「うちのオンプが迷惑かけたようで、悪かったな」


風に飛ばされた茶色の布はメンバーの前で寝転んでいる。
その布を取りにきた『智』という男はメンバーの存在に気づくと、オンプの代わりに深く頭を下げた。
すると急いでオンプもやってきた。


「智さん!あなたが頭を下げる必要は全くないですよ!見苦しいから止めてください!」


先ほどとはまるで別人のようなオンプ、口調が全く変わってしまっている。
そんなオンプの注意を受けて智は苦々しい表情を作った。


「見苦しいって言い方は失礼だな…。お前の代わりに頭を下げてたのに」

「何で頭を下げるんですか!」


ほぼ怒鳴りに近い声を上げたオンプを智が一言で抑える。


「お前の行動が間違っているからだ」

「……!私は憎き兄上を始末したかっただけですが…」

「前から言ってただろ?お前の兄貴さんだけは絶対に手を出すなって」

「……」

「…あ、あのぉ…」


生徒を叱る先生のように上から言葉を押し付ける智の横にはオドオドした様子の男がいた。
『恩』と呼ばれた男は胸にタヌキのぬいぐるみを抱いている。キュッと軽く抱きしめて言葉を繋げた。


「僕たちの…その…突然の登場に…みんなが、唖然としてるよ…」

「えっ」


恩に言われ智は目線を奥に持っていき視野を広げた。
するとそこには、言葉の通り唖然と口を半開きにしているメンバーの姿があった。
あまりにも惚けた顔になっているので智は笑って返した。


「悪い悪い!絶滅したはずのクルーエルがこんなにたくさんいるんだから誰だって驚くよな!」

「クルーエル?やっぱりあんたらもクルーエルなんか?」


明るく振舞う智に向けてトーフが訊ねると「無論だ」とオンプが篭った声で答えた。そのまま説教に持っていかれる。


「お前ら、智さんに向かって何たる無礼な言葉遣いを…!智さんはクルーエル一族『智』属の長なのだぞ」

「智属?」

「オンプ、そんなこと言っても他の人間には通じないよ。世間に知られているクルーエルっていうのはみんな『悪』の奴らなんだから」


また智に止められてオンプは目だけで俯きを見せる。
オンプが気になる発言をしたので、トーフが深く追究に図った。


「『智』属とか何やねん?属…ちゅうことやからいくつかに別れとるんか?」


すると「正解」と複数の混じった声が返ってきた。

先ほどオンプに倒されそうになっていたソングもメンバーと並ぶ。
脇腹からは重たい血が湧き出ているが重傷でもないようで後からでも十分に治せるようである。暫くすればすぐにでも血は止まるであろう。
目の当たりを強く顰め、ソングは自分が知っているクルーエルの情報を搾り出した。


「世間で知られている情報ではクルーエルは残酷な4つの属で成り立っている、ということだが」

「…やっぱりね。どうしてあいつらの方が世間に知られちゃうのかしら。私たちだって裏からだけど世界のために力を注いでいたのに」

「まあ、今のクルーエルといえばまさにその4つの属で成り立っているようなものだからな、仕方ないよ」


クルーエルの二人が勝手に話を進めていくためソングは口を開くタイミングを見失ってしまったが、メンバー全員がもう少し詳しくクルーエルについて知っていた。

ソングがもらった本に載っていた。
クルーエル一族には7つの属がある。そのうちの4つの属が世間に知られているもので『悪』の属であるが、残りの3つは世界に力を注ごうとした『善』の属であること。
ソングはその3つの善なる属を世間に知らせたいためにエキセントリック一族を倒そうと心に決めたのだ。

そしてその3つの善なる属が今目の前にそろっている。


風が吹くたび銀髪が靡く。智族の長がメンバーに向けて軽くお辞儀をして名を告げた。


「少し言うのが遅れたな。俺は、是非善悪を弁別する属である『智』属の長、『バス・C・ブラッド』だ」


周りからは智(とも)と呼ばれていると付け加えて、隣りの彼女にバトンタッチした。
波の掛かった銀髪をかきあげて『幸』と呼ばれた彼女は眼鏡をくいっとあげた。


「私は、幸いをもたらす属、『幸』属の長の『ヴィオラ・C・ブラッド』よ」


幸(みゆき)と名乗って目だけでお辞儀をする。
最後はぬいぐるみを抱いている怯えた様子の彼が名乗った。


「え…えっと…あの………」

「恩くん。さっさとしないとぶっ刺すわよ」


幸に脅され、高速で自己紹介が行われた。


「僕は全てのものを愛しむ属『恩』属の長をしています『チェロ・C・ブラッド』です」


一息で紹介したため少し息が荒くなっている。そんな彼は周りから恩(めぐむ)と呼ばれているようだ。
そして胸の中にいるタヌキのぬいぐるみをギュッと抱き、彼のことも紹介した。


