「な、何だてめえは?!」
存在に気づいてもらうために草木を蹴り鳴らしながら派手に登場するソングの姿に、ジープの団体は驚いた顔をして叫んだ。
ソングは無理矢理この場に立たされているため非常に表情を顰めている。
「……ちっ、人数が多いな」
「おい!銀髪なんて珍しいじゃねえか。お前どこかの種族か?」
ジープの団体はやはりムサイ男だらけの団体でもあった。
1人の男に問われてソングは舌打ちを鳴らした後に首を振る。
「んなもん知るか。それはいいとして、さっきのてめえらの会話、聞かせてもらったぞ」
愛想なく返すソングに団体は一気に形相を変え、そして唸りだした。
ソングは躊躇いも見せずしかめっ面のまま笑みを浮かべて言い放つ。
「てめえら、どこかの村をぶっ壊すつもりのようだな」
「て、てめえ…それを聞いていたのか…」
「あんな堂々と大声で喋っていたらイヤでも耳に入る」
「「………っ」」
周りに誰もいないと思って大声出して会話をしていたのを聞かれていたとは…と団体は奥歯を噛み締め苦い表情を浮かべた。
その間にもソングは口を閉じないで声を出していた。その表情は悪魔が微笑んでいるように邪悪なもので。
戦闘前のソングは非常に恐ろしいものがあった。
「てめえらが一体何者なのかは知らねえけど、生かしちゃおけないみたいだな」
どっちが悪役か、混乱させるような言葉を吐くソングだ。
お前、ちょっとは優しく言ってやれよ。
水路の中で身を潜めているサコツとチョコは心の中でそう突っ込んでいた。
しかしソングは悪魔のような笑みを浮かべたままだ。
そんなソングに団体もさすがに黙ってはおれない。大口開いてソングに喧嘩を売った。
「ふっざけんな!!てめえ、俺らを誰だと思ってるんだ!」
「んなもん知るか!」
だがソングも黙ってはいなかった。いつもの如く口悪く対処する。
団体も負けずに大声を怒鳴り声に近いものにしていく。
「俺たちは、この辺りで有名な盗賊だぞ!!」
「…盗賊…っ」
「ガハハハハ!そうだ!俺らは世間が怯える凶悪盗賊、しもやけ盗賊団だ!!!」
豪快に笑い声を立てながらそう言い切った団体ことしもやけ盗賊団。
だが、何か冷たい風がその場に吹いた気がした。暫くの間時間が消えたような感覚だ。
やがてソングが目の辺りをより顰め、
「………しもやけ盗賊団………」
口元を歪めるのであった。
「…バカみたいな名前だ」
ごもっともである。
そう言ったソングの背景には口を押さえて笑いを堪えているサコツとチョコの姿も見られた。
と言ってもしもやけ盗賊団には見えない場所であるのだが。
「…ば、バカみたいだと…?!」
そのころ、ケチをつけられたしもやけ盗賊団は、プルプルと体を震わせていた。
震えた手はゆっくりと後ろ腰に持っていかれ、目は痙攣を起こしながらソングを真っ直ぐに睨んでいる。
「俺らは、凶悪な盗賊団だぞ。…てめえなんかイチコロだぞ」
「アリみたいにうじゃうじゃと数だけがあるヘボチームだろ?1人1人相手していれば楽に倒せるな」
ソングが相手をそうやって小ばかにした、刹那のことだった。
盗賊団は後ろ腰に装備していた武器を拳にいれてソングに襲い掛かっていたのだ。
武器は全て刃物類。ナイフや刀など、切れ味の良さそうなものばかり。
それらがソングにむけて振り落とされる。
仕留めた、と思った盗賊団であったが、それは甘かった。
刃物を振り落とした先にはソングがいなかったのだ。
「…!」
「どこ狙ってんだよ」
獲物が消えて唖然としている盗賊団の耳にはソングの声が入ってきていた。
それは後ろからだ。後ろをばっと振り向くとそこにはソングの足があった。
「まずは一人目」
足は完璧に盗賊団1人の顔を捕らえてた。
鼻がへこみ、蹴り上げられては地面に這い付き、持っていた刃物がカランと音を立てて落ちる。
仲間の1人がやられ盗賊団はより怒り狂ってしまった。
形相変えて襲い掛かってはいるが、ソングは軽々と避ける。
「…っ」
