魔物と悪魔から放たれた無数の"気"。それらは確実にこちらに向かってきている。
もうダメだ。
そう諦めた刹那の出来事だった。
「「ジャッジャジャーン!!そうはさせっかよー!」」
自分らの前に2つの影が舞い降りてきたのだ。
その2つの影、見たことがある。
そう、あの時マグマ温泉に行っていたのん気な悪魔2人…ドラゴンとトラだ。
2人が敵の"気"を掻き消してくれたのである。
こいつらの存在をすっかり忘れていたメンバーはほぼ絶叫に近い感嘆を上げていた。
「「いたー!こいつらがいたー!!」」
「遅れちゃったな、ごめんよ」
山吹色の髪色をした短髪の悪魔…トラがメンバーに向けて微笑みを溢す。
しかし手には"気"が燃え盛っている。
赤髪オールバックの悪魔…ドラゴンは両手を合わせて"気"を両手分に大きくしている。
「何だかすっげーことになったみたいだな!まさか悪魔もいるなんて、驚いたな!」
「でもオレらが来たからにはもう安心しな」
「…でもあんたらの仲間が…」
トーフがウルフのことを言おうとしたが、トラが覆す。
「あいつは大丈夫だって。めさんこ強いから!」
「……」
あまりにも仲間想いなので、逆に悲しみが込みあがる。
魔物が言うにはウルフは悪魔たちによって倒されてしまったらしい。
もうやられているなんて今更言えまい。
「とにかく、こいつらを倒せばいいんだなぁ?」
「相手が悪魔だろうと関係ない!よっしゃー!行くぞトラー!」
「おうよ、のびちゃんー!」
「だからのびちゃんって言うなってー!」
2人の手に作られていた"気"は魔物と悪魔に向けて放たれた。
上空に何もない空間が出来る。ドラゴンが放った"気"が空に穴をあけたのだ。
対して地上には穴が出来なかった。仲間である悪魔の作られた"気"によってトラの"気"は掻き消されてしまってた。悔しそうに舌打ちを鳴らすトラ。
何故この2人もあの2人も、自分ら助けてくれるのだろうか。
あの悪魔たちが幸運にもお人よしなのだからかもしれないが、もしかすると奴らには何か守らないといけないものがあるのかもしれない。
魔物たちをメンバーに近づけさせないように必死に戦ってくれているので。
いくらなんでもこの必死さはハンパではない。
一体何を守り通そうとしているのだろうか。
「オレらのことは気にすんな!早く『ゲート』に沈んじゃえ!」
「ほら行けよ!ちなみに俺はドラちゃんでものびちゃんでもねえからな!」
けらけら笑う悪魔2人。だけれど2人は手を休めることなく動かしている。
仲間に攻撃するなんて厳しいことだろうに、戦ってくれている。
何故戦ってくれているのか分からなかったが、何だか6人の心が温かくなった。
「ありがとう」
クモマが全員分の気持ちを口にする。嬉しかったのだ。2人の…違う4人の存在が。
だけれど一つ大きな問題があるのだ。
「『ゲート』がどこにあるのか分からないし、捕まえることが出来ないよぉ…」
悔しくて切なくて申し訳なく思えてチョコの声は震えていたが、何とか押し出し2人に伝えた。
そうなのだ。ゲートに入らなくちゃここから出ることは出来ないけど、そのゲートがどこにあるのか分からないし、すばしっこいから捕まえることも出来ないのだ。
だからメンバーは立ち往生しているのだ。
するとトラが「安心しろ!」と全てを覆した。
「オレはなー『ゲート』狩りの名人なんだぞ!オレの手にかかればゲートなんて一発で捕まえられるんだ」
「「マジで?!」」
何とトラはあのすばしっこいゲートを捕まえることが出来るという。
「ならここは俺様に任せろ!トラは『ゲート』狩りしてくれ!」
