見渡す限り、様々な店が広がっている。


4.ショップの村


ラフメーカーたちは村の門の近くに車を止めると
エリザベスと別れを惜しむサコツを白い目で見て、村の中央へと向かった。

村全体が賑わっていて、見る限り"笑い"がないようには見えない。
トーフ曰く、この村はあまり"ハナ"の被害にあっていないらしい。


そして、今彼らは、とある飲食店に座っていた。


「お腹すいた〜」


いつまでも元気なチョコが手足をバタバタさせそうな勢いで嘆く。
同じくサコツも騒いだ。


「全くだぜ。何でもいいから食べようぜ」

「さあさあ、皆好きなもの食ってくれや」

「本当にいいの?トーフ。僕100Hしかお金持っていないんだけど…」

「ええでええで。みんな金のことは気にせず食ってくれ」

「優しいねー。トーフちゃん」

「んじゃ、遠慮なく食べようかしら」


そしてブチョウは店のマスターを呼び出した。


「はい、お客様。何になさいますか?」


なかなかいい男のマスターが駆けつけてきた。
マスターを見て、ブチョウが注文した。


「私はあんたが欲しいわ」

「何言ってんだよ!!」


ブチョウは男に目がないらしい。
危ない言葉を発したブチョウにソングはツッコミをいれ、そのまま自分の注文を言った。


「俺は、野菜のスープでいい」

「はい、かしこまりました。」


それを聞き、トーフは思い出していた。
そういえば、ソングの許婚のメロディがソングが野菜が好きっていうことを知っていて夕飯を野菜メドレーにしていたということを。


「僕は骨付き肉でお願いします」


ソングに続けてクモマが注文する。
そして、またトーフは思い出す。
クモマと最初に出会ったとき、クモマは骨付き肉を頬張っていたということを。


「フルーツの盛り合わせをお願いね―!」

「俺は生肉でいい」

「な、生?!」


チョコの後に続いたサコツの注文を聞き、トーフがすぐに反応した。
そのまま叫んだ。


「生はあかんわ!肉は焦げ目がつくまでじっくり焼くのがええんやで!」

「何言ってんだよ!肉は自然のままが一番!生肉がおいしいに決まってるだろ!」

「おかしいで?!生肉なんて、血がべったり付いていて…気持ち悪いやんか〜!」

「焼きすぎもどうかと思うぜ?焼きすぎると硬くなってまずいだろ!」

「その中間を食え!お前ら!!」


永遠と続きそうな言い争いにソングが首を突っ込んで来た。
こういうときにツッコミ人は役に立つ。

全員分のオーダーを取り、マスターは軽やかにその場から去っていった。
マスターがいなくなったことを確認するとクモマが最初に口を開いた。


「本当にいいの?トーフ。あんなにたくさん注文しちゃったけど…そんなにお金ないよ」


クモマはまだ気にしていた。
微笑み、トーフが応えた。


「大丈夫やねん。ワイに任せとき」

「…うん」

「ほんで、これから先どうするんだ」


サコツが話題を変えた。
全員が真剣な眼差しに変える。


「そうやな。まず最初にある程度の買い物を済ますか」

「車の中を照らすランプと、車がクモマに壊されたとき用の予備品でも買うか」

「ちょっと待って。車を壊すって失礼だね」

「お前はバカに力強いからいつ壊されるかわかんねぇだろが」


突っ込むクモマに突っ込み返したソング。
先ほどの発言より、彼は意外に真面目みたいだ。


「私は水が欲しいなー」

「食べ物もほしいわな。そう簡単に村つけるかわからんし。もしかしたら数日も村にたどり着けない場合もあるからな」

「そうだね。水も食べ物もたくさん買おうか」

「何か面白いな。遠足気分だぜ」


これらの会話を聞いてサコツが笑い声を上げた。
確かに、このような計画を立てていると、遠足や旅行に行くみたいだ。

とそんな風に賑わっているとき、マスターが両手いっぱいに料理を持ってきた。
その場にいい匂いが漂う。


「お待たせいたしました。これで全部です」

「おおきに、あんさん」


お礼をいわれマスターはいい笑顔を作る。
そして、早々とその場から去っていった。

目の前の美味しそうな料理に唾を飲み込む。


「わー美味しそう〜」

