ふみ行うべき道を正しく歩むこと、漢字二字で『正義』と書く。


50.ヒーローの村


「我ながら立派な出来だ」


恋する乙女のバカンスチョップにより綺麗に避けてしまったウミガメ号のシートは、今ソングの手によって再び蘇る。
どこが補修されたところなのか、それも分からないぐらいに見事な完治具合、それには直した本人も満足している様子だ。
手に顎を乗せているその姿は鑑定人のよう。


「これで雨からも凌ぐことが出来て、前のように周りから怪訝な目で見られなくて済む」


前回の村に訪れる前にシートが破られ、その間までずっと車から体がむき出しになっている状態で走行していたこの車。
実はこれで前回はレースに出てしまったのである。
しかし意外にもそのむき出し具合が役に立ち、木を倒したり相手の車を転ばしたりとした。
ところが、"恥ずかしい"には変わりなかった。

それから数日が経った今、やっと直るときが来た。
ずっと中身がオープンされていた箱に蓋をして、プライバシーを保護する。


「よし、次は中に入って車の中を整理するか」


何気に家庭的なソングはそう呟くと車の後部のシートに設置されてある出入り口にもぐりこみ、汚くなっている車内の片づけをし始めた。


ソングが完全なる姿で輝くウミガメ号に満足を得ているとき、外にいるトーフは読書をしていた。
どこから手に入れたのだろうか、絵本を広げてトーフは暇を潰している。


「ええなぁーかっこええなぁー」


ページを開くたび感嘆するトーフに身を乗り出すのは先ほどまで雲の流れを追っていたクモマ。
背後から絵本を覗き込み、トーフの心情を探る。


「どうしたんだい?何かすごいことでも書いてあったのかい?」


真上から聞こえてきたクモマに向けてトーフは顔を上げて答えた。


「めさんこかっこええで!クモマも見てみぃ?」

「どれどれ?」


小さな指が絵本の世界を指差す。
目を輝かせているトーフを見て微笑ましさを感じたクモマであったが、絵本の中身を見た瞬間、彼もトーフと同じような目になっていた。

それは憧れに瞬く輝き。


「いいね。僕も幼い頃に憧れたものだよ」

「お?なんだなんだぁ?俺に憧れてたのか?照れるぜー」

「ちゃう!あんたじゃないで!」


二人の感嘆の声に駆けつけて今度はサコツがやってきた。
勘違いしているサコツに念を押してからトーフが言った。


「これ、見てみぃ。正義のヒーローなんやて。めっさかっこええわぁ」


見やすいように本を立て絵本の中身を披露する。
絵本には色鮮やかな5人が獣のような敵と戦っている姿が映し出されている。
そこを小さな手でなぞってトーフは興奮する。


「正体隠すためにちゃぴーんって変身してえらい速さで戦うんやで!しかも最後はロボットを皆で操作して巨大な敵を倒すんや!ええなぁかっこええなぁ!」

「おお!すげーぜ!変身かっこいいぜ!」

「だよねぇ。"正義のヒーロー"というのがカッコいいよ」


トーフの興奮は周りにも影響を及ぼす。
興奮の渦の中、チョコが割り込んだ。


「正義のヒーロー?一体何の本を読んでいるわけ?」


戦隊モノの話には興味がないのは女の子の特徴でもある。
女の子は殴りあいが主な戦隊の話を苦手にする傾向がある。
だからチョコは興奮の渦には巻き込まれずに遠くから首を傾げるだけだった。

チョコに質問されたのでトーフが絵本を閉じて、タイトルが書いてある表紙を見せた。


「『5人戦隊ヘイワレンジャー』や」

「…平和、レンジャーねぇ」

「な?かっこええやろ?」


再び興奮を高めるトーフの気持ちが分からずチョコはやはり首を捻るのみ。
そんなチョコを見てクモマが笑みをこぼした。


「そっかぁ、女の子は戦隊モノとか見ないんだね。この本は男の子の間で結構人気があったんだよ」

「え?そうなの?私知らなかったなぁ」

「俺も知らなかったぜ!何せ俺は字が読めないからな!な〜っはっはっは!」

「ワイは本が苦手やねん。せやから今回が初の試みだったわ」


クモマが言うには、エミの村ではこの戦隊モノの絵本は人気を呼び、暫くの間、男の子は仲間5人作っては『色』のコードネームで呼び合い、日々を過ごしていたらしい。


「コードネームは『レッド』『ブルー』『イエロー』『グリーン』『ピンク』とあってね、僕は『イエロー』になった記憶があるなぁ」

「そのこーどねーむってやつは何か意味があるのか?」


懐かしむクモマに向けた質問は、車内から首を出したソングが答えていた。


「色にはそれぞれ意味がある。赤は情熱、青は冷静、黄は温厚、緑は寛容、桃は純真。人は大抵この5つの類に分けられるんだ。…まあ俺はそんなくだらない話にのらなかったから『色』なんかつけられなかったが」

