「うむ。どこを見てもすごいとしか言いようがない」


空から今までの一部始終を見ていたのん気な黒い者は、どこからかプリンを取り出すとスプーンで小さな山を掬い口に入れる。
じっくり味わってプリンの味を堪能してからまた口を開く。


「『G』と『B』ちゃんの対戦は実に面白かった。またやってくれないかな」


チラッと目線を変えて少し奥を見てみる。
そこはほぼ闇に侵略されている地帯であった。


「あれは誰の仕業だ?『C』か?それとも『V』…」


ここで突然強い風が吹いてきた。
頭に乗っけていたシルクハットが飛ばされそうになったため、右手にあるスプーンを口で咥え、大切なシルクハットを支える。
バランスが少し崩れて、足が一瞬だけ宙に踊る。しかし慣れた手つきで元の態勢に戻った。
シルクハットのつばを抓んでいる右手をギュッと下げて、今度は飛ばされないように深く被る。


「どこかで激しい戦いが繰り広げられているのかな」


左手で大きな鎌の先端部分をギュッと掴み、少しばかり動いてみる。
するとまた強風がやってきた。しかし今度は上手く避けることが出来、そのまま前進する。
暫く進むとこの強風の原因となるものを見つけた。


「『L』か。厄介な相手に捕まっているようだ」


何も考えていなさそうな真っ黒な瞳には闇に紛れるオレンジ色がほのかに反射して映っていた。
また吹く強風に扇がれそうになりながらも場をとどめ、眠たそうな目をじっとオレンジ色に預ける。
しかしオレンジ色が闇に侵略されないのを強く願うために結局はその目を閉じることにした。



+ + +



完璧な影人間が関節を使わずこちらに歩み寄ってくる。それはまるでゾンビのようだ。
手を上げ、しかし手首を下に向けて、のっしのっしとメンバーに襲い掛かる。
危険を察してすぐに武器を片手に構えるのはブチョウ。
不死の薬を見つけ心に深い傷を負ったブチョウだけれど場の状況を考えて今彼女は戦おうとしている。
これでこそブチョウだ。
続いてソングも武器を取り出す。しかしそこから出てきたものは場違いなものであった。


「スプーンだった…」


思わずガックシ首を垂らすソングを慰めるクモマを通り過ぎてブチョウは影人間に襲い掛かる。ハリセン片手で。
だが、目の前に手のひらを置かれ妨げられてしまった。


「女の子は出なくていいよ。ここはオレが片付けるから」


それは『L』の仕業だった。右手をここで使っているため左手の指を重ねて音を鳴らし影人間を消していく。
ちなみに気を失っているチョコは無意識に『L』の首に腕を回していたらしく、『L』が両手を離しても離れないようになっていた。
さすがにぶら下がっている状態だとつらいであろうということで少し浮かしている模様。

自分の邪魔をされてブチョウは機嫌を損ねた。


「何よ。私が戦おうとしていたのに邪魔をするとはいい根性してるじゃないの。尻を突付くわよ」

「え、尻!?女の子がそんなハレンチなことしちゃだめだって、あーいたたたたたた!」

「わ!天才エリート魔術師が尻突付かれてる?!」


尻を突付かれ身をよじらせている『L』の貴重な姿を見れてクモマは変な悲鳴を上げる。
その隙に影人間は増殖していく。

瓦礫の上から手のひらを打って魔術を繰り出している黒い男により。


「遊んでいるとワガハイの影にやられるでアール」


パンパンと肩の上で手のひらを打って影人間を闇から生んでく。
この男、姿は全く『L』と同じであるのに、雰囲気がまるで違う。そう、紳士なのだ。
片眼鏡をかけ、ちょび髭を生やしている紳士だ。

紳士が『L』のことを無表情でじっと見据えている。


「まったく、『L』はいつもワガハイの計画を泡にするでアール。困った奴でアール」


呆れたと言わんばかりの口調に鋭く首を突っ込むのはもちろん『L』だ。


「お前の計画ってやつが全て世の中の迷惑ってやつなんだよ!『R』ってば知らないのか?」

「ははははっ。それを知っていてやっているでアール。『L』は自分の存在を忘れているでアールか?」


ここでトーフは思った。
こいつが闇の中心核か、と。しかし紳士は見るところ悪い者のようには見えない。
それならば先ほど現れた『G』とか『U』の方が悪人面だ。いや、『U』はキモ顔だ。