「皆遠慮なく食べてくれや」

「待って!キミ食べるの速いよ!」

「もう少し遠慮しろよ」

「よ〜し!トーフに食われる前に食ってやるー!」


サコツの言葉を合図に、全員料理に飛び掛った。
サバンナの肉食動物が獲物を奪い合うときのような、そんな凄まじさ。
他の客も、その様子には驚いているようだ。


「きゃー!フルーツとらないでよー!肉食べちゃうよー!」

「残念だったな。俺の肉は生肉だぜ☆」

「野菜スープは全部俺に食わせろ」

「野菜なんて食べないよ!!でも肉は取らせないよ!僕の肉!僕は肉しか食べれないんだから!!」

「マスター。アフロ頭に黒メガネの男の子が似合いそうな料理ってないかしら」

「申し訳ございません。当店にはそのような料理はございません」

「品ぞろい悪いわね。ケチンボ!アメンボよりたちが悪いわ」

「…」

「トーフちゃん〜!私のフルーツ食べないでー!!」

「早い者勝ちやねん。こんなときはバーっ食うのがええんや」

「隙あり!食らえ!生肉スラーッシュ!!」

「ぎゃー!何しやがるんだ!てめー!関係ない俺に当たってくるな!しかも生肉で!」

「一人で優雅に野菜スープなんか食ってるんじゃねーよ!坊ちゃん気取りか!」

「てめーらが野生化しすぎなんだろが」

「ねえねえ。生肉って美味しい?僕にも食べらせてよ」

「クモマ、生は食べたらあかんで!血生臭いで」

「そんなこというな!ほれほれ生肉ボンバー!」

「わー!何するんや!生肉が目に染みるわー!」



あまりにも酷い光景のため、これ以上放送できません。



「はあー食べた食べたー」

「意外に生肉って美味しいんだね」

「だろだろ?生肉最高だろ!」

「ここの料理は品ぞろいが悪かったわ」

「お前が無茶な注文とるからだろが」

「みんな腹膨らませてくれたか?」


笑顔を絶えさないメンバーにトーフは問い掛ける。
それに異常なテンションで返す。


「うん、ありがとうトーフ」

「美味しかったよートーフちゃん〜!あ〜りがと〜!」

「生肉最高!だけどエリザベスの方が最高だぜ!」

「腹は膨らんだが、やっぱり味はイマイチだったな」

「マスターがイケメンだったから許すわ」

「えかったえかった。喜んでもらえたようやな」


全員の笑顔に頷くトーフ。
そんなトーフにクモマが、再度訊ねた。


「本当にトーフが全部払ってくれるの?すごい量の料理だったけど…」

「ホントだぜ。あんま無理するんじゃねーぞ?金が足りなかったときは俺の笑顔が代金だ」

「無茶なこと言うな」

「私もお金出すよ?でもあんまりお金ないけどね…」

「足りなかったときはカツオの一本釣りに挑戦してみるわ」

「お前は意味がわからねーよ」


全員がトーフに同情の言葉を送った。
受けてトーフは微笑み返した。


「ホンマおおきに皆」


そして、細めていた目をゆっくりと開いた。


「ほな、今からワイの技を皆に教えたるわ」


いきなり何を言いの出すのかと、驚くメンバー。
トーフは声を抑えて続けた。


「皆、走りには自信あるか?」

「…?」

「ワイの技は素早さが最も重要や」

「…」

「この技はな、ゆっくりとしとたらあかん。素早く、適当な道に進まなあかんのや」

「…」

「相手は必ずワイらを追ってくる。せやけど焦ったらあかん。慎重に走り続けるんや」

「…それって…?」

「あぁ」


頷き、そして、トーフは、言い切った。


「食い逃げや!!!」


そういい残すと、トーフは早々とその場から離れていた。
その場に残されたメンバー。
突然のことに、呆然とし、そして、状況がつかめた者から勢い良く走りに参加した。


「待てよ!トーフ!食い逃げしちゃうのか〜!」

「白ハトになったらこっちのもんだわ」

「あ、姉御ずるい〜!」

「あぁ〜だからお金が無くても大丈夫だったんだ」

「いいのかよ?!本当にこれでいいのか?!」


パニック状態でメンバーもトーフと共に走った。
店のマスターもメンバーの食い逃げに気づき、急いで追いかける。
しかし、意外なことに全員素早かった。
こういうときに人間は心の底の力を発揮させる。