「友達がいなかっただけだろ?」

「てめえ蹴られてえか?」


勢いに乗って車から着地したソングはそのままサコツを蹴りに突っ走る。
その光景を見ながらトーフは、ソングの説明に納得する。
確かに人間はその5つに分けられている気がする。
メンバーも綺麗に分かれている。…いや、1人例外がいるが。


「私は『抹茶』がいいわ」

「うん、キミは『色』の中には入らないね。確実に」


何に関しても可笑しいブチョウはまさに例外の人物。しかしそういう彼女向けの『色』がある。
それは『ブラック』。ブラックは多き謎に包まれており、何を考えているのか全くわからないような人物だ。まさしくブチョウにぴったりの役であろう。

というか、ソングは気づいた。


「何くだらない話で盛り上がってるんだ。戦隊モノとか馬鹿馬鹿しい」


子どもがするような話をしてしまったためソングは目の辺りを顰める。
確かに何でこんな話しているんだろう。とチョコもソングの意見に賛成した。

するとこの話を持ち出した元凶が口を開いた。


「馬鹿馬鹿しくないで!ええ話やないか!正義のために5人が力をあわせて戦うんやで!」

「だからどうした?別に5人じゃなくてもいいじゃねえか。大体敵一人を5人掛かって倒すなんて弱いな。そこまでして力がないのなら世界を救う義務はない」

「まあ、それなりに敵も強いんだよ。敵といえば人間ではなく化け物だからね」

「何が何だか知らねーけど、きっと俺らと正義の味方は似てるんだろうよー」


さり気なく首を突っ込んできたサコツはそのまま言葉を続けた。


「俺らも5人…じゃなくて6人だけど世界のために戦っていることには変わりないぜ?仲間同士で力あわせて一つの平和を作るなんてカッコいいぜ!」

「おーサコツいいこというね!」


サコツに感心したのはチョコだけではなかった。メンバー全員も同じであった。
自分らも世界を救うために戦っている。
考えてみれば自分らは一つのものを護ろうとして戦っている。それは世界。とてもとても大きなもの。
だから一人で背負いきれない。背負いきれないからこそ仲間と固まり大きな背中となって背負ってやるのだ。
悪い奴から逃げれるように、広い背中に乗せてあげる。これがヒーローがすること。メンバーがすること。


豚の鳴き声が響く。
そろそろ行くよ、とエリザベスと田吾作が声をかけてきたのだ。
それに応じてメンバーは車の中に入った。

狭い車の中でメンバーが定位置につくと、それを感じ取れたのか車がカタンと動き出した。
シートが張られた車の中、久々に太陽光を遮っての走行だ。
ソングがランプの火を燈し、その光を頼ってトーフはまた絵本を眺める。


