「前までこの地獄には花なんてありませんでした。だけどついこの前見つけたんですよ。綺麗な花一輪を」


地獄に花畑があるなんておかしいと思ったトーフはすかさずトンビに訊ねてみ、驚くべき返事に目を丸くした。
間を開けずに首を突っ込んだ。


「地獄には花は生えんもんなんか?」

「そうですね。太陽の光を浴びないこの地域では全く植物は育ちません」

「え?でもこれは…?」


割り込んできたクモマの方を振り向くとクモマは地面に向けて指を指していた。
数メートル先に生えている緑色のもの。それは見るからに植物のように見えた。
地面に茎を這うその植物を見てトンビはふふっと笑う。


「あ。あれは植物ではありませんよ」


すると1人でそこまで走って地面を緑色にしている茎を掴むトンビは、そのままぐいっと空に向けて引いた。
緑色の茎の先にはもちろん根がついている。根は地面に張られていて、べりべりと音を立てながらどんどんと姿を現す。
そして見えてきた。それの正体が。


「これは、パンですよ」


長い長い根の先についていたものは何とパンであった。袋に覆われているパンの姿を見て、無論メンバーは大口開けている。
当たり前だ。パンが地面にあるなんて。


「この地域ではパンやらの食料はこのように地面に埋もれているんです。ここの地面の中は冷凍機のように冷たいので保存法としてこの方法が使われているのですよ」


さすが地獄。普通ではありえない光景が当たり前のように成り立っている。


「しかも地獄にはお店などもないので、地面に埋もれている食料を見つければ勝手に食べても結構ですから皆さんも小腹が空いたら是非食べてみてください」


トンビが笑顔をそう声を掛けた直後動いているメンバーの姿があった。
実は前々から食料を尽きていたメンバー。結局あのゴボゴボに占領された村でも食糧を蓄えることができなかった。
そのため遠慮という二文字はない…いや消滅している。


「何だあいつら」

「はは…地獄の食料は自然に地面で生るので遠慮しなくても………えっと遠慮というものが見られませんね皆さん」

「ありゃ悪魔だな」

「違う意味での悪魔ですね」


本物の悪魔に「悪魔」と呼ばれてしまったこの旅人団体。
しかしこの光景を見たら誰だって悪魔といいたくなる。本当に遠慮が見られないのだ。
地面に生っている茎を見つけたらすかさず引き、中にある食料をゲットする。
「これでぎょうさん食うことができるわーえへえへ」と笑っている小さな影がある。
奴が中心となり、地獄の食料を大幅に減らしていく。怖ろしい。

やがてメンバーの懐が膨らんだところで、ウルフが動き出した。


「もういいだろ。さっさと行くぞ」

「ホンマおおきに。これでぎょうさん食えるで」

「よかったですね」

「久々に腹いっぱいになれそうだぜ!」

「アフロが釣れて幸せだわ」

「アフロはあったのにキュウリはなかった…」


「ウルフさん」


後ろでわいわい騒いでいるメンバーのことも考えずにさっさと歩いていくウルフの後ろからトンビが呼びかけた。
応答はあるが振り向かないため、横顔を見るため走る。それからトンビが眉を寄せて訊ねた。