初回から見事食い逃げに成功したのだった。


誰も追わなくなった今、トーフは速さを緩め、そして、その場に止まった。
伴いその他のメンバーも止まる。

呼吸の乱れたメンバーにトーフが微笑んだ。


「皆、いい腕しとるやないか。初っ端からかっ飛ばしたな」

「待って待って…。食い逃げって…あんまりだよ…」


ゼエゼエ息を荒くしクモマが意見を述べる。
相当頑張って走ったらしい。


「あぁーそういえば、トーフってこの前俺の働いていた料亭でも食い逃げしていたな」


何故か全く呼吸の乱れていないサコツは一人で納得した。
そして、誰もが無言になった。
空気を取り込むのに忙しいのだろう。
そんなメンバーの様子を見て、トーフが言った。


「ほな、次は買い物するで」


トーフは容赦しない。
早速行動に移した。
対し、疲れた様子のメンバーは、一度苦い表情を作り、トーフの後についていった。




この村はやはり見渡す限り店でいっぱいだった。
いろんな種類の店が、一本の道にずらりと並んでいて。
どの店を覗こうかと悩む。


「皆好きに見とってや」


そして、まだ買うんじゃないで。と念押しし、
トーフは早々と自分の欲しいものを見にいってしまった。

なんて無責任な奴なんだと睨みながらもメンバーも店の中を覗く。

ソングは計画通りランプを見にいったようだ。姿が見えなくなっていた。
サコツとチョコは一緒に食べ物を見にいったらしい。
ブチョウは通りかかった犬に踏まれていた。
クモマはただポケっと空を眺めていた。

皆それぞれ欲しいものを見つけたとき、早々といなくなっていたトーフが戻ってきた。
ピョコピョコと皆の元へ歩み寄り、メンバー全員も同じく歩み寄る。
円陣を組んで、トーフが口を開いた。


「皆欲しいものを見つけたか?」


それにチョコが頷いた。


「見つけた見つけた。美味しそうな食べ物や水、あったよー」

「ランプもあった。結構高かったけど…」


意見を聞き、トーフは頷く。


「金とかも気にせんでもええんやで。金なんか使わへんのやから」


聞き、メンバーは険悪の空気に包まれた。


まさか…


「欲しいものは、このように懐に仕舞い込むんや」



後ろに並んでいた店の果物をトーフは何気なく自分の懐に仕舞い込んだ。
それ見て、おいおいおいと突っ込む。


「万引きかよ万引き!」

「言っとくけどな。ワイは今まで一度も金を払ったことないんやで」

「自慢げに言うな、自慢げに!」

「あ、ついでにワイはすでに欲しいものは仕舞い込んだで」

「もうしてた!」

「おい、トーフ!俺、果物を胸のとこに仕舞って、巨乳風味にしてみたぜ」

「何してんだよ!!」

「きゃー、サコツ私より巨乳〜!」

「えっへん」

「あほか!」


つっこんでばかりのソングにトーフがやってきた。


「ほら、あんたもはよせんか」

「万引きとかやってたまるか!」

「…しょうがないわ。ほなワイが代わりに盗んだるわ。どのランプが欲しいんや?」

「あぁ。この金色のランプだ……ってこら!盗むな!!」

「さすがにランプは大きくて懐に入りにくいわ」

「だからするなってお前は!」

「これでほしいもん全部やな?ほな早速逃げるでー!」

「話聞けー!って、皆もすでに万引きしちゃってるのかよ!」


そして、メンバー全員は華麗にその店から飛び出した。
メンバーの服は先ほど見たときよりも、異常に膨らんでいて…。
トーフを先頭にメンバーは逃げていた。
そして


「ねえ。どこに行くの?トーフ」


ずっと先頭を走るトーフにクモマが疑問を吐いた。
背後から聞こえてきた声にトーフは懐のモノを抱えながら応える。


「これからがワイらの本当の仕事やで〜。まーついてくるんや」


そうトーフは不敵な笑みを浮かべるともう何も言わなかった。
クモマはその笑みの意味がわからず、黙って彼の後についていった。


そして、気がつくとメンバーは人通りのない、静かな場所へときていた。
森の中なのか、緑が多い。
そして、静寂が不気味さを増す。

"森"ということでつい先日のことを思い出し、厳しい表情を作るソング。
彼女のことを思い出しているのかもしれない。
他メンバーは道に迷いそうになりながらも何とかトーフについていく。


