闇が集まるとき、世界に何かが起こる。
46.臨時総会@
淡い光を燈すランプが幾つもの闇を照らす。
闇の中にある濃い闇は全部で16つ。
それらはシルクハットと黒マントで身を包む、あるいは黒ローブのフードを深く被る、という容姿をしている。
部屋の中央には円状の長机があり、それを縁取るように21つのイスが並べてある。
そこに腰をかけているのがその闇たちだ。
「突然、集めてしまって申し訳ないでアール。だけどこれはとても重要なことでアール」
机が円を描いてあるため、前後ろというものはないであろうが、アール口調で声を放った紳士がきっと中心の部分であろう。
そのため、闇全部の目が紳士に向けられていた。
紳士はまた口を開ける。
「先日のピンカースの中心村を侵略したときについてのことでアール」
そのとき、ゴクリと唾を飲み込む音があちこちで聞こえた。
「ピンカースの中心村である『ミャンマーの村』をワガハイたちは侵略することが出来たでアールが、ここで遅いけれどそのときの"仕事"についてチェックをしてみるでアール」
紳士は手元にある資料をパラパラ捲って目線を動かす。
それを黙って見届ける闇たちの顔は全て影に覆われているため、表情をうかがうことが出来ないが奥底で笑っているように見える。
資料にある程度目を通した後、紳士はふと顔をあげるとある場所に目を向けた。
「『J』、このときは一体何をしていたでアールか?」
紳士は真っ直ぐと黒ローブを着ている男を見ている。
その目を見据えて、お前のところの資料が空白になっているでアール。と付け加えた。
すると『J』が妙にビクついた。
「お、オレっちは…その……」
「何でアールか?」
「気づけば気を失っていたジェイ!」
「………」
真実を語った『J』の発言に紳士は黙り込んでしまった。
『J』はまたビクついてしまうが、紳士が黙っている理由は"呆れた"とかそういうものではなく、真理を追究しているからである。
やがて紳士は、悟った。
「なるほど、『J』は『G』の爆発に巻き込まれたでアールか」
すると、すぐに飛び込む『J』の声。
「そ、そうだジェイ!そうだったジェイ!オレっち爆発に巻き込まれてぶっ飛んじゃったんだジェイ!それで気を失ってたんだジェイ」
『J』は爆発に巻き込まれたときの記憶を一部失っていたようだ。
しかし紳士に言われると全てを思い出し再び騒ぎ出す。それは『G』に向けて。
「『G』ひどいジェイ!周りにオレっちがいることを確認してから爆発してほしかったジェイ!」
「っくくく、何を言う。お前が自分の周りにいたことが間違いだったのではないか?」
「ジェジェ…っ!」
文句を言いつけようと行動に出た『J』であったが、『G』が出している威圧に押しつぶされてしまった。
そんな『J』をチラ見し、それから『G』にはいい笑みを溢す者は、先ほどから凄い勢いでイチゴミルクを飲み干していく赤い唇の女だ。
「何よ『G』ったら、私に腹殴られてからはピクリとも動かなくなったのにぃ?」
それからおほほと笑い出す女に向けて『G』は『J』のときとはまるで違う形相でにらみつけた。
「だ、黙れ!お前のその怠けた声を聞くだけで腹が痛んでくる…っ!」
「重症だジェイ?!」
「おほほっ。みぞおちほど殴られて痛い場所はないわよぉ」
「…た、ただじゃおかせん…!」
「そこの3人、騒ぐのではないでアール」
パンパンと手のひらを打って紳士は3人を黙らせた。
紳士は手のひらを打って魔術を繰り出す者であるが、このときは何も発動されなかったところからすると、きっとコントロールできるのであろう。
注意を受けた者のうち『G』は残りの2人を睨みつけて口を閉ざす。
しかし赤い唇の女は『G』を見ずに紳士を見ている。いや、睨みつけている。
赤い唇が横に開き、チラリと牙が見えた。