「何だか機嫌が悪そうに見えますけど、どうしたんですか?」


顔を覗きこんでみると、横顔になっているウルフの眉がピクリと動いた。


「気のせいだ」

「…………まさか、ウルフさんも感づいたんですか?」

「……何」


トンビの台詞にここで初めてウルフはトンビの顔を見た。
目が合い、トンビは目の位置に戸惑いながらも結局はウルフの顔を見て、言葉を続ける。


「あの、僕もあの人と最初会ったときからピンときたんです。ウルフさんも先ほどからチラチラと様子をうかがっているようでしたから」

「……ふっ」


ウルフは鼻で小さく笑う。


「何だ、お前も気づいていたのか」

「はい。あの方の"気"を感じ取れましたので。あの方の"気"は強烈ですから、特に悪魔には気づくことが出来ます」

「そうだな。まさかこんなところで見つけることが出来るとは。だが」


ここでウルフは機嫌が悪いのか目の辺りを強く顰めた。


「ここでそれの話題を出したら他の悪魔にも気づかれてしまう。そしたらまずい。世界がダメになってしまう。それから逃れるために見逃すしか出来ない」

「……ウルフさん」

「他の悪魔どもと俺とは考えが違う。全くの正反対だ。しかも向こうの方が人数も圧倒的だ。俺のほうが負けるに決まっている」

「…」


歯軋り鳴らしてウルフは言い切った。


「ここでは見逃そう。他の奴らに気づかれないようにそっと逃がすとしよう」

「…そうですね。僕もウルフさんと同じ考えなので、あなたについていきます」

「ふっ。お前はよく出来た手下だな」

「あ、ありがとうございます!」


コウモリのような皮の翼をゆっくりとはためかせながら悪魔2人は歩いていく。
後ろのメンバーに気づかれないようにこそこそと小声を出し合いながら。

メンバーはそんな悪魔にも目を向けずに食料を手に入れたことに心を喜ばせていた。



暫くこの形で歩いていると、目の前にあるものが過ぎった。
最初は何か分からなかったし、影のように黒かったので、きっと頭上に何かが飛んでいるのだろうと思った。
しかし空を仰いで見ても、それらしいものはなかった。とするとこの影はいったいなんだったのか。

素早い影。いやこれは影のようだが、よく見てみるとそれは闇色の水溜りだった。


闇の水溜り……。



「ねえ!あれって!!」


チョコが悲鳴に近い声を上げた。
そう、あれは自分らが追い求めていた『ゲート』。地獄から地上へ帰れるたった一つの出入り口。
そのためチョコは歓声を上げていた。


「『ゲート』だよ!あれに入りさえ出来れば私たち帰れるのよね!」

「そやで!やったやないか!こなはよから見つけることができて」

「よっしゃー捕まえようぜ!」

「本当に素早いゲートだね」

「まるでアレのようね」

「どれだ?!」



早々とゲートを見つけることが出来、メンバーもつられて歓声を上げ、早速捕まえようと手を伸ばした。
しかしゲートは本当にすばしっこかった。捕まえることが出来ない。
手を伸ばしても、ぐんと奥に引っ込んでしまう
。足を伸ばしてもクモマは届かない。だけどあのソングやブチョウでさえも長い足で捕らえることができなかった。


「やべーぜ!めっちゃ速いぜ!」

「でもあれを捕まえないと私たち帰れないのよ!」

「おい、てめえらも手伝え」


ソングの声は、ゲートを追ってあちらこちらへ手と足を伸ばしているメンバーを眺めている2人に向けられていた。
悪魔2人のうちウルフは何も応答しようとせず、トンビが口を開く。


「僕たちでも捕まえることが出来ないんです。だからあまり地上に行かないんですよ僕ら」


だから頑張ってください。とトンビは手を振っていた。手伝う気ゼロのようだ。
それにソングは舌打ちを鳴らしてまたゲートを追う。しかし本当にすばしっこくて捕まえることが出来なかった。

そして結局ゲートに逃げられてしまった。


「あいたこりゃ。無理だったわね」

「クソ!何て奴だ!ただの出入り口のくせして」

「せっかく帰れると思ったのに〜!あーあ、またイチからかぁ」

「ドンマイや。また今度捕まえようで」


肩を前に突き出し、メンバーはガックリと態勢を縮めた。
せっかくのチャンスを逃してしまったからだ。早くこんな地獄から出たい、と思うメンバー。
しかしクモマは首を振っていた。


「もうちょっと観光していようよ。あと、花畑も気になるし」


それを聞いて、トーフが思い出したように声を上げた。


「そや!花畑が妙に怪しかったんや!はよ行って様子を見てみようで」


このトーフの台詞でメンバー全員があることを察した。
トーフはこう思っているのだ。「花畑に"ハナ"がある」と。
本当にどうかはわからないが、地獄に花は生えたことがないのに一輪の花が咲いたとトンビが言っていた。
こんな摩訶不思議なこと、きっと"ハナ"の仕業である。
ここまでは話していなかったが、トンビのその言葉の続きも何となく分かる。
一輪の花から二輪へ三輪へと増殖し、花畑になった。と。

