善いも悪いも関係なく相手に気持ちを伝えるのが、正直者という者。
47.ショウジキの村
この村で人とすれ違うたび、声を掛けられる。
それは挨拶であったり軽い声掛けであったりと形はてんでバラバラであるが中身は同じように見えた。
「何か、ここの村の人は心が澄んでいるよね」
前回の村から出ると無事に元の姿に戻ることが出来たため、今はいつもの格好になっている。
被っている帽子の膨らみ具合をちょいと調整するのはクモマ。その目線は真っ青な空へと向いている。
空は非常に澄んでいるため気持ちがいいと言いたいところであるが、
実はこの大陸の中心村であるミャンマーの村が闇の者に支配されてしまったため、こんな柔い気持ちも本当は持ってはならない。
一秒でも早く支配されたミャンマーの村を救ってやりたい、しかしできない。
何故なら、『L』の魔術によってメンバーはミャンマーの村からはるか遠くへと飛ばされてしまっていたからだ。
そのためすぐに戻ることも出来ないのはおろか、闇の者に勝てる気もしない。
闇の者は魔術を使える者だ。化学的力を操る闇の者。怖ろしい存在だ。
相手が魔術を繰り出せばこちらは思いのままに遊ばれる。果たしてこんな奴らに勝てるのか。
可能性は低い。
だから心配なのだ。
このように綺麗に澄んでいる空でもいつの日か、あの者たちのように真っ暗に染まっていくのかと思うと。
心配であったが空の光が反射して目が輝いているようなのか、クモマを見てチョコが笑っていた。
「そうよね!向こうから進んで挨拶してくるし、顔を見るだけでも分かるよね!心が澄んでいるってことに」
考え事をしていたため、少し反応が遅くなってしまった。
このときに、改めて自分が立派なうわの空人間だなとクモマは思った。
うわの空になっていたのを誤魔化すために、にこっと微笑んで適当に返す。
「うん。そうだね」
「たまにはよーこんな感じの村もいいもんだぜ!変な村ばかり行ってたからここでゆっくり休んで疲れを取っちゃおうぜ!そしてツルツルのお肌に大変身!」
「いや、ツルツルのお肌は関係ないだろ。たったこれだけの休養で肌が綺麗になるか」
「そう?私はこんなにもツルツルになったんだけど?」
「うわ!ブチョウの肌が電球のように光ってるよ?!」
「どんな化学反応起こしたの?!」
人の心が澄んでいて気持ちがいいからこの村に暫く滞在しようというサコツの意見に賛成するメンバーであったが、トーフだけが1人気難しそうな顔を彫り下を睨んでいた。
考え事をしているのだ。
前回の村で大胆な行動を起こしたあの人物についての。
どうして、あの中で銀色だけが浮かんでいたのやろか…。
そんなトーフにお構いなく、頭をポンと叩くのはサコツだった。
「なあトーフー。この村でちょっとのんびりしちゃおうぜ!」
ボールを叩くように軽く手を乗せられたのでトーフは目を見開かせ、意識をこちらへ戻した。
先ほどのうわの空クモマより敏感なトーフは今の発言をきちんと聞き取ることが出来たので、サコツに顔を向ける。
その顔は少し困ったように眉を寄せていた。
「それはどうやろな。ワイらは観光をしにきたんとちゃうで?"ハナ"を消しに来とるんさかい、のんびりはしてちゃあかんのや」
「あ、そっか」
「そういえば僕たちって"ハナ"を消す旅に出ていたね」
すっかり"ハナ"のことを忘れていたと言わんばかりの台詞だ。
トーフは深くため息をついた。
「しっかりしてぇなぁ。世界はこん"ハナ"のせいで滅びるかもしれんのやで。ワイらにしか"ハナ"を消すことが出来ないんやから、頼むわぁ」
「あ、うん」
「私たちも大きな任務背負ってるね〜」
改めて考えさせられた、自分たちの任務。
自分たちがきちんと動かないと世界が滅びてしまうかもしれないのだ。だから一刻も早く"ハナ"を消さなくてはならない。
だけど、気になるところがあるのだ。
「ねえ、ミャンマーの村ってどうなっちゃったんだろうね」
クモマの一声で全員の形相が変わった。苦い表情と悔しそうな表情の2択に。
「さあ?どうやろな。たぶんあん黒い人たちに占領されてしまったかもしれへんな」
「マジでかよ!それってやばくないか?」
「そもそもあの黒い奴らは一体何だ。あのオレンジの魔術師が『闇の者』だと言っていたが」
「闇の者って魔術師でしょー?あの人たち、魔方陣描かないで魔法使うんだもん。本当に凄いよあれ!」
「そうよね。私やチョコや他の人たちも魔方陣を描かないと魔法を発動することが出来ないのに、あいつらは指を鳴らしたり手を打ったり、または手に光を込めるなどして魔法を発動していたわ。体の中に魔術力が満ちているのかしら?」