しかし相手は刃物を持っている。さすがに素手では不利だ。
そういうことでソングはハサミを取り出そうと腰にあるポシェットに手を突っ込む。
盗賊団はその隙を見逃さない。すぐに武器を振るうが、ソングが体を柔らかく曲げて見事避ける。間合いを取られてしまった。
「うぜえんだよ。無駄に人がいすぎだ。さっさとケリをつけてやる」
そしてソングは、ポシェットの中にある手を出した。
手には武器が握られている。
月が少し重なっている太陽から放たれる光により輝く武器、そうハサミが…………
って、あれ?ハサミが……
「……げっ!!」
「はああ?」
「何だそれ?」
「「スプーン?!」」
ソングが取り出したもの、それはハサミの原型もない、スプーンであった。
しかし、ソングが愛用としていたハサミの色である藍色がスプーンの色にもなっている。
ソングも何かを思い出したらしく、酷く後悔した顔をしていた。
そのころ、水路の中から戦いを眺め、そしてあの光景に唖然としているサコツの隣りには、酷く汗をかいているチョコの姿が見られた。
サコツが問う。
「ありゃあ何だ?俺、てっきりハサミを取り出すかと思ったぜ」
「あああああ!!どうしようー!!」
しかしサコツの声はチョコの悲鳴に掻き消されていた。
チョコはそのまま続けた。説明口調で。
「ソングが愛用にしていたハサミをあんな醜いスプーンの姿に変えてしまったのは全て私のせいなのよー!どうしよう!あれでソングにへこまれちゃったのよね!!ソングのあのハサミ、メロディさんからのプレゼントで大切にしていたみたいだし…ああーどうしよー!!」
+ +
そう。あれは、つい最近のこと。
ソングが地べたに座り込んで首を垂らしていたからどうしたのかなって思って訊ねてみたの。
すると
「………ハサミがこんなにも醜く欠けてしまったんだ…」
「え?」
「………………ゴメン、メロディ…。お前が俺に始めてプレゼントしてくれたハサミをこんな醜い姿に変えてしまった…。今までずっと大切にしてきてたのに……メロディ……」
そしてメロディさんの写真を眺めだすから驚いちゃったよ。
とにかく誰かにこの屈辱を言いたかったのかな。こんなおしゃべりなソングもちょっと初めて。
何かそんなソングが惨めに見えた私はまた訊ねてみた。
「どうしてハサミがそんなことに…?」
するとソングの返事は早かった。
「機械だらけの村があっただろ?そこで大量のロボットと戦っていたら…欠けてしまった…………メロディ……」
「あちゃーそうだったの?」
「…クソ、こんなハサミ、直しようがねえよ。手入れをしたって元の姿には戻らない………メロディ……」
「……ソング…」
「こんな男でゴメン、メロディ…。いつもお前に冷たくしていた分、その償いとしてハサミをずっと大切に使っていたのに……クソ…メロディ……俺はどうすればいいんだ……」
「しっかりしてよソング?!」
そして膝の中に顔を沈めるソングを見て、私は何だか涙が出そうになっちゃったのよ。
こんな可哀想なソング、見ていられない。だから助けてあげたかったの。
そしたら、私ったらいい案思いついちゃったのよ。
「そのハサミ、直してあげれるよ」
「ホントか?!」
ソングの弾んだ声がすぐに返ってきた。
それから私は久々に棍棒を取り出して、魔方陣を描いたの。
ラクガキのようにしか見えないけど一応これ、魔方陣だからね。
魔方陣の上にソングの大切なハサミを置いて
「……本当に戻せるのか?メロディ」
「うん…って私メロディさんじゃないから?!」
トンと魔方陣に棍棒を突き立てて、私は魔法を発動させた。
これできっとハサミは元通りになると思うのだけど…。
魔方陣は大きな光を放って、それからすぐに凡…違った、ボンって煙を立てた。
モクモク煙は立ち上がり、ソングはそれを心配そうな眼差しで見届けていた。
私は「大丈夫よ、これでハサミは元通りよ」と言ったのだけど
煙の中から見える影が、明らかにハサミの形をしていなかった。
嫌な予感がした。