きっと最初に生えた一輪の花が"ハナ"だとトーフも他のメンバーも思った。


「花畑でしたらもう少しで着きますよ。本当に綺麗なところなんです」


メンバーがそんなことを思っているとも知らずにトンビは笑顔を輝かせてくる。
隣を歩いているウルフは無表情だ。


「ドラゴンもトラも気に入っている場所だ。…俺は悪魔に花はあわないと思うのだが」

「俺は花好きだけどなぁ」


そのとき突っ込んできたのは、あのときウルフに喧嘩を売られたサコツだった。
メンバーが目を丸くしている隙にウルフはまた目の辺りを顰める。


「裏切り者の悪魔め、お前の意見なんか聞いても何も利益にもならねえよ」

「っ!」

「ちょ…ウルフさん!もうよしてくださいよ!何だかこの人だって理由があるみたいじゃないですか」


今度は止め役が1人しかいないためトンビは必死に腕を回していた。
腕を捕らわれたため払いながらウルフは舌打ちをならす。


「俺は弱い悪魔なんて嫌いなんだよ」

「もーウルフさん!」

「…………はあ、やっぱ俺、この人苦手だぜ…」


大きくため息をつくサコツは心臓をバクバク鳴らしながら後ろへ下がり、そこにいたブチョウと話し込むのであった。


そうしている間に地獄とは思えないほど色鮮やかな色彩を見ることが出来た。
例の花畑についたようだ。
フワリと優しい花の香りが漂ってくる。自然の匂いだ。これだけで地上の感覚を取り戻せる。


「ここがお花畑です。綺麗なところでしょう?」

「うん、すっごい綺麗〜!」


微笑むトンビが手を寛大に広げ、花畑の広さを強調させる。
その手前でキラキラと目を輝かせているのはチョコだ。さすが女の子、こういうのには目がないのか。


「『L』さんがくれた花束みたいに綺麗〜!でもやっぱりあの花の方が綺麗かなへへへへへへ」


基準がもうおかしくなっている。そして誰も突っ込まない。


「それにしても本当に綺麗なところだね。これじゃ地獄と分からないよ」

「本当ね。ここで思い切りアフロローリングをしてみたいわ」

「んなキショイことするな!ってかアフロが釣れて以来ずっとアフロだったのか?!」

「やっぱ俺は花は好きだぜ。心が癒されるから」

「そうやな。サコツ、あんたあんま気にするんやないで」


ここに着てから何だか落ち込み気味のサコツをトーフが宥める。
しかしウルフの強い視線が怖かった。悪魔の中でもウルフが怖ろしく怖い。
そのウルフが口を開いた。


「お前ら、荒らすんじゃないぞ」

「分かってるぜそのぐらい」


ピョンピョン花畑を駆け回るメンバーを心配そうに眺めているウルフの表情がまた怖ろしいものに変わった。

獲物を見つけた狼の如く、目を鋭くし、その目線をサコツに向けている。


「その汚い体で花畑に入ろうと思っているのは間違いだ」

「…な…!」


サコツの方を見て発言するウルフに、メンバーは目の色をギラっと変える。


「いくらなんでもそれは言いすぎだよ」

「ホントホントーその暴言サイテー!」


しかしその中でトーフとブチョウとソングだけが目の色どころが顔色も変えていた。


「……ちゃう。それはサコツに向けて放たれた言葉とちゃうで」


サコツはウルフを見ている。
ウルフもサコツを見ている。


違う。


ウルフはサコツの後ろを見ている。




「だから、入ってくるなと言っているんだ!」


ウルフの拳には見る見るうちに邪悪な"気"が溜まっていた。
それは悪魔時のときにサコツが出していた"気"と似たようなものだった。


そして気はサコツに向けて放たれた。
ぶつかると思い、思わず目をギョっと見開くサコツ。しかしそれは違う意味で開いていた。


ウルフが放った"気"は大きく弧を描き、サコツにぶつからず、サコツの後ろのものに当たったのだ。
そして聞こえる、醜い奇声が。


「あら、いやねー。こんなところにも出るのね、魔物」


ブチョウが呆れたと目を細めながら、サコツの後ろで豪快に倒れる魔物を見ていた。












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マグマ温泉に入っている馬鹿悪魔2人は今、マグマ温泉で背泳ぎ中です。

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