「うわああん、トーフちゃあああん」
みんなが待っているヒジキの家に、血まみれのトーフを連れたクモマが戻ってきた。
「大丈夫、生きているよ」と教えてあげると、チョコはまた泣き崩れてわんわん泣いていた。
真っ赤に塗りつぶされてしまっているトーフだけれど息はあるし心臓も頑張って動いている。
今はただ眠っているだけ。あの姿で車がある門の前まで行っていたのだからそれは疲れるだろう。
トーフは眠っていた。クモマにしか聞こえない本当に小さな寝息を立てて眠っていた。
「トーフ生きているのか?そっか…よかったぜ…」
「あら、タマったら無茶したわね」
「おい、何処にいたんだ?」
「僕たちの車の手前で倒れていたんだよ」
「「ええ?!」」
「だ、大丈夫。疲れてて倒れていただけだから。意識が朦朧としていて無意識に車に戻っていたみたいだよ」
「あ、そうなの?よかったぁ…私てっきりトーフちゃん私たちから逃げようとしているのかと思ったよ。呪いを移したくないとか言って」
「…」
トーフが帰ってきたことにそれぞれが言葉で表情で嬉しさを表現する。
その中でクモマはチョコが胸をなでおろしながら言う言葉に胸を痛くしたが、笑顔で振舞った。
「うん。そんなことトーフは1つも思ってもいなかったよ。だってトーフは僕たちの仲間じゃないか」
本当は、僕から逃げようとしてた。呪いを移したくないから、僕らから離れて一人で死のうとしていた。
これが真実であるが、言えるはずがない。
先ほどあった出来事は自分の胸の奥底に閉まっておこう。
クモマはみんなにウソをついたことに申し訳ないと思ったが、最後は自分の本当の気持ちを述べていた。
トーフは自分らの仲間である、だから死なせない。
その意見にもちろんみんなが頷く。
「んだな!苦しんでいるトーフを見放すわけにゃいかねーもんな!」
「うんうん…!もうこれ以上トーフちゃんを苦しませないよう、今度は私たちが頑張らなくっちゃ!」
「タマにはいろいろと世話になっているから、たまには仇を返すのもいいと思うわ」
「仇は返したらダメだろ?!お前一体ドラ猫に何されたって言うんだ!…ったく、返すもんは恩だ!恩!」
「うん。恩返ししよう」
全員が自分と同じ意見でクモマはほっとした。
このときに仲間っていうものは本当にいいものだと実感する。
こうやって全員が笑顔で頷きあっているとき、申し訳なさそうにヒジキが会話に入ってきた。
「あの、恩を返すことは本当にいいことだと思うんじゃが、一体どうやって返す気なんじゃ」
「「……」」
ヒジキ、痛いところをついてきた。
そうだ。トーフの目にかかった呪いは、呪いをかけた本人にしか解くことが出来ない。
よってトーフの呪いは自分らには解くことは不可能なのだ。
それをどうやって乗り越えろと?と無言で訴えてくるヒジキ、だがクモマが言い返した。
「トーフはまだ僕たちと生きたい、一緒に旅をしたいと言っていました。僕らはそんなトーフをほっとくことなんてできません。だから意地でも呪いを解いてみせます」
呪いを解く方法なんて無い。
無力な自分らには魔術師のような摩訶不思議なことはできない。
だけど、自分らにはこれがある。
そう、"笑い"が。
クモマは言った。笑顔で、トーフの大好きな笑顔を作って言うのだ。
「この世の中には不可能なことはありません。仲間を助けたいと思う気持ちさえあればきっとトーフを救うことが出来ると思うんです。トーフの大好きな"笑い"を作ってあげることによってトーフは元気になってくれると思うから、僕はどんなことでも"笑顔"で乗り越えようと思います。…って結局は呪いを解ける方法はないのだけど…」
クモマの主張、それはとても素晴らしいものだった。
人間という生き物は、生物の中で唯一"笑顔"という感情を作れる生き物だ。
その"笑顔"によって元気付けられる生物も本当に多い。
トーフの呪いは解けるか分からないけれど、自分らには自分らなりに対処をしてみなければ。
"笑顔"を保つことによってトーフは元気になってくれるかもしれない。
だからメンバーは笑顔を作った。
クモマが抱えているトーフに向けて笑顔を飛ばしていた。
「そうね。呪いについての情報があまりにも少なすぎて私たちは手を出すことができない。だけどその間に私たちは私たちなりにタマを助けてあげようじゃないの。もし"笑顔"でタマを救うことが出来れば、こんなにも楽な方法はないわ」
