闇魔術を成功させた彼は今まさに闇の者だ。
なので全身を黒づくめにして、より闇を強調させる。


「わたしは闇を作りたい」


闇という姿で蘇った彼女に向けて彼は告げる。
今度は幾多の闇を作りたいと夢を言ってみせた。
すると彼女は麗しい目を細めた。


「だけど、あなたは疲れたでしょう?」


さすが彼女だ。彼は感心した。
顔色を見てすぐに心配してくれた。
彼は嬉しかった。目の前にいる彼女は本物の彼女だと実感した。

灰になったと思っていた彼女が存在している。
全く同じ容姿で、そして闇の力が素晴らしく。
目には光がなかったがそれでも美しかった。真っ黒な瞳に真っ黒な髪。
彼はその髪に触れながら笑った。


「君は本当に素敵な子だ」

「あなたのことぐらい何でもお見通しよ」

「わたしはエキセントリックなのに君ぐらいだ、わたしのことをきちんと見てくれるのは」

「うふふ。私は嬉しいの。またあなたに会えたということが。嬉しいからあなたのためなら何でも出来るわ」


彼女は突然、両手を軽く合わせた。卵を包んでいるように本当に軽くだ。
それからくいっと手の中の空気をかき混ぜた。そのままこねているとやがて手の中が黒い光に満たされた。
彼は驚いた。
彼女が自ら黒い光を生んだからだ。
人間は黒い光を放つのに数多の苦労を重ねた。それなのに彼女は黒い光を生み出した。
体の中の全てが黒なのか、全てのものが黒として姿を現す。
これが闇なのか。これが闇の者なのか。
彼女は本物の闇なのか。
いや、本物に決まっている。
彼が黒い心を入れたことで作られた闇なのだ。彼女は正真正銘の闇。

彼女が手のひらに溜まった黒い光をこねる度、光は強度を増した。


「プロローグ。君は本当に凄いよ。どうしてこんなことが出来るんだい?」

「エピローグ。私はあなたの闇なのよ。あなたの代わりに闇を幾らでも作れるわ」

「素晴らしい。本当に君は素晴らしい」


ギュッと両手を組み合わせると、黒い光が収縮された。
彼女の手から光が漏れなくなったと思うと、彼女は手のひらをそっと開いて見せる。
そこには、闇の塊があった。


「これは何だい?」

「これは"種"よ」


うふふと優しく笑ってから彼女は、先ほど彼が自分を生み出した魔方陣の中央に闇の種をそっと置いた。
すると血文字の魔方陣が発動された。
魔方陣から黒い光が放たれる。黒い光が膨張する。魔方陣の中にある闇の種が破裂する。
パンと。しかし無音で。


「……!」


彼は驚いた。
魔方陣の中央に先ほどの彼女のように立っている者がいたからだ。
しかもその者は黒い。黒づくめの男が黒い煙の中からひょっこり姿を現す。

シルクハットに黒マントを羽織った、黒髪の男。
眠たそうな目でこちらを見ている。


「…こ、これは…!」


闇の魔方陣に置かれた闇の種から闇の者が生まれた。
彼はその真実にただただ唖然とするだけだった。

彼女が女神の微笑を零した。


「私たちの子よ」




彼女は完全なる闇の者。だから闇を作れる。
努力しなくても彼女なら闇魔術が使えた。
その力を利用して、あれを始め幾多の闇を生み出した。
幾つかは微妙な闇になったものの、全ての闇が魔術を使える魔術師だった。

しかし、全く魔術が使えない者もいた。


「…………精気……!」


24つの闇の一つ。女の容姿の闇の一つ。
しなやかな黒髪を持った背の高い女の闇が胸を押さえて苦しみもがいた姿で誕生した。
その姿を見て生み出した彼女がギョッと目を見開いた。


「…この子に精気を詰め込むのを忘れたわ」


それを聞いて彼も目を見開いた。
精気とは生命の根源の力のことだ。それをこの闇が持っていないだと?
闇の身の危険をすぐに察した。


「精気がないのは危険だ。この子は死んでしまう」

「ごめんなさい。私が気を抜いたばかりに」

「違う、君のせいじゃないよ」


自分の失敗に怯える彼女の横顔を見て、彼は元気付けようとしたが、魔方陣内で苦しんでいる闇のことが心配で居た堪れなかった。
闇は精気がないということで呼吸困難にまで陥られている。
せっかくの美しい顔が真っ青だ。しかし唇だけがバラ色。そのバラ色が小さく動いた。


