― 愛の牧場 ―
「タロウ様、生まれそうですわ」
「そうかハルカぁ。頑張って生むんだぁ」
「わ、わたくし、もうダメですわ……タロウ様…」
「んだぁ。ここはお前が頑張らないといけないだぁ。おらは心から応援することしかできないだぁ」
「タロウ様、わたくし頑張りますわ…だけど一つだけお願いがあります」
「んだぁ?」
「手を…握ってくれませんか?…1人じゃ心細いんですわ」
「…そうかぁ。初めてのお産だから怖いだろうなぁ、おらがついてるから安心するだぁ」
「はい、タロウ様………」
「あと少しで出てくるだぁ。ハルカ、頑張るんだぁ」
「……………っ」
「頭が出てきただぁ。優しく出してやるだぁ」
「……」
ブヒーブヒーブヒーブヒーブヒーブヒーブヒーブヒー
「生まれただぁ」
「…本当ですわね。わたくし、お産の手伝いするの初めてでしたから緊張しましたわ」
「よく頑張っただぁハルカ。これでハルカも他の動物たちのお産の手伝いができるようになるだぁ。それにしてもマーガレットのお産は難産だったなぁ」
とある村のとある牧場で、雌豚が8匹の子豚を生んだ。
雌豚の名前はマーガレット。美しいピンク色の豚だ。
豚の飼い主であるタロウとその隣人のハルカは、出産の手伝いをして、無事に全部の仔豚を誕生させることに成功した。
生まれた仔豚たちは早速母親の元へいって栄養をもらう。
「それにしても可愛い仔豚たちですわね」
「んだぁ。どの子もマーガレットに似て可愛いだぁ」
幾つもの命の誕生に、タロウもハルカも喜ぶ。
だけれどそれらより喜んでいる者といえば、それは母親豚のマーガレットであろう。
ブヒーブヒー
「そうですわタロウ様、この子達に名前をつけてあげましょう」
「それはいい案だぁ。んだ、おらがつけてやるだぁ」
「タロウ様のネーミングセンスにはハルカ、メロメロですわ」
そういうことでタロウは8匹の仔豚に名前を与えてあげた。
その中の1匹、マーガレットのピンク色の体を見事受け継ぐことのできた可愛い仔豚の名を
『エリザベス』と名づけた。
動物の成長は早い。数ヶ月もすればやんちゃな子どもになる。
仔豚たちは牧場を走り回り、のどかに遊んでいた。
ブヒーブヒーブヒー
子ども同士で遊び、草原のように緑の牧場を駆ける。
他の動物たちもいるが、そいつらも本当に優しい奴らで子供の仔豚たちを微笑ましく眺めるだけ。
毎日が楽園のようだった。
ある日、はしゃぎ過ぎて1匹群れから逸れてしまったエリザベスの姿があった。
この村の牧場は本当に広い。小さな村の大きさぐらいあるかもしれない。
そんな中でエリザベスは迷子。これは困った。ただでさえ自分は小さな存在なのに、こんな広い場所で自分ひとり。
これでは相手も自分を探すのが困難であろう。
エリザベスは広い中歩いていく。
一応来た道を戻ってみるが、広い牧場の景色はすぐには変わらない。
そのため自分は今どこを歩いているのかもサッパリ分からなくなっていた。
困った。そう思ってエリザベスは一息つく。
誰か、いないだろうか。
小さなエリザベスは自分の力だけでは生き抜くことが出来ない。
まだ子どもだ。周りに頼らないと生きていけない。
世の中をまだ全然知らないのだ。誰かに教えてもらわなくちゃ。
まずは自分は今どこらへんを歩いているのか、どう行けば家に帰れるのか。それを知りたい。
そう思ったとき、一つの幸運が…いや、不運…やってきた。
―― そこの仔豚さん〜
甲高い女の声が聞こえてきた。
エリザベスは周りを見渡す。しかしどこにいるのか分からない。
すると同じ声がまた聞こえてくるのだ。
―― 迷子になっているの〜?かっわいそ〜☆
声は自分の真後ろから聞こえてきた。
あまりにも甲高い声にエリザベスは驚きの拍子で振り向く。するとそこにはいた。
―― 迷子の迷子の仔豚さん〜あなたのおうちはどこですか〜?