トーフが2人のやり取りを睨んでいる間にも影人間は踊りながらやってくる。
それを『L』が妨げる。しかし口は『R』と呼ばれた紳士に向けたままだ。


「オレの存在は普通の魔術師さ。こんな変な野望のために生まれた者じゃない」

「何を言っているでアールか。ワガハイたちはこれらのために生まれてきたでアール」

「んなはずあるか。とにかくオレは『R』の考えに全面否定な」

「…そうでアールか。それならば仕方ないでアール」


頑固に唇を噛む『L』の様子を見て、『R』は何か考えがあるのか、目をすっと細めた。


「邪魔をする『L』には暫くの間"罰則"を喰らってもらうでアール」

「…ば、罰則…!」


不吉な予感を感じて『L』が大きく目を見開かせる。
対して『R』は細めたまま。


「ワガハイの"罰則"は厳しいでアールよ。それでも良いならば勝手にすればいいでアール」

「………」


しまいには無言になってしまう『L』に向けて『R』はあまり表情変えずに笑って見せた。


「どうするでアール?ワガハイに逆らって"罰則"を喰らうか、もしくは計画を実行するか、きちんと答えてもらうでアール」


そういう『R』の両手のひらは今にも音を立てて重なりそうだ。答えが分かっているからであろう。
そして『L』も答えを口には出さないが心では決めている。だから指を重ねているのだ。今回は両手で。


「今回も"罰則"に喰らってやろうじゃないか。オレ慣れちゃったし」

「まったく『L』は哀れな奴でアール。"罰則"とはいわゆる厳しい罰のことでアールよ」


二言会話が交わされた直後、二つの音が奏でられた。
両手で指をパチンと鳴らして音を倍にする『L』と、パンパンと手のひらを打つ『R』だ。
2人の出す音から繰り出された魔術は、場に大きな衝撃を与える。

何が起こったのか分からなかったメンバーであったが、
分かったことと言えば、『R』が出した大量の影人間が『L』の出す光により掻き消されたと言うこと。
暴れるものがなくなるとやがて場は鎮まった。


「……さすが『L』でアール。ワガハイも敵わないでアールか」

「仕方ないよ。オレは『R』とランクが違うんだから」


先ほどまでの様子からだとてっきり『R』が闇の者の支配者的存在だと思っていたのだが、実際にはランクは『L』の方が上のようだ。
それは今の様子を見れば分かる。『R』の魔術が『L』の魔術に消滅されたのだから。

悪いな、と言って『L』は先を急ぐ。


「あとで"罰則"を喰らうでアール!今回は本当に厳しくいくでアール!」

「…………っ…はっはっは!楽しみにしてるよ…」


冷静に怒鳴る『R』に笑い返す『L』であったが、声だけでも分かる。とてもつらそうであった。
きっと奴が言う"罰則"に恐れているのだろう。

『R』から無事に逃げることが出来たメンバーは、先行く『L』の背中を見て走る。
後ろからであったがトーフが訊ねた。


「あいつは一体何者だったんや?」


てっきり凄い奴かと思ったけどあっけなく倒されたので気になったのだ。
すると『L』は「あいつは本当に怖ろしい奴だよ」と答えた。


「『R』はオレらのまとめ役、…そうだな、学校で例えるなら、オレらが生徒で『R』が先生のようなもんだ」

「先生…」


例えが少し面白みがあるものであったが、実に分かりやすい説明でもあった。
つまり『R』は闇の者たちの前に立って指導をする役だ。……指導?一体何の?