「精気……私に…精気を……ちょうだいよぉ…」


黒マントの中から白い手が這い出た。指先の爪もバラ色、それがこちらに伸ばされている。
闇の女は懸命に彼に向けて手を伸ばした。
しかし体は動かない。ベッタリ腹を地面につけて手だけを伸ばし続けた。


「……精気…っ」

「…可哀想に、この子はこんなにも美しい顔をしているのに」


伸ばされた手は今彼の手の中にあった。
手を掴まれて闇の女は一瞬だけ驚いた表情を見せる。それからすぐにまた先ほどの精気のない顔になる。
手を引いて、闇の女を抱きとめた。


「わたしが君に精気を与えよう」

「……っ…!」


闇の女の顔を無理矢理であるが自分の首元に置く。
首元にバラ色の唇が当たったところで彼は言った。


「さあ、わたしの精気を吸うんだ」

「……はぁ…?」

「遠慮はいらない。ほしいだけ吸うがいい。だけどわたしを死なせない程度で」

「………っ!」


チクッと首元に痛みが走った。
闇の女が持っていた牙が刺さったのだ。彼女は牙によって穴が開いた場所からしゅうしゅう精気を吸っていった。


「……あなた、大丈夫?」


彼女は心配した。彼が歯を食い縛って堪えていたから。
しかし彼は「大丈夫」と頷いていた。



精気を吸うことにより、その闇は生命を維持することが出来た。
しかし吸った分の精気が燃焼されると、また先ほどのような症状が出る。
そのときはすかさず彼の精気を吸い取った。これの繰り返しにより生命を維持していた。

そして、精気を吸われることにより彼も生命を維持していた。
闇に吸われた分の精気が体内になくなったということで、時間をかけて細胞が精気を生み出し穴を埋め尽くしに働く。
それにより完全に精気が吸われる前の量に戻ったところで闇がまた精気を奪う。ずっとこれの繰り返し。
そういうことで彼は永年生命を保ってきた。
つまり彼はこれにより肉体的若さを維持してきたのである。

精気を吸うという行動が、二つの利を生んだ。




「闇はわたしたちを入れて全部で26つ。素晴らしいよプロローグ」


辺りを見渡せば望んでいた夢が実現している。
形は大小異なっているが、感じる、この胸の高まり、感じる感じる。
これは闇だ。全てが闇であり、全てが野望であった。


「今わたしは闇を手に入れたのだ!何て素晴らしいのだ!」

「おい、さっきから一人で突っ走るんじゃねえヨ。うっせえんだヨ。ってかお前何なんだヨ」

「そしてワガハイたちは一体何者でアール?」


両手を広げて今を実感している彼に向けて、赤ん坊の闇と紳士の闇が尋ねてきた。
愛しの彼女が作り上げた闇たちは彼にとってはわが子と同様なもの。なので全てが可愛く見えて仕方がなかった。


