生きた迷路は多々なる命と協和し、生命を維持する。


41.ジャングルの村


壮大な大地。乾いた空気。サンサンなる太陽。静かな緑。
ここは一面が緑の村。村中が木々なのでジャングルのような感覚をより生み出している。

日光に恵まれない木の幹にはコケがつき、ツタが蛇の如く絡まる。
今までに見たことのない大きな花が大きく口を開いて天まで首を伸ばしている。
木々の隙間からは太陽の光が降られ地面を照らし黄色い道が出来ている、ここはまるで美麗な幻想たる地。
踏み荒らされた形跡もなく、自然にここまで育ったのであろう。

誰もいない緑の村。
しかし静かな空間を貫く、がさがさという音。葉が揺れているのだ。いや、揺らされているのだ。

メンバーの手によって。


「あー何なのここはー!」

「これじゃあまるでジャングルだね」

「空気が綺麗でええやないか」

「…めんどくせえ…」

「探検だ探検ー!この雰囲気が楽しいぜー!」

「うじゃうじゃしていてまるでアフロね」

「それはお前の頭だ」


近くに村があったので訪れてみればこの有様。
人なんていなさそうで、これではジャングル。誰も足を踏み入れてない無の地帯。
こんなところ訪れても意味が無いと思っていたのだが


「ここにももちろん"ハナ"があるんやで」


とトーフが言うので、緑だらけで歩きにくいこの地帯に入ることになったのだ。
ハッキリ言ってここは足の入れ場がないに等しかった。
無数にある緑。この緑はもちろん植物。
奇妙な植物が数え切れないほどに背伸びしている。
天井のようにビッシリと無数にある木の枝からは何の植物から出てきたのだろうか、ツタが垂れてある。
ツタがメンバーの動きを封じたりするため歩くのもツライ。

太陽の光は然程やってこないためいいのだが、何の熱気なのか、この暑さ。額からは汗が流れる。


「それならその"ハナ"をさっさと消してここから去るぞ」


ソングはこんな人間離れした場所から一秒でも早く立ち去りたかったがトーフに首を振られた。


「"ハナ"はもうちょい奥にあるわ。すぐには消すことができへん」

「あれ?今回は"ハナ"の場所が分かるのかい?」


まるで"ハナ"の場所が分かっているように語るトーフ、大きく頷いてみせた。


「ここがこんな奇妙な感じするんも全て"ハナ"のせいなんやわ。ちゅうことで今回の"ハナ"は結構な数の"笑い"を吸っとる」

「なるほどね〜だから"ハナ"の場所も分かるのね」


"ハナ"は"笑い"を吸うほど強烈になる。
"笑い"を見極めることが出来るトーフにとっては"笑い"をたくさん吸っている"ハナ"ほど見つけるのが楽。
そのため今回はすぐに場所を把握することが出来たのだ。


