「あ、あう…あうぁう……!」


『L』の魔術により脳に直接物語を送り込まれたメンバーは、トーフの全てを知ると早速それぞれで表情を出した。
ほぼ全員が「いい話だった」と安堵している傍ではチョコが号泣に埋もれている。
自分の膝に涙が掛かるぐらいチョコは涙を噴き出した。


「あう、ぁぅ…も〜感動も何も、トーフちゃんが可愛い…というかLさんがめっちゃカッコいい…」


衝動で隣にいるサコツの背中を叩き、気持ちを大げさに表すチョコ。
顔を赤くしながら、伴って涙をも流す。


「しかもLさんが空を飛びたいって希望持ってたなんて、めっちゃプリチー…!」

「落ち着けチョコ!みんなが引いてるぜ!」

「ってか鎌の使い方間違えてるし、もー最高しかいえないよぉ…!Lさん最高ー!」

「チョコ、お前少し休んどけよ?脳がやられてるぜ!?」


感動のあまり言動が可笑しくなっているチョコをサコツが抑える。
それを見やってから、クモマは目の前のイスに座っている『L』を見た。
じっと空を見ていた『L』も視線を浴びたことにより目線を下げ、クモマと目を合わせる。
目が合ったところで口を開いた。


「あなたがトーフを助けてくれたんだね」


先ほどまでは敬語を使っていたクモマであるが物語を見ているときに『L』に対して親しみが湧いたらしい。
いつもの口調に戻っていた。

そして『L』に言った言葉にはいろんな意味が込められている。
彼岸花になった可哀想な黒猫を人間として蘇らせた、という場面
呪いをかけられ苦しんでいるトーフを助けるために懸命に説得して呪いを封印した、という場面
そして、今まで呼び名が無かったトーフに素敵な意味を込めた名前をあげた、という場面。
どれもこれも素晴らしい一場面。
それらは全て『L』の仕業。
『L』がトーフの全てを救ったと言っても過言ではないのだ。

目を輝かせたクモマに言われたので、『L』は正直に頷いた。


「ああ、オレは苦しんでいる奴を放っておけない主義だから」

「本当にありがとう」

「お前が言う台詞かそれは?」


突然礼を述べてきたクモマに目を一瞬丸める『L』。クモマは頷いてみせた。


「うん。あなたがいなかったらトーフは救われていなかったんだもん。今のトーフがあるのも全てLさんのおかげ。だから僕は嬉しいんだ。お礼を言いたい」

「そうか。でもオレがトーフをあんな形で蘇らせなければ済んだ話なんだけどな」


猫とごっちゃ混ぜになっている今のトーフの姿。『L』は未だに満足できていなかった。悪いことをしたと思っていた。
完璧な人間の姿にしてあげれば呪いをかけられずに済んだ。しかし中途半端だったから人々に恐れられ呪いをかけられた。
自分の過ちを再び思い出し、苦い表情を作る『L』であったが、チョコによって覆された。


「でも私はトーフちゃん、大好きだよ!」


それは一歩聞き間違えれば大告白的発言であった。
そしてトーフはそう聞き間違えた被害者。思わず何も口に含んでいないのに吹き出してしまっていた。
空気を勢いよく吹き出したトーフは顔を真っ赤にしていた。


「な、何やねん?」

「だってだって!」


今日のチョコは行動全体が可笑しい。
先ほどとはまた違う涙を流してすぐさまトーフに飛びついた。
そのためトーフは悲鳴の連発だ。


「ぎゃーうわーひえー!」

「トーフ?!」

「すげーぜ!チョコが大胆に猛烈アタックしてるぜ!」

「何やってんだあいつは」

「あのまま二人は愛の世界へ突っ走るのね」

「ちょっとお嬢さん、落ち着けって」

「Lさんー!!」


突っ走るチョコをとめようと『L』が声をかけた刹那、次は『L』が転びあがっていた。
チョコが突進してきたので魔術で取り出されたイスもここで消滅し、頭から地面にめり込む『L』。
魔術師としては滅多に見られない光景だ。
倒れた衝撃でシルクハットがぶっ飛んでしまい、オレンジ髪がむき出しになる。
チョコはそんな『L』の胸に向けて今の気持ちをぶつけた。


