とにかく前へ前へと突っ走れ!


48.レースの村


のんびりと動く箱型の車。
ガタゴトと木が小石に躓くがそれでも懸命に前へと進んでいく。
そんなボロ車はもちろんメンバーの所有物であるが今回だけは姿が違った。
箱を覆い被っていたシートが外されているのだ。

何故外しているのか、理由は簡単。


「まさかブチョウがチョップしてくるとは思わなかったよ」

「そいでシートがまっ二つになったっちゅうのもすごいわなぁ」

「あれは"恋する乙女のバカンスチョップ"よ」

「カッコいい技名だぜ!」


先ほどブチョウが何を思ったのか車目掛けてチョップしてきたのだ。ちなみにハトの姿で。
それで中にいた他のメンバーはあと数センチ真ん中によっていればシートと同じ目にあうところだったのだ。

まっ二つになってしまったのでシートを取り外し、シートを乗せていた骨組みも取って、今ではタイヤがついてある箱となる。
全員が車から降りて歩いているその中でソングだけが箱の中に入って格闘中であった。


「何故俺が裁縫しないといけないんだ…」


手先が器用なソングは只今まっ二つになったシートを縫い合わせ中。
針と糸が布を通い、その度縫い合わさっていく。
それにしても見事な手さばきである。

家庭的なことをしているソングをチラ見して、また前を向いてはトーフが話を変えた。


「ソング、あんたが言ってた本には他に何かえらい情報、載ってたか?」


それは自分に向けられた質問だと気づき、少し間があってからソングが答えた。


「まだ全部読んでいないし、言葉も難しいから解読するのが難しい」

「そ、そうなんか」

「まあ、分かったことといえば」


一旦深呼吸をしてソングの口は再び開く。


「クルーエル一族についてぐらいだ」


エリザベスと田吾作が引く車の揺れる音だけが響いた。
その中でもシートは確実に縫い合わされていく。
裁縫しているソングの目は少し悲しみを帯びていた。何かツライ情報でも載っていたのだろうか。
そのため聞きだすことが出来なかった。

ソングは実は凡人ではなくて危険な一族の唯一の正常人物であった。
戦争を好むクルーエル一族は隣族であるエキセントリック一族によって滅ぼされた。
誇りあるクルーエルは滅びて、代わりに目的を変えたクルーエルになった。
エキセントリック一族の護衛役としてクルーエルは生き延びたのだ。
違う、好きでやってるわけではない。タトゥに呪いをかけられて殺血が狂ってしまったのだ。そのため考えも狂った。

全クルーエルが狂った中、ソングだけが別大陸にいて呪いを受けなかったため正常なのである。
しかしタトゥに血を今まで一度も浴びさせたことがないため普通のクルーエルよりも本人は弱いという。

殺血を流したソングは異常なほどに危険な殺気を漂わせて、目だけで相手を殺せそうだった。
しかしそんなソングが他より弱い存在だとしたら本物は一体どれほどまでの威力があるのだろう。
危険な殺気のクルーエル。そんな彼らは狂いエキセントリック一族の護衛。
もしそんな彼らと出会ってしまえば、傷なく帰れることは可能なのか。無理であろうな。


「とにかくワイらの目的は決まったんやから、もう戸惑うことはないで」


何度も布を行き来している糸つき針を操るソングであるが落ち込んでいる。
そんな彼を慰めようとトーフが笑顔を向けた。

そう、ラフメーカーは目的をついに定めたのだ。
この大陸の巨大都市であるミャンマーの村を乗っ取り、世界を闇に支配しようとしている闇の者たち
エキセントリック一族。
こいつらを倒さなければならない。そのことをこの前思い知らされた。

膨大なる力のある魔術師が固まっているエキセントリック一族。…面倒くさいので略してエキセンと呼ぼう。
エキセンは最も危険なものたちだ。
小団体であるが複数の魔術師で成り立っているこの一族。
1人の魔術師だけでも怖ろしいのにそれが複数だ。これはかなり危険である。
しかも大きな都市で賑わっていたミャンマーの村を小時間で乗っ取ることにも成功している。
エキセンはただ者ではない。