「なら早く消さなきゃならねえぜ!」

「そうなんやけどここは見る限り、大分前から人が踏み入れていない地のようや。道なんてもんないし、歩きにくいわ」


せやからすぐに消すのは不可能だ。とトーフは言うのだ。
それにソングが肩を落とすのに対しクモマは何だか嬉しそう。


「僕、冒険とか好きだからたまにはこういうのもいいかも……。自然の中を冒険だなんて夢のようだ…!」

「夢であって欲しい…。こんな気味の悪い所さっさと出てしまいたい…」


クモマとはまるで逆のソングはガックシとした体を近くに立っていた木に預けた。
そんなソングにサコツは馬鹿にして笑う。


「全く、元気がねえなーソングはよー。こんな自然一杯のところ普通なら遊びたいって気になるぜ?」


ここで思い出した。


「そっか。ソングは昔っから外で遊ばず家に引きこも」

「黙れチョンマゲ!」


からかっている最中にソングからツッコミをうけ、サコツはまた笑うのだった。


「な〜っはっはっは!ソングは弱いぜー。お化けも嫌いなのにこんなところも嫌いなのか?」

「俺はお前らみたいな野蛮児じゃねえんだよ!平穏な生活を送りたいだけだクソ!」

「まあ喧嘩はよして、さっさと歩こうよ」


このままほったらかしにしていたら喧嘩が始まりそうだったのでクモマが間に割り込み中断させる。
トーフものん気に笑ってソングを木から引っ剥がす。


「まあ、そんな遠くはないから、な?歩こうで」

「そうよソンちゃん。頑張って歩こう!」

「頑張ってソング。僕も応援しているよ」

「何なら命綱をつけてやるぜ!ソンちゃん!」

「キュウリと胸毛あげるから歩きなさい」

「待て!そこまで煽らなくてもいい!!人をガキ扱いするな!ってか胸毛はいらん!こら!キュウリと重なるな!!神聖なるキュウリになんてことを」


ツッコミをすることでソングは回復した。


「だからその表現もおかしいだろ!ツッコミで回復する俺って一体何だよ!」

「頑張って歩こう」


メンバーはジャングルのような村を冒険するように歩いていく。
障害物が多くて本当に歩きにくい。ソングが愚痴垂れるのも分かる気がする。
しかしつらそうな表情を見せるのはソングだけだった。
クモマはとても嬉しそうに歩いている。
冒険が好きな彼にはこんな未知なる場は夢のような場でもあったからだ。


「自然はいいね!やっぱりこういうのもたまにはいいよ本当に」


木々が邪魔をしてくるがクモマはそんなのお構いなし。
常に笑顔で歩いていく。
対してソングは沈み気味だ。それをバカに笑うのはサコツとチョコ。
ブチョウは何をしているのかよくわからない。

と、ここでトーフが口を開いた。


「もうそろそろつくと思うで」


するとすぐに首を突っ込んできたのはソングであった。


「助かった。早く消して帰ろう…」

「せやけどなぁ」


前言を不にする接続詞をつけてトーフは続けた。


「何や、変な気がするんやわぁ」

「は?」

「…変な気?」


そう言ったトーフの目はあちこちに動いている。
落ち着きのない表情だ。そのためメンバーも一緒になってあたりを見渡す。

緑一杯のこの村には人なんていないであろう。
何故なら人が住んでいる形跡が全く見当たらないからだ。

そしたらここには一体何が住んでいるの?

そんなの簡単だ。



「…………!」


ひたりと肩が生ぬるくなったと思えば、幾つにも渡って服にしみができる。
上から雫が落ちてきているのだ。
しかし、雨ではなさそうだ。そしたら何?

ヨダレだ。
空からのヨダレ…。


「…ねえ…上に何がいるの?」


チョコが問うた。しかし他の皆も首を横に振るのみだ。


「し、知らないぜ…。でも何かいるよな…俺らの上に何かが」

「変な気がするわ…」

「誰か上見てみなさいよ」

「不吉な気がするから俺はパスする」

「そんなこと言わずに皆で見ようよ。皆で…」


そういうことで全員でヨダレの正体を見ることにした。
恐る恐る空を仰ぎ、そして無の悲鳴。


「「………!!」」


空にはビッシリと奇妙な模様が浮かび上がっていた。
ずっと見ていたら何かの魅了されそうな。それほど危険が漂っている。不吉な模様。
模様はするすると細長く移動し、流れる。ときどき白い部分が見えるが、それは腹部だ。
腹が白くて他がその奇妙な模様。そしてぬるっと細長いもの。
やがてこちらに顔を見せる。

巨大なヘビだ。


「……っ」


全長はどのぐらいあるだろうか。メンバー全員を縦に並べたとしても足りないぐらいだ。それほど大きな巨大ヘビ。
それが今メンバーの上にいる。

二またに分かれている舌がシュルシュル音を立てたとき、メンバーの意識が戻った。
今の状況を把握できるとメンバーは早速行動に出ていた。
悲鳴を上げながら走るという行動に。


「「ぎゃああああああ!!!」」


一目散にバラバラに分かれるメンバー。もう頭なんて回らない。足を回すだけで精一杯である。
巨大なヘビはメンバーを追うために、空を巡る木の枝枝を伝ってやってくる。
まず第一ターゲットは