「果たして"笑顔"なんかで治るか知らねえけど、ここばかりは仕方ねえか。…クソ!笑顔作るの本当に俺、ヘタなんだが…」
「トーフ!俺らずっとずっと見守ってやっからな!だから今は安心して寝ていろよ!」
「うわあああん!トーフちゃんが私たちと旅をしたいって…もちろんだよトーフちゃああん!これからも一緒に旅をしようねトーフちゃあああん!」
全員バラバラな主張であったが全てトーフに対して『安心していてね』という気持ちが篭っていた。
そんな気持ちをぶつけられているとも知らずにトーフは眠っている。
だけれどトーフの両目からは通り筋を残すほどの濃い血が零れている。
もしかしたらこれは泪なのかもしれない。全員の気持ちが嬉しくて泣いているのかもしれない。
「そういうわけで僕たちはトーフを頑張って救ってみせます」
そしてメンバーはヒジキに体を向けると
「昨夜はお世話になりました」
クモマの言葉を合図に一礼していた。ソングとブチョウはお辞儀するような性格ではないので目だけで感謝の気持ちを表す。
そしてメンバーが家から出ようとしたときだった。ヒジキが「ちょっと待つんじゃ」と声をかけてきたのだ。
また体をヒジキに戻して、メンバーは目を丸くしながら尋ねる。
「ん?どうした?」
「実はのう」
このあと、ヒジキは嬉しい知らせを持ってきた。
「呪いを解くことは出来ないのじゃが、"一時的に力を抑えることができる薬草"があるそうなんじゃ」
刹那、時間が止まった気がした。
何故ならヒジキがこんなにもいい情報を持っていたとは知らなかったから。
そのため全員で「はあ?」と叫んでいた。
「言うのが遅くなってすまかなったのう。何だか途中で入れなくなってしもうて」
確かにあの盛り上がりようじゃ途中で割り込むのは相当大変だ。
結局入る隙がなく、もう少しでメンバーから逃げられるところだった。とヒジキの顔には書いてあった。
驚くばかりのメンバーにヒジキは続ける。
部屋にあるおおきな本棚にまた手を伸ばして、1つの分厚い本を取り出す。
ペラペラとページを捲って、あるところで指を挟みページを止め、ヒジキはそこをメンバーに見せるため本を近づけてくる。
「ここに書いてあるんじゃが…」
これもまた古びていてホコリが被っている。黄ばみ具合もなかなかなもの。
この本は今まで見たことのない字で事が刻まれていた。
おかげでクモマは読むことが出来なかった。もちろんサコツの頭には「?」が飛び交っている。ブチョウは間抜けな顔を作って、チョコも首をかしげながら懸命に字を読もうとしている。
そんな中、ソングがそっと口を開いた。
「………『今から幾年後、世界は闇に包まれることだろう』」
何と、ソングは読むことができたらしい。何気にソングは読書家なのだ。一度そういう本にめぐりあったことがあるのだろうか。平然と読んでいる。
それにはヒジキも驚いた様子を見せる。あんぐりと間抜けな顔をしている。
ソングは続ける。あまりにも古い本のため読みづらいらしく表情をより顰めて、読む。
「『今の世の中には"笑い"が満ち溢れている。だが、それが気に喰わないという者も中にはおる。だからそいつが活動しだしたら、全てが終わりになってしまう。何故なら』」
そこでソングは顰めていた目をパッチリと開けたが、また顰めなおす。
「『何故ならその者は世を壊すことが出来る力を持っている"魔術師"なのだから』」
「「!?」」
「…『今、"彼女"は世界を狂わせるように計画を立てている。自分はそれの光景を見てきた。だからこうやって記すことが出来るのだ』」
「ちょ…!」
この本、もしかすると自分らが追い求めていた真実が書かれているかもしれない。
全員が、字が読めないとも関わらず身を乗り出して本を見やる。
本は本当に何の字で書かれているのかわからない。それを読むことが出来るソング、何気に凄い。
ソングも驚きを隠せない様子だが、期待に答えるため読み続ける。
「『皆の者。よく聞くがよい。"彼女"は今、奇妙な"種"を作成中だ。それは幾年後の世界を変えるきっかけとなる"種"だ』」
「種?」
「『"種"はやがて"芽"を出し"花"となる。どのような形になるかは不明だが、必ずそれらは世界に不幸をもたらすことになるだろう』」
「!!」
この真実、本当に聞いてしまっていいのか?