「合点承知!」
2人の間に交渉が成立し、2人の間に大きな距離が生み出された。
ドラゴンは手に"気"を溜めるのをやめずに戦う。…いわば足止め係。
そしてトラはゲートを捕まえるためにメンバーをここから動かした。
「こっちこっち!『ゲート』を捕まえるにはコツがあるんだ!」
ドラゴンのことが気になるメンバーであったがトラの声に押され前へ走る。
全員が自分の後をついて来ることを確認すると、トラはゲートを捕まえるコツを教えた。
「ゲートは冷たいところが好きなんだ。実は、冷凍庫として扱われている地面が最も冷たい。だからそこの近くにいれば必ず奴は現れる」
やがて陸に緑色の部分が見えてきた。あれは食料を育てている冷凍庫だ。この地では食料は芋のような姿になって自然的に生えてくる。不思議な現象である。
すると何か見えた。緑色の部分の近くにいる黒いもの。
「あ!『ゲート』だ!」
トラの言うとおりであった。黒い水溜りのようなゲートはそこに佇んでいた。
メンバーが目掛けて突っ走ろうとしたそのとき、トラの手が遮った。
「ここはオレに任せな」
狩りの上手い猫科の動物、虎。まさしくトラはその虎の目になっていた。
じっと相手に狙いを定め、態勢を低くし、そして…
「捕まえた!!」
トラの速さは素早かった。彼がそう叫んだときには彼はその場にいなくゲートを足元にしていた。
足でしっかりゲートを固定して、こちらにニッと微笑んでいる。
状況を把握できるとメンバーの表情も和らいだ。
あの素早いゲートを捕まえてくれたのだ。
「ありがとう!」
「いいってことよ。ほら、さっさと中に入って」
「で、でも…」
「なに今更戸惑ってるんだよ。外に出ろよ。お前らはここにいちゃいけないんだから」
やはりドラゴンのことが気になる。本当にこの中に入っていいものだろうか。
そう思っていると、後ろが騒々しくなった。
その中で聞こえる、彼の声。
「やっべー!マジ手に負えねー!ゴメンそっちに向かってしまったー!!」
ドラゴンの悲鳴だ。それと共にやってくるのは無数の魔物と悪魔。
この様子から取り逃がしてしまったらしい。
まるで蜂の巣を落とし蜂に追われているようにドラゴンが必死にこちらへ向かって走ってきている。
違う。蜂のような魔物と悪魔がメンバーの元へ一目散にやってきているのだ。
それを阻止しようとドラゴンが前に出ようとしている。
しかし団体を止めることは難しく、一度流れ出したものは止めるのに困難するもの。
そのためこの有様だ。
げえ!と悲鳴を上げるトラ。メンバーも同じだ。
「マジで?!ドラちゃんにも手に負えなかったの?!ならオレでも無理じゃん!」
「ドラちゃんとか無理とか言うな!俺ら2人力を合わせればぜってー倒せる奴らだって!ってかもう『ゲート』捕まえたんだろ」
トラの足元にはゲートがある。
ゲートの端を踏みつけて、逃げないように。対しゲートは逃げようと必死に体を伸び縮みしている。
きちんとゲートがあるかを確認してトラは頷いた。
「ああ、捕まえたぜ」
「よっしゃ、…おい!てめえら!」
ここでドラゴンは必死に走りながらもメンバーに向けて叫んだ。
「俺らがここで足止めしとくっから『ゲート』に入れ!」
「う、うん…!」
ドラゴンに煽られ、メンバーはゲートまで足を進める。
だけどその足はとても重い。
このゲートの中に入れば魔物だって自分らを追って地獄から抜けることだろう。
だから自分らはこうやってゲートを探していた。
しかし、何だか不吉な気を感じる。
何故悪魔も自分らを追っているのだ?