そして、トーフは動きを止めた。
口をゆっくりと動かした。


「見つけた。ここや…」


トーフが止まったことに気づき、メンバーは速さを緩める。
トーフの隣までやってくると足をとめた。

目の前の光景を見つめた。


「これは…」


クモマが声を漏らす。
目の前にあるモノに釘付けだ。

頷き、トーフが答えを述べた。


「ワイらの敵、"ハナ"や」


それを聞き、目をギョッと見開いた。

"ハナ"と呼ばれた、そのモノは
毒々しい色をしており、形も奇抜。
だけど茎や葉があるとこから、植物なのだろうということが何とか分かる。

彼らの目の前には、"ハナ"がポツリと不気味に咲いていた。


「これか…」


"ハナ"を見てソングが睨む。


「こいつを消せば"笑い"が戻るんだろ?」


サコツの質問にトーフは頷き、付け加えた。


「せやけどこの村だけの"笑い"が戻るだけや。他の村には全く何も影響はないで」

「意外に簡単に"ハナ"を見つけることが出来たね」


のんびりと感想を述べるクモマにトーフは笑みを作った。


「"笑い"がやけに多く集中しとる場所に"ハナ"が生えてるんや。ほら、村中の"笑い"を取るんやからその分の"笑い"が集まっとるんや」

「なるほどね」

「それにしても、気持ちの悪い花よね」


"ハナ"の容姿に嫌悪を抱くチョコ。
対し、首を振って応えた。


「村によって形は全く異なるんや。大きさも異常に大きいのもあるし、動く"ハナ"もあったりと様々なんや」

「えーそうなの?」

「何か面倒だなぁ」


嫌な表情を作ってサコツは頭を掻く。
比べてブチョウは全く無表情のまま。


「それで?"ハナ"を消さないの」

「消すで。ちょっと待っときや」


ブチョウに言われトーフは懐から、ランプや盗んだものを取り出した。


「ちゃう。ワイはこれらに用事があるんじゃないわ」


自分が盗んできたものに突っ込むトーフ。
さらに懐からモノを取り出す。
一体あの小さな懐にいくつものモノが収納されているのだろうか。

そして、ようやく目当てのものを取り出すことに成功したらしい。
皆に見えるように、モノを持っている手の腕を伸ばす。
モノを見て、チョコが不思議そうに言葉を吐いた。


「………ひょうたん?」


言われ、頷いた。


「そや。ひょうたんや」


見る限り、自分らの目の前に差し出されたモノはひょうたんであった。
如何にも酒とかが入っていそうな、そんな感じのひょうたん。


「何に使うんだ?」


ソングの素朴な質問にトーフは微笑んだ。




「これに"ハナ"を封じ込めるんや」



「え?」


思っても居なかった言葉に、全員がビックリした。
ひょうたんにこの"ハナ"を封じ込める?
無茶なことだ。

全員から痛い視線を浴び、トーフが実践に移した。


「ほな、やったるわ」


そして、"ハナ"の前へと歩み寄った。
全員が不思議そうに眺める。
一体、あのひょうたんで何をする気なのだ?

静寂の中、トーフが説明しながら、おこなった。


「まず、"ハナ"の前に立ち」


トーフは、毒々しい"ハナ"の前に立って


「ひょうたんの中の液体をかける」


"ハナ"目掛けてひょうたんをひっくり返す。
そこから透明な液体が一滴出てきて、"ハナ"を濡らす。


「すると、見とき」


液体を浴びた"ハナ"は、パアと光輝くと素晴らしい"気"をその場に放つ。
よって、その場が"気"によって動かされる。
風が吹き、全員の髪、服が靡く。
"ハナ"は暫く輝くと見る見るうちに透明と化して
そのまま塊になった。

