空から地へと叩きつけられて頭や腰などを強く打った3人、痛みを堪えながら何とかこの地に立った。
ここは荒原のようであり、草木が頭を垂らして元気をなくしている。
「いたた…ここは一体どこやねん?」
「何だかすげーぜ!別世界に来てしまったぜ!」
「穴から落ちてきたんだよね。…ということは、ここは下の世界なのかな?」
突如現れた穴に落っこちてしまったトーフを助けるために一緒になって落ちてしまったのはサコツとクモマ。
3人は見慣れないこの場に呆然と立ちつくしている。
空を仰いで自分らを落とした穴を見ようとするが、もう既に穴は消えた存在になっているようで薄汚い空だけが広がるだけだった。
目線を戻して、トーフが大きくため息ついた。
「ホンマすまんわぁ。ワイの不注意で二人を巻き込んでしまったようで…」
また深くため息をついて、下に目線を落とす。
そんなトーフを見て、慌てて二人が手を振り、気まずい空気を吹き飛ばした。
「そんなことないぜ!いきなり穴が現れたんだから落ちるのも無理ないぜ!」
「そうだよ。トーフは悪くないよ」
サコツは俯いているトーフと目線を合わせるために腰を落とし、元気を分けようとする。
「大丈夫だぜ!絶対に出口はあるに決まってるぜ!だから止まってないで動いてみようぜ」
そしてトーフの腕を引いて立ち上がるサコツを見て、クモマも笑顔で頷いた。
「そうだね。ここで立ち止まっていたら先が見えないしね。出口を探そうか」
「…ホンマすまんなぁ」
「な〜っはっはっは!トーフが謝ることはないぜ!さあゴール目指して歩こうぜ!」
二人の心が広くてよかった、と思いながらトーフは、サコツに掴まれていた手を離して前方に足を動かした。
伴ってサコツとクモマが動き出す。
荒れた野原に現れた3つの影は真っ直ぐと真実の道を探し求めている。
「せやけど、道が広くてサッパリわからへんわぁ」
まだ歩き出して1分も経っていないのにトーフが不吉な言葉を口走った。
しかし残りの二人もうすうすと感じていた不幸だったようで、苦い表情を作って返していた。
「本当だね。一方に道らしい道が出てこないし、もしかして道を間違えているのかなぁ」
「困ったぜ。ってかよーまずここがどこなのかも分からないしよー。いろいろとちんぷんかんぷんだぜ」
気がつけば、また足が止まっていた。
道が分からないのに歩いていたら逆に危険だ。どんな不幸が待ち構えているか分からない。
だから止まる。
しかし動く。
全員が困り果てた顔して辺りを見渡しているとき、突然クモマが走り出したのだ。
「わああ?!」
クモマが走る走る。何の利を求めて走っているのか不明であるがクモマは勢いよく走った。
しかしその姿と合わない悲鳴を上げ続けている。
「だーれーかー止ーめーてー!!」
「クモマ?!」
「どないしたクモマ!!」
ぐるぐると同じ場所を走り回るクモマはやがて、何のために立っているのか分からない柱にぶつかり身を沈めた。
ありえない声を出して倒れこむクモマを見て、急いで二人が駆けつけた。
「大丈夫かよークモマー!」
「意味わからへんで!何がしたいんやクモマ!」
そういった直後、次はトーフが暴走した。
クモマが倒れている柱に近づいているとも関わらず走る速さを緩めず、むしろ素晴らしい速さを繰り出した。
最後はクモマと同じように柱にぶつかり撃沈する。
「トーフまでどうしちゃったんだよー?!」
二人の行動が読めなかったサコツは柱の下で倒れている二人を助けるために急いで駆けつけにいった。
しかし、そのときサコツは思いもよらない行動をとる。
「しゃもじアターック!!」
何と二人に目掛けて素早く巨大化させたしゃもじをぶつけたのだ。
よって再び悲鳴を上げるのはクモマとトーフだ。
「わああ!!」
「何やねーん!いきなり攻撃するアホがおるかー!」
予期せぬ行動を引き起こすサコツにツッコミながら急いでトーフが吠え付いた。
しかしサコツはポケッと間抜けな顔をしてこちらを見ている。
「…あれ?何で俺、しゃもじアタックしたんだ?」
サコツが疑問を飛ばしたことにより、攻撃された側も勢いよく口を開けた。
「ええ!無意識に攻撃してたってこと?」
「意味わからん!あんた頭大丈夫か?!」
「だ、大丈夫だぜ!ってか自分から柱に突っ込んだ二人も大丈夫なのか?」
サコツに言われ、トーフも首を捻った。
「大丈夫やけど、何で柱に突っ込んでしまったのか自分でもわからへんのやぁ」