「君たちはわたしの家族だ」


全ての闇が「何言ってんだこいつ」といった目をしていたが、彼は気にしていない。
先ほど質問してきた闇がもう一度訊ねてきた。


「ワガハイたちの名前は何でアールか?」


その質問を聞いて彼は戸惑いを見せた。
名前、そうだ名前は必要なものなのだ。
だから与えなくては、名前、名前。
しかしこの量の闇に名前をつけるとは難である。

そう困っていると、愛しの彼女が彼の代わりに答えてくれていた。


「あなたたちには名前などないわ」


一瞬にしてどよめきが起こった。
それはそうだ。名前がないなんていわれたから。
だから彼女は場を静めてから再度言いなおした。


「名前を自分で見つけてみなさい。世間があなたたちをどう受け止めるか、身をもって感じ取り、そしてその人たちから名前をもらうのよ」

「そんなことできるのかヨ?」

「できる。大切な人にめぐり合えば必ずもらえるわ。素敵な名前をね」


優しく微笑む彼女はまさに女神。
彼は女神に向けて拍手を送った。


「それはいい案だ。君は本当に素晴らしいよ」


拍手を止め、彼はふと疑問をはいた。


「しかし、この子らをどう呼べばいいかな?」


名前がないとすれば呼びようがない。
すると彼女は少し唸って考えを搾り出したところで口を開いた。


「仮の名前を与えましょう」




様々な容姿の闇たちだけれど、名前がないのは悲しいことである。
しかし全員に素敵な名前を与えられる自信がなかったので、彼女の意見は素晴らしいものだと彼は思った。
彼女と彼は、一人一人に合うメッセージを送り、その頭文字を仮名にして闇に与えた。


「あなたは"陽気"だから『L』よ」


一人だけ桁外れに目立つ存在の闇があった。
その闇は本当に輝かしい存在であり、髪の色は彼が嫌うとする光の色であった。
オレンジ色の髪をした闇は他の闇とは違う陽気な笑みを零せる。
だからその闇に向けて彼女は『L』と仮名を与えた。


「質問があるんだけど」


仮であるが名をもらったことで笑みを零している『L』が彼女に声をかけてきた。
高くもなく低くもない優しい声が耳に入り、彼も無意識に目を向ける。
『L』は真剣な目をしてこう尋ねていた。


「何故、闇を作ろうと思った?」


その質問に、彼女も微笑んで答えた。


「彼の野望だからよ」


すると『L』は陽気に笑い声を上げた。
本当にこの闇には『Lively(陽気)』の語句が合う。


「そうか。壮大な野望を持った人なんだな」

「うふふ。そうでしょう。私も素敵なことだと思うわ。そういうことでLも野望を持ってみたらどうかしら?」

「そうだな。それならオレはまず始めにお空でも飛んでみようかな」

「可愛らしい野望ね」

「オレにはこのぐらいが丁度いいさ。マスターのような野望はもてない」


シルクハットの広いつばをくいっと下げることにより『L』は彼女から表情を隠した。
そして誰にも見えないように『L』は、自分が闇の存在ということに悲しみを抱いていた。


全ての闇に仮の名を与えたところで、彼と彼女もまた仮の名を自分らにつけた。
彼女は実の名である"プロローグ"、それと闇たちを作った所謂"製造者"という意味で『P』と名乗った。
彼は実の名である"エピローグ"、それと世間から呼ばれていた名である"エキセントリック"の意味を込めて『E』と名乗った。



永年月日が経っても、この関係は崩れなかった。
全てが幸せだった。彼は幸せだった。
自分が憧れとしていた闇に囲まれ、そしてその闇を作った所謂『マスター』ということで闇全員に慕われている。
とても幸せの空間だった。


「わたしは夢を実現した。しかしこれは自分にしか至福を与えていない」


彼はふと思った。
ずっと願っていた「闇になる」。これはこのように実現してみせたが、それは自分だけが幸せになるものであり、他の人間らには何も変哲もないことだ。
せっかくこのように素敵な闇たちがいるのに、世間はまるで知らない。
だからそれがもったいなくて仕方がなかった上、何も異常のない世界に不満を感じていた。

ならば、こうすれば良いではないか。



「R、お願いがあるんだ」

「何でアール?」

「全ての闇たちをここに呼んできてくれないか?」

「おやすい御用でアール」


パンパン。『R』と呼ばれた闇が手のひらを二回打つとその場には見事な影人間が生まれた。
複数の影人間に向けて『R』は「全員をマスターの元までつれてくるでアール」と命令し、影を動かした。
彼は目の前で闇魔術を見れて一瞬見とれていたが、すぐに鋭い目つきに変えた。


「ところで全員に何の用事でアールか?」


『R』が訊ねたときに、『P』が姿を現した。
彼女も影人間によって呼ばれた一人のようであり、きょとんと目を丸めている。
闇を"支配する"という意味を込めて『R』と名づけた闇と、愛しの彼女がいるところで、『E』はくっと口元をゆがめた。


「わたしたちの一族『エキセントリック一族』の今後の計画について話したいことがあるんだ」


『E』は、全てを闇に侵され真っ黒になってしまった瞳をして、先の見えない未来を見ていた。







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闇たちが無事生まれました。おめでとう(笑)

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