「む、難しいね…。あの人たちは一体何者で何をたくらんでいる人たちなんだろうね?」
「「………さあ?」」
黒い者たちの正体が気になるだがそれに答えることが出来る者は誰一人いなかった。
あれは闇なのだ。闇だから正体を知るものはいない。知っているとしたら、その者たちだけだ。
結局全員で話し合った結果、何も新しい情報が出てこなかった。
代わりにこの村で食べ物食べようという案が出され、さっそく中心部である街へと向かう。
やはり中心部は街だった。それなりに明るく栄えている街。…ミャンマーの村の栄えようが相当なものだったため比べ物にならないのだが。
一歩足を踏み入れると村人の一人が近づいてきた。
「旅人さんですね。いろんな村を回って大変でしょう?ゆっくりしていってください」
「あ、どうもありがとうございます」
「せやけどワイらの旅は急ぎ旅なんや。ゆっくりすると言うても一日しか滞在せえへんと思うで」
「そうなんですか?でもゆっくりしていってください。わたしたちはこの村に旅人さんが訪れてきてくれたということだけでも十分に嬉しく、そして心から感謝しているのです。さあさあゆっくりしていってください」
「……あ、はい、どうも」
万遍な笑顔でそういいきった村人は奥へと引っ込んでいった。
あんなことを言われメンバーは少し戸惑い、そして何だか恥ずかしかった。
「…何というか、あんなに言われちゃうと恥ずかしいね」
「普通あんなこと言えへんで。正直者やなぁ〜」
先ほどの村人だけではない、この村の住民は皆、正直者なのだ。
何故そういいきれるのかというと…、ブチョウが全てを物語ってくれる。
「私のアフロを大いに称えていたからね。素晴らしいわね」
「いや、アフロなんて一つも見ていなかったし褒めてもいなかった…ってアフロがありえない場所から出ているぞ!耳から溢れてるから取れ!」
「あら、ニャロリンパだわ」
「意味がわからねえよ!何の形容詞なのかもわからねえよ!」
「ってか形容詞なのそれ?」
話がそれてしまったため、トーフが戻した。
「ここんとこの村人の目を見れば分かるわ。汚れ一つない澄んだ目をしとる。せやから皆が純粋な心を持っとる正直者なんやろな」
「んだなー!」
村人とすれ違い、そのたびに感謝の気持ちやらを述べられる。
心で思えば全て喉から流れ人へ伝える。それが正直者のすること。
それは善い事だろうと悪い事だろうと関係なく口にする。だから正直者の気持ちというものは全て口から表れるのだ。
いろいろ褒め称えられたメンバーはブチョウの耳から溢れているアフロを懸命に抜け取りながら食べ物を手に入れようと歩く。
「なかなか取れないねこのアフロ」
「違うわよ。ニャロリンパよ」
「だからそのニャロリンパの意味がわからねえよ!」
「何で耳から脇毛が出ているのか不思議だぜ」
「お前はコレのどこが脇毛に見えるんだ!どう見てもアフロにしか見えないだろ」
「そんな可笑しな姐御が素敵」
「お前はあのオレンジ髪の魔術師にメロメロになってたんじゃねえのか!」
「うん、そうよ。だけどね、これだけはちゃんと言っておくよ。姐御は私の憧れの人、そして『L』さんは…うへへっへへへほほほほあはあはあは」
「分かったからもう笑うな!キショイ!」
ソングが喚いている最中、食べ物が売ってある店へとついた。
店内がむき出しになっているため、青空の下で食べ物を物色する。
店員がいないのを確認しては懐の中に手を突っ込み、新しいターゲットを狙う。
チョコが置物を狙っているとき、隣ではクモマが快適足長グッズを羨ましそうに眺めている。
サコツが変なものをじっと凝視しているとき、手前ではトーフが慣れた手つきで食べ物を懐へ入れている。
その中で本を眺めているソングに近づくのはブチョウだった。
「あら、あんたまた本を見てるわけ?」
話しかけられてソングはブチョウへ顔を向けた。
手には何冊か本が握られている。
「ああ、お前らと一緒にいてもつまらねえからこれで暇を潰すんだ」
ソングの回答にブチョウは呆れたとため息ついた。
「あんたはこの村人とは違って正直じゃないわね。本当は一緒にいて楽しいんでしょ?」
「は?」
「私にツッコミを入れているとき、あんたの顔はウンダバ様に占領されている並にうれしそうよ」
「それはお前の錯覚だろ?!誰がそんな危険な笑み溢すか!」
「まあ、私がウンダバ様なんだけど」
「いらん情報付け加えるな!ってかそれからよると俺はお前に占領されているって事か?」
「ウンダバ」
「頷くな!」
先ほどのブチョウのため息とは勢いの違う、ため息をついてからソングはうなだれる。
