山の一部から白い光が立ち上がると、それは大きな爆発として赤い炎に変化した。
そして、その炎からでた黒い煙が空を黒く変える。


「な、何?!」


大きな音が鳴ったと思って振り向いてみると山が爆発していた。それに驚くのはそこから数キロばかり離れた場所にいたメンバーだ。
チョコとサコツがキャーキャー騒いでいるその隣りではBちゃんが目の色を文字通り変える。
黒かった瞳を赤色に。


「……始まったようね…っ」

「そうみたいだジェイ」


Bちゃんの瞳の色がぼんやりと輝く赤色へと変わったのにもかかわらずジャックはいつも通りの黒さだった。


「凄い戦いになりそうだわねぇ」


顎に手を置き目を細めるBちゃんはそれらを楽しそうに見る。
山が崩れるのではないかと不安に感じていたメンバーにはその表情はとても気になるものだった。


「何で楽しそうにしているのよ?笑うところじゃないよ!」

「全くだぜ。あんなでっかい山がドーンって爆発したんだぜ!何楽しそうにしてんだよ!」


もう慌てることしか出来ないチョコとサコツに対しソングとブチョウは唖然と山の様子を眺めてる。


「……山があんな風に爆発するの、見たことあるか?」

「ないわね。あんな大胆な爆発も始めてみたわよ」

「…なあ、これはどうなってるんや?」


状況が全くつかめないためトーフがぐっと顔を上げてジャックに訊ねた。
だけどジャックも慌てていた。


「いくらなんでもあれは大胆すぎるジェイー!ちょっと危険だジェイー!皆に怒られるジェイ!」

「だよなー!これってどうなってんだよー!」

「きゃー!また爆発したー!!」


そしてジャックはチョコとサコツと一緒に騒ぎ出してしまったため、仕方なくトーフは一歩奥にいるBちゃんの元まで歩み、訊ねることにした。


「なあ、あれは一体何なん?」

「…っ!あ、ああ…」


トーフが突然やってきたため、Bちゃんは慌てて瞳の色を黒色に戻す。
そのためトーフには気づかれなかったようで安心してBちゃんは人間と同じ笑みを溢す。
だけど答えは怖ろしいものだった。


「あれは魔術師同士の戦いよっ」

「……な、何やて…!」


あの壮大な爆発は魔術師同士がぶつかり合い出来ているもののようだ。
そのことを知るとトーフは強張った表情を作った。

なんて大きな戦いなのだ。山を爆発させ、幾多にも渡って世界を黒に変えていっている。
こんな者たちが世の中にいるなんて…なんて怖ろしいことなのだろうか。
奴らはこのまま世界を滅ぼしてしまいそうな勢いだ。
遠くにいる自分らにも波動がやってきている。風が吹いていないはずなのに、服がはためき、髪が踊る。
心臓もズンと重くなった気もする。爆発音は大きすぎて逆に気にならない。
ただ目を見開くことしか出来なかった。


トーフが震えている間にBちゃんは言葉を補足する。


「その魔術師っていうのが『L』と『U』よぉ」

「な…!」

「あの2人は桁外れに魔力が強いから…もしかすると」


Bちゃんはいつもの笑みを崩し、目元を暗くして邪悪に笑った。


「世界を滅ぼしてしまうかもねぇ」

「…ほ、ホンマに…!」

「ま、わからないけどねっ。だけど早く決着をつけないと本当にヤバイわよ」

「……!」

「Bちゃん!どうするジェイ!?いくらなんでもあれはでっかすぎるジェイ!皆に怒られちゃうジェイ!」


このときまた大きな衝撃が体に走った。強い波動により、体が痺れる。怖い…。
ジャックが慌ててBちゃんに言い、だけれどBちゃんはマイペースにのんびりと。


「大丈夫よっ。皆に怒られるはずないじゃないの。私たちは見ているだけなんだしさぁ」

「オレっちたちの方じゃないジェイ!『L』の方ジェイ!」

「んー……ま、いいじゃないの?珍しく騒ぎを起こしているって逆に褒められるかもよぉ?」


2人の会話が聞こえたトーフであったが、口は出さなかった。
黙って聞く耳を立てる。2人が気になる言葉を行っているからだ。


怒られる?誰に?

珍しく騒ぎ?騒ぎを起こして褒められる?