「このぬいぐるみは僕の友達の『たぬ〜』です」

「「え!たぬ〜!?」」


「お前の友達はぬいぐるみなのかよ!」というツッコミが出るのが普通だが、メンバーはそれよりも突っ込みたいことがあった。
それはクモマに向けて。


「「クモマ、お前…!」」

「いや、皆して僕を見ないでよ!どう見てもあれはタヌキのぬいぐるみだろう?僕はクモマだよ!」


ブチョウが呼んでいるあだ名とぬいぐるみの名前が偶然にも同じであったので全員は動揺を隠せずにいた。


「いや!そんなことで動揺なんか見せないでよ!」

「やっぱりあんた、タヌキだったのね」

「誤解を招くようなことを言わないで!僕は人間だから!」

「言われてみれば確かにぬいぐるみと瓜二つや…」

「瓜二つ?!相手はタヌキのぬいぐるみだよ?!」

「どっちがクモマなのかわからなくなっちまったぜ!」

「そこまで似ていないだろう?!よく見てみればわかるじゃないか!ってか人間かぬいぐるみかで見分けよ!」

「…クモマ?」

「いや!それはぬいぐるみの方だよ!」

「たぬ〜!!」

「ぎゃあ!すみません恩さん!僕はたぬ〜じゃなくてクモマです!!」


あまりにも似ているのでぬいぐるみのたぬ〜と人間のたぬ〜の区別がつかなくなってしまったメンバーと恩。
恩はクモマを抱き上げてしまうほどすっかり間違っている。


「いい迷惑だよ!」



大混乱が起こっている背景では、智と幸がオンプに向けて少しばかり説教のようなことをしていた。
オンプは地面を睨んで二人の言葉を聞き入れている。


「『智』属の前属長はお前の親父さんだったし俺も彼の死はとても悲痛なものだった。だけど前属長は最期に立派なことを成し遂げてる」

「そうよ。絶体絶命のクルーエルを救うチャンスをここに置いてるじゃないの。…まぁ、その要って奴があんな小生意気そうな顔している奴だし、信用は出来ないけど奴を信じるしか私たちの未来がないのよ」


眼鏡のレンズを合わせて幸はソングに目線を持っていく。
あいつが一族の要だと思うと何とも複雑な気持ちになるが、奴だけがアレを受けていない。


「俺らはタトゥに呪いを受けている以上、奴らに手を出せないし、身勝手な行動も出来ない。しかしそんなクルーエルの中でもお前の兄貴さんだけが呪いを受けていない。だからそれに希望をかけるしかないんだ」


そう、ソングは呪いを受ける前に他の大陸に渡っていたので呪いを受けないで済んだのである。
だからエキセントリック一族の傀儡になっていない。
それにクルーエル一族3属長は希望をかけ、クルーエルを救ってもらおうと思っているのだ。

そのため、ソングを倒そうとしていたオンプを叱っているのである。
上から降ってくる言葉に徐々に頭を垂らしながらもオンプは全てを聞き入れ、反省の色を浮かべる。


「…期待を裏切るようなことをしてしまいました、申し訳ございません」


恨むべき兄に怨みの手を向けられないことに対してオンプは悲しんでいたが、それを和ます温かみを肩に感じた。
智がオンプの肩を抱いているのだ。


「大丈夫。そう悲しむなって。俺らがこんな風になってしまっているのも全てエキセンのせいなんだから」

「…」

「あと『悪』を貫き通す4属の問題もあるな」

「全くよね。あいつらさえいなければクルーエルだってまともな目で見られただろうに…。本当、腹立たしい連中だわ」

「お、落ち着けって幸。お前が怒るといろんな意味で怖いから」


幸が懐に手を突っ込んでいることに気づき、急いで智が宥めた。
それから智はオンプの顔を覗きこむ。


「まあ、お前の兄貴さんに頼んで、クルーエルを救ってもらうように頼んでみよう。な、そうしないと俺らの未来は一生暗いままだ」

「…」

「仕打ちはクルーエルと世界に平和が戻ってきたときにすればいい…って、そんなことは一生しないほうがいいけどな」


前言を覆すようにまた急いで口を挟む智。少々彼は陽気であるが考えはきちんと出来ている。
だから属長を務めているのだろう。まだメンバーと同じぐらいに若いのに。

オンプは黙り込んだままであるが頷いて承諾した。そのときに大混乱を起こしていたメンバーもやってきた。
ようやく恩の腕から逃げられたようでクモマはグッタリとしているが。

せっかくクルーエル一族がいるのだ。聞きたいことが山ほどある。
そのためすぐさまチョコが頼み込みに走った。


「ねえお兄さんたちーお願いー!いろいろ話を聞かせてー」


すると眼鏡をくいっとあげた幸が鋭く目を細めた。


「それが人に頼み込むときの礼儀かしら?私たちをなめているわけ?」


教育母のような幸は怖ろしいほど目が据わっている。
チョコは口を噤み、代わりにブチョウが前に出た。
しかし仁王立ちをしてすぐに引っ込んでいった。


「何しに出たのこの人?!」


思わず智が突っ込んだ。
落ち着いて、と恩に背中を叩かれ、そのまま恩がペースを持っていく。


「僕たちは…その…智属の前属長が置いた要…の、様子…を見に来たんだから…その…えっと…」

「もういいわ。あんたは引っ込んでなさい。見ていて邪魔くさいわ」


何度も言葉が突っかかる恩を抑えて結局は幸が結論を出すはめになった。
恩は邪魔くさいと言われたことに怒りを燈したらしく、陰に隠れてぬいぐるみのたぬ〜の腹を勢いよく殴っている。
そのことを知っているのはその陰に一番違い場所にいたクモマだけであった。
あのまま恩に捕まっていたらあの腹の鉄拳は自分に向けられていたのだろうかと思うと、殴られていないのに腹が痛くなった。