「あんたは一体何を考えているわけぇ?急にこんなくだらない確認を取り出してさぁ」
「『B』、ワガハイはこれからの我が一族のことを考えて行動をしているでアール。くだらないとは言ってほしくないでアール」
「ふんっ、あんたが計画するもの全てが変なのよ。今回のも十分に変だったわっ」
「失礼でアール。ワガハイたちの計画は変ではないでアール。…そんなに文句を言うならば『B』、お前の今までの活動履歴を確認してみるでアールか?」
「…ちょ、ちょっと…!」
「ここ4年、お前は毎日イチゴミルクを栄養として取り入れているでアール」
「そこ、プライバシーよ!プライバシー損害っしないでほしいわっ!」
紳士にからかわれ、唇の色のように頬を赤くした『B』は、そのまま俯いてしまった。
飲んでいたイチゴミルクを机の上に静かに置き、膝の上に手を乗せる。
先ほどまで強気な発言をしていた唇もしっかりと閉じられ、噤んでいる。
恥を堪えているのか、それとも過去の過ちを思い出しているのか、『B』は黙り込んだ。
プライバシーを触れられ落ち込む『B』を心配する『J』であったが、右隣の席に座っている者の耳障りな声により、思わずそちらに顔を向けた。
「ねえねえねえ『R』おじちゃま〜。何でさっきから『L』お兄ちゃんがいないのー?ミッキー会いたいのに〜ちぇ〜」
体をクネクネとくねらせながら紳士『R』に質問する彼女のことを『R』は『I』と呼んだ。
「『I』もう少し待ってほしいでアール。今『L』はワガハイの罰則を受けている最中でアール」
「ええ〜?そうなの?ミッキーつまらなーい」
「ぐふふ。当然の結果だヨ。『L』はぼくちゃんの邪魔をしちゃったんだからね。見知らぬ団体を助けちゃってヨ、あいつは本当にお人よしすぎるんだヨ。ホントぼくちゃんああいう男は心底嫌いだね。ってかまず女たらしってとこが嫌い」
「失礼しちゃいますー!『L』様は決してそんな人ではありませんー!L様はあたし一筋なんですよー!あたしの王子様なんですー!キャー!!」
「失せろよブス!お前ホントにうぜえヨ」
「何ですかー?L様は誰にも渡しませんよー」
「誰がいるかあんな女ったらし」
「そんなことないですー。ってさっきから思っていたんですけどーお前の方がさっきからごちゃごちゃがうるせえんだよこのチビっ!失せるのてめえの方だ!」
「おお?何だヨ『K』?やるのかヨ?」
「ああん?おしめをしているガキなんか一発で片付けてやるわぃ!」
「こらこら、『V』も『K』も喧嘩はやめるでアール!」
また場が騒ぎ出したので『R』が急いで止めに入り静けさを取り戻す。
口を開けば注意をされるまでワイワイ口喧嘩を始める闇の存在に頭を抱え、やがて『R』が口を再び開いた。
「全く、お前たちはまとまりというものがないので困るでアール。ワガハイはただ確認をとりたいだけでアールよ」
「んふ。それならちゃんと話を進行してほしいわね『R』。アタシ待ちくたびれちゃったわ」
『R』の疲れ果てた声の上に流れたものはとても美しい音。鳥のさえずりのように滑らかな声だ。
その主である者は『H』だ。
前者を見習うように『I』も乗る
「ミッキーもそう思います〜!ホントはRおじちゃまも確認なんかどうでもいいんじゃないの〜?さっさと本題に入っちゃえば〜?」
「クスクス。『R』よ。そちは我たちをなめておるのか?我はこの会議を早く終わらせてほしいぞよ」
我は人形の手入れをしたいぞよ。と手元の人形の頭を撫でながら『U』までも煽る。
言われたい放題に言われてしまった『R』はまた深くため息をつくと、敵わないでアールなと呟いて見せた。
それから『R』は喉の調子を整えてから、本番へと参る。
「ばれていたでアールか。その通りワガハイはこのような確認をするために皆の者を集めたわけではないでアール」