「た、確かにそうだジェイ。だけど『L』が可哀想だジェイ!」

「いいじゃないの。あいつが勝手に暴れているんだからさっ」

「…んーオレっち心配だジェイ」

「だけどあまりにも危険なときは『J』あんたが止めに行きなさいよぉ」

「ジェジェ?!オレっちかジェイ?!オレっちだけが止めに行くジェイ?Bちゃんは?」

「キモ『U』に近づきたくないわっ」

「お、オレっちも嫌だジェイ…!」

「何言ってんのよっ。あんたが持ち出した話でしょ?このぐらいの処理はしなさいっ!」

「オレっち死にたくないジェイ?!2人の魔力に挟まった時点でオレっち昇天しちゃうジェイ」

「本望じゃないの」

「嫌だジェイ?!」


しかし、途中でなにやらもめてしまっていた。
流石に本人たちから「誰に怒られるの?騒ぎを起こして何故褒められるの?」と訊ねてみたかったが、そんなこといったらBちゃんの牙が襲ってきそうで怖かったため、トーフは黙っておくことにした。


空は黒煙まみれになり、空にあった雲も黒く染まる。
雲間から見える空なんて、もうなかった。




+ + +


自称神の闇の世界を吹っ飛ばして現実世界に戻した『L』はギンギラに赤い瞳を光らせて自称神に襲っていた。
しかし自称神の腕の中にはあと一歩で人形になるクモマが眠っている。


「いい加減諦めろ『U』!その汚い頭ぶっ飛ばすぞ!」


何だか危険な言葉を発している。
刹那、『L』はすっと首を傾げる。するとそこを邪悪な光が通過し、後ろにあった背景を黒くした。


「…やはりか『L』よ。そちは強い…」


手のひらに汚い色…失礼、邪悪な紫色の光を溜めた自称神が、すっと空気中から現れる。
『L』も音を鳴らさない程度に人差し指と親指を擦りオレンジ色の光を先に燈らす。


「それが分かったらさっさとその人間をよこすんだ」

「何を言っておる?"お主"は我のものだぞよ」

「"お主"って言うな!名前で呼んでやれよ!いや、それもキモイ!」

「クスクス。何1人で慌てているのだ。そちは面白い奴だぞよ」

「はっはっは!お前に認められたくねえ…!」


一つ二つと色の違う光が通過し、お互いの背後が爆発する。
爆風が後ろから来て、前へマントが靡く『L』に対して『U』は自然に逆らって靡いていない。
さすが、自然にも嫌われてしまったのだろうか、おっと失礼。

赤い炎を背景にお互いが赤い瞳で睨み合う。


「そちよ。あの日のことを覚えておるか?」


突然自称神が訊ねてき、『L』は眉を寄せた。


「……お前とどこかへ行った覚えはないんだけど」

「くすくす。我もそちとはデートしたくはないぞよ」


話を戻してください。


「あの日とは一体いつのことだ?」

「前回の会議の日のことだぞよ」


『L』の目が見開かれた。だけどすぐに細め、表情を曇らせる。


「……ああ、覚えている」

「実行日は"雲ひとつない晴天の日"だぞよ」

「…最悪な日になりそうだな」

「くすくす、何を言っておる?最高の日になるのだぞよ」

「はっ。オレはそういうのには興味がないんだよ」

「それだから『R』に目を付けられるのだぞよ。くすくす可哀想に」


一旦戦いを中断し、2人は話をする。
4つの赤い瞳のうち2つの瞳の光が弱くなる。


「…分かってる」

「分かっておるのなら、きちんと動けばいいものの」

「…………」


ついには黙り込む『L』。
瞳の色も黒に戻り、下を睨む。

そんな『L』に自称神、一歩一歩近づいていく。


「そちは素晴らしい。普通の魔術も邪悪な魔術も使える。それだからエリートとして扱われるのだぞよ。誇りに思ってこれから動けばいい」

「…」


クスリッと笑った自称神は、目の前まで詰め寄った『L』の顔をくいっと覗きこむ。
真っ黒な『L』の瞳に自称神の赤い瞳が反射して映る。


「実行日、そちの活躍を楽しみにしているぞよ」


『L』の目は自称神の赤い瞳なんか見ていなかった。
下を俯いているけれど、目線は真っ直ぐに


自称神が抱きかかえているクモマを見ている。


まるで意識をクモマの中に入れ込むように、目に力をいれクモマの頭を…脳を凝視し全てを詰め入れていく。




+ + +





…………

今日もいい天気だ。


空はいいよね。世の中で一番大きなものだから、全てを包みいれることができて。
雲はいいよね。そんな空と共に育み、のんびりと泳いで生きていけて。




羨ましかった。


僕にはね、心臓がないから、他の人より小さい存在なんだよ。
いつ見抜かれるか分からなくて、怖くて、身を小さくして生きていた。


家族一家殺害されても、僕は心臓が別な場所で動いていたから生きることが出来た。
だけれどそれはとても悲痛だった。

人々はいわなかったけど、心から心へ伝わってきていたよ。



どうしてこの子は、死ななかったのかしらって。





だったらいっそう、死んでしまえばよかった……。
大空に吸い込まれるように天に舞ってしまえばよかったんだ。

家族と一緒に死ねば
僕はいつでも大好きな家族と一緒にいることが出来たのに。




だけどね、僕は生きようと思ったんだ。

僕の癒しの力で、元気になってくれる人がたくさんいたから。
僕の力で幸せになってくれる人を見て僕も元気付けられたから。



ありがとう。治してくれてありがとうって皆に言われて嬉しかった。




僕は、皆のために生きたいと思った。

だけれど、僕は死ねない体をしているから、周りの人が死んでいくのをずっと見続けなければならなかった。



お父さん、お母さん、ソラ兄ちゃん…



あなたたちの死ぬ姿を見て僕はどれだけさびしい思いをしたか知ってる?