ドスドスと陰から聞こえてくる音に怯えながらクモマが幸を促した。


「それじゃあ、クルーエルについて教えてください。お願いします」


すると言葉遣いがきちんと出来ていたクモマに幸はふっと笑みを零した。
厳しい人でも自分の思う通りになると笑みを浮かべることができる。
今まで眉を寄せている姿しか見ていなかったが、改めて幸を見ると、とても美しい人だということに気づいた。

それはいいとして、クモマのお願いに幸が承諾した。


「そうね。クルーエルについてまず何を話せばいいかしら」

「7つの属について話せば?」

「うっさいわね。今からそれについて語ろうとしてたのよ!口を挟まないでちょうだい」

「………恩、俺も混ぜてくれ」


クルーエルの男属長2人が黙り込んだところで女属長の幸がクルーエルの7つの属についてゆっくりと物語りはじめた。
メンバーの目を見て話す仕草は、全てを詰め込もうという表れ。


「クルーエルには大きく7つの属があって、それらは『善』と『悪』に別れてるわ。あなたたちが知っているクルーエルは『悪』の4属だと思うけど」

「そやな。4つの属の存在しか世間には知らされてなかったで」

「だけどよーその属の名前とか全く知らないぜ!」


割り込んできたサコツの言葉に幸は眉を寄せて、馬鹿を見るような目を作った。
そのぐらい知ってろよと目だけで訴えられるが、サコツを始めメンバー全員が知らないことであった。
仕方なく、幸は初歩的なことまで語る。


「悪の4属は『戦(いくさ)』『威(おどし)』『惨(ざん)』『猛(たける)』。こいつらは名前の通り全員が最悪な奴らよ。クルーエルの大半がこのどれかの属に所属しているわ」

「幸、勝手ながら口を挟むぞ」


忠告してから智が言葉を補充し出す。
何か文句を言いたそうな顔をしていた幸であるが、既に智が語っていたので入る隙がなかった。
智がより詳しく言葉を入れる。


「属にはそれぞれ意味がある。自分に合った属を選び入会するんだ。クルーエルは血の気が多い奴らばかりだから、幸の言ったとおり大半の奴らが悪の4属のどれにか入っている」

「『戦』は戦いに全てをかけている属。『威』は力ずくで相手を威している卑怯な連中の属。『惨』は字の通り惨酷なことを平気で出来る属。そして『猛』は激しく暴れる狂った属」

「…どうしてみんな、その…そういうのが好きなんだろうねぇ……」


たぬ〜の腹を叩いて気持ちを晴らした恩も陰から光に戻ってきて、話に参戦する。
結局はクルーエル3属長全員で語ることになった。

メンバーが今話された内容について理解したときに、また新たな情報を付け加えられる。


「その悪の属に常に対立していた善の属は『智(とも)』『幸(みゆき)』『恩(めぐむ)』の3属。つまり俺らのことだな」

「なかなか私たちの属に配属してくれる人がいなくてこの通り知名度の薄い属になってるのよ。全くどいつもこいつも」

「…む、向こうより…こっちの方が、全然…えっと…安全だと思うんだけど…ねぇ」


今にも怒りが噴出そうな幸に怯えながら恩がそのままメンバーに言った。


「とくにね…その、智くんの属は脱走者が多いんだよ」

「え?そうなの?」

「智くんっ…て、その、相手がどんなに悪い奴だろうとも関係なく突っ走っちゃうから…ね、皆がついて来れないようなんだよ」

「し、失礼しちゃうな!俺は俺の意見を貫き通してるだけだぞ!…確かにさっきはオンプが脱走したし、前ぇにシャープも脱走したけど」

「あんたの無駄な熱血具合がみんな気に喰わないのよ。あんたもそろそろ気づきなさいよ馬鹿」

「……幸の一言は本当に心深く刺さるな」

「褒め言葉として受け取るわ」

「本人がそう喜んでくれるならそれでいいや」


この3人が世界のために力を注ごうとしていた3属の属長。
全員が個性溢れているが根は優しい奴らだと思える。

このように笑えているのだから。

優しく笑える人は心が澄んでいる証拠。
この3人こそがクルーエルを裏から支えていた奴らであり、ソングが救いたいと願っていた奴らである。

狂ってしまったクルーエルの自由を取り返すために、奴らは呪いに苦しみながらも今、
ここに逞しく、立ちはだかっている。








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智と幸と恩は私の脚本「我ら探偵部!!」にて登場した個性派連中です。
まあ本名はご覧お通り全く違いますが、属の名前として奴らが使われております。

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