鉄の鎖を片手に掲げ、違反者を捕らえる正義の役柄。


52.ポリスの村


日ごろからお世話になっている車、ウミガメ号。
しかし残念なことにウミガメ号には大変大きなひびが入っていた。
そのひびを見てソングはガックシと膝を突いた。


「…なぜ、お前はこんなにももろいんだ…」


やっとのことでこの前ウミガメ号を修正したのに、もうこのありさま。力が抜ける。
大きなひびというのは、箱の真ん中の部分に線が水平に入っていることを指している。
真ん中の部分といえば、最も使う場所である。
そう、メンバーが座るための場だ。そこが破損してしまっているわけだ。
もう一度強い衝撃が与えられたならばこの車は確実にバラバラに粉砕しかねない。
そういうことでメンバーは車から出て一先ず休憩をとっている。
ソングだけが中に入ってひびの観察。しかし悲しい現実が見えるだけであった。


「ソング、どないした?」

「直せそうにないのかい?」


手先が器用なばかりにこういう面では扱き使われてしまう。
そんなソングは車の中で大きく首を垂らすと、力なくこう言い返した。


「塞ぎようがない深い傷だ。俺でも直せるかどうか…」

「そう…」

「…しかし、思ったんだが」


ここでソングは愚痴を零した。


「何故俺がこれを修正しなければならないんだ?俺は理容専門だぞ!大工はてめえだろが!」


この愚痴は自分に向けられているものだと気づき、クモマがうっと苦い表情を作った。


「仕方ないだろう?僕は不器用なんだ。だ、だけど、この車だって僕が初めて完成させたものなんだよ」

「何言ってんだ!ほぼ全部、俺が修正したんだろが!!当時のこの車は見ていて悲痛を感じるものだったじゃねえか!」

「そんな!ひどいなぁ!僕だって頑張って作ったんだよ!」

「あんなの、そこら辺にある箱にタイヤくっつければ作れるもんだろ!」


車の中と外でいい争いが繰り広げられている背景には、悲惨な姿のウミガメ号を見て首をかしげているサコツの姿があった。


「何でウミガメ号がボロボロになってんだぁ?」


それに答えたのはチョコ。


「この前私たちがヒーローになった村があったじゃない。そのときに私たちってば崖から落ちちゃったでしょ?そのときの衝撃でひびが入っちゃったみたいなの」


前回の村の訪れ方、それは崖から落ちた先がちょうど村であったと言うもの。
只でさえボロくて寿命かなと思っていた車が崖から落ちたのだ。これは目に見えた結果であろう。
しかし、崖から落ちてひびだけが入るというのもなかなか難であろう。


「そっかー。んじゃ、ウミガメ号はもう走れないのか?」


不吉な言葉が流れた刹那、チョコが怯えた表情を見せて叫んだ。


「えええ!いやよー!私この車好きだもん!」

「だよなー俺もエリザベスが運ぶこの車が好きだもんよー」


そういうわけで


「「ソング、ファイト」」


ぐっと親指立てて応援しだす二人に続いてブチョウも言った。


「こんな面倒な仕事は召使いがやるのにちょうどいいわよ」

「ふざけんな!誰がこんなの担うか!俺に全てを押し付けようとすんな!」


今回も車の修理を頑張ってくれ、と視線が飛んでくるので文句つけようとソングが車から顔を出した。
そして足を地面につけたところでトーフが尋ねる。


「せやけど直さんと旅が出来へんで」

「めんどくせえ。お前らで直せよ」

「うーん、直してあげたいのは山々だけど、僕が手を出したら車が壊れちゃうよ?」

「全くだぜ!だから頑張って直してくれよソング!」

「頑張ってー!」


全員でソングを煽るのだが奴は動いてくれない。そっぽを向いてそのまま歩き出してしまった。
車を置き去りにする気か!と危険を察し、動きの速いチョコが彼を捕まえた。


「待って待ってー!お願いだから置いていかないでよ!」

「ならばその車を次の村まで運んで専門家に直してもらうしかないな」

「え?お金も無いのに直してもらえるのかい?」

「………」


盲点だった。
しかしソングは言い放った。


「とにかく、今の状況ではあの車は6人で乗ることも出来ない。どっちにしろ車を運ばなければならない」

「…頑張ろうか」


中に入ってひびの様子を見たソングが下した決断だ。彼に従うしか他が無かった。
だからエリザベスと田吾作と一緒になってクモマが車を引き、残りのメンバーは仲良く並んで次の村へ向かうのであった。