「その中で『C』と『U』と『G』とオレはトップクラスってやつ。んで、先生でも苦手な分野ってもんがあって運動が苦手な先生であれば生徒にああやって負ける事だってあるのさ」


なるほど。『R』は戦闘は苦手なのか。先頭に立つことは出来てもそれは指導と言う形でしか奴は動けない。戦いが不得意ならば後方に立って指令をするのみ。


「だけど先生だってすぐには諦めない。すぐに立ち上がって違う手を出してくる。だからそろそろしたら新手が来るはずだ」


『L』がそう断言した刹那、自分らの右手にあった壁が壊された。
本当にいいタイミングだったので、メンバーの心臓が妙に高まる。

このときに、密かにずっと『L』に抱きかかえられていたチョコが目を覚ました。
しかし憧れの『L』の顔をまた間近で見てしまい、無言の悲鳴をあげ先ほどのようにまた眠りの世界へ戻っていく。
それに気づいたものは『L』以外いないであろう。

壁は壊されたのに、相手はなかなか姿を現してこない。
それなのに辺り一面黒くなっていく。闇が迫ってきているのだ。


「お?何だ何だ?また影か?」

「邪悪に満ちた"気"を感じるわね」

「…おっと、今度は本当に最悪な相手と会ってしまった」


これも『R』からの指令を受けてやってきた者だろう。
メンバーと『L』の目線の先にあったのは邪悪そのものの塊であった。しかしそれは小さいもの。
そして見たことのある容姿に、大口開けて驚いてしまった。

邪悪の塊はメンバーをじりじりに追い詰めながらやがて口を開く。


「やほー。また会ったねー。ぼくちゃん嬉しいヨ」


小さな邪悪の塊の正体はフードを深く被った赤ん坊であった。
赤ん坊の体でローブを着ているため余った裾がズリズリと地面を削っている。

この赤ん坊、メンバーは見たことがあった。
こいつとはこの村に入る前に出会ったことがある。ソングの空色クリスタルのイヤリングに封じ込められていた小さな魔王だ。

そいつに向けて『L』は『V』と呼ぶ。


「最悪だな。『V』ちゃんは遠慮ってもんがないからな」

「ぐふふ。どうする気なの?『R』がカンカンに怒っていたヨー」

「仕方ないじゃん。オレはお前らの考えに反対なんだから」

「それだからいつも『R』の"罰則"を受けちゃうんだヨ。ぐふふ、『L』は愚か者だね。闇の中でも一番のおちこぼれジャン?」


先ほどは紳士との戦いだったのに今度は赤ん坊との戦いか。
というか、何故『L』はこんなにも自分らにいろいろと教えてくれ、そして助けてくれるのだろうか。
今回もメンバーに手を出すなと右手を広げて、メンバーの動きを妨げている。


「オレはこの人間らを逃がしてやりたいんだ。だから邪魔しないでくれないか?」

「何いってんの?お前馬鹿だヨ?『R』の命令聞いてないのかヨ。『L』が受けた指令は"出入り口の封鎖"と"村人破壊"だろ?何でそれをしないでむしろ助けようとしているの?お前馬鹿だ、バーカ」


さんざん暴言を吐く『V』こと魔王に『L』は顔色一つ変えない、その後ろでは子ども嫌いなトーフが目の辺りにしわを掘っている。それを宥めようとサコツが肩を叩き、隣ではブチョウがいつでも戦えるように武器を構えている。
そのころソングは武器のスプーンでへこんでいた。


「オレはオレの道で生きるよ。できれば邪魔されたくないんだけど」

「こっちも邪魔はされたくないんだヨ。お前は身勝手な行動が多すぎるヨ。少しは慎めよキャラメル頭」

「きゃ、キャラメル頭だと?!」


この邪悪なオーラからして、『V』は相当なる闇の使い手だ。対して『L』は闇を使わない。
前に『L』はクモマに言っていた。自分は邪悪な魔術は苦手だと。
だから『V』とは戦いたくないのだろう。全く戦闘態勢に入っていないので。
しかし、キャラメル頭と呼ばれた瞬間、『L』は左手の親指と人差し指を重ねていた。


「キャラメル頭と言われて黙っていられないな。暫くの間『V』ちゃんには眠っていてもらうよ」

「ぐふふ、邪悪を苦手とするお前にそんなこと出来るのかヨ?無理すんなヨ」


『V』も戦闘態勢に入った。
両手を重ねて銃の形を作った『V』は重ねた人差し指を真っ直ぐと『L』に向けている。
違う。『L』の奥にいるメンバーに向けている。


「『L』は邪魔だけど大事な仲間だからね。僕は仲間は殺さないヨ。邪魔なのはそこの人間のみっ!」


邪悪な闇は徐々に徐々に場を占領しつつある。








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『R』はゴボゴの村でちょこっと出ていました。 そして『V』の正体は魔王でした!

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