そしてメンバーは昔、黒づくめの奴らである魔術師にそれぞれ会っているのだ。
奴らに思いのままにされてメンバーの心も他の村人の心も傷ついている。

もう奴らの思いのままにさせてやれない。
自分らの力である"笑い"を使って奴らを倒さなければ…
世界に平和は二度と訪れない。


「エキセントリック一族を倒す、というのはいいんだけれど、気になることがあるんだよ」


身を引き締めるトーフの横に現れたのはクモマ。
クモマは自分の胸に手を置いて、ある事を思い出す。


「僕の心臓を取った自称神には腹が立つし倒して心臓を取り返したいと思っている。だけどエキセントリック一族はそんな奴だけの塊じゃないと思うんだ」

「…」

「Lさんとか本当にいい人だったよ」


そうなのだ。
自称神やオカマ、魔王など危険な奴がズラリといる中、違う奴らも混ざっているのだ。
それは『L』やら『B』やら『J』…。

彼らは自分らを助けてくれたのだ。
クモマの人形化を止めてくれた、これは本当に命を救われた。
そしてミャンマーの村でも『U』に攫われそうになっていたクモマを『B』が助けてくれた。
そして支配者である『R』の命令にも逆らって『L』が自分らを逃がしてくれた。

何故彼らは悪の中にいて、正の行いをしているのだろう。


「不思議なことやな。闇の中にも光がおるんやから」

「うん。ミャンマーの村で助けてもらったときに、Lさんが言ってたよね。『世界を救いたいと願っている闇もいるんだ』って。Lさんももしかしたら僕たちと同じ考えなのかもね」

「さっすがLさんー!めっちゃカッコいいーえへへうふふほえへへへうほうほ」

「また始まった!誰かこの女を止めろ!」


敵に対して不安が募る中に咲き誇る暖かい色の花。『L』も『B』も本当にいい人らだ。
今度機会があるときは心からお礼を言わなくては。

だけれど奴らもエキセンには変わりない。



「そういえば、次の村まで後どのぐらいなんだい?」


突然話題を変えて、クモマは全員に尋ねた。
しかしこういう話題に答えられるものは1人しかいない。
トーフが顔を上げて答えた。


「あとちょいやで」

「あ、そうなんだ。それじゃあすぐに休むことが出来るね、よかった。ずっと車に乗っていないから疲れてきたよ」

「うんうんー疲れたよねー」

「ずっと歩きっぱなしだからなー!」

「…それならば車に乗ればいいだろ」


全員が自分に文句を言っているような気がしてならなかったソングは、シートからメンバーへと目線を動かす。
すると全員が「あ」と声をあげ目を丸くした。


「そうだね、シートが割れただけであって車には何も支障はないんだよね」

「なーんだ。別に歩かなくても良かったのかー!」

「バカだこいつら…!」


何を勘違いしていたのかメンバーは車に乗っていたらいけないと思っていたらしい。
しかしソングに注意されたところでやっと気づいた。
一本ネジが足りないメンバーにソングは頭を抱える。

やがてトーフの言うとおり、次の村が細い道の間から見えてきた。
門がうっすらと頭を覗かしている。あと少しだ。
全員が小さな箱にぎっしりと体を詰めて、いざ村へ。


+ +


『さーさーさーあとちょっとでレースのはじまりだよーん!まだ受付ていない人は早く済ませちゃってねーん』


村に入ると早速そのような放送が飛び交い、近くにいた者たちが急いでどこかへと向かっていく。
走っている者たちは皆『受付所』というところへ集まっている。
メンバーは何が何だか分からず唖然と眺めていた。


