『僕の愛しのハニー。どうしてキミがブラックなんだい?』

「そんなの決まってるじゃないの。私が美しいからよ」

『そうだね。美しい女性には黒が似合っているよベイビー』

「他にも意味はあるわ。黒は全てを支配する色だからよ」

『なるほど、黒はどの色も吸収してしまう色だねベイビー。確かに黒以上に最強な色はないね』

「だから私に合う色なのよ。私はブラックで大満足よ」


ブチョウがクマさんといちゃついているとき、怪獣デブカイは何だか無視されている気持ちになって居た堪れなかった。
怪獣デブカイが動きが鈍くなっているのを見計らってメンバーは動く。


「今がチャンスやー!」


全員で怪獣に襲い掛かるが、やはり雑魚が邪魔をする。間に割り込んできて怪獣を庇うのだ。
いや、向こうも襲い掛かっているのかもしれないがメンバーの手の方が早いから攻撃を繰り出す前に倒されてしまっているようである。

先ほどから何度も何度もこれの繰り返し。
怪獣に手をつけられないままでいた。


「なかなか強いねこのデブ猫」

「いや、このデブ猫は何もしてないように見えるが」

「せやけど指一本触れられてへん。何とかせえへんとなぁ」


首を捻りながらトーフは糸でギュッと構成員を縛る。
その後ろでドンと強い音と共に地面が揺れたと思えばそれはクモマの仕業であり、彼は拳を下に放って構成員を地面に叩きつけた。


「ずっとこのままだと埒が明かないよ。このわんさかいる構成員をどうにかして消さないと」

「一発で敵を吹っ飛ばせれば楽なんだけどよー誰かそんな技もってねえか?」


ふと漏れたサコツの喚き。
しかしそれを聞いて閃く者がいた。


「……そうか。わざわざ雑魚1匹を丁寧に倒していかなくても、まとめてぶっ飛ばせばいいんだ」


目を見開いたソングが、更に言った。


「まとめてぶっ飛ばすには、連続した技がいい」

「?」

「ならば、こうすればいいな」


ソングが何を言いたいのか分からなくてメンバーが顔を見合わせているとき、ソングは大胆な行動に出た。
何と、腰のポシェットからもう一つハサミを取り出したのだ。
それを大きくして元から持っていたハサミと同じようにする。
右手左手に色の違うハサミ、それらを身に付けたところで、ソングは全員に告げる。


「離れた方がいい」

「え」

「むしろ遠くに離れろ。巻き込まれるぞ」


語尾の言葉が引っかかったがここは引き下がった方が良さそうだ。
何故ならソングの中は血の気が騒いでいるようだから。
ソングは『武』の種族の者だから戦いに関してはメンバーより上手の部分がある。
そのため彼に従うことにした。

全員が離れ、怪獣の周りを取り囲んでいた構成員がこちらに向き合ったところで、ソングは二つのハサミを地面に垂直に立てて、すっと目を据えた。


「イントロダクション(序奏)」


その声は異様な殺気の空気となって流れた。
それからすぐのこと、ソングは大量発生する構成員を仕留めに突っ走った。

まずは2体の構成員が両脇から湧き出てくる。


「前の『ロボの村』でやった方法では場が酷く荒れる可能性がある」


誰にも聞こえない声でソングは呟く。


「だから同じ名であるが違うやり方で行く」


2体の構成員がソングに向けて両手を振り上げたとき、そこにはソングの姿はなかった。砂埃だけが舞っていた。


『『にゃ?』』

「デューオ(二重奏)」


いつの間に跳んでいたのだろうか、ソングが空から降ってきた。二つの大きなハサミを垂直に立てて。
ハサミの先が首根っこを貫き、地面についたときには構成員は消滅。
仲間が消されたことに怒り、今度はもう少し複数の塊になって構成員がソングに突っ込む。
しかし今のソングは止められない。ミュージカルに乗ってソングは踊るように動く。