本当に、つらかった。


人の死ぬ姿ってこんなにも悲しいものだと知らされた。









ラフメーカーになって仲間が出来て、
その中で皆が苦しむ姿を見て、









「……どうして………」
「…お前…死んでしまったんだ……っ」
「勝手に死にやがって…お前にしてあげたいこと、たくさんあったのに……」
「お前が死んで俺がどれだけ悲しんだと思ってるんだ…。毎日、辛くて、辛くて……」


「…ゴメン…っ……」




ソングが涙を堪えながら必死に彼女を抱きしめて、だけど心をボロボロにしていた。
彼女を失ってしまったソングはいつも悲しんでいた。
それなのに、僕は彼を慰めてあげることが出来なかった。
彼を一人にしてしまっていた。







「みんなには黙っていた…。私の罪。大きな罪なのに…」
「これでラフメーカーっておかしいよね?こんな罪を犯した女が世界を救えるはずないじゃん…」
「ごめんね…皆…。最期に…」
「みんなといる時間、とても楽しかったよ」
「ありがとう」


「助けてええええぇぇ!!!!」



チョコは僕たちと一緒にいたかったからずっと隠していた。村を破壊してしまったことを。
どうしてこんなにも傷ついた心に僕は気づいてあげることが出来なかったのだろう。
挙句の果てには彼女は自分から謝っていた。
違うよ。僕が謝らなくてはいけないのに。早く気づいてあげなくてごめんねって。








「イヤだ…。もう傷つけたくない……母さんの前で人を傷つけたくない…。確かに天使は怖い。天使は母さんを殺した奴だから、だから許せなかった…。だけどやはり敵わない相手なんだよ。ムリだ…」

「母さんゴメン。俺はやっぱり悪魔なんだよ。母さんと同じ天使になりたかったけどムリなんだよ。体の造りからしてまず違うんだ。俺の翼が言うこときいてくれないんだ…人を傷つけるしか考えていないこの翼……もうイヤだ……」

「違う。俺は悪魔だ。人を傷つけるしか能がない。世の中に天使なんて生き物はいないんだよ。俺の知っている天使はもう死んでしまったんだ」



サコツが悪魔の羽を生やして苦しんでいるとき、僕は何をしていただろうか。
僕は彼の苦しむところを見ているだけだった。
止めようとしても相手は強いから僕は戦ってしまっていた。僕たちは仲間なのに。
しかも無理矢理サコツの羽をもぎ取ってしまった。痛かっただろうに。ゴメンね。







「私の"自由"はどこに行ったのよ?あんたは私の約束を果たしていない」
「ふざけるな!私は何もしていないじゃないの!私はちゃんとあんたと取引をしたじゃないの!」

「私はあんたに"声"をあげた!だけど"自由"はまだもらっていないわ!私に自由をちょうだいよ!」


「…………ちくしょう……っ!」



どんなことでも動じないあのブチョウが必死に叫んで訴えて、反論していた。
だけれどブチョウは動けなくなっていて、声だけでの反論だった。
おかげでブチョウは相手に散々言われてしまい、憎き相手を逃がしてしまってた。
それで悔しそうに泣いていたブチョウを僕は癒してあげることが全く出来なかった。
あいつを殴ることも出来なかった。








「アホ!クモマのアホ!ワイの邪魔すんじゃないわ!」
「どんなにバカにされようともワイにはどれも貴重な"笑い"なんや!ワイはな、あのとき笑顔が見れてホンマ幸せやったんやで!」

「ワイ、まだ生きたいんや。皆と旅がしたいんや。死にたい言うてたけどホンマは笑顔をもっと見続けたいんや」


「ワイを助けて…」



トーフが泣いていた。
ボロボロになって僕に必死にしがみ付いて、笑顔を求めていた。
笑顔が見たいから生きたいって言っていた。
果たして僕は彼にどのぐらいの笑顔を見せてあげることが出来たのだろう?
このときだって、最初トーフの姿を見て、僕は悲しい顔を作っていた。笑顔を作っていなかった。








僕は、皆に何もしてあげれなかった。

癒しをあげることが出来なかった。




だからね、僕は生きたいんだよ。

こんなところで終わらせたくないんだよ。




僕は皆に癒しをあげなくちゃ。人って必ずしも傷ついている心を持っているのだから。





癒しをあげなくちゃ…




………ラフメーカーの皆に……








あれ?









ラフメーカーって…何だっけ?







そういえば、さっき僕は何を考えていたんだっけ?



あれ?




僕、何を…




…………ええ?











えっと…








僕は、誰だっけ……?















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