「Lさん最高だよ!」


チョコは突っ走る。


「どんな姿でもトーフちゃんはトーフちゃんだよ!あなたは失敗なんかしてない!」

「……」

「黒猫時代のトーフちゃんの気持ちをちゃんと維持したまま生き返らせてくれた!それだけでもトーフちゃんは満足してると思うし、私たちも満足だよ!」


チョコの気持ちを聞いて『L』は目を丸めた。
先ほどもクモマにお礼を言われ、今もチョコに言われている。

立ち上がるためにチョコを抱き上げ、素早く身を起こした。


「お前ら、満足してくれてるのか?」


憧れの『L』に抱き上げられ嬉しさに今にも失神しそうになるチョコであるが、その位置のまま声を上げた。


「うん。満足してる!最低でも私は満足してるよ!」

「僕も満足だよ。あなたがいなければ僕らはトーフと会えなかったんだから」

「そうだぜ!お前は一つも悪いことはしてねえぜ!むしろすっげーと思ってるし」


嬉しい言葉が飛び交う中、トーフは嬉しくてしょうがなかった。
まさかメンバーがそんなにも自分のことを思ってくれていたとは思ってもいなかったから。
嬉しくて自然に笑みが零れた。

チョコを地面に下ろした『L』もぶっ飛んだシルクハットを指を鳴らすことにより取り戻し、ぎゅっとつばを下げてから優しい笑みを零していた。


「そっか。まさかこんなにも喜ばれるとは思ってもいなかった」

「当たり前じゃないの。人を生き返らせるなんて普通出来ないことよ。死んだ人が蘇るほど嬉しいことは無いと思うわ」


珍しくマジメに意見を述べるブチョウの言葉を聞いて、こちらも珍しいソングが頷いた。


「現にここに数百年前に死んでいる者がいるんだからな、驚きだ」

「そうだよな!トーフって数百年前の人間なんだぜ!すげーぜトーフ!」


人間と呼ばれて一瞬驚いたトーフであるが、二人の言葉に頷いた。
それから数百年前のことについて語る。


「ちゅうか、ワイは元猫やし長い間生きてなかったんや。蘇ったときもちょっとの間だけ動いてて、そん後はずっと封印されてた。せやから数百年前のことは全く覚えとらん」

「あ、そっか」


トーフの説明を聞いて納得したクモマ。その背景ではブチョウが『L』の元へ行っていた。
それからすぐに尻を突付きだし『L』をくねらせた。


「あーいたたたたた!意味わからない!何がしたいんだお前は?!」

「レベル2ね」


レベル2の意味も分からない上、2って低いな!と思いながらも突っ込まなかった『L』、その後すぐブチョウから質問を受けた。


「タマの封印を解いたのはいつごろだったのかしら?」

「タマ?」


封印という単語はトーフにしかつり合わない単語であるが、なぜタマと呼ばれているのかわからず、首を捻る。
『L』がそんなそぶりを見せたのでブチョウが答えた。


「タンバリンマスター。略してタマよ」

「マジでかよ!そんな意味を込めてたのか!すげーぜブチョウ!」

「ウソつくな!何だ、そのタンバリンマスターってのは!」

「己の心よ」

「姐御その言葉好きよね!」


メンバーがいつものノリを取り戻してお祭り騒ぎになっているため、『L』は微妙についていけなかった。
たまたまその現場に乗らなかったクモマが、ブチョウに代わって答えた。


「タマっていうのはトーフのことだよ。と言っても彼女しかそう呼んでいないけどね」

「なるほど、愛称か。親しみあっていいじゃないか」


人間に嫌われていた黒猫だけれど、今ではそんな人間らに名前を呼んでもらえるようになり、愛称もつけられている。
そのことを知り、『L』は非常に満足そうであった。
口先で笑いを込めている『L』に向けて、クモマは続けて訊ねた。


「それで、トーフの封印はいつごろ解いたの?」


クモマの声を聞いて騒いでいたメンバーも静かになった。
気になる内容なので全員して『L』に詰め寄る。
自分の周りのスペースが少なくなり息苦しくなった『L』はその後指を鳴らすことによって瞬間移動をしてみせた。

メンバーらの背後について、広い空間をのびのびと使いながら答えた。


「今から15年前だ」


15年という年数、ついさっきまで何度も聞いていた年数である。
鋭くソングが突っ込んだ。


「クルーエルとエキセンが戦争を起こした年だな」

「そうだ」


『L』は間をいれずに即答した。


「オレらの大陸ブラッカイアのとある場所でトーフを封印していたんだけど、その辺りも危険になっていてな。全クルーエルが狂ったように暴れまわっていたから仕方ないことだけど」