歌っているモグラだ。
モグラはキラキラした目をしてエリザベスを見ている。
―― 迷子になっちゃったのねー。どうやって迷子になっちゃったの〜?
何とも苛立つ口調をするモグラだ。しかしエリザベスはそんなこと一つも思わず、素直に答える。
―― 家族と離れちゃったの。
―― え〜?そうなの〜?あらら、かわいそうに〜ミッキーが慰めてあ・げ・る
そういうとモグラは土の中に潜って姿を消す。
それからすぐに戻ってきた。土の中から顔をきょとんと出すモグラ。
再び姿を現したモグラの手には謎のステッキがもたれている。こんな小さなステッキってあるものなのか?
―― ミッキーがおまじないをかけてあげるよん☆
―― おまじない?
―― そう☆ミッキーはおまじないがお得意さんなのら
自分のことをミッキーと呼んでいるそのモグラは、手を振り上げてステッキをくるっと回す。
するとその場に星が幾つが飛び出た。あのステッキから出たようだ。
またステッキを回して星を散らす。
―― ミッキーはね、みんなのアイドル☆魔女っ子よん
そして散らした星は自ら舞いだすとエリザベスとモグラを囲んで大きな円を作り、ドロンと音を立てて中に居るものを消したのだった。
それからあっという間の出来事。
エリザベスは、見覚えのある風景を見ることが出来た。
ここは自分がよく兄弟と遊ぶ場所だ。
今この辺りには自分の家族はいないけれど、ここまで来れば自分の力で家に帰れる。
足元を見ると、モグラがいた。
モグラはニッコリと微笑んでいる。
―― よかったね☆家に帰ることが出来て
―― うん、ありがとう。
エリザベスは素直にお礼を述べた。
モグラも頷き、それからまたステッキを振る。
―― それじゃ最後にまた一つおまじないをかけてあげるよん
振るたび色とりどりの星が飛び散る。
エリザベスが興味津々で舞う星を眺めていると、やがて星は集まってあるものを作り上げた。
それを見てエリザベスは、目を丸くする。
―― 花?
―― そう。お"ハナ"さんよ
花をエリザベスの口に咥えさせてからモグラはまた微笑む。
―― このお"ハナ"はね、きっとこの村に幸福を持ってきてくれるよん。だから部屋に飾ってみてね☆
そして強い風が吹いて、思わず目を閉じ、また目を開けると
モグラの姿はなくなっていた。
それからエリザベスはもらった花をご主人であるタロウに渡した。
花を部屋の花瓶に挿し、それから数日たったある日。事件が起こった。
「おらおらー!どきやがれ愚民どもめが」
「俺たち"しもやけ盗賊団"が来たからにはお前らはおしまいだ!」
「食べ物全てよこしやがれ!ほら、さっさとしろ!!」
この平和な村に何と盗賊団がやってきたのだ。
奴らは『しもやけ盗賊団』といって、この辺りでは凶悪な盗賊団の一つとして有名だ。
その盗賊団がこの村にやってきてしまったのだ。
村人は震えた。
今まで一度もこんな怖い目にあったことがなかったから。
「何してるんだ!殺されたくなかったら食べ物をよこせ!おらおら!!」
この日を境目に、しもやけ盗賊団は年に一度、太陽が月と重なり一瞬だけ世界を照らさなくなるその日を目処に食べ物を要求しに来るようになった。
エリザベスもすくすく大きくなるがこの目には何度か悲しいものを見てきた。
食べ物を盗賊団にとられる村人の姿を。
その姿を見るのが、とても悲痛だった。
しもやけ盗賊団の奴、何を考えているのか一年おきではなくほぼ毎月のように村にやってきて食べ物をとっていく。
そしてついには食料が尽きてしまった。
これ以上盗賊団に取られると村の食料がなくなってしまう。
しかしもう差し上げるものがない。どうすればいいのだ。
そう悩んでいたときに盗賊団は不幸にも訪れる。
「おらー!食べ物よこせ!」
しかしもう何もない。