それからすぐに、私はソングの怒鳴り声を浴びてしまった。
「ハサミじゃねー!!!」
「スプーンじゃんー!!」
何と、魔方陣を作り間違えちゃったみたい。
私はソングの大切とするハサミをスプーンに変えてしまってたの。
おかげでソングはカンカンだったよ…。
「てめえ、これはどういうことだ!俺のハサミはどうなったんだよ」
「は、ハサミは、これ…」
「スプーンじゃねえかよ!!」
「……ハサミは進化を遂げてスプーンになっちゃったの…よかったね」
「よかったね、じゃねーよ!!ふざけんなこのアマ!!」
「…だ、だって…まさかこんなことになるなんて…思ってなかった……グス…っ……ゴメンね……」
「泣くな!!クソ!泣きたいのはこっちの方だ!メロディがこんなの許すはずねえだろ!どうしてくれんだこのクソ女ー!!ゴメン、メロディー!」
+ +
「そういうわけで、私のせいでソングのハサミはあのスプーンになってしまったのよー!!あーゴメンねソングー!!」
ここまでキッチリ説明をしてくれたチョコに皆さん盛大なる拍手をー。
サコツはチョコの分かりやすい説明により二度聞かなくても内容が知ることが出来た。
なるほどな。と頷いて答える。
「だから最近、ソングはハサミは使ってなかったのか」
「…うん。…またソングに怒られちゃうよ…」
「だけどソングを見てみろって。あいつ、あれでも戦っているぜ」
「…あ、本当だ…。よかったぁ…。ソングって何気にいろいろと器用よね」
「スプーンで戦えるもんなんだなー。ってか、何で他のハサミ使わねえんだろーな?」「
「きっとメロディさんからもらったハサミが好きなのよ…今はスプーンだけど…」
「マジでかよ!愛ってすげーぜ!」
「くそ!スプーンで戦えるはずないじゃねえか!!」
2人から尊敬の眼差しを注がれているとも知らずにソングはスプーンで戦っていた。
しかし動きはやはりぎこちない。これではスプーンがない方が戦えるかもしれない。
だけれどソングはそれで戦った。
あとであのアマを蹴ってやる!と文句を言いながらであったが。
「ガハハハハ!ナイフとスプーンじゃ圧倒的にナイフの方が強いな!!」
「しかもお前は1人だ!人数でも圧倒している!!」
盗賊団はスプーン相手にやはり刃物で襲う。しかし戦闘能力の高いソングはすぐに対処することができた。
スプーンを盾として使って、攻撃は足だ。
だけれどハサミの方が断然いいと、喚いている。
そんなソングを心配しながら見送る水路の影たち。
ソングを凝視しているため、他の感覚器官が働かない。
じいっとしている2人はがら空きだった。
そのため、狙えば一発だ。
「きゃ…っ!!」
チョコの短い悲鳴を聞き、サコツは我に返った。
隣を見て、チョコの姿がなくなっていることに気づいたサコツはすぐに後ろを振り返る。
するとそこには、いた。チョコを捕らえている盗賊団の1人が。
「そこでずっと何をしてるんだお前ら」
「…しまったぜ……!」
盗賊団の1人に捕まってしまったチョコは顎の下にナイフを当てられていた。
少し動いただけでもあれでは傷を負ってしまうだろう。そしてサコツが動いてもあのナイフがチョコを傷つけることになるだろう。
「…サコツ……」
「……………」
どうしようもなく、サコツはチョコの後ろの盗賊団を睨んだ。しかし手を出すことが出来ない。どうすればいいのか、わからなかった。
チョコも目だけでサコツに謝る。油断しちゃったゴメンね、訴えている。
「お前ら、あの銀髪の仲間か」
盗賊団が問いかけてくる。現にそうなので、頷く。
すると盗賊団は言ったのだ。
「ならばここで血祭りだ」
「「!?」」
チョコやサコツがその場から動かなくても盗賊団は端からやる気だったのだ。
もう、終わりだ…。
そう諦めたときだった。
世界が徐々に暗くなり、やがて真っ暗になったのだ。
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