僕らは、自分の意志で動くことが出来ない。これも一種の操り人形か。


55.ゲームの村


良い天気の下、車が音を立てながら動いていく。
見た目は新品同様になっているものの、始めから土台が悪いため音は修理できるものではなかった。
ガラゴロという荷車特有の音が今日もうるさく、しかし心地よく流れる。
木で出来たタイヤが少し大きめの石を踏んだ。その分だけひょんと飛び上がる。
しかしこれも慣れたもの。むしろこの動きがない方が変に違和感を持ってしまう。
それほどまでにこの車には愛着がわいていた。


「Lさん素敵だったな〜…うふふふふふふ」


揺れ動く車の中、メンバーが体を休ませているときチョコは悦った顔して独り言を吐いていた。
前回、憧れの『L』と短い間であったが一緒に時を過ごすことが出来た。
そのことが心底から嬉しくてチョコのニマニマは止まらない。


「しかも私をお姫様抱っこしてくれたし…あふあふあふあふ…」

「チョコ、毎回新しい笑い声を発明するよね」

「まー確かによーLはすっげかったもんなあ!人を生き返らせることが出来るって相当凄いぜ!」


チョコの危険な笑い声に密かに怯えるクモマと、『L』のことについて感想を述べるサコツ。
『L』の話題だったのでトーフも割り込んできた。


「Lはすごいやろー!ワイの尊敬する人や!」

「そうね、タンバリンマスターになるには長年の努力を積み重ねなければなれないものよね」

「いや、そんな話題してないだろ!あと、タンバリンマスターってのはタマの正式名称だったろが!…ってそれもどうかと思うが」

「何一人で興奮してるのよ」

「てめえのせいだろが!黙れ!」


わーわー言葉を交わすブチョウとソングを通り越して、クモマはトーフを見た。
その顔には笑みが零れている。


「本当にLさんはすごいよね。あれでエキセンだなんて信じられないよ」

「そやなー。世の中不思議なこともあるもんやわ」

「ってかよー何気にL、女たらし具合が滲み出てたよな!」

「そんなLさんも素敵ぃー」


先ほどメンバーとクルーエル一族を助けるために現れたエキセントリック一族の『L』、彼はこちらの味方のようで常に助けの手を差し伸べてくれる。
『L』は言っていた。「全部の闇が邪悪とは限らない」と。
彼は信用できる、面と向かったときにそう心が解釈した。

可哀想なトーフを生き返らせた上、呪いも封印した。
そして次は、何と彼女を生き返らせると言う。


「それにしても本当にLはメロディさんを生き返らせてくれるのかしらね」


ふと声を漏らすブチョウは無論ソングに目を向けていた。
しかしソングは目をあわせようとしない、斜め下に向けてそっと呟く。


「そう信じているんだが」


その声は不安に押しつぶされているように感じ取れた。


「その場の勢いであいつの条件に頷いてしまったが、果てして本当に信じていいものなのか」


そんな不安をぶつけるソングなので、すぐさまチョコが突っ込みの声をあげた。


「信じちゃいなよー!だってあのLさんよー絶対に大丈夫だってうふふへへへ」

「チョコ、お前が口を挟むと場の雰囲気が崩れるぜ!」


いつまでも危険な笑みを発砲するチョコをサコツが押さえ込み、全員の目線はソングに向けられた。
目を今にも閉じそうな位置に止め足元を睨んでいるソング、そんな彼に全員が優しい声を贈った。


「心配すんじゃないで!Lは見ての通りえらい魔術師なんやで!どーんと胸を張っても大丈夫や!」

「形の無いトーフを生き返らせることが出来るLさんだよ?メロディさんを生き返らせることもできるよきっと」

「てかよー、約束したんだからLを信じろよ!あいついっつも笑顔見せてたしめっちゃいい奴だぜ!」

「Lさん素敵ー!!握手してもらえばよかったー!」

「まあ、私たちが世界を救えばいい話でしょ?どっちみち損することはないんだから今更愚痴るのも悪い気がするわ」


全員の宥めの声を聞いて、ソングは目線をより沈めた。
ここまで言われるとは思ってもいなかったからだ。自分だって『L』を信用していないというわけではない。
心の8割は完全に奴を信じている。2割は疑っているのだけれど、しかし8と2では大きく差が生じる。
自分の不安は2であった。その2をそっと口にしただけなのに全員が食いついてきた。
真剣な目して『L』を信じろと訴える姿を見て、全員が『L』を信じているのだと分かった。
だから、ソングも2を0に変えた。
つまり完璧に『L』を信じることにしたのである。


