何だか、不気味な村だった。


5.ゴーストの村


ここはやけに暗かった。
村の門付近に車を止め、
エリザベスとの別れを惜しむサコツを軽蔑するような目で見て、
村の奥へ進んでいく。

闇の中を歩いているような感じ。
足の踏み場までもが分からない。
だけど、何とか薄暗い村を歩いていく。

そんな中、勇気を出して口を開いたのは、サコツだった。


「何なんだよ?この村は…」


応答したのはチョコだった。


「ホントだよね。何でこんなに暗いわけ?」

「何ていうか…不気味なところだね…」

「お化け屋敷に入っているかのようね」


ブチョウの冗談を聞き、ソングがすぐに反応した。


「ふ、ふざけんなよ!村なんだぞ!お化けなんか出るはずねーだろが!」


何故か異様に気が動転しているようだった。
そんな様子のソングにチョコがにやけて訊いた。


「まさか、ソング…」

「「お化け怖いんだー?」」


サコツも一緒に言った。
対し、ソングが叫んだ。


「バーロー!そんなことねーよ!だ、大体お化けとかな、実際にいねぇ生き物なんだよ」


ところどころ言葉が突っかかっている。


「いや、お化けはいると思うわ」


突然、ブチョウが割り込んできた。
発言を聞き、眉を寄せるソング。
有無も聞かずにブチョウは語りだした。


「あれは、10年前か、一週間前の出来事だったわ」

「かなり間が空いてるよ?!」

「私はトイレに行こうと思ったの」

「うんうん」


何故かクモマが身を乗り出して聞いていた。
暗闇でうまく見えないのだが、ソングは耳を塞いでいる様に見える。


「それで、私、トイレに行ったわけよ」

「うん」

「すると…なんと…」

「……っ」


「間違ってキッチンに行っちゃったのよ」


「…………………」

「あいたこりゃ」

「………………………」

「ま、ついでだったのでチンパンジーを食べていったとさ。でめきん、でめきん」

「……」


その場が凍った。
ちなみに"でめきん"は、きっと"めでたし"のことだと思われる。

ブチョウは全てを言い切ったような表情をして汗を拭う。
対し、メンバーは一斉に騒ぎ出した。


「「ちょっと待て―!!!」」

「全く怖くないよ!」

「キッチンかよ!キッチンと間違えるのかよ!お茶目だな!!」

「チンパンジーって美味しいんか?!食べたことあらへんで!」

「ふー怖かったぜ…」

「ええー?!怖かったの?!どこらへんが怖いところだったのよ?」

「ブチョウの存在全てだよ」

「「………」」


サコツの言葉に全員が納得した。

そんな風に、全員で盛り上がっている中(一人怖がっているけど)
村の中央にでも出たのだろうか、家がポツリポツリと見えてきていた。
だけど、薄気味暗いのは、変わらない。


「一応、村みたいだね」

「みたいやな。せやけど人の姿とか見えへんなぁ」

「やっぱりお化けが住んでるんじゃない〜?」

「や、やめろ!お化けなんかいるはずねーだろ!」

「おい!ソングの肩に白い手が!」

「ぎゃぁああ!!」

「うそだぜ。うそ。お前驚きすぎだぜ」

「ふ、ふざけんなよ…」


どんどんとソングのテンションが下がっていくのが分かる。
相当お化けが苦手なのだろう。
人間、見た目によらず、苦手なものってあるんですね☆

そんなソングを無視してクモマが問い掛けた。


「ここもやっぱり"笑い"がないの?」


トーフが頷いて応える。


「そや。ハッキリ言うとな、この村から」


このあと、トーフが驚くべき発言を口にする。


「全く"笑い"感じへんのや」

「「え?!」」

「待ってよトーフちゃん!これってまさか、手遅れってことなの?」


チョコの動揺の声に首を傾げた。


「申し訳ないんやが、そこのところは分からへん。人がホンマにおらんかったら、結構ヤバイかも知れんわ」

「マジでかよ」

「それなら早く"ハナ"を探して消さないといけないね」

「そうだ!さっさと見つけて消して、さっさと帰ろう!!」


先ほどまで黙っていたソングが急にテンションを上げて、叫びだした。


「よっしゃ!帰ろう帰ろう。こんなところさっさと帰るぞ」

「お前、今日はキャラ変わってるぜ」

「もうすでにソングの中にお化けが乗り移ってるんじゃないの?」

「待てよ!変なこというなよ!」

「ま、そんなとこでギャ―ギャ―騒いでいる暇あるんなら、ソングの言うとおりさっさと"ハナ"でも探しに行くか」


騒ぐソングを抑える形でトーフが入る。
対し、クモマが微笑んだ。


「そうだね。探そうか。トーフの"笑いを極める力"を使えば"ハナ"退治も楽だろう?」


クモマの発言にトーフが眉を寄せた。


「残念ながらな、実はその"ハナ"があるようなところも全く分からへんのや」

「「ええ?!」」


全員が叫んだ。


「おい!待てよトーフ!本当なのか?」

「こんなときに冗談言う人なんておらんで」

「それじゃ帰れねぇのかよ」


ソングが嘆く。
それを聞き、全員が口を詰まらせた。


「そっか…帰れないのか…最近俺は不幸の連続じゃねぇかよ…」


そして、ソングはへこみだした。
あのままじゃソングの十八番の体育座りが始まってしまうぞー。


「ま、へこたれるんじゃないで、ソング。ま、皆で根気強く探そうやないか」

「こんなところ…ウロウロするのか…?」

「大丈夫だよ。頑張って皆で探そうよ」


元気じゃないソングを何とか元気付けさせようと気を配るクモマ。


「しょうがないわね。それじゃ皆探してきなさい」

「待って待って。ブチョウは探さないの?」


言われ、ブチョウは腕を組み、仁王立ちをした。


「あったりまえじゃないの。私はここで偉そうに仁王立ちするのが仕事よ」

「また?!」

「いいなー。俺も仁王立ちするか」

「待て待て。お前らちゃんと探せ!俺が代わりに仁王立ちを……いや、いいや」


ソングが叫びを抑えた。


「こんなところで一人で立っていたらいつ襲われるか分からねぇや」

((弱っ!!))