「僕もだよ。どうして突然走り出しちゃったんだろう?」
「ちょっと待てよ!っつーことは俺ら本能的に動いてなかったってことだよな!」
おかしな行動を取ったとき、全員がそれらを意識してやっていなかった。
突然自分の体が言うこと利かなくなったのだ。
これは一体どういうことだ。
大きな疑問を抱えているときだった。
天からの声が聞こえてきた。
『ぱお』
しかし天の声もおかしかった。
+ + +
「あら、面白いじゃないの」
「なるほど、これであいつらを動かせるということか」
「すっごーい!これってつまりコントローラーってやつ?」
穴に落ちた3人が消えた後、残りのメンバーはというと優雅にイスに座り大画面と向き合っていた。
両手で抱えるほどの大きさをした機械からは管が伸びており、大画面の下部の機械に繋がっている。
それを持って、ブチョウとソングとチョコは画面に映っている3人を見ていた。
背景音のリズミカルな音楽に紛れて放送が聞こえてくる。
『ゲームのコントローラーを使ってそのゲームをクリアしてね!』
しかし画面と向き合っている3人には言葉が届かなかった。
ブチョウが十字キーぐるぐると動かすと、それに伴って画面に映っているクモマが走り回る。
なるほど、とソングが頷いた。
「俺らがあいつらを動かしてゲームをすればいいということか」
「私はたぬ〜を動かせるのね」
「ホントすっごい!まさか私たちが3人を動かすことが出来ちゃうなんて!」
チョコがきゃーきゃーはしゃいでいるときにまた放送が流れ込んできた。
『みなさん、コントローラーのボタンを押してお友達を動かしてみて!するとお友達があなたたちの理想通りに動いてくれるよ!』
「あいたこりゃ。たぬ〜を柱にぶつけちゃったわ。ま、これも計算のうちだけど」
「おい!一応あいつらはこのゲームの中で生きてるんだぞ!一度死んだら本当に死ぬかもしれねえんだから慎重に扱え!」
『その通り!一度キャラを死なせてしまったらもう二度と復活しないよ!つまりゲームオーバー!』
「げ〜マジ〜?私、ゲームするの始めてだから死なせちゃうかも…」
「そういえば俺は一体誰を動かせるんだ?」
ブチョウがクモマを動かさなくなったところを見計らって今度はソングがコントローラーのボタンを動かした。
十字キーをくいっと押すと、すぅっと流れる画面上の人物。
それはトーフであった。
「あ、トーフちゃんだ!そしたら私はサコツなんだね!」
「ドラ猫か。使いにくそうだ」
「そういった傍から早速柱にぶつけるあんたは、まさにゲーム音痴ね」
画面上では、クモマがぶつかった柱にトーフがぶつかるというおかしな映像が映し出されている。
それを見てチョコが腹を抱えて笑い、ソングは目の辺りを顰めた。
「前に言ったはずだ。俺はゲームが苦手だと。よってこのゲームもどうなるか分からん」
「こりゃー爆笑ものになるね!ソングに操られるトーフちゃんが可哀想ー!」
「いや、白ハトに操られるタヌキの方が可哀想だと思うが」
「私はたぬ〜を使って希望色を探すことにするわ」
「もうそれはいい!希望色の存在を忘れろ!」
「よし!私もサコツを動かせようっとー!」
チョコがそう言って早速十字キーに親指を運ぼうとしたそのとき、延々と流れている音楽と一緒にまた放送も流れてきた。
『右手側にある4種類のボタンを押すと、いろんな攻撃が出来るよ!』
「え!本当!」
放送から情報を得たところで早速それを試してみた。
Aと書かれているボタン、つまりAボタン、それをポチッと押してみると
『しゃもじアターック!!』
画面上のサコツが素早く巨大化させたしゃもじで攻撃を繰り出したのだ。
その攻撃は見事仲間に当たっていたが、それは今のチョコや残りのメンバーには目に入らなかった光景であった。
ボタンを押すことで攻撃まで選べてしまうとは、と全員で目を輝かせた。
「すっごーい!!サコツが攻撃しちゃったよ!」
「驚いた。そこまで出来るとは…」
「全てを支配できるのね。いい体験になりそうだわ」
左手側にある十字キーで使用キャラ動かして、右手側にある4つのボタンで攻撃をする。
これで今まで一緒に旅してきた仲間を操れるのだから楽しい。
そう思った3人は、嬉しい笑みと不敵な笑みを零しあっていた。
するとまた嬉しい情報が入ってきた。
『コントローラーについているマイクに向けて声を出すと、ゲームの世界にいるお友達に自分らの声を聞かせることが出来るよ!やってみてね!』
言われてから気づいた。