「そこまで言われたら、嫌でも信じなければならなくなるな」


そう口にしてからソングは目線を上げた。
目の前にいるチョコが真っ先に視界に入ってきたが、それを通り越して、自分の隣に目線を止める。
そこは荷物が積み重なっている場所。荷物の山に目を置き、そこに座っているだろう彼女に告げた。


「俺はとにかく、隣にメロディがいてくれていると分かったことが何よりも嬉しい」

「「……」」

「ずっと一人かと思っていた」


ソングは目の色を淡く変えて場を見続けた。それを無言で見やるメンバー。
彼女に向けてソングは言葉を繋げた。


「あいつが死んでから一人かと思っていた」

「何言ってるんだい。君には僕たちがいるじゃないか」

「アホか、恥ずかしいこと言うな」


クモマに突っ込んでからもソングの目線は変わらず。


「俺はメロディのことを言ってるんだ」

「メロディさんの?」

「死んでからずっと向こうで一人きりになってるんじゃないか、そう思う度、胸が痛かった。だからせめてあいつが一人にならないように、夜中こっそり写真を見て、あいつに気持ちを送っていた」

「…」


全員の視線も今のソングには邪魔なものにはならない。
むしろその心配の眼差しが彼に勇気を与えている。


「自分自身もあいつのことを忘れないように必死に写真を眺めて、あいつとの思い出を常に思い出していた。……元気だったあいつが一人で悲しんでいるのかと思うと本当につらかった…」

「「……」」

「だけど」


一瞬だけ震えた声になったソングであったがすぐにそれは途切れた。
首を振って前言を覆した。


「あいつは一人じゃなかったようだ。ずっと俺の側にいたのか。何だ、心配する必要は無かったんだな」


ソングは彼女にしか見えない苦笑いをする。
しかし顔をうかがわなくとも十分にその表情を想像できるような発言であった。
そのため、その表情を取り消させるためにまたまた全員して言葉を突っ込んだ。


「何言ってんだー!彼女は成仏できないからお前の側にいるんだろ!助けてやらねえとよ!」

「全くやな。ちゅうかソングもちゃんと人のこと考えることできたんやな」

「ソング偉いー!」

「彼女が隣にいると分かっている以上、ここは頑張らないといけないね」

「そうね、凡はともかくメロディさんのために」


それらを聞いて、ソングは心底からほっと一安心した。
メンバー全員が自分と同じ考えを持っている。そのことを知ったから表情を変えることが出来た。
苦笑いは、いつの間にか、いつも彼女に見せていた笑みに変わっていた。
それはやはり今回も彼女にしか見せなかった。


一通り話を終えた頃、ようやく次の村にたどり着いた。
今回もガタンと車が大きく揺れ上がり移動の終止符を打つ。
もう車が動かないことを確信したところで全員が一斉に車から飛び下りた。


「…………予想以上に小さな村だね」


エリザベスと田吾作が車を邪魔にならないところに置きに行く。
それを背景に、クモマが唖然とした表情で村全体を見渡していた。
伴って全員が同じような感想を述べた。


「そやなぁ、何と言うか小さいわぁ」

「村人誰一人いないね〜」

「たまげたわね。皆して希望色を探しに出かけちゃったのね」

「そんなオチャメなことするか!何だ希望色って!」

「おーい、誰かいないのかー?」


辺りを見渡しても人影一つ見当たらない。
むしろ民家がない。
あるとすれば、目の前にあるコレ。


「…やっぱこの建物内かな?」


メンバーの目の前に立ちはだかっているものは、大きな建物であった。
この建物が村になっているようなものだ。つまり村にあるものがこの巨大建物しかないということだ。
そういうわけで有無も言わず、その建物に入ってみることにした。

大きなドアの前に立つと自動的にドアが開かれた。
田舎者丸出しな状態でドアを潜り抜け、すぐさま歓声を上げる。


「おーすげーぜ!」

「ここが村なのねー!」


自動ドアの先、そこに広がっていた光景とは、想像できるようでできないものであった。
チョコが言うように巨大建物内が村になっているのである。
建物の中に民家があるなんて何とも可笑しな光景だ。
道も通常通りにあり、植物もある。しかしやはり建物内なので地面は土ではなく一枚の広いじゅうたんで、植物は植木鉢に入った観葉植物であった。


「…いろいろとすごいなぁ」

「何故建物の中が村になっているんだ?」


まさに田舎者丸出しのサコツとチョコはあちらこちらを目を輝かせて眺めている。
その後ろでクモマが拍子抜けた表情をして、ソングが素朴な疑問をついた。
しかし答えられるものがいないのでそれは空気に溶け込んだ。