「…」

「危険を察したからすぐに封印を解いて、当時一番平和だったピンカースに避難させたんだ」

「なるほど」

「まあ、一番の理由は、トーフにお前らを探してもらいたかった、というものだけどな」

「へえ」


一瞬、聞き流しそうになったが急いでクモマが手を入れ引き戻した。


「ちょっと待って!トーフに僕らラフメーカーを探させたのはあなただったの?」


すると『L』がこう返した。


「さあ、どうだろうな」

「「……」」

「でもトーフが自らの足でお前らを探した、そのことには変わりはないぞ。トーフは素敵な笑いを持っているお前らに会いたくて15年もかけてお前らを探し回ってたんだ」


『L』はトーフに目を向けて言う。


「トーフにはオレの知識をいろいろと詰め込ませている。2年前から活動が開始された"ハナ"のことも、"笑い"のことも、無論ラフメーカーのことも」


それから、ふと目線を動かした。トーフを通り越して、向く場はソング。
ソングをじっと見てからやがて何かを悟る。


「お前、まさかアレ持ってるか?」


突然の問いかけ、しかし内容は全く分からない。
ソングが愛想無く『L』を見やっていると『L』は指を鳴らし手の中に小爆発を起こした。
その顔には笑みが浮かんでいる。


「お、ついてるな。お前らがこれを持っていたのか」


口元をゆがめた『L』の手のひらには、見慣れた本があった。
それはソングが老人ヒジキから頂いた本、古びた分厚い本であった。

ブラッカイア特有の文字インキーで書かれたその本には幅広い分野のことがえがかれている。
"ハナ"を始め、悪魔や天使、クルーエル一族についてなど一般人が知ることが出来ない情報をこの本は知っていた。
世界についてはこの一冊の本だけで生涯の知識を得ることができるほど、内容がびっしり詰まっている本である。

その本をぺらぺらを捲っている『L』に向けてソングが訊ねた。


「お前何か知っているのか?」


すると『L』は即答する。


「知ってるも何も、これを書いたのはこのオレだ」


風が言葉を運んできた。しかしそれは驚くべき言葉であった。
そのまま風はメンバーの髪や服がはためかす。『L』も風に煽られている中で本だけは風に捲られない。
知識が詰まっている本は風にも負けることなく、その場を維持していた。

本が風によって捲られないので『L』が捲り、そこに書かれている内容を懐かしんだ。


「いやー懐かしいな。頑張って書いたのを思い出すな」

「え、ちょっと待って。これ全てLさんが書いたのかい?」

「だけどこっちの言葉で書かれていないのよねー……ってそっか」


ふと流した疑問をチョコは自分の力で解決した。


「Lさんはブラッカイアの人だから向こうの言葉で書いているのも当然なのね!」


『L』はエキセントリック一族の一人、正真正銘ブラッカイア大陸出身のものである。
そのためインキーを用いているのも当然であろう。

全ての質問に『L』は頷いた。


「そうだ。大分昔に書いたものだからインキーで書いてあるんだ。今ならマンダリンで執筆するさ」

「大分昔っていつからよ?」

「そうだなぁ。トーフと会ってからだから、数百年前かな」

「またそんな昔に…」

「でも、長い年月をかけて書いたものだから結局出版…というかピンカースのある村に置いたのは数十年前だ」


そう言って本について語る『L』であるが本から目は離さない。何気に楽しそうに読書に励んでいる。
数百年前から書いていた本なので親しみがあるのであろう。
ページをぺらぺら捲る音が鳴る。
その中でふと湧き上がる疑問。それはソングの口から出された。


「その本には普通知らないような内容が書かれてあった。"ハナ"についてだ」


すると『L』の動きが止まった。伴ってページを捲る音も消え、『L』の目の色も変わった。
『L』の反応を見てからすぐにソングは続けた。


「世界が"ハナ"にやられるということも始めから知っているように書かれている内容だった。お前はこれを出版したのは数十年前だと言った。しかし"ハナ"が世に渡ったのはつい2年ほど前だ。何故お前はこのように未来を予測できたんだ?」


確かにその通りだ。
何故『L』はこれからの世界のことを予測できたのか。
メンバーもそのことに気づいてから急いで『L』を見やる。
すると『L』は厳しい表情を作って本をパタンと閉じた。空気が揺れ動いた中でゆっくりと答えた。


「身内に最も危険な奴がいるからだ」

「……!」


身内に危険な奴?
エキセントリック一族の誰かのことか?