「はっはっは!随分と長い前ふりだったな、チャーリー」
『R』の身の引き締めはここでまた解かれてしまう。
この場に居てはいけない闇の声が聞こえてきたからだ。
それは『K』の隣の空いてる席から聞こえてくる。
全員がそこを注目しているとぶぶっと空気が歪んだ。
その後、その場に水の入ったバケツが現れる。それは勢いよく机を叩きつけた。
突然のバケツの登場に唖然とするのは『J』。しかし他の闇どもは無表情だ。
やがてバケツの柄を掴んでいる手が空気状から現れ、闇と一体化していた黒マントが払われてパンク風味の服装が浮かぶ。
そしてシルクハットのつばも上げられ、顔の登場だ。
それは先ほどまで噂に上がっていた『L』であった。
『L』の登場にすぐに突っ込んだのは『R』だ。
「何でここにきたでアールか!お前はバケツを持って廊下に立っていたはずでアール!」
「はっはっは!オレがいつまでも黙って立っていられると思ってるのか?」
「しかし罰則は…」
「まあ今回だけはいいじゃんか。この会議、ちょっと興味があるんだ。だからオレもまぜてくれよ?」
パチンと指を鳴らすとたちまち手元のバケツは掻き消される。
『L』はこの場に意地でもいる気だ。じっと『R』を見ている。
そんな『L』の脇下には『K』がいた。目をハートに変えて。
「L様ー。来てくれて嬉しいですー。あたしずっとあなたの帰りを待っていたんですよー」
そのあとすぐに突撃を図る『K』であったが、その場には『L』はいなかった。
次に彼の声が響いたとき、全員の目は『B』のいる方へ向けられる。
「大丈夫かBちゃん?チャーリーにからかわれたんだろ?あんなこと言われてショックだったな」
始めからこの場にいたように『B』が『R』に言われた言葉もまるで知っている。
『L』に宥められ、『B』はかすかに震えていたらしい、肩を抱いていく。
「…大丈夫よっ……」
「Bちゃんだって好きでイチゴミルク飲んでるんじゃないのにな、チャーリーは失礼だよ」
そして『L』はチャーリーこと『R』を軽くにらみつけた。
すると『R』が申し訳なく目を伏せた。
「確かにその通りでアール。ワガハイも失礼なことをしてしまったと今更反省してるでアール」
「はっはっは。まあ、もう言ってしまったことだし、謝ったって何も利も損もならないさ。だからさっさと会議進めたら?」
次に指が擦りあう音がその場に流れたとき、『L』は先ほど現れた場所へと戻っていた。
『K』に襲われないように見えない壁を周りに張り、また口を開く。
「オレもこの会議の本当の目的を知りたいし。というわけでチャーリー、これは一体何のための会議なんだ?」
場を振り出しに戻し、空気を静める。
『L』が現れてからのこの静まりよう、こいつはそんなにも権力があるというのか。
促され、『R』も今度こそきちんと本題へと入った。
「それでは本日の本当の狙いを皆の者に伝えるでアール。ずばり簡単に言えばこの一言に尽きるでアール。きちんと耳を立てて聞いてほしいでアール」
そう前ふりをし、『R』ははっきりとこういいきった。
「今、『P』が作り出している"ハナ"の急激減少についての情報でアール」
闇の雰囲気がどよっと変わった。
それは驚きや疑問、そして武者震いという部類だ。
「人の幸せを表す感情"笑い"が嫌いな『P』は"ハナ"を次々と製造しているということは知ってるでアールな。それは今から2年ほど前からの行いでずっとピンカースを壊していってたでアール。しかしここ近日、"ハナ"の威力が弱まったでアール。それは何故なのか、知っている者おるでアールか?」
ここで突然の呼び掛け。しかし誰も答えなかった。
そのため『R』自ら答えた。