空を仰ごうと上を向くと高いところであるが天井が見える。
無論、太陽は無い。雲も無い。自然ではなく全てが人工。
そのため悲しく頭を垂らすのはクモマであった。


「何だか居た堪れないなぁ」

「そやなー。ちゅうか、村人は一体どこに居んねや?」


場は建物内のため、どこからか音楽が流れている。それはリズミカルなものであり心を弾ませてくれる。
しかしメンバーはその音楽によって心が弾むことは無かった。
トーフの疑問が全員の疑問へとなったから。

辺りを見渡す。先ほど外で辺りを見渡したときのように警戒しながら顔を動かす。
しかしどこを見ても見当たらない。人影が無かった。
建物の中にも人がいない…?


「どういうことだ?」

「何だよー!結局人はいないのかあ?」

「誰かいないのー?」

「やはり皆で希望色を探しに行っちゃったのね」

「んな暇あるなら仕事しろ!」

「人が居らんなんて可笑しな話やなぁー」


疑問と苛立ちを募らせながら歩いていくトーフ、しかし次の瞬間、トーフの影は消えていた。
トーフの足元が突然落とし穴へと変わり、トーフを下へ落としたのだ。

そのことに気づいて、近くにいたサコツが穴の中に上半身を突っ込んだ。


「トーフ!」


そのままサコツは体を起こさない。きっと穴の中でトーフの腕を捕らえているのだろう。
穴の中からトーフの声が篭って聞こえた。


「何やねんこれはー!」

「トーフ、大丈夫かい?」

「ええーどうしたのー?!」


上半身を穴に入れているため、自然と尻を突き出した姿になっているサコツ、その背後へチョコが来たのだが、足の速いチョコはすぐに足を止めることが出来なかった。
そのため、サコツの尻を思い切り足で蹴り上げてしまった。


「だああー!!」

「きゃー!サコツー!!」


サコツの体が穴へと吸い込まれていく。
それを止めるのは力持ちであるクモマだ。


「大丈夫かい?!」


サコツの足を捕らえたときに、穴の中を見てみた。サコツは穴の中でもトーフの手を掴んでいるようであった。
このまま引き上げれば全員が無事に生還できる。そう解釈し、クモマが精一杯力を込めて引き上げようとした、そのときであった。


「生麦、生米、生足最高!」


突然ブチョウが大げさなくしゃみをし、その衝撃に押し倒され、クモマも穴の中に落ちてしまったのだ。
しかも素晴らしい速さで落ちていってしまったため、他のメンバーは先ほどのクモマのようにすぐに助けに出ることが出来なかった。

穴に吸い込まれてしまった3人の悲鳴が、遠ざかっていく。


「あああああ!トーフちゃんとサコツとクモマが落ちちゃったよおお!!」

「んはー、くしゃみが出ちゃったわ」

「おい白ハト!てめえの無駄に可笑しい早口言葉のようなクシャミをしたせいで奴らが落ちてしまっただろ!」


地上にいる残りの3人がどうすればいいかあたふた戸惑っている間に落ちた3人の悲鳴は消えてしまっていた。
つまりもう声の届かない範囲まで落ちてしまったのだ。もう助けることが出来ない。


「姐御、ハトになって3人を引き上げてきてよー」

「無理よ。何故なら希望色が見つからないから」

「意味の分からん言い訳するな!てめえのせいだからてめえで責任とって助けに行け!」


非常に困った。
3人が穴の中に落ちてしまった。それならば自分らも落ちなくてはならないだろうか。
しかし落ちるのは怖い。だけれど3人は既に落ちている。
助けるためには……。

と、葛藤を起こしているときだった。


『ゲームに参加してくれてありがとう!』


背景音になっていたリズミカルな音楽に乗って放送が流れてきた。
その直後、3人が落ちた穴が塞がり、同時に自分らの後ろが大きな地震を起こした。
振り向いてみてみると、驚いた。先ほどまで無かったものが現れていたのだ。

それは巨大モニター。


『お友達を使って、楽しくゲームをクリアしよう!』


何も映っていなかったモニターが突如色をつけた。
最初は幾多の色を波打っていたが、見る見るうちに波は治まっていき、最終的には一つの映像を映し出す。

そこに映っているのは、非常に見慣れた3人の姿。


『さあ、ゲームの始まり始まりー』

「……待てよ」


気づけば、チョコとブチョウとソングはゲームのコントローラーのようなものを持って、ゲーム画面と向き合っていた。







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