「トリオ(三重奏)」


自分を中心にハサミで弧を描き、円周内にいた構成員の消滅。
続いて円周外の構成員の元に突っ込んで行っては


「クワルテット(四重奏)」

「クインテット(五重奏)」

「ゼクテット(六重奏)」


大きな二本のハサミを舞わして構成員を確実に捕らえた。

ソングが瞬殺する光景を遠くから見ていたメンバーは唖然としていた。
まさかこんなにも強いとは思ってもいなかったのだ。思わず目が点だ。
そしてこのようにがら空きのメンバーを襲う卑怯な奴もいた。


「コルトパイソン」


しかしサコツの声と共に出た銃声によって構成員はぶっ飛んでいた。
しゃもじを固く握ったサコツが燃え盛る"気"を力いっぱい放ったようだ。
彼の技だったのか、先ほどまで彼が撃っても消滅まで至らなかった構成員も今の一撃では消滅という形になって消える。

クモマが目を丸めた。


「すごいやレッド」

「な〜っはっはっは!何せ俺はリーダーだからな!」


褒められて嬉しそうに高笑いをするサコツであったが、足は震えていた。勇気を振り絞っての行動だったのだろう。

気づけば大量であった構成員が今では数えられるほどの人数にまで減っていた。
やがて10本の指に収まるほどの人数を二本のハサミの挟めると、


「フィナーレ(終曲)」


パチンと斬った。
こうしてソングのゴミ処理は終演したのである。



あっという間に終わった処理に怪獣も目を見開かせていた。
ソングが先ほど取り出したハサミを元の場所へ仕舞ったところで全員が駆けつける。


「大丈夫だったかい?」


クモマの憂えの声にソングは頷く。
然程疲れてもいないようで、薄く息切れしている程度。
それにはトーフも関心の目を向けていた。


「ブルーすごいなぁ!あんなことできたんか?」

「さっさと終わらせたかったからな」


軽くそういった後、ソングは促した。


「雑魚もいなくなってあとはこのデブ猫のみだ」


するとチョコがテンション高く割り込んだ。


「それじゃあ倒しちゃおう!」

「いよいよ私の出番ね」


イチャイチャしていたブチョウもメンバーの元までやってきて仁王立ちをしてみせる。
先ほどまで戦いに興味を示さなかった彼女のこの態度の変わり様には微妙な憤りが篭ってしまう。
しかし今はそれどころではない。今のチャンスを逃してはならない。