「それは"ハナ"を壊す能力を持っているものがいるからでアールよ。そいつは全部で6つの"笑い"を持っているでアール。その"笑い"に勝てる"ハナ"は今のところいないでアール。だから次々と消されていってるでアール。その足止めをしようとワガハイが何度かその者たちの元へ魔物を送り出していたのだがそれも簡単に消されてしまったでアール」
『R』の口から繰り広げられる世界の真実は闇の者にとっては驚くべき真実でもあった。
そのため固く口を閉ざしている。
そんな中、1人だけ口を開いた。枯れた声が重い空気に乗っかって前へ進む。
「そのような力を持っておる者とは、一体誰なんじゃ?」
その者は年寄りだった。分厚い本を自分の手元に何冊も重ねて、大量に読み更けている。
今読んでいた本をパタンと閉じて、かすかな風を動かす。
その者のことを『C』と呼んだ『R』が答える。
「"笑い"を作っている者は団体でアール。計6人の小団体…"笑い"を作る団体でアールから、こう呼ばれているでアール」
目の色を変えて、言い切った。
「ラフメーカー」
「「………………」」
幾つもの影がどよめいた。
んな団体がいるなんて知らなかったと言う者もいれば、6人の怪しい団体に会ったことがあるという者もいる。
その中で『L』だけが口元を歪めて、場を見届けていた。
人の幸せの感情を表す"笑い"が嫌いである『P』は長い幾年をかけて、"種"を生み出した。
種はまだ未完成。だけど種には未来がある。そう、美しい"花"になるという未来が。
だからいくつもの怨念を込めてやがて"花"を芽吹かせた。
"花"…"ハナ"は"笑い"を吸い取る力がある。
人々から"笑い"を抜き取ってめちゃくちゃにしようという『P』の狙い。
それは2年ほど前から実行されて、狂った症状を生み出していった。
しかし、ここ近日。不思議なことが起こった。
何と"ハナ"が消えつつあるのだ。
それはまだごく少ない数であるが、だけど急激に数は減ってきている。
それは何故?"ハナ"は誰にも消すことが出来ないはずだ。しかし現に消されている。それは何故?
理由はズバリ簡単だ。
"ハナ"を消す力を持っているものがいるからだ。
"ハナ"は"笑い"を吸い取るが、その"笑い"というものは、ありふれている"笑い"。
どんな生物にももっている"笑い"だ。
しかしその中でも究極な"笑い"というものがあり、
それは自分だけではなく周りの者にも"笑い"を溢れさせるという力のある"笑い"だ。
そんな稀な力を持っている者は世界でただ1人"ハナ"を消せるチャンスを持っている者。
"笑い"には5つの"笑い"があり、
それは「ボケ」「ツッコミ」「ハイテンション」「可笑しい」「癒し」。
この5つが合わされば究極な"笑い"となる。
その究極な"笑い"が唯一"ハナ"を消せる力なのだ。
"ハナ"を消すと同時に"笑い"を生み出す不思議な能力者。
それの者のことを『ラフメーカー』という。
「ワガハイたちはこの『ラフメーカー』という者たちをどうにかして始末しなければならないでアール。こいつらがいる限り『P』の計画も乱れ『P』の機嫌を損ねてしまうでアール」
「「……」」
「それと、ワガハイたちは『あの方』に代わって世界を侵略する義務があるということも忘れてならんでアール」
その場に立ち上がって、念を押す。
「我が一族、『エキセントリック一族』の名に掛けて、まずはラフメーカーの始末をするでアール」
その後、「解散」という掛け声で、全闇が、場の空気に溶け込んでいった。
不敵な笑み、不敵な野望、不敵な計画を胸に入れて。
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ここでやっと闇の正体が明らかになりました!
闇の者たちは『エキセントリック一族』という団体です!
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