「一体今から何が始まるの?」

「何だか面白そうだぜ!俺たちも皆が集まってるとこへ行こうぜ!」

「待て。何の受付なのか分からないのに容易に波に呑まれようとするな」


人だかりにつられて受付所へ向かおうとするサコツをソングが言葉で止め、だけれどクモマがそれを覆した。


「レースがはじまる、とか言ってたよね。レースの受付かな。面白そうだね」


ふと浮き上がった波を大波へと変えるのは煽り担当のチョコだ。


「おもしろそーう!レースって走るんだよね!私走るの好きだから参加したいなー!」

「あら、いいじゃないの。カーテンレースになら自信があるわよ」

「いや、そのレースじゃねえだろ?!ってか自信あるのかよ!…競争とかのレースのことだろ」

「へー!競争すんのか!面白そうだぜ!なあなあトーフ!俺たちも参加しようぜ!」


この盛り上がりの正体を掴んだメンバーは早速波に呑まれていた。
レースに参加したいと喚くメンバーにもちろんトーフは頷く。


「ええやんか。ワイも興味あんねん。大食いレースなら絶対に負けへんで!」

「腕っ節しか自信がないから、腕相撲がいいなぁ」

「何言ってるのよ。あんたは短足で競いなさい。あ、そんなのに参加しなくてもあんたがチャンピオン間違いないわね」

「……………………………そうだね」

「色気レースなら負けないぜ!」

「サコツ、レースクイーンになっちゃえば?絶対優勝間違いなしだよ!だってサコツの女装は女神そのものだもん!」

「なっちゃおうかしらん?」

「何故普通の意見を出し合えないんだてめえらは!!」


今から行われるレースについてドキドキわくわく胸を躍らせながら、メンバーは受付所へと向かった。



受付所には甚だしい行列が連なっていた。
最後尾につくのは諦め、出来るだけ受付所の近くである場所へ横入り。
さり気なく割り込んだため、誰も気づかなかったようだ。よかったよかった。

しかし、ここでおかしなことに気づいた。
何故かこの行列、複数の団体が固まっているのである。しかも団体内の年齢層はてんでバラバラだ。
一体何故?
辺りを見渡していたチョコがあっと声を上げる。


「ああ!何よこれー!」


チョコの悲鳴を聞いてトーフが尋ねる。


「どないした?」

「このレースの正体、とんでもないものだったのね!」


チョコが指差すその先には、垂れ幕があった。そこにデカデカと書かれている文字。
それはこう書いてあった。


「……『家族対抗!グランプリレース』」

「グランプリレース?」

「車で競争する競技のことだ……って待てよ!これは家族対抗でするものなのか?!」


気づくのが遅かった。
このレースに対応しているものが家族なのにメンバーは参加してしまった。
目の前には受付所だ。

さて、どうやって乗り越えるのかラフメーカー。




「はい、それでは次の方どうぞ」


受付係の人に声を掛けられ、メンバーはその場にあったイスに腰をかけた。
家族に対応しているため置かれているイスもそれなりに多い。その中の真ん中6台に座る。

メンバーはいつの間にチョコの魔法に掛かったのか、変装している。


「それでは家族構成をお教えください」


質問をされて、早速答えるのはスーツを着ている銀髪の眼鏡の男だ。


「6人家族だ。家族の大黒柱…らしい、父のソングだ」

「妻のサコっちゃんよ〜ん」

「こら!ひっつくな!キショイな!」

「うちの両親、めっちゃラブラブなの!私、一人娘のチョコでーす!」

「長男のクモマです。短足だと思わないでください」

「次男のトーフやでー!この身長差は気にせんでおいてー」

「アフロ神、ウンダバよ」

「ソングさんにサコっちゃんさんにチョコさんに短………クモマさんにトーフさんにウンダバ様、以上6名ですね。わかりました」


登録者一覧に名前を記入した受付係は軽くメンバーをスルーして次のお客の受付をし始めた。
登録された方は会場へ行ってくださいと言われてメンバーはそこへ向かう。

というか、つっこませろ、とソングが吼えた。


「何故こんな格好してるんだ俺らは!」


ソングはスーツに身を纏い、メガネをかけた紳士と化けている。
そんなソングにすぐさま反応したのはほぼ姿が変わっていないチョコであった。


「いいじゃないの!こうしないと家族に化けることができないんだからさー!」

「…仕方ないよね。何の競技とも知らずに列に並んでしまったんだから。咄嗟の判断だったよね…」


長男に化けたクモマも然程変わっていない。もちろん足の長さも変わらない。
続いて、フードを被ったトーフが頷いた。


「しゃあないな。ほなとっとと会場へ行くで」


トーフは猫耳を隠すためにフードを被っているのだ。一応人間に化けているのだ。
するとすぐに首を突っ込むのは、麗しいドレスを着ているヒドイ化粧をしているサコツ。


「いいわねーん。家族でレース頑張りましょうねーん!」

「何でこいつが母役なんだ!ふざけんじゃねえよ!!」


また女装かよ!とソングはサコツに訴えるが軽く無視された。
そしてさっさと行こうというわけで先頭に立つのは神々しい光を放っているブチョウであった。


「行くわよ。愚民ども」

「「へい!」」

「って、何でこいつが神なんだ!!ってアフロに従うなよ?!」


こうしてメンバーは無事、レースの参加権をいただき、会場に向かうことになった。
しかしそこで驚くべきものと遭遇する。







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