+ + +



やっとのことで村に着き、全員でその場に倒れこんだ。
車を引いていたクモマも到着し、豚と一緒に地面に大の字を描く。


「あぁーやっぱり歩きは疲れるね」


全員が大きく息づきしているのが聞こえる。
ここまで結構な距離があったので相当な疲れが生じられたのだ。
うつ伏せになっているトーフも呻く。


「ワイは皆と大幅に歩く歩数が多いからホンマ疲れたわぁ」

「それだったら僕も同じだよ。皆が一歩目の足を踏み出したとき僕は二歩目の足を出しているんだもん」


クモマ、悲しいことを言わないで。


「とにかく、こんなところにいたら不審者に思われる。人の出入りの少ない場所に移すか」


今メンバーは村門の前で倒れている。
これは確かに通行の邪魔になる。ソングの言うとおり、道をずらした方が良さそうだ。
そのため全員が腰を何とかあげた。


「「よっこらせぇあー」」

「もう少し静かに立ち上がれよ?!」


腰を上げるときによく作者が口走る謎の言葉を上げ、メンバーが地面から体を離す。
体に付着した土を払い落とし元の状態に戻すと、車を移動させるために動く。
が、そのときに気づいた。


「…ひび、大きくなってない?」


ふと漏れたクモマの言葉により一瞬嫌な空気が生まれた。
それから言葉を理解した者から順に車の元へ駆けつける。
するとクモマの言うとおりで、車の傷が深まっている光景が見られた。


「……もう寿命か」

「マジでかよー俺やだぜー!どうにかして直そうぜー」

「やっぱり専門家の人に治してもらったほうがいいかなぁ」

「でもお金あるの〜?」

「1Hもないで」

「希望に満ちた己の心ならあるわ」

「それは不必要だ。己の胸の中に仕舞っとけ」

「どうしようか」

「「うーん」」


大きく体を傾け大げさに唸っているときであった。
背後から聞こえる声に気づいたのは。

それはこちらに声をかけている。


「どうなさいましたか?」


全員がそちらに顔を向け、相手と向き合うと、相手は藍色一色の服に包まれた警官であることに気づいた。
相手が嬉しい住民だったのでトーフは早速助けの手を求めた。


「お願いがあるんや。ワイらの車がこのようにボロボロになってしもうてなぁ」

「全くだぜ!だから助けてほしいんだけどよー」

「だけどお金は持っていないんです」

「色気と置物ならあるんだけどねー」

「希望に満ちた己の心もあるわよ」

「専門家の家を教えてくれるだけでいい。道案内してくれないか?」


金欠だけどボロボロになっている車を助けたいメンバーはとにかく助けを求める。
相手は心優しいと全国から評価を得ている警官。困っている住民のことを放っておくことが出来ないはずだ。
そのため、警官は笑顔でこう返した。


「相手は年上なのに、敬語も使わないとはいい度胸だ」


しかし、表情とは裏腹の言葉を出していた。
思わずメンバーの目は点。


「え?」

「金欠なのに助けの手を求めるなんてことも法律に反している。お前らは大きな罪を今背負った」

「「は?」」


何を言っているんだこの警官。
混乱しすぎてマヌケた顔になる。
その中でトーフが再度口を開いた。


「あのなぁ、ワイらはホンマ困ってんで。大きな罪とか意味わからん。被害者なんはこっちなんやで。加害者になったつもりは」

「"非敬語"及び"金欠"の罪でお前らを逮捕する!」


トーフの言葉を退けて警官は勢いよく叫んだ。
それは村中に響き、伴ってわんわんと響く警報。

危険を悟る。


「「はあ?!」」

「逮捕するー!!」


刹那、場が大きく歪んだ。
赤いサイレンが村を点滅させ、湧き出る湧き出る無数の警官。
驚いた。この村の住民は皆警官であったのか。

警棒やムチや銃を持った警官が憤りながらやってくる。

無論、メンバーも逃げた。


「「意味分からねー!!」」

「「逮捕逮捕ー!」」


メンバーは走った。自分らの後を追ってくる無数の警官から。
怪力を誇るクモマはボロボロのウミガメ号を引いて、サコツは愛しのエリザベスを抱いて走る。
田吾作はソングの後を懸命に追った。