『L』は目を閉じてからも言葉を続ける。


「大分前から"彼女"は世界の笑いを気に入ってなかった。オレはそのことに気づいて急いで本を完成させたんだ。だけど盲点だった」


笑いに関係するものは"ハナ"だ。
『L』は身内の誰かが"ハナ"を作成している現場でも見たのであろうか。

咄嗟に『L』は目を覆った。


「狙われているピンカースに早々と忠告しようと本を置いたのはいいものの、気づくのが遅かった。ピンカースにはインキーを読める人間なんていない…!」


本当に盲点である。
せっかく情報を本に詰め込んだのに、読める者がいなければ意味が無い。
『L』の努力は泡に終わってしまったのだ。


「でもまあ、お前らが持ってくれてるなら安心だ」


そう言ってから『L』は目を解放して微笑を見せた。よく笑う男である。
自分らの敵であるエキセントリック一族の一人であるというのに。

続いてまたソングが本の内容について訊ねようとしたとき、あっと『L』の声が聞こえてきた。
何かに気づいたような声だったので全員して『L』を見たが、目線は誰にも合っていなかった。
『L』は空に向かって声をかけていた。


「お前は誰だ?」


誰に言っているものか分からなかった。
辺りを見渡してみても自分ら以外の影は見当たらない。一体誰に問いかけているのか。
メンバーがあちらこちらに目線を動かしている中で『L』は一点集中でとある場所を見ている。

それはソングの真横。


「……へえ、そうか。お前、魔物に殺されてしまったのか」


全員の心臓が飛び跳ねた。その中で最も飛び跳ねたのはソングであった。
『L』の目線はやはり変わらない。


「つらい目にあったな。苦しかっただろ?……あ、そうなのか。ずっと一緒だったから幸せだって?」

「おい、お前は一体誰と話しているんだ?」


話し相手が凄く身近な人物ではないかと悟りソングが恐る恐る訊ねる。
するとそれは的中した。


「『メロディ』って彼女は言ってるな。可愛い名前だ」

「……はあ?」


今までにないほどの裏返った声だ。『L』の解答にソングは拍子抜け、メンバーは唖然とした。
『L』は続ける。ソングに、いや、メロディに近づきながら。


「可愛い子だな。結構オレ好みのタイプだ」

「ちょ、待てよ。お前冗談言うな」

「はっはっは。これは失敬。彼女はお前のものだもんな。横取りは悪いよな」

「いや、そういう意味じゃなくて」


ソングは言い切った。


「メロディがここにいる、ということについてだ」

「『あはは、私はずっとソングの側にいるよ』って彼女が言ってるけど」


ソングは絶句した。
なので『L』が休まず言葉を入れた。


「お前の彼女は死んでからずっとお前の側にいた。どんなときでもずっと、だ」

「……!」

「お前が恋しく彼女を思い出している時だって、彼女は側にいてくれていたんだ」

「…メロディが……」

「そうだ。あんな死に方をした上、Vちゃんの邪悪な力によって埋葬された姿で一度だけ蘇った。そのおかげでこの様さ。成仏できずにずっとお前についていたんだ。一種の背後霊ってやつだな」


信じられなくて、本当に信じられなくて、
だけれど信じたくて、心から信じたくて、ソングは『L』が見ている場所を見た。
自分の真横を見た。

そして、透明な彼女もソングを見た。


「メロディが、ずっと…」

「お前が毎晩泣いていたことも彼女は知っていたぞ。恥ずかしいとこ見られたな」

「……そっか…お前はどんなときでも俺の側にいてくれてたんだな…」

「『ずっといたよ。私のために泣いてくれてありがとう』って」

「何言ってんだ。お前のために泣いてたんじゃねえよ。自分の弱さに泣いてたんだ」


『L』を通してであるがソングは彼女と会話していた。見えない彼女を相手に。
それなので涙もろいチョコは無論号泣していた。メンバーも一歩下がって、ソングの邪魔をしないようにする。


「クソ、目の前にメロディがいるというのに、結局は見えないのか」


相手は幽霊だ。彼女が幽霊になって自分の側にいる。
それなのに見えない相手。言われるまでずっと気づかなかった相手。何て儚いものなのだろう。

すると『L』が嬉しい情報を持ち出した。


「なら、見えるようにしてやろうか?」


『L』は手を差し伸べて、幽霊のメロディの手を掬う。
その姿はまるで異国の王子様が姫様にダンスを申し込むような、そんな礼儀正しい姿勢であった。

そんな『L』が言った。
報われない二人に笑顔を渡した。


「オレがメロディさんを生き返らせてやるよ」


ソングどころがその場にいたメンバー全員の心が躍った。
本当に嬉しい情報であった。死んだ者が生き返るというのだから。

しかしソングは首を振った。


「お前を信用できない。ドラ猫を中途半端な姿で蘇らせる奴だ。メロディも違う形になってもらっては困る」

「お前、勘違いしてないか?」


『L』の目は真剣そのもの。
その目は周りの風を動かせるほどの力があるものであった。


「あれは数百年前のオレがしたものであり今では完璧に蘇らせることが出来る。あとメロディさんはちゃんとした姿を維持したままだ。ただ実体が無いだけのもの。人間が透明になったって感じだ。だから完全に蘇らせることが出来る」