全てが書かれていそうな文章だ。しかもこの本はだいぶ前に書かれている。それなのに今の世界の状況がまるでわかっているかのような文章の始まり。
聞いていて身震いを感じた。思わず表情が強張る。
「『"花"は笑いを吸い取ることができるものである。人々の中にある"笑い"を根こそぎ奪い、それをエネルギーにして成長していく』」
「うん」
「『"花"には力がある。底知れぬ力を持ってい…』」
「ここじゃここ!」
ソングが頑張って読み上げている途中、ヒジキがそう声を張り、妨げた。
言葉を消されたことによってソングも我の世界へ戻る。本に夢中になっていたようだ。
ヒジキが次をよーく聞いていてくれといい、またソングに読ませた。
ソングも次が気になって仕方なかったため、また読み始める。
「『"笑い"をとる力だけではなく、時には一時的解毒、一時的呪薬…と一時的であるが癒しの力を持っている』」
「……!」
「…呪…薬……?」
呪薬、それは呪力や自然力を使って病気を治す物質のことを指す。
「な、なるほど。これだったら一時的だけど呪いを治すことが出来るんだ…」
「ん?どういうことだ?」
やはり状況が分からないサコツ。全員に問いかけ、それに珍しいことにソングが答えていた。
「つまり、呪いの上に呪いをかけて、前者の力を押さえることができるかもしれないということだ」
「"花"に呪薬の力が本当にあるのなら、一度試してみてもいいわね」
この"花"の力があれば、もしかするとトーフの目の呪いが一時的抑えることが出来るかもしれない。
だからこの情報はとても貴重なものだった。
そして思う。
本に綴られていた"花"。これは予想を立てなくても正体はわかる。
こいつは"ハナ"だ。
まさかあの"ハナ"にそのような力があるとは驚きだ。
いろいろと真実を知り、メンバーは喜び色に満ち溢れていた。
クモマは胸の中に居る者をより抱く。
そして心の中で話しかけた。
トーフ。もしかすると僕たちはキミを救うことが出来るかもしれない。
"ハナ"はもともと僕たちが探しているものだ。それに呪いを抑えることが出来る力があるのなら
キミはその力によって呪いを抑えてもらえばいい。
よかったね。トーフ…。
「すみません。その"花"のある場所、知りませんか?」
クモマの問いかけに、ヒジキは…、よかった頷いてくれた。
「知っておるとも」
ヒジキも笑顔を作って、言っていた。
「わしはあれがその"花"だと知っていたんじゃがどうも手を出すことが出来なかったんじゃ。その本に記されておる"花"は"特別な笑い"のあるものにしか消すことが出来ないのじゃからな」
ヒジキが言うには、"ハナ"はこの家から結構近くにある崖の頂に生えているらしい。
リンドウのような美しい花とのこと。
しかし異様なオーラを醸し出しているそうで、一般の人にも"普通の花ではない"というのがわかるほどのもののようだ。
そういうわけでメンバーはその"ハナ"を取りに崖へと向かった。
トーフをまたベッドに寝かして、その隣にイスを二つ分。
ソングとサコツが座って、お留守番。
他のメンバー…クモマとチョコとブチョウは崖へ一直線に向かっていく。
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