このコントローラー、真ん中のボタン(スタートボタンと書いてある)の上に不自然とマイクが付属しているのである。
存在に気づき、うるさくはしゃぐチョコとマジマジと観察しているソング。
そして、さっそく実践するブチョウ。
「ぱお」
彼女にとっては「マイクのテスト中」と言っているのであろう。何度もその言葉を繰り返しているから。
すると画面上が大きく騒ぎ出したのが見えた。
『「ぱお」って一体何やー!』
『その声はブチョウだね!これは一体何なんだい?』
『ブチョウ!ついにお前ってば神様になっちまったのかよー!』
画面にいる3人、所謂ここにいる3人に操られている者たちは、あちらこちらを見渡して声の主を探しているようである。
そのため、「ぱお」を繰り返し言っているブチョウの声を背景音としてチョコが答えた。
口をマイクに向ける。
「実は私たちね、みんなを動かすことが出来るようになっちゃったんだー」
また画面上が大きく揺れた。「はあ?」と声が聞こえてきたので、言葉を補充する。
「だから、私たちがコントローラーでみんなを動かしちゃうの!」
『どういう意味だい?』
『俺にも分かるように詳しく説明してくれよー!』
「つまり、俺らはゲームをしているんだ」
チョコの説明だけでは納得できなかったようだが、ソングが加勢しても然程様子は変わらなかった。
しかしソングはこのあときちんと説明するのだった。
「簡単に述べると、お前らはゲームの世界に入ってしまったんだ」
『『はあ?!』』
「俺らは今、画面からお前らを見ている」
『ちょ、どういう意味や?!』
「何度も説明させんな一回で理解しろよ。お前らはゲームのキャラになっているから今から俺らがお前らを操るんだ」
何度も「どういう意味か」と訊ねられるため、気が長くないソングは苛立ちを募らせた。
画面からクモマの声が聞こえてくる。
『ということは、さっき僕らを動かしたのはキミ達だったということかい?』
その通りなので、頷いて見せた。
「そうだ」
『一体誰やー!ワイを柱に激突させたのは!』
「俺だが」
『あんたかー!こんゲーム音痴ー!!』
ソングによって柱に激突されたという真実を知り、トーフは憤りを噴火させる。
しかし直後、トーフは突然チョップを繰り出したクモマによって再び撃沈した。
『トーフー?!ごめんね!よくわからないけどチョップしちゃったよ!』
「あら、このボタンの組み合わせでチョップができるのね。行け!オパチョッフ斬り!」
『オパチョッフ斬り!…って僕を操っているのってブチョウなの?!』
ブチョウの声と一緒にチョップを繰り出したクモマは、自分を操っている者が可笑しなブチョウだということを知ると、トーフとは違う形で撃沈した。
二人が撃沈したところで、サコツがチョコに訊ねた。
『つーことは、俺はチョコに操られているってことか?』
「そういうことだね!」
『あぁぁぁ!ブチョウが操るとなるとすっごいことになりそうだぁ!もう生きて帰れない…!』
『あかん!ゲーム音痴のソングに操られる上、可笑しなブチョウによって可笑しくなるクモマの犠牲になるわぁ!ワイも死んじゃうでぇーゲームオーバーやぁ!』
「ちなみに一度死ぬと復活しないそうだ」
『『殺されるー!!』』
『な〜っはっはっは!チョコ!よろしく頼むぜ!』
「うん!覚悟していてねサコツ!」
『『殺されるー!こーろーさーれーるー!!』』
暫くの間、もがき苦しんでいたクモマとトーフも二人に操られることにより歩き始めた。
サコツも急いで後を突いていき、今からゲームのスタート地点へと向かう。
暫く歩いていくと、チョコたちの背後で流れているリズミカルな音楽とは違う、別な音楽流れてきた。
それはゲーム画面から流れている。
つまりこれは…
『今からゲーム開始だよ!この迷路のようなお城を歩き回って最上階にいるお姫様を救ってね!!』
ゲーム画面に「ENJOY GAME!」、楽しいゲームと題されたタイトルが浮かび上がる。
その下に「スタートボタンを押してね」と書いてあるので、代表としてブチョウがコントローラーの真ん中にあるボタンを押して、ゲームを開始させた。
楽しげな音楽と共に響き渡る悲鳴。
『早速穴に落ちそうになるんやないソング!もうちょっと丁寧に扱えや!』
「これでも精一杯頑張ってるんだクソ!!」
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