どの村にも必ずある施設、それは公園。
子どもが元気に走り回り遊ぶ場でもあり、恋人たちが愛を語り合う場でもある。
公園は昔から馴染みのある公共の場なので、人がいないということはなかなかないものだ。
そのため、本日も公園は賑わっていた。

しかし、それを崩す悲鳴。


「怪獣デブカイだー!」


それは子どもの複数の声であった。
悲鳴を聞いて、公園内はパニックだ。
そしてその中から聞こえる新たな声。


『にゃらにゃらにゃら!今日も暴れてやるにゃー!』


怪獣デブカイは大きな体をのっしのっしを動かして、周りに被害を与えていく。
木をなぎ倒し、砂場も踏み荒らし、この場はメチャクチャだ。
場に居た人々も逃げ、とにかく怪獣から逃げていくのだが、なぎ倒された木が道を塞いでいるため容易に逃げることが出来ない。
悲鳴だけが走っていき、人々はうまくは走れない。
そのため子どもの一人がつまづいて転んでしまった。


『ぼくはお腹が空いたんだにゃー。まずはお前から食べるにゃー』


大きな腹を担いで怪獣は場を揺らしながら、やがて転んだ子どもの元までやってきた。
子どもは腰が抜けてしまったのか、もう動けない。
今にも泣き出しそうに顔をしわだらけにして子どもは口をパクパク動かす。
この場に居た人たちもその子どもの存在に気づき、あっと目を広げる。しかし助けることは出来ない。もし助けに行ったら自分も狙われてしまうから。

このまま子どもは怪獣に食べられてしまうのか。

誰か、この子どもを、罪のない子どもを助けてくれないだろうか。


そう皆が祈っていると、サンサンに照っていた太陽に複数の影が覆われた。
太陽を背景に立ちはだかる5つの影。


「そこのデブ猫、止まるんや!」


凛と響いた声は公園どころか村全体に広がった。
空から降ってきた天の声。一体誰が放った声なのか。
無意識にその場にいた者全員が目線を上に上げた。


滑り台の上。太陽に背を向けて逞しく立っている。
5つの影は首にそれぞれの色のスカーフを巻き、風に遊ばせる。

スカーフが右に靡く。髪も右に靡く。
無音になったこの空気も靡かれ、やがて村人の誰かが口を開いた。


「だれだ?!」


すると、影は親切に答える。


「僕らが来たからにはもう安心してください」


スカーフはまだ風の中。


「悪行なんて許さないよー!」

「俺らは正義の味方だぜ!」

「…俺は一体何をしてるんだ…」


最後の言葉も風に飛ばされる。
全員がぽかんと口を開けているとき、奴らは手を腰にあて、自分がむいている方角の手を空に向けて指した。

空を突き刺す人差し指からは遮られている太陽の光が漏れる。


「食い逃げ万引きなんて朝飯前」

「カーレースでは他の車を破壊しながらの走行」

「賭け事だったらイカサマだって出来ちゃいます」


最悪じゃんか!
空を仰いでいる誰かがそう突っ込んでいる声が聞こえた気がした。


ポーズを決めたまま、奴らは名を告げた。


「ワイらは、お笑い戦隊」

「「ラフメーカーズ!」」



チャキシーン


それぞれがポーズを象る。それを太陽が映し出す。
ポーズが決まるとどこからかそのような音が聞こえてきた。

開いた口が塞がらない村人。怪獣も同じ様だ。

対してお笑い戦隊ラフメーカーズの5人は、とうっと滑り台という微妙な高さから足を宙に躍らせる。


「デブ猫ちゃんー、覚悟していてねー」


先に地面に足をつけたのは桜色の髪が美しい、ピンクのスカーフを巻いたチョコだった。
続いて銀髪の影も着陸する。


「…この場にいる全員が呆気にとられてるじゃねえか…恥だ…恥じ………」


青のスカーフを巻いたソングは愚痴りながらも、手のひらにはハサミを収めている。戦う気はあるようだ。
赤髪も舞い降りてきた。


「な〜っはっはっは!俺がリーダーだぜー!」


赤髪と赤のスカーフがマッチしているサコツが朗らかに笑うその手前に、黒髪もやってきた。


「よし、この村の平和を取り戻そう!」


太陽の光により、ますます輝く黄色のスカーフ、それを巻いたクモマ。
そして最後に小さな影が空中で1回転して地面にたどり着いた。


「そしてそん怪物が持っとる"ハナ"を消すんや!」


緑のスカーフを払ったトーフは小さな指を怪獣に向けた。
怪獣の首輪の鈴の部分が不気味に十文字の光を放つ。

怪獣も伴い不気味に笑う。


「にゃらにゃら。お前らがあのラフメーカーだにゃ?待っていたにゃ」

「ワイらの邪魔をしようとする奴ら、そんで関係ない村を荒らす奴らは許さんで!」


怪獣の言葉を貫くように叫んだトーフは、周りにいるメンバーに合図を出してから一斉に怪獣に襲い掛かった。
それぞれが武器を大きくして挑む。
ハサミを大きくしたソングが早速怪獣の手前に現れる。