"ハナ"があった場所には、水晶玉みたいな、綺麗で透明な小さな玉が転がっていた。


暫し、それを見つめるメンバー。


「一体、どうなったの?」


チョコがみんなの疑問を口に出した。
同意し、サコツが言う。


「"ハナ"はどうなったんだ?」

「見ての通り、これでおしまいや」


あっさりと言われ、間抜けな声を出し合うメンバー。


「待て。あっさりしすぎだろ!俺ら何もしてねえじゃねーか」

「全くだよ。ラフメーカー全員の力がないと"ハナ"を消すことができないって言ってたじゃないか」

「そやで。みんなのおかげで無事"ハナ"を封じ込むことができたわ」

「?」


疑問符を浮かべるメンバーを見て、トーフが説明した。


「ワイがこのひょうたんから出した液体は、ワイらラフメーカーによって作り出された"笑いの雫"なんや」

「「笑いの雫?」」

「そや」


声をそろえるメンバーに頷き、続ける。


「このひょうたんは"笑い"に敏感でな。ラフメーカーが近くにおるだけで勝手に雫を作ってくれるんや。この雫を作るためには、ラフメーカー全員がおらんとできへんのや」


そこで、皆が納得する。


「つまりこの雫にはラフメーカーの独特な"笑い"が詰まっとるんや。"ハナ"が最も苦手とするワイらの強い"笑い"がな。そいで、"笑いの雫"を"ハナ"にぶっ掛けると」


一度、間をおいて、言った。


「"ハナ"は消え、こんな玉に変わるんや」


そして、足元に転がっていた玉を摘んだ。
光を反射させ、キラリと光ってみせる。


「綺麗な玉…」


感嘆な声をあげるチョコ。
そやろ?と笑顔で返すトーフ。


「これがあの毒々しかった"ハナ"の今の姿やで」

「すげーなー」

「簡単に"ハナ"って消えるものなのね」


ブチョウの言葉にトーフは首を振って否定した。


「ちゃう。今回はたまたま簡単に終わっただけや。世界にはいろんな種類の"ハナ"があるわ。せやからそれなりに"ハナ"を玉に変えるのにも苦労するんや」

「あら。どんな姿の"ハナ"でも雫をぶっかければ玉になるんじゃないのね」

「そやで。世界中には雫の力だけでは玉の姿にならない厄介な"ハナ"がいっぱいおるんや」

「だるいわね」


話を聞き、眉を寄せるブチョウ。
その間にクモマが話を変えた。


「その玉はどうするの?」


問われ、思い出す。


「集めるんや。この水晶の中に」


するとトーフは持っていたひょうたんを皆によくよく見せた。
気がついた。
このひょうたんは普通のひょうたんではなかった。
上下に球形が重なっているのが普通のひょうたんの形であるが、
このひょうたんは下の球形が水晶になっていた。


「わ、下は水晶になってるんだ」

「そや。ここに玉を入れるんや」

「え?どうやって?」


クモマに言われ、実践することにした。


「こんな風に、ひょうたんをひっくり返して」


先ほど雫が出てきたひょうたんをクルっと回してひっくり返す。
中の雫が出るのではないだろうかと思ったが全く気にすることではなかった。

ひっくり返したことによって、下の水晶は今、上に向けられている。


「ここに目掛けて玉を」


摘んでいた玉を水晶の上空に置き、
狙いを定めて…


「落とす」


落とした。

玉は、まるで水面に落ちるかのようにチャポンと音を立てて、水晶に吸い込まれていった。
玉を吸収した水晶は波紋を立てると、色を変え、またその色を消すように別な色が混ざってくる。
そして水晶はまた最初の色へと戻った。

動きの静まった水晶を見て、チョコが溜息をついた。


「すごい…」

「本当だね。驚いたな…」

「こうやって玉を集めるのか?」


ソングの確認の言葉にトーフは頷いた。


「どの"ハナ"も必ずはこの玉になるんや。"ハナ"を玉にして封じ込めても、また簡単に破られてしまうことがあるんや。せやからこのひょうたんの水晶に封じるんや」

「二重で封じるってことか」

「そや」

「ん?ってことは、そのひょうたんってかなり大事なモノなんだ〜?」

「そういうこっちゃ。このひょうたんなくてはワイらはラフメーカーでも"ハナ"を完全に封じることができないんや」

「全ては僕らの力とそのひょうたんにかかっているんだね」

「何かすっげーことになったな」


全員、トーフの話を聞いているうちに、不安な表情から笑顔へと変わっていってた。
彼らの目の輝きは、玉の輝きよりも美しい。


「そういうことで、これからもよろしく頼むわ」


何度言われただろう、その言葉にもちろん全員が頷いた。


"ハナ"の消し方が分かった。

世界を救える方法が分かった。

自分達が出来ることが分かった。


全員の目から放たれる輝きは、それらの喜びと感動によってできたものであった。



そして、"ハナ"がなくなったこの村からは、
なくなりつつありそうだった"笑い"が戻ってきていた。

村の人々は、気づかないうちに"笑い"をとられ、
ラフメーカーによって再び"笑い"を手に入れたのだった。








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今度から、奴らの旅は食い逃げと万引きがメインになります(笑

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