そういって反抗する村人に盗賊団は怒りを表す。
「何言ってんだてめえら!俺たちに食べ物を渡さないとてめえら皆ぶっ殺すぞ!」
盗賊団は好き勝手に村を荒らす。
どこかに食べ物を保管しているんだろ?俺たちを騙そうとするなと村の隅々を探し回る。
おかげですぐに見つかってしまった。自分らの食料の分が。
「ほら、あるじゃないか、それなのにてめえらは何故俺らに渡そうしなかったんだ?」
そう訊ねる盗賊団の手には大きなナタがあった。
怖さに震えながら、村人の1人が「それは私たちの分なんです」という。
すると盗賊団は怒り狂う。
「ふっざけんな!てめえらのもんも俺らにもん決まってるだろ!何調子こいてんだ!!」
それはこっちの台詞だろ。
エリザベスがそう思ったとき、自分の隣りにいた影がふと前に動いたのだ。
自分より一回り大きい母親、マーガレットが自分の前を横切り、村人の前を横切り、盗賊団の前に姿を現す。
盗賊団もマーガレットの登場の目を丸くする。
「あんだ?この豚は」
怒っている盗賊団はマーガレットを蹴り上げようとしたが、後ろから声が聞こえてきたため動きを止めた。
それは盗賊団の長のものだった。
「豚は貴重な食料だ。そいつをいただこう」
それは不吉な言葉であった。
思わず唖然とする村人と、エリザベス。
ちょっと待ってよ。
「待つだぁ。マーガレットには手を出さんでほしいだぁ」
エリザベスの飼い主でもあり、またマーガレットの飼い主であるタロウが次に前に出る。
そしてタロウがマーガレットを連れ去ろうとしたが、それは無理だった。
何故なら、マーガレットが自らの足で盗賊団の元へ言っていたから。
目を丸くするタロウがマーガレットを連れ戻そうと手を伸ばしてもそれは全てからぶり、これ以上盗賊団と近づくと危険だと察した村人らに止められた。
盗賊団が言う。
「豚はいろんな部分が食べれるからいい金になるぞ」
盗賊団が言う。
「いい豚だな。自分から犠牲になるとは」
盗賊団が言う。
「自分が今から食われるとも知らずにこっちに来たのか?バカだな」
エリザベスが叫ぶ。
―― お母さん!!
しかし、マーガレットは何も答えようとはしなかった。
マーガレットは村人を救いたくて自らこの道を選んだのだ。
村人全員の命が消えるなら自分ひとりの命が消えた方がもちろん被害が少ない。
だからマーガレットは自分の身を犠牲にした。
―― まってよお母さん!!
盗賊団のジープが道を走る。
ジープの中には自分の母がいる。エリザベスはそれを求めて走る。
―― お母さん!何で行っちゃうの?
エリザベスは悲しかった。
母を失いたくなかった。だから走る。
―― お母さん!!お母さん!!
周りからはこの声はブヒブヒとしか聞こえないため、盗賊団も無視して車を走らせる。
その中でマーガレットだけは声に気づいた。
こちらを振り向いた。それを狙ってエリザベス
―― お母さん!!行っちゃいやだ!!
鳴き叫ぶ。
しかしマーガレットは何も言わない。
だけれどエリザベスは見た。マーガレットの表情を。
マーガレットは、確かに、微笑んでいた。
+ + +
それからエリザベスは途方に暮れて、そのまま村に帰らずに道を歩いていた。
目的地はないけれど、足を進める。
だけれど、何となく感じる。
もしかするとこの足は自然に母の元へ行こうとしているのではないのかと。
それからとある村の前の道で休憩していたら謎の団体に捕まってしまい、
そして現代に至る。
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途中でイタイのが出てきましたけど、あれ?見覚えがある?
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