「さっさと終わらせてこんな格好から逃れてやる…!」


瞬殺しようと、ハサミを素早く突き刺した。
何かが刺さった音が鳴るが、本命には当たらなかった。


『にゃー!』


はさみの先に刺さったものは、細い怪物、見るからに弱そうな怪物。構成員ってやつだ。
大きな怪獣の手下である奴らがどこからともなく湧き出てくる。気づけばその場は構成員で埋め尽くされていた。
その間にチョコが怪獣の前で転んでしまった子どもを担ぎ、固まっている村人のところへ連れて行く。


「みんな、ここは私たちに任せて逃げて」


公園の片隅にいる村人にそう煽ると、先ほど助けられた子どもが不思議そうに口を開いた。


「ねえ、おばちゃん」

「私はお姉ちゃんよ」


癇に障ったが子どもの言うことだ、気にしないでおいた。
子どもは続ける。


「おばちゃんたちは何者なの?」


質問に答える。


「おねえちゃんはおばちゃんじゃなくてピチピチのガールよ」


答えになっていない。


「ふーん。頑張ってねおばちゃん」

「うん、お姉ちゃんは頑張るよ」


村人に背を向けて再びメンバーの元へ戻ろうとするチョコに向けて複数の子どもたちがお礼を述べた。


「「ありがとーおばちゃんー」」

「うふふふふふふ」


子どもたちの心に残ったものは、チョコの怒りの篭った笑い声であった。




様々な音と、にゃーって悲鳴が響き渡る。
メンバー全員が構成員と戦っているのだ。

戦いながらクモマがトーフに問いかける。


「敵が多すぎるよ、どうするグリーン」


奴らは敢えてコードネームで呼び合うらしい。
グリーンと呼ばれて嬉しかったのか、トーフが笑みを浮かべたまま、敵を縛り上げる。


「誰かが中心をぶっ倒さなければならへんな。あんデブ猫を抑えなければこん『にゃー』達も鎮まらへん」

「にゃー…って」

「とにかく、あんたでええわ。イエロー、デブ猫のことよろしく頼むわ!」


大事な事を頼まれて、クモマは大きく首を振った。


「無理だよ!僕はカレー大好きイエローだもん。イエローは影で戦う役目じゃないか」

「ほならレッドが行くか?」


トーフの声は、レッドことサコツの元まで渡る。
そして聞こえるサコツの悲鳴。


「俺か?!俺はへっぴり腰がチャームポイントなんだぜ!今だって自分を抑えるのに精一杯なんだ。ちなみに」


サコツはしゃもじに溜まった"気"を放った。


「リーダーなんだから面倒くさいことなんかしなくていいんだぜ。だからブルーがやってくれよ」


その呷りに無論ソングが突っ込んだ。


「何ほざいてんだてめえ!ブルーは沈着冷静だからそんな大きな仕事はしねえだろ」

「いや、いつも叫んでいるお前が"冷静"か?」


鋭いツッコミを返されソングは噤んだ。しかしデブ猫ことデブカイの元へは行こうとしない。
そのためデブカイは次々に雑魚を生み出していく。


『にゃらにゃらにゃら!どんどん暴れるんだにゃー』


全員が構成員と戦っているのを楽しむ怪獣は腹をドンドン鳴らし、場に騒音を促す。
耳障りな音に全員が耳を塞ぎそうになる。しかし戦うのは止められない。


「…!やっぱりデブ猫を仕留めへんとあかんわ。誰かあいつを止めんか」

「俺は嫌だぜ。リーダーだから戦いたくないぜ」

「あんな肥満度高いモノ斬ったら肉が刃に付着する」

「イエローはカレーを食べる役だから」

「みんな頑張ってよ?!」


戦いを拒否するメンバーの姿を見ながら、村人のところからこちらへ戻ってきたチョコは真っ先にそう叫んでいた。
怪獣を倒さなければ話が終わらないよ、とそのままソングに教えるが、ソングは首を振る。