悪魔も自分らを倒そうとしているのか?それともまた別な……
「ぐずぐずすんな!さっさと『ゲート』に入れ!!」
メンバーがゲートの中に入るのを躊躇っているとき、ドラゴンが一足先にメンバーの元へやってきた。
そしてすかさず足を上げる。
前もって打ち合わせをしたようにトラも一緒になって足を上げて。
「俺らのことは気にすんな!とにかくアレさえ渡してくれなきゃいいんだから!」
「じゃーな!もう二度とオレらの前に現れるなよ!またこんな目に会うからなぁ!」
2人の足はメンバーを蹴り上げゲートの中に突っ込んでいた。
ゲートも幸いにも領地を広くしてくれていたため見事全員分の体が沈む。
「あ!そんな…!」
突然ゲートの闇に入れられ、もがくメンバー。
何だかこの中に入ったらいけないと思えたからだ。
しかし体はお構いなく沈んでいく。体が地上へ戻ろうとしている。
必死に顔を上げる。すると見えた。
ドラゴンとトラの笑顔だ。
「悪いな、ここの悪魔はもうお前らの敵だ。だけど絶対に『アレ』を渡すなよ。そんなことしたら俺らの努力が水の泡になるから」
「お前らは気にせずいつもの生活送ってくれよ。この問題は全てオレらのもんだから。…騒ぎに巻き込んでゴメンな」
「「そういうことで、じゃーなー!」」
やがてメンバーの体は完全に闇の中に溶け込んだ。
『アレ』を持っているメンバーがきちんと闇の中に消えたかを見やってからトラはゲートを逃がす。
消えた6人に対し、そこに残ったのはドラゴンとトラと大量の魔物と悪魔。
『てめえら、よくも逃がしてくれたな!』
『奴らがアレを持ってたんだぞ』
魔物と悪魔が形相変えて2人を睨む。
2人も無数の敵を睨む。
「まさかウルフとトンビはお寝んねしたのか?」
「…ヤバイよドラちゃん。絶対敵わないって…」
強気な声を出すドラゴンと弱気な声を出すトラ。
2人は身を寄り添い、だけれど拳には"気"を溜める。
しかし上空にも目の前にも"気"は揺らめいている。
『てめえらもお寝んねの時間だな!』
『アレを逃がしやがって…許さない!』
「いいんだよ!アレはてめえらに渡ったらいけねえもんだから!」
「そうだそうだ!お前らの意見にオレら反対ー!」
『うぜえんだよ。お前らは』
地獄1丁目では、大きな揉め事が一件。
無数の爆発が伴い、場は荒れていく。
全てはアレを手に入れたいためという強い願望のために。
+ + +
「ねえ!本当にこれでよかったのかい?」
地獄のゲートから地上のゲートへ出たメンバーは無事元の場所…車を止めた場所に戻ることが出来た。
しかし心だけが戻らない。
不安が募って心が軋む。
「これで地獄から魔物が出てくれればええんやけど…」
「でも…魔物来そうにないよ……」
「マジでかよ…まさかあいつらがまだ戦ってるんじゃ…!」
「意味がわからね。魔物は俺らを追っていたんだろ?何故あいつらが戦わないといけないんだ。もう戦わないでいいはずだ。地獄には俺らがいないんだから…」
「戦いぐらいこちらで引き受けてもいいのに、地獄内で済まそうとするんじゃないわよ」
ゲートを伝って魔物はこちらに来ようともしないし、どこを見渡しても来る気配を感じない。
結局ゲートは逃げるように去っていってしまった。もう地獄に行けない。様子を見ることも出来ない。
果たして、あの悪魔たちは無事なのだろうか。
「『アレ』って何のことだろう?」
残ったものは、不安と悲しみと苛立ちと、疑問。
ドラゴンが最後に言っていた言葉。「『アレ』を渡すなよ。そんなことしたら俺らの努力が水の泡になるから」。
アレとは一体何なのだ?
まさか、魔物も悪魔もその『アレ』を手に入れたいために自分らを追っていたのか。
そしたら『アレ』とは何だ。
誰が『アレ』を持っているのだ。
全て疑問として残る。
心の中はいつしか疑問しか残っていなかった。
そして口からは祈りの声。
自分らのために戦ってくれた…いや、『アレ』を守り通そうとした勇敢なる悪魔たちの無事を、延々と祈るのであった。
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悪魔たちは無事なのか?ってか『アレ』って何?
…あ、しまった。"ハナ"を消すの忘れてたよ(うわっ
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