だから全員がデブ猫に襲いかかろうと足を伸ばした、その刹那。


『にゃーろめー!お前らよくもぼくの可愛いアブラゼミを消したなぁ…!』

「え?!アブラゼミ?あの構成員のことかい?!」

「どう見てもアブラゼミには見えなかったぜ!どっちかと言うとミンミンゼミに似ていたぜ」

「結局はセミかよ!アブラもミンミンも似てるだろが!」


一先ずサコツに突っ込んだ後ソングは咳払いをしてから怪獣を睨んだ。


「雑魚は全て始末した」

『そしたらまた出せばいいにゃ』

「結果は同じだ。すぐにこのハサミで仕留めるが」

『…にゃ…!』

「残念やったな。ワイらはただもんじゃないで」

「そうだぜ俺らはお笑い戦隊ラフメーカーズだぜ!」

「…お笑い戦隊って言うのが何ともいえないけどね」


追い詰められ、後ずさりを始める怪獣。メンバーはじりじりと奴を追い詰める。
怪獣が今にも泣きべそをかきそうになったとき、怪獣はあの存在を思い出す。

そう、メンバーが狙っているあのモノ。


『にゃらにゃら!ぼくの勝ちだにゃー』


怪獣は笑いながら首もとのあるモノを手に入れる。
それは邪悪なオーラを漂わせると共に、"笑い"を吸い取っている気も感じとれる。

怪獣は首輪の鈴である"ハナ"を手に入れたのだ。

メンバーが「あっ」と声を上げたが、"ハナ"は怪獣の食道に流れていった。


「「食ったぁあ?!」」

『にゃらにゃらにゃらにゃら』


何と言うことだ。"ハナ"が食べられてしまった。
メンバーがショックを隠せない様を見せているとき、怪獣の様子が一変する。

見る見るうちに体を大きくしていくのだ。
伴って笑い声も野太くなっていく。


『にゃらにゃらにゃらにゃら』


どんどんと声も体も太くなり、メンバーの目線も高くなる。
事を掴めたときには遅かった。
そのときには既に怪獣は巨大化してしまっていたのだ。

トーフが叫ぶ。


「"ハナ"を食って大きくなるってまさに戦隊モノにつき物のパターンや!」


それは何だか嬉しそうな叫びであった。
戦隊モノといえば、最後に敵が何らかの方法で巨大化するのがお決まりである。
今回も見事その通りになっていた。
だからトーフは嬉しかった。
対してメンバーは絶句やら絶叫やら。


「どうなってるのー?!」

「やべーぜ!でっかくなっちまったぜ!だけど、すっげーなー!どうやったらあんな風にでかくなるんだ?」

「……ふざけてる…」

「うわぁ、トーフの言うとおりだ。これじゃあ戦隊モノのパターンだね」

「ロマンチックね」

「どこがだ!」


パンチパーマのブチョウに突っ込んだ後にソングが呻く。


「クソ、でかくなってしまったからにはそれなりの対処法をとるしかないのか…」


無論、トーフが目を輝かせて頷いた。


「当たり前や!皆ででかくなろうやないか!」

「待て。不可能だ。確かにこの中には尋常な奴はいないが巨大化できるものなんかいない。一部を除く」

「うんそうだよ。そう簡単に巨大化は出来ないよ。一部を除く」

「私も無理だと思いまーす!巨大化は不可能よ!一部を除く」

「一部ってどこだぁ?」

「そうねぇ、きっとあんたのことを指してると思うわ」

「「いや、お前だよお前」」


普段からハトの姿で巨大化したりするブチョウになら巨大化は出来る。
そう思っていたのだがブチョウは首を振って否定してきた。


「私も巨大化なんか出来ないわ。あのときはヘチマがあったから巨大化が出来たのよ」


確かに巨大化した後はすぐに「ヘチマのおかげね」とかほざいていた記憶がある。
なるほどブチョウも自分の力で巨大することが出来ないのか。…ヘチマを食べて巨大化できるのも尋常ではないのだが。


「まあ、頭のサイズなら変えることは可能だけど」

「ええ!パンチパーマがアフロになっちゃった?!姐御すごい!」

「結局はアフロになるのかてめえはよ!アフロ大好きだな!」


メンバーがもめている隙に怪獣デブカイは動き出していた。
場が大きく揺れ始める。
ドシンドシン。
地面と共にメンバーの体も揺れ動く。転ばないように踏ん張った。


「困ったなぁ。怪獣が暴れだしちゃうよ」

「どうにかして止めなくちゃよー!街がボロボロになっちゃうぜ!」


しかし止める術がない。相手は巨大デブ猫だ。この小さな体で止めれるはずがない…のだが、その考えを覆す声が上がった。


「皆で合体するんや!」


また来た。トーフの迷言。
無論、全員で否定した。


「無理だよ!合体とか出来るはずないだろう?」

「そうよー!どうやって合体するっていうの?」

「お前、ちゃんと後のこと考えて発言してるのか?」


内容が全て似たものだったのでトーフは一言で返した。


「合体できる。ワイに考えがあるんや」


ゆっくりと怪獣が動いているその下で、トーフを囲んでメンバーは会議を始めた。







『にゃらにゃらにゃら!アブラゼミたちがダメならぼくが暴れるにゃー。"ハナ"を守るために暴れるんだにゃー。これもエキセントリック一族の名誉のためにゃー』


妙に説明口調で足を動かす怪獣デブカイ。
その動きは本当にゆっくりなので、まだ被害は出ていない。
村人は逃げていた。怪獣の足から逃げて恐怖を募らせる。
この村はダメになってしまうのか。そう不安になったそのときであった。