「誰がお前らと一緒にいて嬉しいか。ふざけてるにも程がある」
「あら?私は見えたけどね。あんたが嬉しそうにしているのが」
「……」
しかし先ほどのソングのため息はブチョウの声で掻き消された。
思ってもいなかった言葉を吐かれたので思わず黙り込む。
「確かに最初のあんたは常につまらなさそうに、ニャロリンパしていたけど」
「だから何だそのニャロリンパってのは」
「でも今のあんたは前とはまるで違うじゃないの。楽しそうに見えるけどね」
「……んなはずあるか」
「ったく、あんたは全く正直じゃないんだから。そんな態度ばかりとっているから凡人とか言われて馬鹿にされるのよこのニャロリンパ」
「失礼だなお前は!俺は好きで凡人やってるわけじゃねえよ!お前らが非凡すぎるのが問題だ!って、語尾に意味不明にニャロリンパつけるな!」
何だか馬鹿にされている気がして、ソングは怒りを本にぶつけた。
本を陳列台に叩きつけて、再び黙り込む。
そんなソングを面白そうに眺めてからブチョウはその場から離れていった。
周りにメンバーがいないことを確認してから口を開く。
「どいつもこいつもふざけやがって…!」
俺が凡人だと?
お前らは何も知らないからそんなこと言えるんだ。
俺が何のために旅をしているか、その理由はただ一つだ。
自分のせいで死んでしまったメロディのためだ。メロディの償いのために俺は旅をしているだけ。
こいつらと一緒に旅をしたいから、世界を救いたいから、という柔な考えじゃない。
だからこいつらは俺にとっては特に必要な存在でもない。
むしろ自分のことをいろいろと知られてしまって、逆に不都合な奴らだ。
今はずっとあいつらを騙し通しているが、いつの日か気づかれたときは、あいつらを
この手で…………。
手を知らぬ間にポシェットの中に入れていた。
この中にはメロディからもらった大切なハサミがある、いやスプーンか。
違う、実はあのとき『L』に魔術で変な村へとぶっ飛ばされたとき、ドサクサに紛れてこのスプーンを元の姿へ変えてくれたようなのだ。
そのため今このポシェットの中に入っているものはハサミなのだ。大切なハサミ。
このときだけ、『L』に感謝した。
自分の手がポシェットに入っていることに気づき、抜こうとする。
しかしその行為の前に背後から声を掛けられ、結局ポシェットに手を入れたまま振り向いた。
するとそこにはこの村の住民の1人がいた。
村人はソングの顔をじっと見ているが、やがて言った。
「もしもし、あなた、もしや凡人ではないのでは?」
突然の否定の声。思わず目を見開いた。
村人は続ける。
「先ほど、背の高いカッコいいお兄さんがあなたのことを凡人と馬鹿にしていたけど、わたしにはそう見えませんでしたよ」
目を見開いたままソングは訊ねた。
「なぜそう言い切れる?」
「あなたの髪を見たからです」
「……!」
村人はソングの顔を見ていたのではない。髪を見ていたのだ。
太陽の光によって輝く銀の髪。
あるいは、月の光によって淡く燈るように闇の中でも色を維持することが出来る銀の髪。
そして、今まで一度も汚れることなく輝きを帯びているこの銀の髪。
血が降りかかり全身が血まみれになったとしても銀の色は保ったままであるこの髪を。
村人は確実に銀髪を見て、目を輝かせながら言った。
「わたしはあなたのような髪を持っている人たちのことをよく知っています。興味があったから本で知ったんです」
「……」
「あなたは」
目が充血してくる。
いや、目ではない。瞳が。
瞳が充血して、瞳孔へと導かれる。
瞳が不気味な模様を描いていく。
村人は一つ一つ丁寧に区切りながら言う。
「もしや」
ざわっと吹いていないはずなのに髪が靡いた。銀色の髪だけが靡いた。
そんなソングに気づかずに、やがて村人は言い切った。
「クルー…」
しかし言葉は途切れた。
無意識にハサミを取り出したソングによって途切れてしまったのだ。
「!!」
「……」
手で相手の口を覆い、これ以上何も喋るな。と不気味な瞳で訴える。
ハサミを喉元において少しでも喉を鳴らしたら切れるようにする。
やがてソングは村人を捕らえたまま誰にも気づかれることなく、どこかへと消えていった。
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遅けれども、オトギの村のメンバーの姿を公開します!
これ。
チョンマゲ姫と赤ずきんちゃんと銀星姫を見比べてください。
サコツがどれだけ女装が似合っていないのか分かります(笑
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