「ワイはまずいで!ホンマまずいからあきらめてえな!」


トーフだ。


「ホンマやから!ワイなんか食べてもなぁ後悔するだけやで!そや、ソングを食ってみたらどうや!あいつは美味いと思うで」

「こら!何不吉なこと言ってんだこのドラ猫!」

「何でソングんとこ行かへんのや?そんなにワイのこと気に入ってるんかこん変態ヘビ!!ホンマやめてえなあ!!」

「なるほど。ダメ男は食べてもまずいということが分かっているのねこのヘビは。なかなかよく出来てる子じゃないの」

「おいクソヘビ!ドラ猫のとこじゃなくてあのアフロのとこ行け!アフロはきっとうまいぞ!」

「何言ってるのよ偉大なるアフロに誰も手を出せないわよ」

「ホントだ!アフロを見た瞬間ヘビがひるんだよ!すごいね!」

「アフロってすげーのか!俺もアフロつけてみよう」

「あら、そしたらこのアフロ貸してあげるわよ」

「持ってるのかよ!!ってか早速着用するな!」

「あ、すごい!アフロつけた瞬間ヘビがまたひるんじゃったよ!僕にも貸してよアフロ、ありがとう。……あ…快適足長グッズを着用する並にしっくりするね」

「何リラックスしてんだてめえ!」

「あ、またヘビがひるんじゃった〜!やっぱりアフロってすごいのね!」


と、大半の頭がアフロになっているとき、チョコが遅けれども大切なことを思い出した。


「私、動物と会話できるんだった」

「「もっと早く気づけー!!」」



+ +


こうして無事、ヘビから逃れることの出来たメンバーはぐったりとその場に足をついた。
チョコはヘビを宥めるのに必死だったらしく汗を拭っている。


「あのヘビはね、私たちのこと不法侵入者だと思ってたらしいのよ」


しかし、現にそのような気がする。


「そうなんかぁ。あぁビックリしたで。食われるかと思ったわ」

「何、このアフロが全てを助けてくれたのよ。アフロを崇め奉りなさい」

「なぜアフロにひるんだのかわからねえな」


アフロを着用していた者はブチョウにアフロを返却し、ブチョウが耳毛とか変な一発芸をするのでソングが抑える。
そんなころ、クモマはヘビを説得させていたチョコに感心な目を向けていた。


「チョコって本当に凄いよね。あんな大きなヘビとも会話が出来るなんて」


妙な静けさのあるこのジャングルな村で、クモマの声は今までにない響きを帯びていた。
何故だか知らないが、そのときだけつんと鋭くクモマの声が通ったのだ。

だけどチョコは自分のことを褒めているうれしい言葉に微笑むのみ。


「ありがとう。そう言ってもらえると本当に嬉しい」


チョコは生まれてきて一度もこの力を褒められたことがなかった。
自分が住んでいた村では忌み嫌われ、自殺に追い込まれたときもあった。

そういえば、そのとき出会った謎の黒づくめの男。あいつがチョコの不思議な能力に感心なる目を向けていた。
そのときチョコは嬉しかった。だけどその男に裏切られた。
自分の体を乗っ取られ、村を破壊してしまったのだから。

何気に暗い人生を送っているなとチョコは思う。
自分の親も知らないし自分のこの力のこともよく知らない。

自分って一体何なのだろうか。


「チョコの能力はホンマ素晴らしいわな。ワイやて動物の言葉分からんのに、あんたは当たり前のように会話することが出来る。いい能力やなぁ」


トーフも褒めるこの能力。動物と会話することが出来るという能力。
果たしてこれは能力なのだろうか。

だとしたら、どうしてチョコはこの能力を持っている?
能力の意味は何かあるのか?


「も〜やだな〜トーフちゃんまで言うなんて照れちゃうよ〜!」

「ねえ、どの動物とも会話が出来るのかい?」

「魔物とも会話できちゃうのか?」


改めてチョコの力に興味を持ちメンバーは身を詰め寄る。
チョコの頭にはいろいろと疑問が浮かんでいたのだが、自分に興味を持ってくれたことが嬉しくて、いつものテンションで返した。


「うん!大きな動物や魔物…声を出すものなら何でも会話することが出来るよ!」


元気よく笑顔で振る舞い、だけれど頭には幾多の疑問。
自分の正体をあまり知らない彼女。


その頭上にいるのは黒い影。
この黒さはただの影で、本当はちゃんとした色を持っている。
人間の色。

人間はある枝の上で身を低くし、まるで肉食動物が獲物を狙っているときのような形で、じっと下のものを見ている。

いや、狙っている。



「キキ…っ」


それの口から出された声は、あまりにも動物に近いものであった。











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アフロすげー!!

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