「「もうお前の好きにはさせない」」


再び流れるヒーローの声。
そして現れる一つの大きな影。


「あんたが"ハナ"を食ったっちゅうことは、雫をあんたに掛けなきゃあかんわな」

「グリーン、雫の方は頼んだよ」

「な〜っはっはっは!面白いなーこれ!」

「…どこが面白いんだ…も…もうだめだ…あまり下に押し付けてくるなよアマ」

「え?…きゃーもうブルーったらー」

「さあ、動きなさい。愚民ども」


そこに現れた一つの大きな影は、実は一つでもなく、大きなものでもなかった。
影で見れば大きいのだが実物を見れば気の抜けるもの。

何と6人が肩車をしているだけなのである。

一番下の土台役がクモマ。怪力なのでこの役が任せられた。
その上がサコツ。続いてソング。そしてチョコ、トーフ、ブチョウという風に成り立っている。

一部が砕けたらすぐに破損しそうなもろい物体。それが怪獣の前に立ちはだかっている。



『……………』


あまりにも醜い光景だったので怪獣も何を言えばいいのか迷っている様子だった。
対して合体したメンバーは堂々としている。


「さあ、私の言うとおりに動きなさい」


一番上になっているブチョウが司令塔になって一番下にいる操縦席ことクモマに命令する。


「まずは一回転しなさい」

「無理だよ!破損間違いなしだよ!」

「大丈夫よ、一番苦しい部分は真ん中の凡だから」

「それが理由かよ!…!や、やめろアマ……お前が下を向くたび当たるものがある……」

「え…、ちょ、ちょっとソン…ブルー!私の胸に当たって顔を紅くするの、やめてくれない?」

「無茶な注文するな!大体この順番がおかしいんだ!何故俺が女の下なんだよ!」

「仕方ないで?あんたは男の中で一番力がないんやから。自動的にこの順番になったんやないか」

「クソ…!…こんなことしてたらメロディにあわせる顔がないじゃねえか……、いや…もうメロディはいないのか……メロディ……メロディ…」

「おい!うるさいぜ!?ちょっとは静かにしろよ!?ブルーは『冷静』じゃなかったのか?!」

「こんなところで冷静になれる男がいるか!もういやだ…メロディ…」

「その『メロディ…』って呟くのをやめてくれよー何だか居た堪れない気分になるぜ」

「頑張ろうよ。皆頑張ろう。言っておくけどね、一番ツライのは僕なんだからね」

「さあ、鼻毛ボーン号出動よ」

「「何だその名前?!」」


動く動く、鼻毛ボーン号。
自分らより遥かに高い怪獣に向かって動いていく。
逞しい姿だ鼻毛ボーン号。


「だから鼻毛ボーン号って言うのはやめてくれないかい?!」


さあ、敵は目の前だ。
鼻毛ボーン号よ、最終兵器を見せてやれ。


「ワイらのパワーや!喰らえぇえ!」


懐からひょうたんを出したトーフはそう叫ぶと、中から一滴の雫を溢した。
鼻毛ボーン号から滴り落ちる"笑いの雫"は、見事怪獣デブカイの足に当たり光を放つ。


『にゃーん!何だこの結末はー!お前ら合体した意味がまったくないにゃー!!』


最期の声を振り絞った直後、やがてこの村で暴れていた怪獣は消滅した。


「…わあ、本当だ。合体した意味が全くなかったね」


怪獣を跡形もなく消すように風が吹き、クモマの口から出た言葉も綺麗サッパリ流されていった。




+ + +


「ヒーロー、見事な活躍でしたね」

「本当に助かりました!あなた方6人のおかげです」

「是非ともまたこの村にお越しくださいヒーロー」

「そのときは村のもの全員で盛大なる歓迎を致しますので」

「旅はまだするんですか?お気をつけてくださいね」

「長旅になるんでしょう?食料に困らないように少ないけれどお渡しします。頑張ってください」

「村に平和をくれてありがとねーおばちゃんー!」

「「ありがとう!ヒーロー!」」


こうしてメンバーは、心と懐が温かくなったところで村から出て行った。
村を救ったヒーローとして称えられながら。


「ホンマええ体験したわぁ。ホンマおおきにぃ」


そして、戦隊モノみたいなことが出来て大満足したトーフを見て、皆して笑顔を見せ合っていた。










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