「ついてくるなカビ豚!!」

「"カビ色豚の持込"の罪で逮捕するー!」


また新たな罪を着せられた。


「好きで持ち込んできてんじゃねえよ!」


否定の声を上げている最中、ソングの言葉が噤む。


「…っ!こんな些細なことで銃を撃つバカがいるか?」


パンと軽い音が鳴り、ソングが辿る経路が小さな穴の列となったのである。
巣に戻るアリの列のように途切れることなく続く穴は、ソングの足を狙ってくるがソングは上手い具合に避けた。
しかし、その後ろを走っていた田吾作が悲鳴を上げていた。


「ブビー!」

「…?!」


田吾作の悲鳴が気になり、振り向くと田吾作の体の一部が赤く染まっていた。
流れ弾が掠ってしまったのだろう。
大きく舌を打つ。


「ふざけてるな。罪のない者を傷つけて、それが警官か?」


今にも倒れそうになっている田吾作。それは狙いの的だ。
警官は田吾作に向けて銃を放つ。
銀が横切った。


「おいタヌキ!あとでこいつの治療しろよ!」


ソングが間一髪で田吾作を掬い上げ、弾から逃れたのだ。
ソングの腕に抱かれ、田吾作は腕を握る。


「もちろんだよ!」


ソングの頼みに承諾し、クモマは続ける。


「田吾作抱きながらだと走りにくいだろう?この車の中に乗せて」


無言で頷いてソングはウミガメ号を大げさに引きずっているクモマの元へ近づいた。
しかし、それを遮るサコツの悲鳴。


「っ!やべーぜ…!お前ら、危ないぜ!」


直後、サコツがソングを退けた。
そこを貫く鉛弾。


「「…!」」


銀色で目立つソングはこういうときに狙いを定められるようだ。
それを狙って放たれた弾はクモマとソングの間をすり抜け、手前の建物を星型に破る。
ソングがサコツによって少し奥へ引かれたのがこの結果を生み出した。
服を掴まれバランス崩しそうになっているソングであるがサコツに助けられて、微妙な表情を作る。


「……勝手なまねしやがって…」

「お前もよー少しは素直になれよ?」


礼を述べないソングにかすかな苛立ちを感じたサコツ。
しかしその直後に鳴り響く銃砲。


「あかん。完璧にワイらは狙われてるで」


トーフが呻いた。
隣りのチョコが頷く。


「ホントホントー。これってどうなってるの?」

「私たち、大した罪は犯してないと思うけど。…まさか奴らはクマさんを狙って?」

「それはありえへんな」


軽くトーフが突っ込んでから、彼は全員で命令を下す。


「固まってたらやつらの狙いの的や!ここは皆でバラバラになろうで!」


それに全員が頷いて承諾し、瞬間、花火のように全員が四方八方に散った。
…のだが、


「こっちは僕が走る道だよ!二人は向こう行ってよ!」

「何言ってんだぁ?真っ直ぐに走るのが俺の道だぜ」

「ざけんな。てめえら向こう行け。これじゃあ散った意味が全くないじゃねえか」


男3人組だけは何故か一つに固まったまま。


「ウミガメ号を引いている僕が一番走るのが難なんだよ!直線の道ぐらい譲ってよ!」

「真っ直ぐ走るのが俺の道だぜ?ほら、エリザベスも真っ直ぐ走りたいって言ってるぜ」

「ウソつくな!面倒だから真っ直ぐ走りたいだけだろ!」


「「"くだらないことでの争い"の罪で逮捕するー!」」


3つの影はバラバラになり、残りの3つ影は固まって、
メンバーは4つに別れて血の気の多い警官たちから逃げていくのであった。











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