「中途半端な形では」

「絶対にありえない」


断言の言葉。そして勇気付けられる言葉。
『L』の真剣な目を見ても分かる。これは本当だ。信用できる。誰もがそう思った。
そしてソングも思った。
自然と目が潤んだが、顔を振って涙を引かせて、『L』と向き合う。


「お前を信じてもいいんだな?」

「ああ、信じてくれ」

「メロディが生き返るんだな」

「そうだ」

「………」

「だけど」


ソングが決心した刹那、突然『L』が前言を覆す接続詞を持ってきた。
だけれど『L』は目で微笑を見せていた。


「条件があるんだ」


やはり簡単には生き返らせてくれないようだ。
条件の存在を知り思わず心苦しくなったが、今はそんなのどうでもいい。
彼女が蘇る、そのことが分かったのだから用件なんかなんでも聞ける。

心に火がついたソングに向けて、そんな彼の後ろにいるメンバーに向けて、『L』は一つ、大きな条件を付け足した。



「世界を救ってくれ」



また風が吹き、場を歪めた。
軽いものは全てはためき、場は左から右へと流れていく。
しかしメンバーの心だけは流れることはなかった。


「オレの一族のせいでおかしくなってしまった世界を救ってくれ。もしそれが出来たら彼女を生き返らせてやる」

「そんな容易な条件でいいんだな?」

「容易?お前も面白いこと言うな」


口先で笑う『L』であるがソングも同じように笑っていた。
お互い目を真剣に向き合い、この契約にサインを結ぶ。


「わかった。引き受けよう。メロディのためなら何でも出来る」

「言ってくれると思った」


たった一度だけの言葉の行き通い、その後ソングは『L』に何も言わなかった。
自分の真横をじっと見て、見えない彼女を見ているようだ。

そのため、代わりにメンバー全員が『L』の元へ行き、今の気持ちを伝えた。


「本当にありがとうございます!今までずっとソングは彼女の死に対して悲しんでいたんだよ」

「せやけどあんたがワイのときのように生き返らせてくれるといった。ワイらはそれを信じるで」

「Lさん素敵ー!!結婚してー!キャー言っちゃったー!」

「L!その言葉、絶対に忘れるなよ!俺ら、真剣なんだぜ。絶対に世界を救ってみせるからな!」

「凡はいいとして、メロディさんのために一肌脱ごうかしらね」


メンバー全員の気持ちを聞き、『L』は自然に目を細めた。


「ラフメーカー、いい魂の塊だな」


そして


「絶対に約束する。世界を救ってくれたら必ず彼女を生き返らせる。オレも応援してるからな」


頑張れよ。の一言がメンバーの心に響いた直後、『L』はその場に吹く風と共に消えた。
彼が持っていた本が風の抵抗も無く垂直に地面に寝転がる。
暫くの間、メンバーは場を動かず『L』を掻き消した風に煽られていた。



甦生。
その言葉は非常に嬉しい二文字である。死んだものを生き返らせると言う意味の文字なのだから。
しかしそれは現実には実現しない文字である。
何故なら死んだ者を生き返らせる術が無いのだから。
しかし現にここにその二文字によって蘇ったものがいる。それはトーフ。
その二文字を操る魔術師がトーフを生き返らせた。そして今度はメロディを生き返らせるという。
人を不幸にする魔術が苦手な代わり人を幸せにすることが得意な魔術師。
必ずやメンバーに幸福を運ぶことであろう。


透明なものは見ることも触ることも出来ない。
だから表情をうかがうことも出来ないし、温もりも感じ取れない。手もつなげない。昔のように喧嘩も出来ない。
全てが一方通行。
だけれどそれでもいい。彼女が側にいてくれているのなら。
ずっとずっと、成仏せずに彼の側にいてくれた彼女の存在、彼は嬉しかった。
これからもずっと自分の側にいてくれると考えると心が温まる。
そう思ったけれども、

それだけでは幸せは足りない。
せめてはこの手で彼女を受け止めたい。そしたら心が満たされる。全てが温まる。彼女の心もだ。
彼女がここにいるのならば絶対に手に入れたい。
そう思ったから………


「待ってろよメロディ。必ずお前を幸せにするからな」


周りにメンバーがいるとも関わらずソングは今の気持ちを告げた。
それは愛しの彼女に向けて。

その意思だけは風に煽られることなく真っ直ぐに貫き、彼女に涙を誘う。



彼が歌う優しい恋のメロディ。








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世界を救ったらメロディが生き返る…!

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