「だから皆で探しに行こう」

((何こいつ?!))

「そして、俺を守ってくれ」

((ダメ男だ。ダメ男))


ソングの主張に、トーフが続けた。


「ほな、行くとするか。でも皆で一緒に探すのは時間かかるから二手に分かれてみようで」

「そうだな。なら俺はここで仁王立ちするぜ」

「やっぱ仁王立ちは必要なの?!」

「ここは平等にジャンケンしようよ〜ジャンケン!負けた人が"ハナ"を消しにいくの。勝った人はここに残って様子を見ようよ」


チョコの案に全員が同意した。


「よっしゃ!ジャンケンだぜ!ジャンケン〜ひゃっほーい!」

「何でそんなに浮かれているの?!」

「とにかく俺は早くここから離れたいんだが」

「ソングのために早くしようか」

「そやな。ほなジャンケンやな!いっくでー!!」


そして、運命の一本勝負。


「「ジャ〜ンケン、ポン!!」」


クモマ…パー
トーフ…パー
チョコ…チョキ
サコツ…パー
ソング…チョキ
ブチョウ…チョキ



「「………」」

「あれ?負けちゃった?」

「やったね!勝ったー!」

「さすが俺だ!バッチリ負けたぜ☆」

「ウンダバ様の力のおかげで助かったわ」

「わからねー。よくわからねーよ、こいつ。…だけど俺がジャンケンに勝つなんて…久々だ…」

「面倒な役になってしもうたなー。ワイものんびり仁王立ちしたかったわ」


結果…

 "ハナ"退治 …クモマ、トーフ、サコツ
残って仁王立ち…チョコ、ソング、ブチョウ


「仕方ねー。"ハナ"でも探しに行くか」

「そうだね。あぁ面倒くさい…おっと」

「いってらっしゃーい。3人とも〜お土産待ってるよー」

「そうやな。ほな土産にお化けを持ってくるわ」

「や、やめろ!何冗談言ってんだ!お前らはさっさと探しにいけ!」

「冗談聞けねぇやつだな。お前は。んじゃ俺たちは行くか」

「ほな行ってくるわー」

「行ってくるねー」

「いってらっしゃーい」

「行って来い」

「パオ」


そして、彼らは二手に分かれて行動を開始した。
ブチョウは早速仁王立ちをしているようだ。


「あ、やっぱり仁王立ちするんだ?」


チョコがのん気にそう言っている間に
"ハナ"退治の彼らの姿はもう、見えなかった。


「行ったみたいだな」

「そうみたいだね」

「ほらあんたらも一緒に仁王立ちしなさい」

「ええ?!やっぱりしないといけないのね?」

「するのか…仕方ねぇな」


ブチョウに注意され、仕方なく仁王立ちをすることになった二人。
その場に仁王立ちをしている謎の三人。
薄気味悪いその場に仁王立ちの三人。



「何してるんだ?俺ら」


ソングが気づいた。


「さあ?」


チョコが応答。


「あんたらは黙って仁王立ちしていればいいのよ」

「だから何で仁王立ちしないといけねえんだよ」

「何か偉そうに見えるじゃない」

「それだけの理由なのか?!」

「まあ私は元々偉いんだけどね」

「何かほざきやがったこいつ」

「まあまあ二人とも、言い争うのはやめて私たちは黙って仁王立ちでもしていようよ」

「やっぱ仁王立ちするのか?!」

「あんたもさっきからうるさいわね。目捻り潰すわよ」

「や、やめろ!なに目潰しの準備してる?!そのピースで刺す気か?!」

「きゃー!姉御そのまま一気に行っちゃえー☆」

「何煽ってるんだ!この野郎!」


ブチョウの手で作られたピースは徐々にソングの大きい目に向けられて


「行くわよー凡」

「やめてくれ?!」


ピースは徐々に目に


「ブスっていっちゃえ!ブスっと!」

「お前は助ける気ゼロかよ?!」


ピースは目に…


刺さると思いきや



「…」

「……?」


ブチョウの動きは、ピタッと止まった。
ピースはソングの目のすぐ前だった。


「…どうした」

「どうしたの?姉御」


ブチョウは応答しない。

ただ、じっと、奥を睨んでいて。


「…何だよ」

「姉御?」


次は反応した。
奥を睨んだまま、ブチョウはゆっくりと口を開いた。




「鯱か」




言っている意味が分からなかった。








>>


<<





------------------------------------------------

鯱…シャチ
    マイルカ科の哺乳類。体は背面が黒く,腹面は白い。
    性質は荒く,オットセイやクジラ類を群れで襲い食べる。
    世界中の海洋に分布。(goo辞書より

------------------------------------------------

inserted by FC2 system