「客が多いところで注目を浴びたくない。もしここであのデブ猫を倒したらヒーロー扱いになること間違いないだろが」

「確かに今回はお客さんがいるからね。戦いづらいよね」


ソングの呻きにクモマも同意した。元々公園には人がいたのだ。そこに怪獣が現れ自分らも現れた。
だから公園にいた者が客になり、ついでに野次馬という者たちもどこからか湧き出てきた。

観客が見ているから動きづらい。


「そんな事言わずに頑張って!」

「そしたらお前がやれアマ」

「私は戦う術なんか持ってないよ!」

「俺も自分を抑えるのにいっぱいいっぱいだぜ…」

「もし僕があの怪物に拳を食らわしたとしても、腹の弾力に跳ね返されそうなんだよね…」

「糸で縛ったらローストハムになっちゃうで」


「「とにかく誰か行けよ!」」


それぞれがグチグチに言った後、全員が同音で訴えた。しかし風に流され誰の脳にも留まらなかった。
果たして誰が戦うのか。
全員がもめていると、遠くから声が聞こえてきた。


「頑張れ!」


それは公園の隅にいる観客…村人であった。
その声は一人から二人、三人…十人…と伝染し、メンバーに告げられる。


「頑張れ!頑張れ!」

「お前らにかかってるんだ!頑張れ!」

「私たちの村を救って!」

「「ヒーロー!」」



「「………………………」」


村人は叫ぶ、メンバーに向けて。
そのため動きが止まる。
気づけばメンバーは一つの塊になっていた。戦いながら自然に身を寄り合わせていたようだ。

ダンゴになったメンバー、それを襲う複数の構成員。
奴らは躊躇なく手足を広げてやってくる。

やがて、メンバーも目の色を変えて、動き出す。


「…ヒーローか。そうだったぜ、俺たちヒーローなんだぜ」

「ったく、しかたねえな。一人でダメなら全員でやるしかないか」


お互いに背を合わせて、サコツとソングが反転した色のスカーフを風に遊ばせながら、その手には武器を持って立っていた。
武器は見事に敵の体に刺さっている。

"気"が燃え盛っているしゃもじを構成員に当てたまま、"気"を放ってぶっ飛ばす。
ハサミに串刺しになった構成員を無惨に地面に叩き付け、奥にいるモノを捕らえる。

サコツとソングが同時に動いたのが合図となり、メンバー全員が動き出した。
花火が散ったように四方八方に走り出すメンバーであるが、目指す場所は一つ。

そこは、怪獣デブカイ。

怪獣もそのことが分かったようで、自分の周りに構成員を張る。


「…しまった。構成員が邪魔で怪獣のところへ行けないよ」


倒しても倒しても湧き出てくる雑魚に、メンバーは頭を悩ました。
せっかく気持ちが『怪獣を倒そう』と一つになったのにこれでは意味が無い。

このまま雑魚で終わってしまうのか。
このまま怪獣に支配されてしまうのか。


そう不吉を悟った刹那であった。
謎の音色が場に流れたのだ。


ピロリロー…



「な、何だぁ?」


サコツが叫んだ。
目を細めて、チョコが声を漏らす。


「綺麗な音色…」

「一体、何の音だろう?」


素朴な疑問は全員の中に積もる。音の正体がつかめずにあちこちに顔を動かすが音の主の姿はない。
するとまた声が聞こえてきた。


「怪獣の相手はこの私よ」


音色の中にハスキーな声が歌うように響く。
その声のおかげでその者がどこにいるのか把握することが出来た。

者はブランコを凄い勢いでこいでいたのだ。
その行動に伴ってピロリローという音が流れる。


「ありえねえ!ブランコの音かよ!」

「どんな風にこいだらあんな音が鳴るんだい?!」


新たなヒーローの登場に大興奮のメンバー。
怪獣もブランコの音色に痺れている。


『お前は誰だにゃ!』


興奮と共に流れた質問に、者はブランコから飛び跳ね、無駄な回転を繰り出しながらやがて地面に着陸した。
黒のスカーフがメンバーと同じように靡いている。


「私は、ジョふぃーヌよ」

「「ブラック?!」」


ジョふぃーヌと名乗った彼女にメンバーは一斉に名を上げていた。
ブラックことブチョウはハリセン片手に魔物と向き合っている。
そんな彼女の頭はアフロ…ではなくパンチパーマ。


「パンチパーマかよ?!」

「ブラック!僕らが雑魚を抑えておくからキミは本命を頼むよ」

「分かったわ」


そしてブチョウはクモマに言われたとおりに本命の元へ行く。
そこにはクマさんがいた。


「クマさん、待たせたわね」

『僕はキミのためならずっと待っていられるよベイビー』

「「いつからいたのクマさん?!」」


6人になったヒーローは村の平和を守るために戦うのであった。









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