人は私とイチャイチャするのよ」
「もっといらねえよ!」
改めて。
「騎馬戦は男チームで行くで。ワイが上になるからあとは全てワイに任せときぃ」
次の競技である騎馬戦のことについて、トーフがニヤリと口元を吊り上げる。
それを見てすぐに察知出来た。あ、また何かあくどいことを考えている。
「そいで、最後の競技『リレー』は全員参加や。せやから皆で一致団結して一位を目指すんや!」
戦いもあと少しで終止符を打つということで、トーフは全員に気合を入れた。
「優勝賞品である食い物のためやで!みんな頑張るで!」
「ウンダバ?」
「「ウンダバー!」」
「その気合の入れ方は間違ってるだろ!」
そしてソングはふと不吉なことを口走った。
「そういえば、この村の"ハナ"はどうなってるんだ?」
全員が一瞬だけあっと目を丸めたが、すぐに気持ちを入れ替えた。
今は"ハナ"より食料だ。
ティッシュのメンバー全員は優勝賞品の食料を手に入れるため、後半戦に挑むのであった。
『次は、「騎馬戦」ですよー!!』
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「THE☆鼻水」については『ギャンブルの村』をご覧になってください。
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