「そんなに気に入ったのかい?」


真剣な眼を本に集中させるトーフに向けてクモマが笑いかけた。
トーフは応答する。


「気に入ったで!ワイらも一度こーんな登場してみたいなぁ」


また絵本に指を置くトーフ、そのページはヒーローの登場シーン。
それぞれが決め台詞を言ってポーズを構えている。

さすがにクモマも苦笑いで返した。


「それはちょっとしたくないかな…」

「え?どないして?」

「だって恥ずかしいよ」


ごもっともだ。


「ええやんええやんー!今度これやろうな!」

「ええ!どこで?」

「今度の村でや!」

「今度の村?!やめようよ!恥じかくだけだよ!魔物に馬鹿にされちゃうよ!」


クモマとトーフがあれこれ言葉を交わしている間、チョコはブチョウに質問していた。


「姐御、もう大丈夫?」

「ん?何が?胸毛?胸毛はいつも元気よ」

「いや!胸毛はどうでもいいよ!っていうか胸毛生えてないでしょ?」

「人を見た目で判断するんじゃないわよ」

「生えてるの?!」

「8の字に」

「8の字に?!複雑な生え方してるのね!」


胸毛のことは置いといて、今度はきちんと質問する。
前回話題になったフェニックスについて。


「フェニックスについて他に手掛かりはなかったの?」


するとブチョウの表情は一変した。
マヌケな顔から真剣な顔に。


「なかったわね。『不死の薬』が唯一の情報よ」

「…不死の薬…それってフェニックスの…」

「そう。胸毛よ」

「違うよ!胸毛にそんな神秘的な力があるはずないじゃん!」

「見た目で判断するんじゃないわよ」

「あるの?!神秘的な力があるの?」

「ないわよ」

「ないの?!平気な顔してウソつかないでよ!」


からかわれてチョコは泣きべそをかく。
しかしブチョウはマイペース。また話を戻してきちんと語る。


「あの不死の薬は確かに血が使われいたわ」

「…血……」

「だけどフェニックスの血かは分からない」

「…もしフェニックスのだったら…」

「それはありえないと思うわ」

「え?」


ブチョウの断言の声。チョコは目を丸めた。どうして?と問うとすぐに答えてくれた。


「フェニックスは珍しい生物なのよ。それを簡単に殺すはずがないわ。血なんて怪我するだけで出るものだしね」

「…」

「私はモノをマイナスに考えない。全てプラスに変えてみるわ。そうしないと自分を見失いそうになるから」

「姐御…」

「ポメは生きてるのよ。今どこで何をされているかは知らないけどあいつは絶対に死んでいない。きっと助けを待ってるわ。ずっとずっと」


目の色を鋭くして、ブチョウは言い切った。


「だから私があいつを解放してあげるの。そしてお互いに自由になるのよ」


それが私のずっと叶えたかった夢だから。


「………姐御…」


ブチョウの演説を聴いてチョコは知らぬ間に目に涙を溜めていた。
健気なブチョウに心が揺さ振られた。

そしてそのときに思った。
手伝ってあげよう、と。二人が自由になるという夢を叶えてあげたいから、手を差し伸べたいと思った。

気づけばメンバー全員がこの演説を聞いていたようだ。全員の顔がこちらにある。
急いで涙を拭き取った。

ラフメーカーがすること、それはズバリたくさんある。
まずは"ハナ"を消すこと。これをしなければ世界に平和が訪れない。
次にフェニックス捜索。鳥族の王であるブチョウの愛しい彼を探す。みんなで誓った。
それにクルーエル一族を救うこともある。闇に狂わされたクルーエル一族の中で唯一の正常人であるソングが一族を救いたいと言っていた。だから手伝う。

主にこれらに関係するのは闇の者であるエキセントリック一族。
奴らはピンカース大陸の大都市を闇と化し、世界の光を消そうとしている。危険な奴ら。
そして一人一人が何を考えているのか分からない奴ら。
こいつらが世の中に出回っている。だから止めなくては。


幾多の使命を抱えて、メンバーは次の村へと向かう。
と、そのときに気づいた。


「そういえば屋根がついたんだね」


それは遅い反応であった。しかしその声を素に山火事のように反応は広がる。


「あ、ホントだー!シート直ったのね」

「別に気にならんかったな」

「シートがあってもなくても変わらないよな!」

「シートがあると動きにくいから取っちゃいなさいよ」

「お前ら、人の苦労を水の泡にしようとするな!」


頑張って仕上げたシートを馬鹿にされてソングは心なしか悲しんだ。
せっかく直したのにこの扱われようはあんまりだ、と嘆く。

と、場が再び騒ぎ出したときだった。
事件はまたまた起こった。しかも唐突。
車体の前部がめり込み後部が浮くという形で車が傾いたのだ。
そして次の瞬間、メンバーは浮いていた。違う、落ちていた。


「「待て待て待て!」」


車から吐き出され、メンバー全員が空を泳ぐ。そこで聞こえる豚の声。チョコが解読した。


「誤って崖から落ちちゃった、って」

「「ふざけんなー!!」」


落ちる落ちる6人の影。
回転しながら落ちていく。
そのときに見えた、下の世界。

そこは緑があったり民家があったりしている。村のようだった。


やがてメンバーは崖下にあった村へと吸い込まれていってしまった。








>>


<<





------------------------------------------------

inserted by FC2 system